第147話 恐るべき敵
明灰色のゾンビみたいだけど、腐っているわけじゃない。ノッペラボウみたいに顔が判別できない、そんな出来の悪い人形みたいのがレベルスティーラーだ。毒と麻痺、そして何よりレベル1ドレインを使ってくる。
ヴァンパイアはボロキレみたいになった貴族服を着た、全体的に青白いモンスターだ。一般的な感覚の美麗な容姿じゃない。乱ぐい歯と2本の牙がおぞましい歪んだ顔をしている。チャームと麻痺、そして、レベル2ドレインを持つ。
要は、要はだ。こいつら、レベルを吸うんだ。レベル0を割り込んだら、死ぬ。HPに関係なく死ぬ。
高レベルだから大丈夫だろうって? ふざけんな。人が必死になって積み上げてきたレベルを、こんなキモイのに
そんなのが20も30も、まだまだ出てきて、波が収まる気配が無い。
「うあ、うあああああぁぁぁ!」
「サワっ!?」
「あひゃひゃはは、あははは」
「どうしたの、サワ!」
ポリンとズィスラが驚いているけど、わたしの恐怖はそれどころじゃない。怖い。本当に怖い。
ゲームをやっていて、あいつらが出てきた時の感覚に似てる。いや、それ以上だ。リアルだとこんなに怖いんだ。もう何がなにやら。
「サワ、歯を食いしばれ」
「あひゃっ?」
どごんと頬を殴られた。もちろんターンだ。
「……ターン」
「落ち着けサワ」
「ターン」
「指示を出せ。みんなが待ってるぞ」
黒い瞳がじっとこっちを見てる。心配そうな、だけど信頼が伝わってくるそんな目だ。
「わかったよ、ターン」
「おう」
「『クリムゾン』は一旦後退、前線は『グリーン』『ブラウン』『ブルー』。ドールアッシャさんとユッシャータをスイッチしたら『クリムゾン』も前進!」
「どういうことだい?」
アンタンジュさんが訝しげに聞いてくる。そりゃそうだ。
「相手はレベルドレインを使ってきます。対応は遠距離攻撃と、聖属性」
状態異常は回復できるけど、レベルは戻せない。相手の攻撃を食らっても大丈夫なメンツを前に出す。
「前に出るのはわたしキューン、イーサさん、それとユッシャータ。テルサーは『ディバ・ト=デイアルト』」
そう、わたしとイーサさんはホーリーナイトで、キューンはウラプリースト、ユッシャータはエインヘリヤルだ。
毒やマヒは食らうけど、レベルドレイン無効ジョブなんだ。それと事前に状態異常回復を全体付与できるナイチンゲールの『ディバ・ト=デイアルト』。
これで立ち向かう。それと。
「アリシャーヤとイェールグートもスイッチ。ジュエルトリアとアリシャーヤを前面に立てて、蹴散らして」
「うえええ、嫌よぉ」
「いいからやって、後ろから斬るわよ」
「ひぃっ」
エセヒロイン、アリシャーヤがゴネるが知らん。『咲き誇る薔薇』のジュエルトリアはホワイトロード、『ラブリィセリアン』に移動させたアリシャーヤはエインヘリヤルだ。これで6パーティ。
「『木漏れ日』。ホワイトロードを押し立てて前進」
「おうよぉ!」
ゴットルタァさんが嬉しそうだ。ホワイトロードが間に合ったんだもんね。
「他にも聖属性がいたら最強パーティに組み込んでください。タンクです。状態異常回復を切らさないで」
流石に全員のジョブまでは知らないよ。あと、できることはないか。
「聖属性以外の殴りジョブと剣士は退避です。盾持ちは受けることを考えて。もちろん魔法はあり!」
「『BF・CON』『BF・CON』」
「いいね、シーシャ!」
オーバーエンチャンターのシーシャはコンディションバフを掛けられる。こりゃ『ブルーオーシャン』が最強かな。
「あっと、それとサーシェスタさんとベルベスタさんを呼んできてください。『ヴァーミリオン』に編入です」
シュゲンジャたるサーシェスタさんは魔を払う。これも有効だ。
手はあるじゃないか。レベルが足りなくたって、ジョブとスキルで対応すればいいんだ。
◇◇◇
「ヴァンパイアとは目を合わせないでください。チャームされます」
「あんなのに魅了されたくないわ」
そりゃまあ、ウィスキィさんの言う通り。メンクイなのかな。
「『オンキリキリ・ウンハッタ』」
キューンが独鈷杵で相手をぶん殴った。塵と消えるヴァンパイアだ。ウラプリーストって凄い。
言ってる場合じゃないね。
「『ホーリースラッシュ』」
まさかダサスキルとか思ってたのが、こんなに役立つとは。ホーリーナイト最高じゃん。イーサさんを再評価しちゃうよね。
なんていう気楽なこと考えてるけど、実はヤバい。さっきから、ちょろちょろ後ろに流れているんだ。一応後衛パーティが魔法で焼き払ってくれてる。
門から出てくる敵は全然減る気配が無い。どこから出てきてるんだか。多分、55層から60層くらいだろうけど、それは今考えることじゃないね。
「えい、やあ」
情けない声で相手を殴っているのはアリシャーヤだ。いや、スキル使えし。
「『ホワイトピアース』!」
逆に必要以上にスキルを使って、格好つけてるのがジュエルトリアだ。はいはい、イケメン。
「『ヘビーシールドバッシュ』」
いつの間にかヘビーナイトになっていた、イェールグート君も頑張ってる。いいねえ。
「ずるり」
そして我らがターンも絶好調だ。スキルも使わず盾で流して、あっさりとトドメを刺している。もちろん被弾してない。アンチパラライズとアンチポイズンポーションを飲んで、ほぼ無敵状態で斬りまくってるわたしとえらい違いだ。
相変わらず紫色に染まってるよ。紫の血を内面に宿し、紫色を纏う戦士ってかあ。
「シュリケンやらカタナやら、結構落ちるねえ」
「凄いぞ」
いやあ、宝の山だ。特にヴァンパイアからのレアドロが良い。通常ドロップはなんか牙っぽいモノだけなんだけどね。
だけどここじゃジョブチェンジは無理だ。奇跡を使うような状況でもないし。
「各員、適当にドロップは集めておいてください。戦闘のジャマになります」
そういうことだね。
終わった時が楽しみだよ。だから勝たないとね。
「サワさん!」
「ハーティさん、首尾は?」
「スキルが使えます!」
「そういうことかあ。予想通りで何よりです」
外でスキルが使えるか、確認したかったんだ。レベルスティーラーを1匹だけ外に逃がしてみたら、ソイツが迷宮を出た途端に全員がスキルを使えたらしい。
そういう仕様かあ。ならばだ。
「前衛パーティは右側へ移動。ヴァンパイアをメインに戦ってください。レベル吸いのクソ野郎は外に出しても構いません!」
「おう!」
外では色んなパーティが、手ぐすね引いて待っているだろうさ。
だけど、表も心配だな。
◇◇◇
「サワ。ここは引き受ける。外の様子を見てきな」
「アンタンジュさん、いいんですか」
「ええ、あっちで手抜かりがないか、サワが直接見た方がいいわ」
敵を外に流して10分も経たないうちに、アンタンジュさんがそう言った。
ウィスキィさんも背中を押してくれる。
「こっちはやれる。サワ、行って」
リッタもだ。分かったよ。
「すぐ戻るからね」
『ルナティックグリーン』は背後に向けて進撃する。
「なんだこれ」
レベル吸い虫を駆除しながら突っ走って、辿り着いた迷宮の外に広がっていたのは、凄い光景だった。
「レイドバトルってか」
迷宮から押し出されるようにレベルスティーラーが溢れ出ているけど、それに対する冒険者たちは、あちこちから火炎魔法を叩き込んでいた。これは酷い。
「バトルフィールドが無い」
「え?」
キューンに言われて気付いた。いつもの青い膜が無い。どういうことだ。
「ちょっと試す。キューン」
「うん。『アビラウンケン・ソワカ』」
キュ-ンの投げた独鈷杵が、近くに居た一匹に突き刺さって紫電を散らす。そのままソイツは消えてなんかドロップしたけど、それどこじゃない。
「戦闘終了判定?」
いや、戦闘判定自体が無いの?
じゃあ。
「『BF・AGI』」
「サワ?」
首を傾げるヘリトゥラを背に、一匹を切り裂いて戻ってみる。
「バフが消えた」
戦闘意思を失った瞬間に継続系スキルが消えた。つまり、エンチャントに意味が無い。多分盾系の継続防御魔法も。
経験値の配分は、この際どうでもいいか。
「『シルバーセクレタリー』!」
「ここに」
「うわっ、なんだメンヘイラか」
完全にニンジャじゃないか。ああ、それより。
「ハーティさんに伝達して。パーティが認識されてないのと、エンチャント系の継続スキルに意味が無い」
「畏まりました」
「それと」
今のシチュエーションならやれるか。
この状況がどれだけ続くかも、最後の門から何が出てくるか分からない。なら、やれることをやっておく。
「冒険者協会からアーティファクトを持ち出して。設置場所は迷宮入口。壁の上」
そうだ。今ならジョブチェンジを稼げる。
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