第129話 パワーレベリングに必要なのは狂気である





「フェンベスタ卿からは依頼が届いているんだろう。よろしく頼むぜぇ」


「分かりました、分かりましたよ」


 なにニヤニヤ笑ってやがる。

 だけどその思い切り、嫌いじゃない。精々鍛えてもらおうじゃないか。


「高くつきますよ?」


「そうだなあ、今後王都からのちょっかいは無しだ。我が全部を防ぐ。これでも怖がられてるんでなあ」


「誠心誠意、努めさせていただきます」


 本心からだよ。これで王都絡みの面倒が無くなるのは大歓迎だ。オマケを付けて帰ってもらおう。


「念のために言っておくぞ、王族扱いはゴメンだ。いち冒険者として頼むぜ」


「分かりましたよ『オーブル』さん。じゃあ、今日でソルジャーは卒業しましょうか」


「おうよ」



「『ダ=リィハ』」


 わたしの魔法が敵を焼き尽くす。ここは9層だ。

 パーティを分割して『ルナティックグリーン』と『ブラウンシュガー』がばらけて、2人か3人でパーティを組んでる。ちなみにオーブルさんにはターンが付いた。シローネと並んで最強のサムライだしね。


「マップは頭に入ってますので、安心してください。今は見ているだけでいいですから」


「へい」


「分かりやした、姐御」


 だれが姉御か。

 とりあえず、12パーティは9層の敵を殲滅して、引き続き22層を目指す。この段階でソルジャーたちは、レベル5から8ってところだ。



「『ティル=トウェリア』。魔法があると楽でいいぞ」


「うむ、その通りだな。ターンと言ったか、やるではないか」


「むふん」


 王都に持ち帰ろうとか言い出したら、爵位関係なく潰すからね。

 22層ではちょっと粘る。小刻みにパーティを組み替えながら、全員をレベル10にするためだ。ついでにわたしとポリンがレベル13になった。よしよし。


「じゃあそろそろ35層行きますか」


「おう」


「なんだか新鮮で楽しいぜぇ」


 そりゃ良かった。

 さて、31層を通過する頃には全員がマスターレベルを超えた。順調だね。



「サワじゃないかあ、調子はどうだい?」


 32層にはサーシェスタさんを始め『ホワイトテーブル』の3人と『シルバーセクレタリー』がいた。サーシャスタさん、ベルベスタさん、ハーティさんが二人ずつ『シルバーセクレタリー』を引っ張る形だね。シュリケンかクナイを手に入れるまでは、ウィザードとエンチャンターとことん引っ張るらしい。


「これは殿下」


「今はオーブルだ」


「ではそのように」


 ハーティさんはあっさりと受け止めた。そういう所は見習いたいね。『シルバーセクレタリー』の面々もそつない礼を取った。ベルベスタさんとサーシャスタさんは知らん顔だ。


「丁度いいです。そちらも35層ですよね。ご一緒しましょう」


「了解です」



「気を付けてねー」


「任せろ!」


 35層で『ブラウンシュガー』とはお別れだ。


「あいつらはどこまで」


「44層です」


「……あんなチビっこいのが最深層かよ」


「ウチの最強パーティですよ。舐めてもらったら困ります」


「そりゃあ悪かった」


 オーブルさんが苦笑いをしている。信じているけど信じられないんだろうね。


「ウチの稼ぎ頭ですよ。もしかしたらオーブルさんもお世話になるかもです」


「どういうことだ?」


「そのうち分かりますよ。それよりパーティを分けますから、ビビらないで付いてきてくださいね」


「ぬかせぇ」


 ここからは『ルナティックグリーン』を6分割だ。3人ずつを引き入れて、稼ぎまくる。



「さて、3時間休憩です」


 ソルジャーたちがレベル16になったところで休憩だ。『ホワイトテーブル』と『シルバーセクレタリー』まだまだ活動中だ。

 わたしとポリンもレベル16になっている。ターンとキューンもレベルが上がってる。キューンはもうちょっとでナイトをコンプリートだね。


「今のうちにスキルを回復させてください」


「貴様ら、いっつもこんなことしてやがんのか」


「ええ。ですから強制的に寝てもらいます」


「なにを!?」


「『ノティカ』。さてみんな見張りはしっかりね!」


「おう」



「起きてください」


 ペチペチとオーブルさんたちの頬を叩く。時間が惜しい。


「う、ううむ。貴様ぁ」


「時間効率ですよ。ここからは一気にやります。スキルを出し惜しみしないでくださいね」


「むう、仕方あるまい」


 スキルは使ってナンボだ。それを身体に教え込ませる。

 わたしたちはそれに加えて、スキルのトレースまで訓練してるんだ。こんなのは甘すぎる。


 その日の夜、彼らは全員コンプリートレベルになった。わたしはレベル18。まだまだ頑張らないとね。



 ◇◇◇



「メイジとシーフになってきた。これでいいんだな」


「ええ、流石に全員がメイジだと、引っ張るだけになるので」


 やる気を見せるオーブルさんだけど、他の人たちは目が死に始めている。良い傾向だ。考える間もなく強くなってもらうよ。

 ちなみにキューンはヘビーナイトになったよ。



「シーフの皆さんは、スキル、スキル、スキル。メイジは単体でいいから魔法です」


「姐さん、効かねえよ」


「どうでも良いです。魔法の感覚になれてください。それと姐さんゆーな」


「へいっ!」



 翌日。


「シーフとメイジは入れ替わりましたね。じゃあ要領は昨日と一緒です。お互いに教え合ってくださいね」


「へいっ! 姐御」


 おい。



 さらに翌日。


「今日からは、グラップラーとカラテカですね。さすがに2日は掛かりますので、経験値調整をしますよ」



 4日後。


「プリースト経験者はウィザードです。逆はプリーストですね。あとはウィザード、プリースト、エンチャンターで適当に分かれてください」



「なあ貴様」


「なんですか?」


「やっぱり貴様、狂人の類だわ」


「誉め言葉と受け止めますね」


 お互い砕けてきたもんだ。


「そんなこと言ってオーブルさん、9ジョブ目じゃないですか、しかも6ジョブはコンプリートですよ」


「ああ、言うことなしだ。だから狂ってるんだよ。ウチのモンを見やがれ」


「そういえば口数少なくなりましたね」


 ついでに動きがキビキビしていて、見てて気持ち良い。


「軍隊作ってるんじゃねーんだからよぉ」


「何言ってるんです。ここからが各人の個性ですよ」


「本当かよ」


「それで、後どれくらいで納得してもらえますか?」


「そうだなあ。10日でどうだ。それで、我たちなりに目標を作る」


「まあ、いいですけど」



 ◇◇◇



「クナイ3、シュリケン2、カタナが2、大魔導師の杖が2、黒の聖剣が1、麻沸散が1、フルンティング1、独鈷杵1」


 シローネが淡々と、レアアイテムを紹介していく。ここふた月くらいで集めてくれたアイテムの数々だ。

 ウチのクラン以外が見たら、どれだけ金を積むだろうか。


「いやあ、溜めてきた甲斐がありましたね。どうやって配分しましょう」


「サワはどう思う?」


 アンタンジュさんが聞いてきた。


「そうですね、フルンティングは殿下に渡しましょう。ホワイトロードなら体裁も良いでしょう」


「クナイとシュリケンは『シルバーセクレタリー』でよろしいですか」


「ハーティさんがそう言うなら、それが最善です。勿論問題無しです。もう1本欲しいですね」


「いえまずは、ピンヘリア以外をニンジャにします」


 ああ、司令塔ってことか。


「分かりました。コンプリートは終わってるんですよね」


「もちろんです」


 35層で頑張ってたもんね。



 その後も誰がどのアイテムを使うかが決まっていく。カタナはターン、黒の聖剣はワルシャンだ。

 カタナ1本は保留。大魔導師の杖はハーティさんと『シルバーセクレタリー』で検討することになった。


 残ったのが麻沸散と独鈷杵だね。さて、これを使うのは当然キューンだ。どっちを選ぶのかな。


「ウラプリーストになる」


 そっちを選ぶか。モンクコンプとレベル40が条件で、独鈷杵を使えば『ウラプリースト』になれる。だけど彼女は今レベル29のロードだ。暫くは頑張らないとね。

『ウラプリースト』はモンクの上位ジョブだ。近接攻撃はそれほどでもないけど、ウィザード系と違う『法術』系攻撃魔法が特徴だ。印とか組んじゃうぞ。



「ついに、上位ジョブアイテムが『余り』始めましたね。計画の第2段階です。ぐひひ」


「サワ、ちょっとキモいぞ」


「いいんだよターン、こういう時は悪い笑い方で」


「そうなのか。ぐへへ」


「真顔は止めて」


 じゃあそろそろ、殿下もといオーブルさんたちの教導を終わりにしよう。

 わたしたちも深層アタックして、じゃんじゃかアイテム集めないとね。今後の為にも。



 ◇◇◇



「38層のゲートキーパーを倒してえ。自分たちの力でアイテムを手に入れたい。それが我の目標だ」


「うっす!」



 気持ちは分かるけど、面倒くせぇ。


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