第167話 レベル0でも弱くない
「『アイギス』」
「ズィスラ!?」
「サワ、どうするの?」
ズィスラが使ったのはガーディアンの最終スキルだ。30秒間、敵の進攻を完全にせき止める。効果範囲は半径50メートル。つまり、今やってる戦闘が全てキャンセルされる。代わりに盾が砕けて、レベルが3つ消費された。
確かにこれはわたしの想定した状況だ。
そして要求された。この状況を30秒で打開しろって。ズィスラがそのレベルを投げ捨ててまで。
「6層に逃げよう」
「わかったわ!」
わたしの逃げようって言葉に、即座に反応してくれる。
6層に来てみれば、殿下と『ライブヴァーミリオン』の指示で砦が構築されていた。いいね、いいねえ。
「逃げてきたか」
「エンペラーとキングが出ました。どうしようもないでしょ」
「知らんモンスターだが、強そうだなあ」
「最上位種ですよ」
殿下が腕を組んで頷いてる。ホントにわかってんだろうか。
「で、どうするんだぁ?」
「迎え撃つに決まってます。丁度良い程度にレベルも上がりましたし」
「ヤレるのか」
「『訳あり』の戦い方、お見せしますよ。ヘリトゥラ、いける?」
「うん」
「『ラング=パシャ』」
わたしの望むちょっとした奇跡、それは『ジョブチェンジ』だ。
『フルンティング』を持つわたしはホワイトロードに、『祝福の笛』を手にしたヘリトゥラはオーバーエンチャンターになった。
「お前っ、ここでレベル0になるのかよっ!」
「直ぐに上がるから大丈夫ですよ」
「やっぱりお前は狂人だ」
「誉め言葉をどうも」
◇◇◇
わたしがホワイトロードになったのは、単にスキルが理由だ。シュゲンジャの錫杖装備だと、死にスキルが多すぎるんだよね。なんで、豊富に使える剣術スキルを選択したってこと。
ヘリトゥラのオーバーエンチャンターは、バフも期待だけど、むしろINT上昇に意味がある。
「前衛5、後衛1で高火力、長期戦闘向きのジョブ構成ってことです」
「お前らにかかればジョブの使い分け程度ってわけかい。まったく、呆れるぜ」
「ターンもホワイトロードだ」
「一緒だね」
わたしとターンがホワイトロード、ズィスラ、キューン、ポリンがホーリーナイトっていう、聖属性バリバリのパーティだ。相手がゴブリンだから意味ないけどね。
「さて、階段の上から攻撃は力が乗らないよね。砦もあるし、一歩引いたところでやろうか。安定してきたら2パーティで、3時間ごとに交代ってことで」
「わかったわ」
「おう」
リッタとシローネが心強い。わたしたち3パーティならやれるって確信できる。
「『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』もジョブチェンジしといて。長丁場になるから上位ジョブの剣士かニンジャ、ウォリアー系で」
「おう。『ラング=パシャ』」
『ブラウンシュガー』はチャートがベルセルク、リィスタがツカハラ、ジャリットがスヴィプダグだ。
『ブルーオーシャン』。イーサさんがガーディアン、シーシャがロード=ヴァイ、ワルシャンがホワイトロードだね。
「さて、襲い来る上位種ゴブリンの群れに立ち向かうは、レベル0が8人もいる3パーティ。キールランターのみなさん、刮目ですよ」
「これがヴィットヴェーンよ」
「『訳あり』の力だ」
わたしのセリフにリッタとシローネが続く。格好良くキマったかな?
「なに考えてやがんだ。おかしいだろ」
「ここでジョブチェンジだって? あり得ねえ」
それがあり得るんだな。
「来た」
「来たぞ」
チャートとターンが警告した。さて、誰からいくか。
「わたくしたちからいくわ」
「了解。先手は『ブルーオーシャン』。ジョブチェンジ組は自己判断で後衛」
「おう!」
◇◇◇
「ジャイアント3、アサシン2、ポイズン4、それとグレーター2だよー!」
気が抜けてて、状況に似つかわしくないけど、それでも正確なニャルーヤの声が響く。
「大丈夫なのかよ、おいっ!」
「殿下こそ『ブルーオーシャン』を侮辱してませんか」
「だっておい、レベル0が3人なんだろ」
「レベル0? ウチのレベル0はレベル20相当ですよ。スキルも併せればレベル30」
「マジかよ」
「しかも先手は3人。いえ、12人です」
「どういう」
「見てればわかりますよ」
とは言ったものの、一撃もらえば危ない。逆にそれさえ潜り抜ければ。
「『BFS・INT』『BFW・SOR』『BFW・STR』『BFW・AGI』『BFW・DEX』」
シーシャの広域バフが飛ぶ。オーバーエンチャンターを極めた彼女ならではの補助だ。
「『活性化』『克己』『一騎当千』『ハイニンポー:ハイセンス』」
「『芳蕗』『パンプアップ』『狂化』」
「『ハイニンポー:4分身』」
リッタ、ワンニェ、ニャルーヤが4つに分身した。
「『秘宝サンポ』!」
開幕はリッタの魔法だ。大魔女ロウヒが顕現させた7本の剣が宙に浮かぶ。それが4人分、28本。当然だけど威力は落ちる。それでも飛翔する剣はアサシンゴブリンとポイズンゴブリンを的確に貫いた。
なるほど、面倒くさそうなのを先に倒したか。
「ぐるあぁぁぁ!」
「がああぁぁー!!」
狂化したワンニェとニャルーヤがグレーターゴブリンに襲い掛かる。それはもう、野獣の攻撃だった。ニンジャの経験を積んだベルセルクがやらかすバーサーク。
この中で一番強いはずのグレーターゴブリン2体が沈んだ。残るはジャイアントゴブリン3体。
「リッタ様、わたしたちにお任せください」
イーサさんが決然と言い放った。
「やってみせて、イーサ、ワルシャン、シーシャ」
レベル0の3人がジャイアントゴブリンに挑むなんていうアホな光景だけど、身内は誰も心配してない。そもそもグレーターとアサシンゴブリンが消えた段階で、もう負けはないんだ。
さてその3人といえば、ワルシャンは比較的真っ当なジョブ推移をしてる。序盤で基礎を固め、そこからは剣士系を渡り歩いて、今はホワイトロードのレベル0だ。
対するシーシャは『訳あり』の中でも、かなり特殊なジョブ構成をしてる。エルダーウィザード、オーバーエンチャンター、カダ、今はロード=ヴァイ。後衛職が目立つけれど、地味に、前衛ジョブも押さえてる。なんだか不思議な存在だ。
対極にいるのがイーサさんだ。ホーリーナイトをレベル78まで持ってって、そこから一応ハイウィザードを極めているけど、本質はナイト一辺倒だね。今はガーディアン。
そんな彼女たちのやることはひとつだ。
「『BFW・MAG』『BFW・INT』」
シーシャがオーバーエンチャンターならではの広域INTバフを掛ける。
「『マル=ティル=トウェリア』!」
3人の極大魔法がジャイアントゴブリンを襲った。ナイト系とはなんだったのか。
「レベル7です」
「わたくしもです」
「レベル6ですぅ」
それぞれが報告してきた。ま、まあこれで大丈夫なんじゃないかな?
「あ、ええと、そんな感じでよろしく」
「わかったわ」
リッタが誇らしげだ。気持ちは分かる。
『ライブヴァーミリオン』を外せば、戦闘系じゃ一番最後のパーティだったもんね。
1時間も経ったころ、レベル0組は20台の後半になっていた。
「『ブラウンシュガー』とスイッチ。『ブルーオーシャン』は3時間の完全休息」
「了解よ」
「おう」
「出番だぞ、気合を入れろ」
「おう!」
シローネの檄に、パーティメンバーが応える。こっちはチャート、リィスタ、ジャリットがレベル0だ。それでもあの子たちならなんとかするだろう。
「ぼくはレベル6だ」
「同じ、です」
「……レベル6」
ほらね。
同じく1時間くらいでレベル0だった子たちは20台に持ち込んだ。これで安心。
「『ブラウンシュガー』も一時休息。さて行こうか『ライブヴァーミリオン』!」
「え?」
そりゃ誰だって次は『ルナティックグリーン』だと思うだろうね。だけど違うんだよなあ。
『ライブヴァーミリオン』も立派な『訳あり』だ。だけど、どうにもまだ弱い。梃入れが必要だと思うんだ。
「わたしとヘリトゥラが入ります。ガチりますよ。ついてこれますか?」
「煽ってくれるわね。当然やるわ」
クリュトーマさんがノれば後は簡単だ。コーラリア、ユッシャータ、ケータラァさんは従わざるを得ない。なんでヤルよ。
「『訳あり令嬢たちの集い』の名に懸けて、不甲斐ない戦いは認めませんよ!」
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