第150話 また逢う日まで





「ぐはっ!」


「リッタ!」


 憎らしげな叫び声を上げたヴァンパイアロードが、リッタを攻撃した。くっそ、ヘイトが行ったか。


「リッタ様!」


「イーサいい。自分で治すわ」


 良かった生きてる。装備で受けたかな。

 だけど多分4レベル持ってかれてるはずだ。リッタの頑張りを無下にできない。



「やるよ! 『BFW・SOR』『BFW・MAG』『BF・INT』」


 わたしのバフがターンに掛かった。


「『芳蕗』『活性化』『渾身』『乾坤一擲』『一騎当千』『ハイニンポー:スーパーセンス』『イガニンポー:ハイパーセンス』」


 ターンに自己バフが乗っかっていく。あらん限りのスキルが唱えられる。


「『剛力招来』『ファル・フォ=ピィフェン』」


 キューンの全体バフが追加されて、さらに全体盾が展開されていく。


「『ラン・タ=オディス』『ディバ・ト=デイアルト』」


 テルサーが自動回復と事前状態異常回復を掛ける。


「『克己』『明鏡止水』『ホーリーブレイヴ』」


 続けてわたしも自己バフを唱える。


「『ノブレス・オブリュージュ』『システィーナ』『カヴァティーナ』『ロシナンテ』『トゥナンテ』」


 イーサさんも、そしてわたしも一緒にナイト系独自のバフを掛けた。

 きたきたきた。全部乗っかってきたぞ!



「ターン!」


「『イガニンポー:奥義・影の中』」


 これこそが、この戦いでターンが『コウガニンジャ』になった理由だ。ニンジャ系ジョブならなんでも良かったと言うなかれ。

 事前に持っていた『鋭いクナイ』と『黒のクナイ』が砕け散り、黒い影になって敵を包み込む。

 たった10秒間、敵の攻撃を不能にする効果。それがイガニンポー奥義だ。


「ああ、やっぱり迷宮は最高だね」


 今回のアタッカーは、わたしとイーサさんになる。共にホーリーナイトだ。

 ターンとリッタはジョブチェンジ直後でレベルが低い。どの道相手は魔法効果軽減を持ってるし。だから魔法職のテルサーも手を出さない。キューンは結構イケるだろうけど、絶対的攻撃力が足りない。


「イーサさんはプリンセスを」


「分かりました」


 さて、レベル58のわたしと、レベル76のイーサさんの一撃、耐えられるかな?

 こっちはバフマシマシで、そっちはデバフ食らった状態でさ。


「『ファイナルホーリースマッシュ』!!」


 だからスキルの名前、なんとかならないかなあ。



 ◇◇◇



「もう、明日かあ」


「いつまでもここに居るわけにもいかないわ。ただでさえ、日程を越えて氾濫騒動に参加したのだし」


 気が付けば、クリュトーマさんとも普通にやり取りしてるよ。

 やっぱり一緒の時間を過ごして、苦難を乗り越えればねえ。だからこそ、正直言えば別れがたいな。


「そんな顔をしないで。そうだサワさん。今度王都にいらっしゃいな」


「お断りします」


 殿下には会いたくない。断固として断る。


「そんなことを言っていたら、あの方が押しかけてきますよ」


「げげっ」


 そんなクリュトーマさんは、ロード=ヴァイになった。

 あの戦いが終わった後、山ほどドロップ品があったので、その一つを使ったんだ。殿下がホワイトロードで奥様がロード=ヴァイなんて、白黒で格好良いと思うよ。


 コーラリアはエルダーウィザード、ユッシャータはエインヘリヤルになったから、こっちはもう万全だね。氾濫でかなりレベルも上がった。王都に戻ったら、最強レベルなんじゃなかろうか。

 そしてケータラァさんだけど。



 ◇◇◇



 けったいな叫び声を上げて、ヴァンパイアロードとヴァンパイアプリンセスは消えていった。ざまあみろ。お前らに盗られたレベル、絶対取り返すからな。


「みんなは休んでろ。後はぼくたちがやる」


 そう言ってチャートたちが残敵を一掃していく。広間に集まった冒険者たちも出張ってくれて。30分もしないうちにモンスターは掃討された。そして、黒門が消えていく。

 ああ、やっと終わった。


「疲れたあぁぁ」


 何故かわたしの直ぐ近くにアリシャーヤが座り込んでた。

 まあ確かに大活躍だったもんねえ。エセヒロインから疑似ヒロインくらいまで、格上げしてもいいかな。


「ああ、そうだ、ドロップドロップ」


 前言撤回。


「何これ」


「『ヴァンパイアボーン』ですよ。エインヘリヤル向きの武器ですね」


 要はヴァンパイアの大腿骨だ。ウォリアー系にはぴったりだね。


「うげげっ」


 アリシャーヤはばっちそうにしてるけど、結構強いんだよ。こん棒+3くらいはあるから。



「あ、そうだロードとプリンセスのドロップ」


 辺りを見渡したら、ふたつのドロップと宝箱があった。


「『ガーヴ・オブ・ヴァンパイア』と『鮮血のサーベル』だね」


 片方はヴァンパイアロードが着てたマントだ。物理防御だけじゃなく、魔法攻撃軽減効果が高い。後衛向け装備かな。もうひとつのサーベルは、赤い刀身がおぞましい片手剣だ。ソードマスター系かロード=ヴァイ辺りに似合いそう。


「ポリン、開ける?」


「うん」


 宝箱マニアになったポリンが、嬉しそうに宝箱を開けていく。


「はい」


 ポリンが渡してきたのは、1巻のスクロールと1本の杖だった。


「げえっ!」


「凄いのか?」


 ターンが目を輝かせてる。匂い嗅いでも始まらないよ。


「『フーマの書』と『コンホヴァル』」


「ニンジャか」


 チャートも寄ってきた。


「『フーマ』と『カスバド』にジョブチェンジできるね」


『フーマ』は言うまでもないよね。3つあるハイニンジャ上位ジョブのひとつだ。

 そして『カスバド』。こっちはエルダーウィザードの上位ジョブ。リッタの『ロウヒ』と同格だ。


「どうしよう」


「どうしようも何も、そいつは『訳あり』のモノだろうさ」


 カインドさんが断言してくれた。うん、助かるよ。近くのエセヒロイン、もの欲しそうな顔をしない。


「若い連中で決めればいいさぁ」


「ベルベスタさん、いいんですか?」


 だってベルベスタさん、カスバドになりたいんじゃ。


「これから幾らでも出てくるんだろ」


 アンタンジュさんまでそんなことを言いだした。

 えっと、フーマの対象はポリン、チャート、ワンニェ、ニャルーヤあたりかな。流石にターンは無い。



「チャートに任せるよ。どうしたい?」


 ああ、これって逃げかな。


「ん」


 チャートは『フーマの書』を受け取って、歩き出した。その先にいたのが、ケータラァさんだったってわけ。


「ケータラァ、使え」


「え? わたしですか」


「ああ」


 ターンとポリン、シローネがチャートの後ろに立った。


「ケータラァはぼくたちの仲間だ。ずっと仲間だ」


 なんてこったい。わたしは利害で判断しようとした上でチャートに投げたってのに、その結果がこれだ。

 眩しくって見てられない。聖属性攻撃ってこういうのなのかな。


「みなさん、有り難うございます」


 膝を突いてチャートたちを抱きしめたケータラァさんは、これまでに見せたことの無い笑顔を見せてた。ああ、浄化されちゃったかあ。

 その横で、コーラリアがダクダクと涙を流してる。分かる、分かるよ。



 ◇◇◇



 そんな感じで今回の氾濫、後に『吸血鬼氾濫』と呼ばれる騒動は終わった。

 ドロップはみんなで山分けだ。そんな中で一つの記念品が作られた。ヴァンパイアの牙に穴を開けて革ひもを通しただけの、ちょっとしたモノだ。一応、魔法軽減効果はあるけどね。


 今回の騒動に関わった、全ての冒険者がそれをぶら下げている。ヴィットヴェーンだけじゃない。キールランター、ボルトラーン、ベンゲルハウダーの冒険者たちもだ。

 帰る人もいれば、居つく人もいるみたい。



 ああ結局、カスバドになったのはヘリトゥラだった。

 それから5日、『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』そして『ライブヴァーミリオン』合同で、仲良くレベリングした。


 3日目には冒険者合同の宴会もあったし、昨日はクランハウスで『ライブヴァーミリオン』のお別れ会をした。


「顔を拝みにきただけなのに、長居してしまったわ」


「帰っちゃうんですね」


「ええ。でも、また来るわ。必ずきっと」


「クリュトーマさん……」


 ああそうか。こっちに来てから近しい人と別れるのって、初めてなんだ。殿下は例外だよ。

 なんでだろ。涙が滲む。これが寂しいって気持ちなのかな。


「サワさん、あなたは娘みたいに見えるわ」


「そっちの方が嬉しいです」


 クリュトーマさんがそっと抱きしめてくれた。



 そうして、彼女たちは去っていった。だけどまたいつか会えるはずだ。

 だからわたしは、ヴィットヴェーンで待ってるよ。もっともっと強くなって待ってるからね。

 だから、またね。


「寂しい」


「そうだね。だけど横にターンがいるから、わたしは大丈夫」


「ターンもだぞ」



 そうしてまた、わたしたちの迷宮探索が始まる。


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