第146話 黒門が開く
「さって、狩るかあ」
「やったる」
49層まで来たわけだけど、いつもより本気度が高いぞ。みんなギラギラしてる。
やることは二つ。レベルアップとアイテム漁りだ。さあモンスターよ、ゲートキーパーよ、良いモノ置いてけ。
「とにかく急いで。ここまでは伝令が届かないからね」
「1日だよね」
「そうだよ、ズィスラ。その間に狩りまくるよ。アイテムは『大魔導師の杖』が出れば最高くらいに考えて。本命は」
「レベルアップね!」
「そう。じゃあやるよ」
ゲートキーパーまで続く、複雑な通路を走りながら、それでもあえて扉を開けまくる。当然敵が出る。それを屠る。それが今やるべきことだ。
「石化もらった」
「『デイアルト』」
キューンの石化を、ターンが速攻で回復させる。ウチのメンバーは全員プリーストをコンプしてるんだよ。状態異常なんて直ぐ解除だ。
「わたしたちを倒したいなら、強力な広範囲魔法とか異常とか、圧倒的攻撃力持ってこい。あ、これってフラグっぽい」
「ふらぐ?」
「ターンは知らなくていいの。聞かなかったことにして」
「分かった」
ターンが素直で助かった。
「よっしゃ出たあぁ!」
「うむっ!」
何度目かのゲートキーパーアタックで『大魔導師の杖』が宝箱から出てきた。今回は物欲センサーが機能しなかったみたいだ。いいねえ。
「『キングトロルの大剣』も2本か。順調だね」
「サワ、そろそろ戻る時間よ」
この時点でわたしがレベル39、ターンは32、ズィスラが63、ヘリトゥラが61、キューンが53、そしてポリンが32。
もうわたしとターン、ポリンくらいしかレベルは上がらないね。だけど、ここでジョブチェンジはできない。このままいくしかないよ。
◇◇◇
「門の色が変わった!?」
「はい紫がかっている感じです。わたしも自分の目で確認しました」
35層で待っていてくれたピンヘリアの報告だ。
「会長にお伝えしています」
「ありがとう」
「いえ」
「こりゃ確かに」
「サワ、色が違わない?」
「ホントだ」
ズィスラの言う通りだ。確かに門は紫がかってるけど、度合いが違う。左右が濃くて、真ん中が薄い。これをどう見る。
「前回の記録を取っておいて良かったよ」
「会長」
「このまま変化していったとしたら、5日後だと予想している。だが何故桃色から始まったか、だね」
「数、強さ、あとは深さ、でしょうか」
「なるほど」
わたしも考えてはいたんだ。深さと強さはほぼイコールだから、深い所から数を揃えるつもりなのかな。
つもりって、もうわたし、完全に迷宮の意思を信じちゃってるなあ。
「もちろん観測は続けよう。最長5日と考えて、今後の方針を進めるよ」
「はい。それがいいと思います」
「コーラリア。『大魔導師の杖』が出たよ」
「本当ですの!?」
「明日、朝一番でジョブチェンジしてきて。編成は今日と一緒ね」
クリュトーマさんとケータラァさんはファイターになったけど、ユッシャータはまだエインヘリヤルになれてない。レベルが足りなかったんだ。
なんとファイター二人は1日でコンプリートしたみたい。彼女たちも即ソードマスターだね。どれだけスパルタやったんだか。
「がんばります」
エインヘリヤルの必要レベルは40だ。明日にはなんとかなるだろう。
そんな彼女たち『ライブヴァーミリオン』は『訳あり』標準装備を纏っている。最初の1週間で作ったんだよね。ただその左肩には朱色で一軒家が描かれた丸いワッペンが、右肩には『訳あり令嬢たちの集い』のクランワッペンがくっ付いてる。そうだよ。仲間だ。
彼女らがそれを受け取った時の嬉しそうな顔は、忘れられないね。
レッサーデーモンとスライム、そしてジャイアントヘルビートル複合製の装備は、サワノサキ領民にどんどん流している。素材は幾らでも手に入るので、やりたい放題だ。
ドワーフのおっちゃん方には申し訳ない。
◇◇◇
「おー、大分できてきましたね」
「子供たちが凄くてなあ。あいつら、コレで食ってけるぞ」
「そりゃあ良かったです」
迷宮前に巨大な石壁が出現してた。昨日は暗くてあんまり印象無かったけど、昼間だと巨大さがよく分かる。高さは5メートルくらいかな。
迷宮から東側に真っすぐ行けばヴィットヴェーン街だ。だからこそ東進はさせない。壁は弧を描いて、北側にあるサワノサキ領へ誘導する。最初の防衛拠点は、こないだ造ったばかりの闘技場だ。計画通り。
「ここから厚みを出す予定だ」
「お願いします」
わたしたち冒険者なら、5メートルの壁なんてひとっ跳びだ。当然モンスターにだってそれができるのがいる。そもそも浮遊型モンスターだっているしね。
屋根を付けたいくらいだけど、さすがに時間がないよ。
「じゃあ行ってきます。モンスターが現れるかもですから、気を付けて作業を続けてくださいね」
「おうさ」
「サワねーちゃんがんばってねー」
「ターンもねー」
「任しといて!」
「むふん」
この子たちも守る。全部を守る。
わたしはもうレベルアップするだけの人間じゃないぞ。みんなを守る意思と力があるんだぞ。
そうして2日後、いよいよ門は濃い紫色になっていた。
「これはもう通常の黒門と考えて良さそうだね」
「そうですね。ただし出てくるのは多分、強い」
「ああ。レベリングはどうだい?」
「順調と言えば、そうなりますね。ただ、そろそろジョブチェンジするか、深層アタックをしたいですよ」
「そのためにも今回の異変、早く終息させないとね」
苦笑しながら、それでも会長は前向きだ。
「『訳あり』のレベリングは今日で終わりにして、待機に入ります」
「そうしてもらえると助かるよ」
◇◇◇
「明日には開きますね」
「ああ、そうだろうね」
翌日、わたしたちは『黒門』の前で待機していた。
ここ2日は3時間睡眠で迷宮に籠っていたけど、高いVITが疲労を感じさせない。24時間暴れまわれるのが冒険者だ。
さてリザルトだ。
『ルナティックグリーン』。
わたしはホーリーナイトのレベル45。ターンはガーディアンの40。ズィスラはケンゴーで64。ヘリトゥラはエルダーウィザード、62。キューンがウラプリースト、55。ポリンがスヴィプダグの37だ。
『ブランシュガー』。
チャートがソードマスターのレベル35。シローネはロードの42。リィスタがエルダーウィザードの62。シュエルカ、スヴィプダグの60。ジャリットはガーディアンの64。テルサーがカダで32だ。
『ブルーオーシャン』。
リッタはエルダーウィザードのレベル69。イーサさんはホーリーナイトの、なんと70。ワンニェとニャルーヤはベルセルクの37。仲良しだね。シーシャはケンゴーで31。ワルシャンはロード=ヴァイの44だ。
『クリムゾンティアーズ』。
アンタンジュさんはベルセルクのレベル62。ウィスキィさんがツカハラの54。ジェッタさん、ガーディアンの56。フェンサーさんはエルダーウィザードの52。ポロッコさん、カダの49。最後にドールアッシャさんはヴァハグンのレベル50だ。
『ブルーオーシャン』や『クリムゾンティアーズ』が強く見えるけど、ジョブ履歴なら『ルナティックグリーン』と『ブラウンシュガー』が強い。まあ、頼もしい仲間ってことだね。
『ホワイトテーブル』は省略、サーシェスタさん、ベルベスタさんは『オーファンズ』の補助に回った。ハーティさんは全体指揮だよ。
『シルバーセクレタリー』はひたすら遠距離攻撃ってことになってる。
最後に『ライブヴァーミリオン』。
クリュトーマさん、ケータラァさんはソードマスターのレベル30。コーラリアがエルダーウィザードで28。ユッシャータはエインヘリヤルの26だ。ここら辺が手一杯。
「黒門が広間の前で良かったですね」
「ええ、これなら7から8パーティは布陣できます」
わたしとハーティさんは、陣形の最終確認中だ。
とっくに1層常駐の住民は退避してる。
「でもここを抜かれたら、すぐに外です」
「サワさんの懸念は分かります。問題は外に出た時にスキルがどうなるか、ですね」
そうなんだよね。ゲームの『ヴィットヴェーン』だと、氾濫イベント中は外でもスキルが使えた。
だけどこっちでは使えない。少なくとも今はまだ。
「それについては確認するしかないですね」
「はい。では私は指揮所に移動します」
「お互いに健闘を」
「わたしはサワさんたちの力を信じています」
そう言ってハーティさんは立ち去っていった。期待が重たいなあ。
◇◇◇
その日の深夜、中央を残して左右の扉が開いた。
ぞろぞろと這い出てきたモンスターを見て、わたしは驚愕し、唖然とし、そして恐怖した。
そいつらは、わたしが最も恐れ、唾棄するタイプのモンスターだ。
「レベルスティーラーにヴァンパイア……!」
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