第128話 意外と真面目に冒険者





「殿下のジョブを聞かせてもらってもよろしいでしょうか」


「ああ、構わんぞ、ロードだ。貴様風に言うなら、ナイト、ヘビーナイトからロードだな」


 3ジョブか、やるじゃん。


「だが、マスタークラスでのジョブチェンジだ。貴様らを見ていると、自分が滑稽になってくるぜ」


「やはり貴族と言うか凖王族ともなると、ジョブにも格が?」


「ああそうだ。くだらねえ。強けりゃいいのが冒険者だってのに」


「キールランターはどこまで攻略が進んでいるんでしょう」


 こっちも情報を貰っておかないとね。


「確か42層だな。こっちはどうなんだ?」


「45層ですね」


 取り返された。


「それをやったのが貴様らってコトか」


「ええ、まあ」



 今わたしたちは、9層でモンスターを燃やしながら会話している。

 あ、レベル6になった。


「……マスターレベルまで何日だ?」


「大体1日か遅くても2日ですね。22層で稼ぎますので」


「コンプリートなら」


「ジョブ次第ですけど、35層から38層メインなら、大体2日から4日でしょうか」


「そうか」


「殿下もやる気ですか?」


「やらいでか」


「それでしたら、35層で留めておいてください。36層から下では、多分死人が出ます」


 兎が出るんだよ。アレは対策しておかないとマズいんだ。

 ヴィットヴェーンで公爵令息が死んだなんて、王都から何を言われるか。多分フェンベスタ伯爵の心臓が死ぬ。ヘタしたら物理的に死ぬ。


「わたしたちの首を見てください」


「なんだそりゃ」


「『ウサマフラー』です。レッサーデーモンとボーパルバニーの皮を加工して作ってあります」


「クリティカルか」


「良くご存じですね。そうです、36層からはボーパルバニーが出ます」


「対策が要るってことか」


「ご明察です」


 ホントこの殿下、物分かりがいいな。良い冒険者になれそうだ。



 ◇◇◇



「さて、22層です。この辺りが中堅パーティの狩場ですね。軽く流して先に進みましょう」


「迷宮ごとにモンスターが変わるのはおもしれーな」


「そうかもしれませんね。パーティ分割します」


「おうよ」


「ブラックイレギュラー。わたしとポリンだけは一緒。他は単独だよ。適当に倒したらゲートキーパーの前で集合ね」


「おう!」


 ターン、チャート、ワンニェとニャルーヤが、勢いよく飛び出していく。


「おいおい単独かよ」


「効率です」


「徹底してやがるなあ」


「みなさんはわたしとポリンの後に続いてください。モンスターの解説をしながら進みます」


 これじゃあ接待だよ。



「『マル=ティル=トウェリア』」


 パーティを4つに戻してから、ゲートキーパーをあっさり倒して、次は27層だ。レベルは8。

 そろそろレベルを稼がないとだね。


「なんで全員ハイウィザードの最高魔法使ってんだよ!」


「全員がコンプリートしてるからです」


「お前らおかしいだろ」


 やればできるんだよ。



「ここから34層までは歩きです。パーティを戻して適当に倒しながら進みましょう」


「力抜けるなあ」


 殿下、ツッコミ係になってますよ。


「おう、サワの嬢ちゃん、見ないのとつるんでるな。またお貴族絡みか?」


「ゴットルタァさん、お疲れ様です。31層は直ぐに抜けるので、気にしないでください」


 31層で狩っていたのは『木漏れ日』のゴットルタァさんたちだった。


「ああ、紹介しま」


「我は『冒険者』のオーブルだ。よろしくなあ」


「ああ、俺は『晴天』のゴットルタァだ。こっちこそよろしくだな」


「ジョブは?」


「ん? ナイトだが」


 ゴットルタァさん、氾濫の時にウィザードになってから、ソルジャー、カラテカ、あと何かを経由して、今はナイトなんだ。こないだ聞いた。頑張ってるねえ。


「幾つ目のジョブなんだ?」


「んん? よそ者か。8ジョブ目だよ。ただし4つはマスター止まりだけどな」


「そうか。スゲエじゃねえか」


「サワの嬢ちゃんたちには敵わねえよ。まだまださ」


「……そうか」



 そして1時間後、34層のゲートキーパーも倒して、やっとこさ目的地の35層に辿り着いた。さあ、ここからはレベルアップだ。全開で行くよ。

 ロックリザードを始めとして、クリーピングシルバー、ウィルウィー=オスプ、タイラントビートルなんて感じで、モンスターの特徴を伝えながらバトルをこなす。


「よっし、レベル11!」


「楽しそうだな」


「ええ、レベルアップは最高です」


「そうだな、その通りだ。手前らも負けてんじゃねーぞ!」


「おっす!」


 殿下が活を入れる。ねえターンとチャート、なんで一緒に声上げてるの?



 ◇◇◇



「なるほどな。秘密なんぞ、有って無いようなもんだったのか」


「気付くかどうか、かもですね」


「今日はもう遅い。明日でかまわねえ、上位ジョブの条件、教えてくれるか」


「ええ、朝イチで迷宮の前に集合ってことで、どうです?」


「ははっ、いいな。サワー、じゃなかった、サワだったな。名乗ってくれ」


 急に殿下が真面目くさった顔をしてきたので、応えることにしよう。


「畏まりました。わたしはサワ・サクストル・サワノサキ=フェンベスタ。畏れ多くもフェンベスタ伯より女男爵位を賜っております」


 王家からとかじゃない、この国は都市国家の集合体みたいなものなので、領主が男爵を指名できる制度になっている。当然、寄り子になるわけだけど。

 ましてやわたしの名前には『フェンベスタ』が入っている。公爵令息ならその意味、分かるよね。


「まったく、ここの領主は上手いことをやったもんだ。晩餐でつついてやるか」


 殿下たちは当面、伯爵邸に宿泊するそうだ。伯爵の胃が無事であることを祈ろう。



「なんとも微妙な人でした。冒険者としてなら良い感じなんですけど、アレ本当に公爵令息なんですか?」


「それは間違いないようですよ。現に伯爵邸を根城にしていますし、王位継承権もあるそうです。だから『殿下』なのでしょうね」


「なるほど、確かに」


 1日殿下に付き合ってみての感想だ。ハーティさんはアレが公爵令息で、王位継承順位を持ってることを保証してくれてる。

 絶対変な嗜好を持っている。ここのところ貴族どもと接触してきたわたしの勘が、そう言っているんだ。



「あの方は、会長を始めとする協会職員には素性を明かしたそうです。その上で堂々と冒険者として立ち回っている様です」


『シルバーセクレタリー』のピンヘリアが断言した。


「物語みたいに素性を隠してじゃなくって、バレても堂々と冒険者をやってるってこと?」


「そうなります」


 彼女たちはちょっと予定を変更して、ニンジャを経由してからハイウィザードを目指すらしい。『訳あり』専属の隠密だ。そんなこと言われたら、協力したくなっちゃうじゃないか。

 それはさておき。


「冒険者たちは?」


「おおむね好評です。奢ってもらっているようですね」


 あの殿下なら、そういうのが想像できてしまう。笑いながら酒を飲み交わしそうだ。


「なのでサワ様、いえ、サワさんを含めた『訳あり』の情報は、近々筒抜けになると思います」


 様付けはやめろし。

 まあ、冒険者の口は封じられないだろうし、情報が漏れるのは仕方ないだろう。



 ◇◇◇



 そして翌日早朝、クランハウスに駆け込んできたフェンベスタ伯爵の使者から渡されたのは、例の殿下のレベリングに付き合ってほしいという、要望というか、ほぼ命令書だった。泣き言も付け加えられていた。どんなやり取りがあったのやら。


「仕方ないですね。『ルナティックグリーン』で行きます。『ブラウンシュガー』が44層でレベリングとアイテム漁りを。それ以外はいつも通りでお願いします」


「おう!」


 領民レベリングは続行するってことだ。

 凖王族だかなんだか知らんけど、優先すべきは身内だよ。当たり前だね。


「『ブラウンシュガー』は35層までのキャリーを手伝ってね」


「分かった」



「お待たせしました。あれ?」


「おう、待ってたぜぇ。それと我のことは『オーブル』だ。いいな」


「分かりました、オーブルさん。それでその恰好は」


 昨日までの派手派手しい装備じゃなくって、普通にボータークリス商店で売っている、中級の革鎧だ。しかも全員腰には剣を差している。おかしくない?

 ウィザード系やプリースト系はどこ行った。もっと言えば、大多数が大盾を持ってたはずなのに。


「ああ、朝のうちにジョブチェンジしてきたぜ。全員ソルジャーだ」


「んなあああああ!」



 このおっさん、やりやがった。まともなジョブに就くまで王都に戻らないってことかよ。


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