第168話 終わったんだからいいじゃない





「ヘリトゥラ、レベルは?」


「18です」


「そろそろかな」


『ライブヴァーミリオン』の4人は、ヴィットヴェーンを離れてからジョブは変わってない。まあ、当たり前か。当然レベルは上がってるけどね。

『万象』と並んでキールランター最強の一角らしい。


「だけどスキルがそろそろだね。パーティチェンジ。『ルナティックグリーン』やるよ」


「おう!」


 たった1時間くらいだけど、ターンたちはかなりウズウズしてたみたい。お待たせ。大暴れしようか。


「『ブルーオーシャン』も入って。『ライブヴァーミリオン』と『ブラウンシュガー』は3時間、完全休息」


 ちゃんと寝て、きっちりスキルを戻してね。


「こんなところで休むだと」


「魔法使って眠らせてやがる。鬼かよ」


 うるさいわ。



「冒険者と騎士団のみなさん、ちょっとずつ流しますから対応してくださいね。戦闘判定範囲をしっかりやってくださいよ」


「ちくしょう、やってやるよ」


「ヴィットヴェーンってあんなんなのかよ」


「西の蛮族がっ」


 最後の騎士団、後でシメる。


「無駄口を叩いてる暇があったら倒せえ。キールランターはそれほど弱いのかあっ!」


 殿下の大喝が飛んだ。そうだそうだ、もっと言ってやれ。


「あそこの狂人どものマネしろとまでは言わねえ。せめて目の前の敵くらい倒してみせろ」


 おい。


「殿下」


「お、おう。なんだ」


「『ライブヴァーミリオン』が起きたら、殿下も編入です。遊撃を任せます。冒険者や騎士団、誰かひとりでも死んだら、ブチのめしますからね」


「わかったよっ!」



 ◇◇◇



「リッタ、あとどれくらいだと思う?」


「こういうのは、ワンニェ?」


「多分まだ3000以上います。増えてるかも」


 ワンニェが耳をピコピコさせてる。


「なかなか減らないねえ。キューンは?」


「わたしもそう思う」


 ならそういうことなんだろうね。



「なるほど、実に好都合!」


「おう」


 ターンが元気に返事してくれた。よしゃよしゃ。

 せっかくキールランターくんだりまで来たんだ。レベル上げしないでどうするよ。


「氾濫終わったら、深層探索もいいかもね」


「そうね!」


 嬉しそうなズィスラと、後ろにいる冒険者たちの対比が酷い。


「あいつら、なに言ってんだ」


「おかしいだろ、おかしいだろ、本気でさあ」


「うろたえるな! アレがヴィットヴェーンの常識じゃねえ。あいつらだけだ」


 はたしてそうかな? ヴィットヴェーンは、もうそんなノリになってきてるよ。



「サワ、レベルが上がらない。キューンとポリンも」


「わたしもよ!」


 4人全員がレベル60台だもんね、そりゃそうか。


「ジョブチェンジ。好きにしていいよ」


「おう!」


 わたしが35でヘリトゥラが38。まあなんとかなるか。


「『ラング=パシャ』」


 ポリンが奇跡を起こした。

 ターンとポリンがロード=ヴァイ、ズィスラとキューンがホワイトロードだ。剣士系ってなると、選択肢が狭まってきたね。


「わたくしたちもやるわよ。ワンニェ、ニャルーヤ!」


「わかったー。『ラング=パシャ』」


 ニャルーヤが奇跡を願った。リッタがスヴィプダグ、ワンニェとニャルーヤがガーディアンだ。イーサさんもだから、すっごい硬いぞ。

 これで『ブルーオーシャン』は固い前衛ジョブだけになった。当面はこのままだね。



 3時間後、『ブルーオーシャン』とスイッチした『ブラウンシュガー』も、ジョブチェンジした。

 シローネがベルセルク、テルサーはオーバーエンチャンター、シュエルカはナイトだ。シュエルカについては前衛ジョブが足りてなかったからそうなっちゃった。


「さて、これでやりたい放題だね」


 前回の『吸血鬼氾濫』のような聖属性重視じゃない。その前のエルダー・リッチみたいにステータスが足りてないわけでもない。

 全員がハイウィザードを持ってる。各パーティにオーバーエンチャンターがいる。前衛ジョブは固めてある。つまりはだ。


「レベルを上げて、斬り捨てる!」



 ◇◇◇



「エンペラー1とキングが5」


 キューンが敵を判別した。そして、こいつらが最後ってわけだ。

 いやあ、なんだかんだで15時間くらいかかったね。後ろの連中は半分崩れ落ちてるし、『ライブヴァーミリオン』も疲労困憊だ。鍛え方が足らん。


「取り巻きは?」


「いない」


「アホだねえ」


 とはいえ、エンペラーが5メートル、キングでも4メートルなんて馬鹿げた身長だ。こいつらほんとにゴブリンか?

 しかも魔法抵抗が高くって、『恐慌』の状態異常持ちだ。要は、硬くて強い。


「どうするの? 『ブラッドヴァイオレット』?」


「うんにゃ、リッタ。『ルナティックグリーン』でやれるよ」


「そう。それならいいわ」


「仕方ないから譲る」


 リッタとシローネも認めてくれた。なら、やるしかないね。



「ターン、つっかけて」


「おう」


 ターンが手近なゴブリンキングを攻撃した。バトルフィールドが展開される。


「『BFS・INT』『BFW・SOR』『BFW・STR』『BFW・AGI』『BFW・DEX』」


 直後、ヘリトゥラの広域バフが降りかかる。


「……『EX・BFW・SOR』!」


「ヘリトゥラ!?」


 それはオーバーエンチャンター最後のバフだ。レベルを3つ犠牲にして、前衛ステータスを大幅に上昇させる。そこまでやるのか。やってくれちゃったか。


「後は任せます」


「かしこまり!」


 これに応えなきゃ嘘だ。


「全くもう、『ラン・タ=オディス』『ディバ・ト=デイアルト』」


 HP自動回復と、状態異常事前回復をかける。


「各自、自己バフ全開。スキル全開放!」


「おう!!」



「『コウガニンポー:お前を殺す』」


 ででん。ターンがコウガニンジャの最終スキルを繰り出したところで、ゴブリンエンペラーが沈んだ。

 レベルが2つも減るのに、そこまでやらんでも。ゴブリンたちはヴァンパイアみたいに『ノーライフ』を持ってない。なので一撃必殺じゃなくって、削るタイプの攻撃でよかったんだよ。


 最後にターンが繰り出したのは、クリティカル率80パーアップの超強力スキルだ。ターンのジョブ遍歴と併せれば、9割を超えちゃうだろうね。

 確かに、全員がぶん殴られて、結構ダメージもらったんだけどね。それでターンが怒っちゃったと。

 謎のBGMが聞こえたようなんだけど、それは多分気のせいだ。


 なんにしても、キールランターのゴブリン氾濫はこうして終わった。



 ◇◇◇



「無事終息してなによりです」


「ああ、なによりだ。だけど問題ばっかりだなあ」


「それはわたしの関知しない部分です」


「お前なあ」


 今わたしたちがやっているのは、戦勝報告事前協議だ。アホらしいにも程がある。

 メンバーはわたしと殿下、侯爵令息に、騎士団長、魔術師団長、ついでに『ライブヴァーミリオン』。木っ端貴族は逃げた引け目か、不参加だ。

 もちろん冒険者などという下賤な者は参加していない。ああ、イライラする。


「貴様の功績が大きすぎるのだ」


 侯爵令息が割り込んできた。


「それなら別に過小評価で構いませんよ」


「脅したとはいえ、王子殿下が直々に貴様らを推挙したのだ!」


 あ、気絶してたけど、後で事情聴いたのね。


「知りませんよそんなこと! みんなで頑張ったから勝てた、それは事実です。それじゃダメなんですか」


「うーむ」


 侯爵令息が考え込む。あ、名前覚えるって言ったけど忘れたわ。ごめんなさい。


「そもそも貴様、この私に手を上げておいて無事ですむとでも?」


「記憶にございません」


「貴様ぁ!」


「そもそも、えっと、ベースキュート様」


「ベースキュルトだっ!」


 あ、そうだっけ。


「あなたが冒険者を使い捨てるようなこと考えるから悪いんですよ」


「作戦だ」


「ほほう。今から50層まで引きずって、そこで放り出してもいいんですよ?」


「私を脅すか!?」


 騎士団長やら魔術師団長が目を逸らした。関わり合いになりなくないみたい。


「ですから落としどころですよ。わたしたちの功績は殿下とベースキュルト様にお譲りします。もちろん最大の功労者は作戦指揮を執った王子殿下です」


「むうう」


「この規模の氾濫を、誰も死者を出さずに鎮圧してみせたのです。統合派と中立派が力を合わせてです」


 ここまで言えば、さすがの侯爵令息も考え込んだ。キールランターにとって、悪い話じゃない。



「だがそれだと、我の心が収まらんな」


 いつの間にか第5王子が会議室に入ってきてた。またややこしい。


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