第48話 19層へ一直線
翌朝、スッキリしたというか、開き直ったわたしは迷宮第1層の集合場所に到着した。
もう半分くらいは集まっているのかな。気合入った装備をしている人たちが多い。ほぼ全員が適正階層を超える戦いだ。みんなが本気は本気モードに入っている感じだ。
「お集まりの冒険者たちよ、僕は冒険者協会会長ジェルタード・イーン・カラクゾットだ。今日はよくぞ参集に応えてくれた。感謝する」
今は集合場所の第1層中央広間で、出陣式みたいのをやっているところだ。
「今回の任務は単純明快だ。層転移によって行方不明となったパーティ、『紫光』と『クリムゾンティアーズ』、合わせて12名の捜索と救助だ。僕は知っているぞ、冒険者は仲間を見捨てないことを。聞いているぞ、冒険者は諦めないことを」
アジテーションってのかな。中々テンションが高い。
「12名を救い出してくれ。ただし、そのために他の仲間を失うのは許されないよ。さあ勇敢な冒険者たちよ、任務を全うすることを期待している!」
てな感じで会長の挨拶は終わった。
「では19層まではパーティを分割して進みます」
実務についてはハーティさんの出番だった。ちゃきちゃきと、深層アタッカーのパーティを分割して、他のパーティに割り振っていく。2人と4人、3人と3人といった感じが多いかな。
「サワさん、ターンさんは『ブラウンシュガー』のリィスタさん、シュエルカさん、ジャリットさん、テルサーさんと組んでください」
「分かりました」
彼女たちだってマスターレベルの冒険者だ。わたしとターンと組めば、19層の到達は不可能じゃない。ただ実戦経験って意味じゃ、ちょっと心もとないんだよね。
本当だったら、一緒にプレイヤースキルを上げる絶好の機会なんだけど、今回はゴメン。事件が終わったら一緒に潜ろうね。
さて、出番は後半だ。
そんな私たちの格好と言えば、各人が背負い袋、リュックだね、それを担いでいる。といっても中身は食料じゃない。テントや毛布、鍋や皿なんてのがメインだ。インベントリには、迷宮素材が山ほど入っている。チャコールウッドからドロップした木炭も完備だ。
惜しいのは水だね。水をドロップするモンスターは今のところ見つかってないし、かといって水系魔法で給水をするのもナンセンスだ。
「満タンの水筒は結構重たいね」
「ふすん、大丈夫」
「ターンは頼もしいね」
両腰に大きな水筒をぶら下げての行軍になる。
着替え? そんなものは無い。水が無くなれば死ぬけど、着替えなくて死んだ人はいない。戻ったら、存分にお風呂に入るだけだ。
水については、輜重隊が大樽で19層に運び込むそうだ。そこで一旦補給を受けるって感じになりそうだ。ハーティさんに抜かりなし。
◇◇◇
わたしたちは迷宮を進む。今は10階層だ。ここまでは昇降機を乗り継げば、殆どスルーでたどり着ける。だけど、勝負はここからだ。
11層から15層まで抜ける昇降機はある。だけど当然いるわけだ。
「なんでゲートキーパーが牛だらけなわけ?」
「肉をドロップするらしい」
「肉、です」
「お肉」
「……肉」
「肉!」
なあ君たち、目的を忘れちゃいないだろうね?
「『ダ=リィハ』『ダ=ルマート』」
メイジのテルサーが持ちうる最強攻撃魔法を繰り出した。と言っても、中級広範囲炎魔法と氷結魔法だ。
勿論敵が漏れ出てくる。それを捌くのが残りのメンバーの役割だ。
「おおりゃあ!」
リィスタ、シュエルカ、ジャリットの『強打』が牛をブチかましていく。
そしてわたしとターンと言えば、ひと際大きな牛と対峙していた。
「ミノタウロス」
「そうなんだよねえ。どう見てもでっかい牛なんだけど、ミノタウロスって設定なんだよね」
目の前にいるのは、体高2メートル、体長4メートルほどのでっかい牛だ。ツノも巨大で物々しいけど、白と黒の斑模様なんだよね。ホルスタインじゃないか。
「ターンが脚をやる」
「分かった、有難くトドメは貰うよ」
大興奮で突撃してくる牛の足元に、突然ターンが現れた。スキルは使っていない。AGIに優れて、加えてこれまでの戦闘経験で培った見切りがそれを為さしめたんだ。
そしてターンは軌道上に手持ちのスタッフを置いた。ミノタウロスは避けられない。右前脚が膝から反対側に叩き折れた。そのままわたしの目の前に、ずざざっと転がるようにやってくる。勢いは半分以下だね。では。
振り下ろしたサモナーデーモンソードが相手の首を、断ち切れなかった。
「意外と固い。流石はゲートキーパー。だけど」
もう一撃だ。ターン制じゃないので助かるよ。ミノタウロスは消えて、おっきな肉を残していった。ついでにカギも。いやいや、カギが本命だからね。
6人全員を銀の光が包み込む。わたしはファイターのレベル16、ターンはウィザードのレベル19、残り4人はレベル14だ。
「いやあ、やるもんだ。さすがは『緑の悪魔』だな」
周りから称賛の声がかけられる。称賛なのかな?
◇◇◇
「道中で『シュリケン』か『クナイ』が見つかるといいね」
「『カタナ』も」
救出作戦の途中になんて呑気なことをって言われるかもだけど、昨日の会話でふっ切れた。これくらい強欲でいいんだって。
もちろん最優先は『クリムゾンティアーズ』だけどね。
焦らず、冷静に、そして最速で突き進む。わたしとターンならできるんだ。
「うわあ、混雑してるねえ」
「いっぱい」
15層で昇降機を降りると、目の前は人だかりだった。本当に迷宮か、ここ。
「シーフの皆さんが先導しますので、19層までは最短経路で移動してください! 等間隔でお願いします。倒せるモンスターはなるべく排除してください」
ハーティさんが指示出しをしている。なんか交通整理みたいなノリになってるね。
大人数で移動とあって、かなり安全が確保されている感じだ。もちろん戦闘になれば隔離されるわけだけど、戦闘密度そのものが低いから安定する。先行するのは深層アタックに加わらないパーティなので、スキルも使い放題だしね。
そして時々、銀の光が立ち上る。先行組は適正レベルを超えた階層なわけで、その分レベルが上がり易い。その度に歓声があがる。いいなあ、うらやましい。
「なあ、サワの嬢ちゃん、次は何になればいいと思う?」
そんな感じでジョブチェンジ相談まで持ちかけられる始末だ。
「無事戻ってからですよ」
「そ、そうだな、すまねえ」
いや、別に怒ってもいないし、イライラもしてないよ。気にしないでくださいね。
◇◇◇
1層から始めて、大体6時間くらいで19層に到達した。さあここでメンバーチェンジだ。
「リィスタ、シュエルカ、ジャリット、テルサーここを守ってね。チャートとシローネもよろしく」
あえて守ってくれと言ってみた。ちゃんと役割を担ってもらわないとね。
「まかせて」
代表してチャートが返す。
「お姉ちゃんたちを助けてきてね」
「まかせろ」
横ではシュエルカとターンがやり取りしている。大丈夫だよ今のわたしとターンは無敵なんだから。
「『クリムゾンティアーズ』の皆さんは村の恩人です。お願いします」
『村の為に』のメンバーも挨拶に来てくれた。バッチコイだ。
20層だか35層への階段の手前では、大規模なキャンプが造られていた。こちらの陣頭指揮は査定担当のお兄さんだった。
「来ていたんですか」
「ええ、酷いと思いませんか。私はレベル8なんですよ」
「レベル上がりました?」
「いえ、全部周りがやってくれましたので」
「それは惜しいことをしましたね」
「そういうところがサワさんですね」
そうかもしれない。だけどもう動じないし、そうそう変わらないよ。それがわたしなんだから。
「あれ? 何かありましたか」
「え?」
「少し雰囲気が変わったかなって」
「おおう、よくぞ気付いてくれました。わたしはですね、変わらないことに決めたんです」
「ははっ。だから変わったんですね」
「あれ?」
「いいんじゃないですか。変わらないって決めて、変わっていくのが人生ってものですよ」
「おお、大人って感じですね」
「まあ一応大人ですからね」
横にいるターンが首を傾げているが、まあいいや。
「よう、いけそうかい?」
そこにダグランさんとガルヴィさんがやってきた。普段の飲んだくれと違って、結構シャキンとしているね。結構結構ってわたしは何様か。
「やっと来たかい」
サーシェスタさんとベルベスタさんも現れた。そっちもとっておきのフル装備って感じだね。
サーシェスタさんの拳に付けられた手甲が怖いよ。なんかまだら模様だ。どれだけ血を吸ってきたのやら。
さあ行こうか。未知の階層への突入だ。『クリムゾンティアーズ』と『紫光』を助けた上で、レベルアップしてやる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます