第149話 陽下の吸血鬼





「行ってくる!」


『フルンティング』を手にしたシローネが『ライブヴァーミリオン』と一緒に迷宮に走っていった。ホワイトロードになるつもりだ。

 さっきから『ライブヴァーミリオン』は、レベリングの補助として活躍してくれてる。ユッシャータが抜けたけど、3人は気合入りまくりだ。

 いや、今は5人なんだけどね。


「流石に公爵夫人と令嬢に怪我をされてはね」


 というわけで、会長とウォルートさんがくっ付いてる。『ライブヴァーミリオンと愉快な仲間』だね。

 65層クラスの敵がうようよしてるので、レベル上げは簡単だ。全員がハイウィザードできるので、遠距離攻撃で終わりだし。


「戻りました。ただやはり、身体が重いですね」


 シュゲンジャになったマーサさんも戻ってきた。


「レベルドレイン無効とは言っても、気を付けてくださいね」


「ええ、周りを蹴散らします」



「はははっ、俺がエインヘリヤルだとさあ」


「まさか、俺がケンゴーとは」


 ゴットルタァさんとシンタントさんは、それぞれエインヘリヤルとケンゴーになったみたいだ。ってケンゴー!? 今ここでやる意味あるの?


「レベルを上げやすいじゃないか」


 酷すぎる。わたしみたいな事、言わないで。


「すまん。ガーディアンになった」


「ケインドさんまで!?」


 なんて人たちだ。


「だったらちゃんとレベルを上げて、戦力になってください」


「おうさぁ」



 ◇◇◇



「やった、です」


 ガードヴァンパイアを、シュエルカが切り裂き、リィスタが燃やし尽くした。レベル69のスヴィプダグとエルダーウィザードは伊達じゃない。これで後5体。


「これって……、サワ」


 シュエルカが手にしていたのは一本の杖だ。それをぽいっとわたしに放ってくれる。


「ポホヨラの杖」


『ポホヨラの杖』を使えばエルダーウィザードの上位ジョブに就ける。その名は『ロウヒ』。

 普通だったら柔らかいウィザード系を、この場でジョブチェンジする意味は薄い。だけど『ロウヒ』なら。


「迷宮めぇ」


 ここで白々しいアイテムを出して、誘ってくれてるわけか。冒険者に命を賭けろってか。

 偶然かどうかは知ったこっちゃない。事実が目の前に転がって、わたしを苛んでる。



「サワ。それを渡して」


「リッタ」


「わたくしが使うわ」


「だけど」


「意味があるんでしょう? 何になるの?」


「『ロウヒ』。エルダーウィザードの上位ジョブだよ」


「あの、わたしが」


「だめよ、ヘリトゥラ。先輩ウィザードはわたくしよ」


 にべもない。リッタの決意は固そうだ。どうしよう。

 こんな会話をしながらも、ヴァンパイアプリンセスとの闘いは続いている。リッタにしたってそうだ。


「ああもう、行ってリッタ」


「行ってくるわ」


「気を付けて、リッタのカバーは」


「リィスタ、『ブルー』に行け。シローネたちが戻ってくる」


「わかった」


 チャートが、すかさず割り込んだ。

 ああ、たしかにシローネと『ライブヴァーミリオン』が戻ってくる。ここでリッタとスイッチか。いいタイミングだよ、まったく。確かにこれなら『ブルーオーシャン』の火力は落ちない。



「あの、サワさん。コレ、どうしましょう」


 次に話しかけてきたのはドールアッシャさんだった。

 アンタンジュさんが殴って、ウィスキィさんが叩き切って、フェンサーさんが燃やし尽くした、ガードヴァンパイアから落ちたアイテムだ。ああ、これもマズい。


「サワ」


「……何かな、ターン」


「よこせ」


 そんなオヤツ寄こせみたいに言わなくても。

 そんなにコレが欲しいの? 『コウガ・ニンジャの心得』を。


「ああ、もう分かった分かった」


「行ってくる」


「ちゃんとレベルを上げてね」


「おう」


 そう言ってターンは風のごとく去っていった。

 確かにターンはニンジャになってほしいんだよね。具体的には『イガニンジャ』のスキルが欲しい。『コウガニンジャ』スキルじゃないよ。


 スキルは2種類ある。ひとつはどの状態でも使えるモノ。例えば魔法系や身体強化系なんかがそうだ。

 もうひとつは装備依存スキル。私が以前使った『虚空一閃』なんかがそうだね。ジョブチェンジを繰り返したからって、全部のスキルが使えてウハウハでもないってこと。

 そしてニンジャ装備のクナイやシュリケンは、ニンジャ系ジョブじゃないと使えない。ああ、面倒くさい。ニンジャスキルを使うために、ニンジャになるって、逆じゃない?


「もういいや、時間を稼ごう」


「サワ、気合を入れなさい!」


 ズィスラに怒られた。なんでさ。



 ◇◇◇



「……これで、最後」


 ジャリットの大楯が、ガードヴァンパイアを叩き潰した。これで取り巻きは全滅だ。いやまあ、ヴァンパイアとレベルスティーラーはウヨウヨしてるけどさ。

 ターンとリッタはまだ戻ってこない。


「仕方ない。ちょっと早いけど誘導する。全パーティ、ロードとプリンセスを迷宮へ誘ってください!」


 ガードヴァンパイアみたいに数の暴力じゃあ、多分アイツらは倒せない。

 なんたってヤツらは『ノーライフキング』持ちだ。『ノーライフ』の完全上位互換。生半可な攻撃は通らない。じゃあどうする。


「数の力じゃない。個人の力でもない。パーティの力でぶっ倒す!」


 そのためには迷宮戦闘だ。冒険者本来の力、見せてやる。



「待たせた」


「おまたせ!」


 ロードとプリンセスを牽引してたら、迷宮の入口あたりでターンとリッタが戻ってきた。いいタイミングだよ。


「レベル18」


「19よ!」


 すげえ。2時間でどれだけ倒したんだろ。綱渡りだけど、これならイケるか。


「さあ、仕上げだよ。迷宮でパーティ組んで戦うのが、冒険者ってもんだ!」



 ◇◇◇



 着いた、辿り着いた。『ルナティックグリーン』と『ブルーオーシャン』が、レベルドレインを食らわないでここまで来れたのは、殆ど奇跡だと思う。

 迷宮1層大広間。相変わらず目の前には黒門が3つあった。その内ふたつは、未だにモンスターを吐き出し続けてる。


「パーティチェンジ。リッタ、イーサさん、キューン、テルサー、そしてターン。『ブラッドヴァイオレット』ぉ!」


『ブラッドヴァイオレット』。いざというその時々にだけ結成される、『訳あり令嬢たちの集い』最強のパーティだ。

 今回はド平民のターン、テルサー、キューン。貴族筋のリッタとイーサさん。そして両方のわたし。赤い血と青い血が混じった、紫の血液。それが今回の最強だ。



「やるよ、キューン」


「『アビラウンケン・ソワカ』」


 キューンの攻撃がヴァンパイアロードに刺さる。聖属性攻撃だけど、通らない。一瞬できた傷が直ぐに修復された。くっそう。

 だけどそれで構わない。バトルフィールド展開だ。


「戦闘判定取ったあ」


 確かに戦闘判定はいただいた。ただし、近くに居たヴァンパイアプリンセスと数匹のヴァンパイアも一緒にだ。あの2体、どうしても離れなかったんだよね。どういう関係なんだか。


「テルサー、お願い」


「はいっ。『エル・ラング=パシャ』!」


 ナイチンゲールとカダが使える『ラング=パシャ』の上位奇跡、それが『エル・ラング=パシャ』だ。レベルが4つ飛ぶ。

 彼女の祈りは『パーティ全員のスキル補充』。本来3時間の睡眠を挟まないと戻らないスキルが、全部返ってくるだけの小さな奇跡だ。それが今、とても重要だよ。だってこれから、とことんスキルを使うからね。


「『BF・MAG』『BF・INT』」


 リッタが自分にバフを掛ける。


「『超力招来』」


 全ステータスを上げるキューンのスキルが飛ぶ。いかにもウラプリーストって感じだ。


「『活性化』『芳蕗』『渾身』!」


 さらにリッタの自己バフが加わる。これぞマルチジョブの神髄だね。ジョブチェンジで落ちたINTだけど、ある程度は上乗せされたろう。その口から放たれた言葉は。



「『北風と太陽』!!」


 リッタのジョブ、『ロウヒ』。伝説では太陽と月を隠したと言われる魔女。またの名を『北の魔女』。

 隠した太陽なら、出すことだってできるはず。それが、広範囲デバフ魔法、あるいは吸血鬼特効魔法『北風と太陽』だ。もちろんフレーバーテキストだけどね。


 外は深夜だ。もちろん迷宮に光なんて無い。

 だけどそんな迷宮の広間に小さな小さな、だけど、とても力強い太陽が出現した。


『ギョバアァァァ』


『ギニュアァァァ』


 ヴァンパイアロードとヴァンパイアプリンセスが、耳を塞ぎたくなるような叫び声を上げた。

 今まで一度も声を出さなかったヤツラが、苦しみに喘いでいる。さっきまで澄まして攻撃を受けてたクセに。ざまぁ。



「さあさあ、吸血公爵様にお姫様、そして見てるかヴィットヴェーン。終わりにするぞ!!」


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