第47話 現実なんて知ったことか
「基本は前回のサモナーデーモンと一緒だね。35層を抜くことができるパーティを、複数作れるかだ。そこで、司会進行はハーティに任せよう」
「お兄様。それは流石に」
「なんだい?」
「……はぁ、分かりました。ただしサワさんに助言を貰いますよ?」
「当然じゃないか」
そこの兄妹は何の話をしているんだ。わたしを巻き込む気マンマンじゃないか。
いいよ。時間も勿体ないしサクサク行こう。
「ではまず3大クランです。エンチャンターとプリーストの補助を考慮して、どうです?」
「ウチは1個だな。プリーストは居る。エンチャンターが欲しい」
最大手の一つ、『晴天』のクランリーダーだ。保守的だと思っていたけど、黒門騒動でちょっと考え方を改めたみたいだ。
「こっちも1個。後衛は大丈夫だ」
『リングワールド』のリーダーがぼそりと言った。後衛も育てているみたいだ。流石。
「こっちも申し訳ないが1つだけだ。『赤光』を出す。エンチャンターを一人くれ」
『白光』はよりによって2番手が行方不明だ。
こうやって聞くと、エンチャンターが大人気だ。ドルント会長のレベルを3つ上げるというのは、あながちデタラメでもない。
その後も、『暗闇の閃光』や『ラビットフット』が名乗りを上げてくれた。
これで5パーティ。
「もちろん『ルナティックグリーン』も出ます。出ますけど……」
厄介なのはウチだった。『ルナティックグリーン』は、わたしとターン、サーシェスタさんとベルベスタさん、そしてハーティさん。5人だし、それに前衛アタッカーが足りない。
育成がメインなだけに、パーティのバランスが悪いんだ。どうしよう。
「なあサワさん、俺たちが必要なんじゃないか?」
そう発言したのは、おじさん二人組だった。
「ダグランさん、ガルヴィさん」
犬耳友の会の二人は、ダグランさんが確かレベル19のソードマスター、ガルヴィさんはレベル18のナイトだ。パーティは組まないで、二人組で色んな所をハシゴしているらしい。
条件としてはバッチリだ。だけど。
「いいんですか?」
「ターンの嬢ちゃんだけじゃねえ、チャートちゃんやシローネちゃんも、新入り4人娘も泣かせるわけにゃいかないからな」
「はは、あははは! 流石は犬耳を愛する者ですね。大歓迎です」
笑えてきた。なんていう気持ち良さだろう。この人たちは冒険者だ。全くもって冒険者なんだ。
「『ルナティックグリーン』は、ベルベスタさん、サーシェスタさん、ターン、ダグランさん、ガルヴィさん、そしてわたしで行きます」
わたしは堂々と会長に編成を発表した。
「あの私は?」
ハーティさんが不安そうに聞いてきた。
「会長。ハーティさんには19層で全体指揮をお願いするのはいかがでしょう」
「なるほど……」
会長が顎に手を当てて考える。ハーティさんには悪いけど、彼女は実戦経験、修羅場が少ない。それに19層までは主力を温存したいんだ。だから統合して指示を出せる冒険者が欲しい。
「ではわたしと、ドルント会長で19層に戦力を集めて指示を出すというのはどうでしょう。そこを拠点にして主力を送り出します」
19層までは極力他のパーティ、例えば『ブラウンシュガー』や『村の為に』と主力の混在パーティで突き進む。もちろん主力のスキルは温存だ。
そこからは精鋭の6パーティが20層、すなわち35階層相当に突入することになる。
「いいね。それで行こうじゃないか」
会長の承認を得て、わたしたちは動き出した。
◇◇◇
突入は6時間後ということで、会議は一応終わった。
もう深夜だ。参加者は明日早朝、迷宮1層で集合することになっている。
「とりあえず、全員就寝だね」
「そうだねぇ」
わたしの指示にサーシェスタさんが同意してくれた。ハーティさんとベルベスタさんはそれぞれ、協会と互助会に詰めて、最終調整をやってくれている。頭が上がらない。
「わたしも寝るから、みんなも休んで。明日は大変だよ」
「分かった」
年少組を代表してターンが部屋に入っていった。『ブラウンシュガー』もそれに従う。
そして10分くらい経った後、ターンがロビーに戻ってきた。
「みんな寝たと思う」
「そう、ありがと」
「ターンもサワも良いのかい?」
サーシェスタさんがお酒のグラス片手に、わたしとターンを見る。
「ええ、もう少しで寝ますよ」
「そうじゃないさ。明日のコトだよ」
「クランのためです。当たり前じゃないですか」
「そうかい、だけどサワがちょっとおかしいなって思うんだよねぇ」
見抜かれた。
「ターンもそう思う」
ターンにもか! それで戻ってきたのかな。
「あははっ、確かに自分でも、らしくないって思ってる」
だからぶちまけることにした。
「二人も気づいてるかもしれないけれど、わたしって臆病なんですよ」
そうだ。わたしはビビってる。何にって言われたら……。
「痛いのとか苦しいのは結構平気なんですけどね、心が弱いんだと思います。しかも自分自身が思い通りにいかないような、そんな出来事に怯えてるんです」
二人は黙って聞いてくれてる。ああ、もう止まらない。
「『クリムゾンティアーズ』を助けたいのも、わたしが傷つきたくないからなんです。酷いですよね……」
言ってしまった。もう戻れないかもしれないな。
「ヴィットヴェーンに来てから楽しいんです。自由に身体は動かせるし、好きなようにできるし、自分の思うがままなんです。だから思い通りにいかないと、胸が痛いんです。分かっていますよね、レベルアップだって、誰も死なないように楽にやってるんです。あんなの作業です」
それでも二人は静かにこっちを見ている。それが苦しい。
「ターンを……、ターンを助けたのだって、自己満足なんだよ。わたしは」
「舐めるな」
「え?」
「ターンを舐めるな」
「ええ?」
「ターンはサワの横に立つために頑張ってるぞ。だから舐めるな」
ターンの言葉の意味が分からない。舐めてなんかないよ? 本当だよ?
「ターンはターンの考えたことでやってるぞ。自分の心だぞ」
「ターン……」
なんでか分からないけど、涙が溢れてくる。
「サワもまだまだ子供だねぇ。そんなの当たり前じゃあないか。人っていうのはそういうもんさ」
「だってわたしは自分勝手ですよ。やりたいようにやっているだけじゃないですか!」
「それが当たり前なのが分かってないから子供なのさ。いいじゃないか、好きにやって。それができない大人がどれだけ沢山か」
「でも」
「いいんだよ、勝手にやるのは子供の特権さあ。他の顔色伺って、好きにできなくなるのはもっと大人になってからで十分さ」
「サーシェスタさん……」
言葉も出てこない。なんで二人はこんなわたしを見つめてくれているんだろう。
「サワ、ターンはずっとサワについていく。絶対に負けないぞ」
「ターン、だからね」
「サワは好きにして。ターンも好きにするぞ。だけど負けないで」
「負けるって」
「全部に。サワは何にでも勝てるって、ターンは知ってるぞ」
いつしかターンも泣いていた。ポロポロ涙を零しながら、負けるなって言ってくれている。
ああそうか。わたしはもしかしたら、一度病気に負けて、それで負けることが怖くなっちゃってたのかもしれない。世の中には病気やお金やもっと沢山の不遇に負けかけていても、頑張っている人たちがいるのに。
こっちでも、あっちの世界でも。
「サワ! 気合入れろ!」
「ターン……、ありがと。そうだね、『ルナティックグリーン』の隊長に言われたら、そうしないわけにいかないや」
折り合いをつけろ? 現実から逃げるな? それはもっと大人になってからでいい。今はターンと一緒に、こんなに心強い相棒と一緒に、現実をぶち壊す時だ。
なんだこの中二心。万能感バリバリじゃないか!
パンと両手で頬を叩く。
「うん、気合入った!」
「やれやれ、ターンには敵わないねぇ」
サーシェスタさんが笑っている。ターンが泣き笑いしている。
なんてことだ。病室でゲームの画面を見ながら現実を知って諦めていた私が、ゲームの世界に生まれ変わって、それでも現実を受け止めないなんて。なんだこれ。バカみたいだ。
確かにここはゲームの世界で、それでも生きた人が居る現実だ。だけどわたしは認めない。そこにいる人たちがいなくなるなんて認めない。子供で結構。ターンと一緒にぶっ壊してやるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます