第224話 みんなが大好きなアイツ
「こっちじゃカエルが一等賞なんだけどねえ」
「なに言ってるんだあ?」
オーブルターズ殿下ごめん、それどこじゃない。
「『緑』『青』前衛! 『暗闇』は階段前で待機! それ以外は全員撤退!!」
「なっ、アタシらもかい!?」
「繰り返す。撤退!」
ごめんねウルマトリィさん。コレは、こいつはホンモノなんだ。
レベル的には通用するだろうけど、今の『セレストファイターズ』は過渡期だ。パーティのジョブバランスも連携も取れてない。
「戦わずしてぇ!」
「いいから撤退!」
ベースキュルトも動け。仲間を死なす気か!?
「『空色』は『深紅』を呼んで。『万象』と『兎』、『聖騎士団』は『薔薇』と『セリアンズ』を!」
上の階層から呼べる戦力で対応できるのは、『クリムゾンティアーズ』と『高貴なる者たち』くらいだ。本当は3大クランからも抽出したいけど、それをやると53層が危ない。
「わかったぜ」
最初に反応してくれたのは『ラビットフット』だった。付き合い長いからなあ。わたしがヤバいって言ったら、どれくらいの出来事かって、わかってくれてる。
そんなやり取りをしている間にも、敵の姿が露わになっていく。
ジャイアントのごとく筋肉質の手足。指は鋭い爪を持った4本。足もまた同じだ。
何故か龍のようなシッポと羽が存在してる。
「なんだアレは」
それは誰の呟きだったのか。
最後に登場した頭部は生気を感じない真っ白な瞳と、ヤギのような双角を持っていた。
色は薄汚れた青。
「グレーターデーモン・コバルト」
こんな階層に居てはならない、とんでもない怪物の登場だった。
◇◇◇
「いいから逃げて! レベル150相当! 接敵されたら逆に面倒だから!!」
「うむぅ、健闘を祈るぞぉ! 生き残れ!」
「あったり前です」
殿下に叫んで、撤退を背中で確認しながら次の指示を出す。
「レッサーデーモンの完全上位互換。上級悪魔。魔法無効。物理強耐性。レベルドレイン、麻痺、石化、クリティカル、なんでもあり」
「なによそれ!?」
リッタが叫ぶ。だけど続きがあるんだ。
「そして『仲魔』を呼ぶ!」
ホント、ゲームの時なら大喜びだったんだけどねえ。相手が黒門じゃなかったらレベルを投げうって、経験値を獲得するシチュエーションだ。
だけど今のこの状況でソレをやるのはまだ早い。危険度が高すぎる。とりあえず倒すしかないね。
「『確定逃走』に意味は無いですね。『虚空一閃』も」
妙に冷静なイーサさんが指摘した。その通りです。
「はい。逃げても追い払っても、門から次が湧き出ます。なので」
「倒してレベルアップね!」
そゆこと、ズィスラ。
「レベル消費系スキルを解放します。どうせ倒せばお釣りがきます!」
「俺たちゃどうすりゃいい!?」
後ろからケインドさんの叫び声が届いた。どうしよう。
「接敵は最大1体まで、スキルは出し惜しみなし。わたしたちのどっちかが堕ちたら、逃げてそれを伝えてください」
「堕ちるって、そこまでなのか」
「大丈夫ですよ。リッタ、わたしたちの接敵は最大3体までで」
「了解よ!」
ゲームと違って、こっちでは敵の数を選ぶ権利がちょっとだけどある。そこがまたプレイヤースキル、いやこの場合はパーティスキルかな。
ウチの場合それを為すのがターンで、『ブルーオーシャン』だとワンニェかニャルーヤだってことだ。
そんな間にもグレーターデーモンは扉から地に降りてる。もうすでに6体。
「ターン。3体だけ捕まえて!」
「おう! 『ダ=リィハ』」
ターンが効きもしない中規模魔法を放った。それが見事に3体をバトルフィールドに引き入れる。上手い。こういうところがターンの凄さだ。
「ワルシャン!」
「はいぃ」
あっちではワルシャンが単体攻撃魔法を撃ったみたいだ。まあ残り3体だから自動的に戦闘状態に入ったね。
「長期戦は避ける。魔法戦闘は諦めて!」
大丈夫。ここにいる12人、全員がレベル120を超えてるし、下積みもある。リッタがちょっと不安だけど、近接戦闘だってお手の物。全員が回復をフルに使える状態だ。
「『BFS・INT』『EX・BFS・INT』」
「があっ!」
「ズィスラ!?」
ヘリトゥラがバフってる最中に、それをガードしてたズィスラが吹き飛ばされた。速い。想像以上だ。
「ヘリトゥラ、バフ続行!」
「は、はいっ! 『EX・BFW・SOR』」
「『デイアルト』。ズィスラ、後は自己回復」
「わかった!」
マヒを食らったズィスラを回復した。後は任せる。っていうか、わたしとターンが前線に出ないとヤバい。
「『踏み込み+1』『切れぬモノ無し』」
ターンが切り込んだ。お得意の自己バフを使う暇もないみたい。とにかく斬りつけることに専念してる。
それでもターンの剣は、確実に敵の足を切り裂いた。そうだ、物理攻撃は通る。
「『円卓』『円卓』『円卓』」
わたしはわたしで『円卓』を3個出現させて、それぞれの敵にぶつける。所詮は牽制だ。だけどそれでも、一歩でも敵の足を止められればそれでいい。
もう『ブルーオーシャン』を見る暇もない。信じてるから無事で切り抜けて!
「ぐはっ」
そんなこと考えてる場合じゃなかったあ。あ、レベル持ってかれたし、石化だ。ちくしょう!
「『デイアルト』」
「ありがと、ポリン」
すかさずポリンが回復してくれたけど、前線が遠のいた。一発食らっただけでコレだ。
さあ、進退窮まったぞ。
「やることはひとつ! 慣れて!」
「おう!!」
◇◇◇
わたしたちはポイズントードから始めて、あらゆる敵の動きを学んだ。モーションや事前動作なんかを、身体と脳に焼き付けた。速さや力強さ、硬さや特徴を覚え込んだ。
そうやってスキル消費を最小限に、だからこそ深層で長時間レベリングできるようになった。今回だって同じこと。
「速さと硬さに慣れて。痛さに慣れて。モーションを盗んで。初心に帰れ。所詮はカエルと一緒のモンスターだ!」
まずは1体。トドメを刺したのはズィスラだった。2体目はターン。
「『ファイナルホーリースマッシュ』!」
最後はわたしだ。
「『ファイナルホーリースマッシュ』!」
ちょっとちょっと、イーサさんまで。カブってるって。
まあとりあえず、第一波は乗り越えた。次が来るかどうかって、黒門は目の前にあるねえ。
「慣れた?」
「おう」
ターンがあっさりと肯定してくれた。頼もしいよ。
「イーサ、ワルシャン、どう?」
「いけます」
「できそうですぅ」
リッタの問いかけにイーサさんが力強く、ワルシャンは気弱げに答えた。
「レベルも上がった」
「わたしも」
キューンとポリンが淡々と事実を告げる。
「スキルがもつならいけるわ!」
「やります」
ズィスラとヘリトゥラもだ。
まったくもって『ルナティックグリーン』はリアリストとロマンチストの集まりだ。誰の影響なんだか。
◇◇◇
第3波が来たとこで、『暗闇の閃光』も戦闘に参加した。
同時に8体登場なんだよね。悪いけど、2体任せるよ。
「2回も見たんだ。手筋もわかるさ!」
「さっすがケインドさん、期待してますよ!」
「おうよお」
「ははっ、レベルが上がるぜえ」
ガルヴィさんもノリノリだ。
「やあ、待たせたねえ」
「アンタンジュさん!」
「呼ばれてお出ましだよ。『深紅』の力、見せつけないとねえ」
4時間くらいかな、20回くらい戦闘を繰り返したとこで、『クリムゾンティアーズ』の登場だ。
「俺たちを忘れてもらっては困るな」
「ボクたちが来てやったぞ!」
さらにさらに、『咲き誇る薔薇』と『ラブリィセリアン』が現れた。
よっしゃ、これで戦域を安定できる。
「助かります。結構スキルが危ないんですよ。とりあえず1時間くらい見学しててください。そこからスイッチです」
「わかりましたわ!」
うん、フェンサーさんは今日も元気だね。
「わりぃ、俺たちはそろそろ限界だ」
ケインドさんが限界を告げてきた。
「わかりました。『暗闇の閃光』は67層に退避してください」
「階段上に簡易陣地を造っておいたわ。使って」
「助かるぜ、ウィスキィ!」
さて、わたしたちはもうひと頑張り、いやふた頑張りかな。
ドレインされたり、レベル消費スキルを使ったりで、レベルは上がったり下がったりだ。それでも流石はグレーターデーモン。全体として、レベルは上がり続けてる。
今のわたしはレベル156のラウンドナイトだ。さあ、どんどんやるぞ。
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