第21話 お貴族様が絡んできたぞ





「協会長がお呼び? ですか」


「ええ。大変、大変申し訳ないのですが。何卒」


「なんでそんな物言いなんですか?」


「ここだけの話ですが」


「ここだけの話って、全員知ってるってことですよね?」


「そうとも言いますが、まあ聞いてください」


「やだなあ」


 カエルの皮を卸しに来たわたしと、査定担当者さんの会話だった。


「冒険者協会の会長は貴族の傍系なんです」


「ああ、もう聞きたくなくなりました」


「そこを何卒」


「何卒って言えば、なんでも通るわけじゃないですよ」


「ではこれを」


「なんです?」


「冒険者協会会長からの正式な召喚状です」


「最初っから出してください」



 ◇◇◇



「私はヴィットヴェーン冒険者協会会長、ダニュートリス・エア・サシュテューン伯爵が庶子、フェッツヴァーンが第2子、ポルパルフェルタだ」


「ゴコウメイナルカッカニオアイデキ、カンゲキニゴザイマス。アンタンジュトモウシマス」


 よし、これでアンタンジュさんの出番は終了だ。あとはわたしと、ウィスキィさんでやる。


「ふむ、他の者も名乗るが良い」


「こちらはパーティメンバーで、順にジェッタ、フェンサー、ターン、ポロッコ、サワにございます。ですが、貧民の出故、言葉が不自由にございます、なにとぞご容赦を。わたくしはウィスキィにございます。『クリムゾンティアーズ』事務全般を担当しております。以後は渉外担当のサワがお話をさせていただければと存じます」


 秘書官が、ポルタルフェルタ会長のティーカップにお茶を注ぐ。私たちには無い。というか、相手はソファーに座り、こっちは突っ立ったままだ。ここまで酷いのか。むしろ感動的だ。


 相手はなんというか普通の若造だ。いやわたしから見れば年上なんだろうけど、なんかこうナヨちい。如何な伯爵の庶子の次男とはいえ、どうやって協会長なんてポストに就けたんだ? 謎だ。


 対してわたしたちは今、冒険者装備でここにいる。冒険者なんだから当たり前だ。ドレスコードってヤツだね。

 それでも一応磨きもしたし、カエル貯金から一部新調した装備もある。失礼には当たらないはずだ。常識が通用するならば、だけど。



「構わん」


「はっ、下賤なる平民の、しかも冒険者風情に身をやつした者に発言をお許しいただき、感激の極みにございます。わたくし、マスターレベル冒険者パーティ『クリムゾンティアーズ』渉外担当サワと申します」


「なあ、サワの話し方が気持ち悪いぞ?」


 ターン、それ以上口を開くな。背中で「飯を減らすぞ」とハンドサインを出す。ターンは沈黙した。


「それでサシュテューン卿が、我らのような者どもをお呼びになる理由とは」


 ほれ、家名で呼んでやったぞ喜べ。


「ふむ、実はな、私が昵懇にしている子爵家長子が、レベルアップをしたいと申しているのだ。そこで、貴様らを、な」


 どうしてそう、『昵懇』の部分にアクセント入れるかなあ。

 そして分かった。ここんところ、やたらめったらレベルアップしている『クリムゾンティアーズ』に目を付けたってわけか。


「望外の、まさに考えうる限り、人生最上の光栄にございます」


 いやあ、小説とかでこういう会話を読んでいて良かったわあ。



 ◇◇◇



「おい」


「畏まりました」


 会長が顎をしゃくると、秘書官が私たちの入ってきた扉とは、別の所から出ていった。ああ、上ドア、下ドアとかあるのか。凄い面倒だ。


 5分ほどして、そいつは現れた。


 中肉中背、年の頃は会長と同じ20代前半くらいだろう。金髪碧眼、爽やかな口元。絵に描いたようなイケメンだ。


「待たせたようだね」


 そう言いながらも、立っている私たちを横目に、あっさりと会長の隣に座るあたり、こいつも貴族の端くれか。


「ポルパルフェルタ卿、彼女たちの紹介を頼むよ」


「はっ、おい」


「畏まりました。左から順に……」


 結局秘書官が私たちを紹介していった。



「僕は、ジャッツルート・ジェム・カーレンターン子爵が長子、カムリオットだ。よろしくね」


「閣下のご尊顔を拝し、恐悦至極にございます」


 ここでわたしの合図とともに、皆が一斉に膝を突いた。

 会長がちょっと微妙な顔をしている。いやあんたは会長でわたしたちは会員なんだから、膝を突く理由無いでしょうに。


 ここで気にかかったのは、カムリオット子爵令息様の後ろに立つ護衛たちだ。


「全員女性?」


 ウィスキィさんが小さく呟いた。そうなんだ。しかもなんか、薄幸そうな人たちばっかりだ。


「ふぅん」


 そう言って、子爵令息はわたしたちを見渡した。そして私で目が止まる。


「名はなんていうんだい?」


「はっ、『クリムゾンティアーズ』渉外担当、サワと申します」


「珍しい黒髪だ。いいねぇ」


 よりによってわたしかよ!


「ジョブとレベルを教えてもらえるかい?」


「はっ、プリースト、レベルは20です」


 わたしはステータスカードを差し出しながら言った。


「ほう! その若さでこれは凄い! これは是非とも」


「同時に、ヴィットヴェーン・プリースト互助会の庇護下にございます」


「そ、そうか」


 かなり悔しそうにイケメンが顔を歪めている。ざまあみろ。こっちにはなあ、サーシェスタさんがついてるんだよ。

 ああ事前に確認とっておいて良かった。あの人、かなりの発言力あるみたいなんだよね。そりゃそうだ。この街にいるプリーストの大元締めなんだから。



「戯れが過ぎたな」


 戯れで誤魔化すか。


「用件は簡単なことだよ。僕はレベルを上げたいと考えているんだ。そしてそれを為すためには、君たちのような現地の者が必要だと考えたんだよ」


「流石はカーレンターン卿、ご慧眼ですな。我が冒険者協会は平民どもなれど、粒ぞろいの冒険者を取りそろえておりますぞ」


「噂はかねがね聞いているよ。そして君が選んだのが、彼女たちだというわけだね?」


「一人はレベル11ですが、それ以外の者はレベル13以上です。そして先ほどのその者は、レベル20。卿の安全な冒険には持ってこいかと」


 さっきから者がモノに聞こえるのは気のせいなんだろうか。段々というか、とっくに面倒くさい。特に横にいるウィスキィさん以外のメンツがヤバい。殴りかかったりしたらダメだよ。



「手法と日程は、如何ほどをお考えでしょうか」


「そこを考えるのが貴様らだろうが!」


「まあ良い。我ら青き血にまみえるのも初めてなのだろう? 私は些事で心を動かさないよ」


「流石は次期子爵閣下ですな。お見事です」


 なんだこれ。もっかい言うぞ、なんだこれ。

 えっと、翻訳すると、日程と手法は任せる。だけどなるべく手短で安全な方法、か。よっく分かったよ。わたしは丁度、適切な方法を実践できるから。タイタニックに乗ったつもりで、ついてきておくれ。


「浅はかな言葉にも寛大な配慮、伏して感謝申し上げます。さすれば、護衛の方々との打ち合わせの場を設けていただき、出立は明日にでも」


「それで良いのだよ。君は中々分かっているようだね」


「お褒めの言葉、末代まで伝えたく思います」


「じゃあ、僕はこれで失礼するよ。イーサ」


「はっ」


 イーサと呼ばれた人は、護衛頭かなんかなんだろう。先頭にいたし。さて彼女はどんな人物なんだろう。



 ◇◇◇



「怪我さえしなければ、どんな手段でも構いません。一刻も早く終わらせて、とっとと帰りたいのです」


「うわあ」


 謁見? の後、子爵令息の護衛頭はぶっちゃけた。


「こんなお遊びに付き合うだけで気が滅入ります。あなたがたもですよね? 申し訳ありません」


「あ、いえこちらこそ」


 なんだこの人、滅茶苦茶良い人じゃないか。引き抜きたいな。


「それで、どのような手法を考えているのですか?」


「先ほど怪我をしなければと仰いましたけど、精神的な怪我についてはどうでしょう」


「……。一向に構いません」


「うわあ」


 2回目だよ。どういう位置関係なんだ?


「わたしは子爵閣下に仕える者です。カムリオット様の護衛は任務によるもののみです。従って」


「表面上は無傷で、ご子息様が納得すれば良いと」


「先ほどの会談でも思いましたが、サワさんは本当に平民なのですか?」


「宮廷物語を読むのが趣味なんです」


 嘘じゃないぞ。異世界転生して、貴族世界のドロドロに付き合う小説なんぞ、山ほどある。



「では、ご説明いたしましょう。どのようにしてわたしたちがレベルアップをしたか。そしてご子息がレベルアップをするかを」


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