第127話 本物のステータス





「ハーティさん、釈明してください」


「こうする方が話が早いと思いませんか?」


「そりゃまあ、そうですけど」


 こういう時のハーティさんは黒い。最初に会った時、ステータスオープンでわたしを茶化したのも彼女だ。



「それで、5人だけで行かせる気ですか?」


「分かりましたよ。分かりました」


 もう、なるようになれだ。


「どの道バレるのは時間の問題ですから」


 確かにその通り。


「でも、実力見せていいんですか?」


「他の冒険者たちに聞き取りしていたようですよ。昨日のうちに『クリムゾンティアーズ』が確認しています」


「聞いてないんですけど」


「ついでにフェンベスタ伯爵からの伝言です。『人材はダメだが、手法は仕方がない』、だそうですよ」


「はぁ、分かりました」


 昨日の夜のうちに、どこまで根回ししたんだか。



「これは殿下、少々お待ちいただけますか」


「貴様は昨日の」


「はい。わたしはクラン『訳あり令嬢たちの集い』のリーダー、サワと申します」


 どうせもうバレてるんだから仕方ない。わたしはニンジャ頭巾を外して挨拶した。挨拶は大切だ。


「ほう、なるほど。だが貴様、昨日はレベル0と言っていたはずだが」


「嘘ではありません。昨日、ハイニンジャにジョブチェンジしたばかりだったんです」


 ==================

  JOB:HIGH=NINJA

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :237


  VIT:86

  STR:111

  AGI:88

  DEX:108

  INT:62

  WIS:38

  MIN:42

  LEA:17

 ==================


 ほれ。ステータス見せてやるよ。


「ターンも。他の子は秘密です」


 ==================

  JOB:SAMURAI

  LV :23

  CON:NORMAL


  HP :228+114


  VIT:87+24

  STR:90+35

  AGI:99+25

  DEX:117+57

  INT:62

  WIS:36

  MIN:39+21

  LEA:19

 ==================


 ターンもサクっと胸からステータスカードを出して見せた。


「基礎ステータスが……、3桁だと!?」


 そうだよ。わたしが24、ターンが23ジョブ目でこういう数字になったんだ。

 どうだ? コンプリートレベルで、補正より基礎ステータスの方がデカいっていうの、見たことあるかな?

 これが積み上げた強さってもんだ。まいったか。


 力と技のわたしと、速さと技のターンって訳だ。



「なるほど、噂どころではなかったということか。こりゃいい」


「ご満足いただけましたか」


「ああ、大いに満足だ。我が出向いた価値があったというものよ」


「恐縮です」


「サワと言ったな。貴様、公爵家へ来い」


「お断りいたします」


 まあ、そう来るかなって思ってたので、断りの返事はノータイムだ。


「お前! 殿下の命だぞ」


「不敬なっ!」


 取り巻き、うるさい。


「ではどうします? 力ずくで行きますか? 言っておきますが、ウチのクランには後30人ほど似たようなのがいますよ」


 ちょっと盛った。



「ならば、秘密を教えろ。どうしたらそのようなステータスとなる」


「そちらは構いません。どうです、先ほどの話の通り、迷宮でご説明させていただくというのは」


「……よかろう」


 ワイルドな笑みで、殿下が笑った。あ、意外と楽しそうだ。


 さて、ハイニンジャのレベリングだ。ポリンも頑張ろうね。



 ◇◇◇



「それであの、口調は本当にこのままで良いのですか」


 協会事務所を出て、迷宮への道すがらだ。殿下たちは3パーティ、わたしたちで1パーティだね。

 ハーティさんはいつの間にか消えていた。クランハウスに戻って報告、ってとこかな。


「かまわんぞ。貴族言葉なんぞ面倒なだけだ」


 意外と砕けてるんだよねえ。この殿下。


「ところで貴様らのパーティ、なんと言う名だ」


「あ、えと」


 そんなの考えてないって。どうしよう。また即興かよ。


「……『訳あり令嬢たちの集い』の中でも選りすぐりのニンジャたち。実体を晒さず暗闇の中で走る影。不明瞭な者たち。だけど光を放ちます。すなわち『曖昧な輝き』。『ディムネスオレンジ』。それがわたしたちのパーティ名です」


 ああ、またでっち上げてしまった。チャート、ポリン、そのキラキラした目を止めて。適当なんだから。


「そうか、中々良い名じゃねーか」


「ありがとうございます」


「むふん」


「むふふん」


 ターンとチャートが胸を張っている。良かった良かった。



「失礼ですが、そちらのパーティのアベレージレベルは?」


「我の『天の零』が35、『雲の壱』と『夜の弐』が30だな」


「なるほど、鍛えられているのですね」


「貴様に言われてもな」


 いやいや、1年前までならヴィットヴェーンでアベレージレベル35なんて、それこそ先代『世の漆黒』くらいだったんじゃないかな。


「ならば今日は35層までで如何でしょう」


「構わんぞ、それで秘密が分かるならなあ」


「それについてはご心配なく。全てを開示致しますので」


「剛毅だな。その強さといい、気に入ったぞ」


 あんまり気に入らないでくださいな。


「強い者は良い」


「強い方が好きなのですか」


「ああ、それと同時に強くなろうとする奴らもだな」


 そういえば昨日、わたしたちを激励してくれたもんね。そういう気質かあ。

 凖王族だし、絶対変なクセあるだろうけど、今のところは結構いいね。



「ヴィットヴェーンは初めてでしょうか」


「ああ、そうだ」


 じゃあまずは4層からか。


「時間が惜しいので、パーティを再編してもよろしいですか」


「構わんが、どうするんだ?」


「わたしとポリンが『天の零』に、ターンが『雲の壱』でチャートが『夜の弐』。ワンニェとニャルーヤを加えた残り4人でさしずめ『夕暮れの参』と言ったところでしょうか」


「ほほう、良い名付けじゃねぇか。これは採用してもいいな」


 なんでそうなるのさ。



 ◇◇◇



「『ティル=トウェリア』」


 各パーティが1回ずつ魔法を撃てば、ゲートキーパーは終わりだ。


「なんでウィザードの魔法が使えてんだ!?」


「ジョブチェンジしたからです」


「……貴様、ジョブを幾つ持ってやがる」


「わたしは24です。他は内緒で」


「24、だと。ん? ちょっと待て。ジョブってのは23個だったはずだ!」


 そういうことか。気付くって、結構勉強家さんじゃない。


「ああ、なるほど。わたしは多分その23個に加えて、ケンゴーの上位ジョブ『ヒキタ』を持っています」


「聞いてねーぞ!」


「そちらは迷宮から出たら、説明します」


「絶対だぞ」



「そういうわけで、コンプリートレベルまで行ったらジョブを変える。これを繰り返したんです」


「分かる、分かるが、何年掛かるか想像もできねえ。お前ら見た目通りの歳じゃねえな」


「わたしは正真正銘の16歳です。迷宮に潜ってから1年ちょっとですよ」


「馬鹿を抜かすな!」


「どうやったか、それをこれからお見せします」


 さあて5層、つまりはカエルだ。基本は大事だね。


「では、ここからはパーティ分割して、わたしとポリンだけでやります」


 なんと言ってもわたしとポリン、まだレベル2なんだ。


「ステータスを見たから文句は言わんが、本当に大丈夫なんだろうな?」


「ええ、もちろんです」


 あれ? 心配してくれてるのかな。



「なあ貴様。正気か?」


「最初から最後まで正気ですよ」


 あんまり長々とやってもアレなので、2時間で戦闘を切った。ああ、レベル4だよ。上がらん。


「本来なら最低でも6時間はやるところなんですが、今回は手短にしておきました」


「狂人だったか」


 誰がだよ。


「実力者を付けて、今のを2人パーティでやれば、まあ2日でレベル10以上には持っていけます」


「何故2人で……、ああ、経験値配分か。それと、時間の短縮だな」


「分かりますか!」


 この殿下、ヤルじゃん。経験値配分とか時間効率とか、以前のヴィットヴェーンで聞いたこともないよ。

 やべえ、好感度上がってきたかもしれない。


「たとえ割りに合わない敵でも、少人数で数多く倒せば良いってかあ。ヤルじゃねえか」


「そうですそうです。そういう戦い方を繰り返すんです!」


「むむう」


 ターンたちがちょっと不満そうだ。あ、冷静になってきた。


「じゃあ次は9層行ってみましょうか」



 さてさて、どんどん行くよ。なんか楽しくなってきたぞ。


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