第138話 威風堂々
その日がやってきた。
「各人強さを存分に見せ、全力を尽くしてもらいたい」
フェンベスタ伯爵のお言葉だが、多分誰も聞いていない。まあそんなもんなんだろうね。
みんな胴元のブースに集っている。
「1回戦はほとんどヴィットヴェーンと外様だね」
「指示通りに」
ピンヘリアがわたしの横で説明してくれた。もうちょっと砕けても良いんだよ。
「オッズは?」
「ほとんどが1.1倍です。一部は成立していません」
「そうなるかあ」
妙に嬉しそうだね。
まあ外様でも良い人は結構いるみたいだから、何かを掴んでいってくれたら嬉しいな。
◇◇◇
「皆さんこんにちは」
「こんにちはー!」
わたしの挨拶にヴィットヴェーンの連中はノリノリで応えてくれた。外様はなんだこれって顔をしてるぜ。
「本日はお日柄もよろしく、皆さんよくぞお集まりくださいました。大会実行委員長として感謝致します」
そうなんだよね。だって、この場で一番格上なんだもんよ。副委員長は会長だね。
「また、本日の審判長としてこの場に参上いたしました。まずは自己紹介させていただきましょう。わたしはサワ・サクストル・サワノサキ=フェンベスタ・メルタ・メッセルキール。女男爵です」
我ながら名前が長い。
「貴族ではありますが、平民上がりです。赤と青を合わせて『紫の血』を持つと自負していますので、気軽にサワちゃんとお呼びください」
会場に笑い声が起こる。両伯爵が微妙な顔をしてるね。知らんよ。ああ、権力が心地よいわあ。
出場者が約100人。彼らは舞台の上に整列している。それに対して観客は、これ何人いるんだ?
ヴィットヴェーンとサワノサキ領、他の所からも来てるんだろうな。4桁人数なのは分かるけど、実数なんて把握できない。まあそれはいいや。
観客席の何処からでも見えるように、2か所にでっかい対戦表が啓示されてる。1回戦目はヴィットヴェーン対外様組がほとんどだ。当然、そう調整した。さらに仕掛けがあるんだけどね。
「決まりは簡単です。殴って、蹴って、勝てばそれで良しです。気絶か降参で勝敗が決まります。決着はわたしが判定しますからね。当然その後の攻撃は失格となりますので、気を付けてください。みなさん返事を」
「はいっ!!」
よしよし。
「優勝賞金は金貨10枚です。よそから来た方は歓迎の意味を込めて20枚ですね」
100万ゴルド相当だ。はっきり言って1年遊べる。
「副賞は『キングトロルの大剣』。49層ゲートキーパーです」
「うおおおおお!」
歓声が巻き起こる。ツーハンデットソード+4相当の名剣だ。レアドロだよ。ウチは3本持ってるけど。
「試合の前に、とても大切なお話をさせてください。確かにこの大会は誰が強いのかを競うモノです」
正確にはヴィットヴェーンの強さを見せつける、だけどね。
「それともうひとつは、親睦です。冒険者たるもの、勝てば自分に誇りを、負けても相手を讃え、次を目指してください!」
歓声がひと際大きくなった。分かってくれてると良いなあ。
「では始めましょう。第1試合はベンゲルハウダーからの刺客、カースドー、パワーウォリアーのレベル34です。強そうですね。対するは『訳あり令嬢たちの集い』から『黒柴』ターン。ケンゴーのレベル45です」
いきなりターンからだ。当然仕込みだよ。
相手なんだけど、外様組ではトップクラスの実力者だ。
「レベルはターンですが、素手での戦いを考えるとカースドーさんに分がありますかね」
大嘘だ。
さて、両者が舞台中央で10メートルくらい離れて立った。
「では、始め!」
2秒で試合は終了した。
◇◇◇
トーナメントの一番下が終わった。結果? 他所から来た人は消えたよ。ああ、人数の関係で2人生き残ってるか。それにしたって、外様同士で潰し合っただけだね。
事前に強そうな冒険者を調査しておいて、こっちの強豪に当てたんだ。当然の結果だよ。協会関係者権限を最大に活かしたわけ。
当然怪我人続出だけど、速攻で迷宮に運んで即完治させた。便利だねえ。
「それでは選ばれし4人をご紹介しましょう。まずは『クリムゾンティアーズ』の良心、ウィスキィさんを倒しての登場、『緑の二人』からガルヴィさんです! これは驚きました」
いや、本当に驚いた。ウィスキィさんのジョブ遍歴が結構柔らかめだったのもあって、泥仕合の上でガルヴィさんが勝っちゃったんだ。あんにゃろう。
「続けて『ブラウンシュガー』いえ『訳あり』最強の現役ニンジャ、『茶色の旋風』チャート!」
おっさんたちが盛り上がる。何気に人気者なのだ。
「さらに『ブルーオーシャン』から『美しき毛並み』のニャルーヤ。これまたハイニンジャです!」
しっかりとニャルーヤも勝ち上がってきた。レベル40でしかもジョブを積み上げてきたんだ。当然と言えば当然。
「最後に『ルナティックグリーン』から『最強の黒柴』ターン!」
「むふん」
鼻を鳴らし、両腕を組んでターンが仁王立ちしてる。格好良いぞ。
ゴットルタァさんやシンタントさん? 二人ともターンに敗れたよ。ご両人揃ってターンと戦わせろって言ってきたから、そういう風に対戦表をいじってあげたんだ。
満足そうに気絶してた。なんかちょっとアレだったよ。見方が変わった。
さて準決勝1戦目はターン対ニャルーヤ。
30秒で終了。ターンが一発も貰わないで勝利した。ニャルーヤも頑張ったんだけどね。
第2試合、チャート対ガルヴィさん。
こっちも30秒ほどで終わった。言うまでもなくチャートの勝利だ。片やハイニンジャのレベル68、片やニンジャのレベル18。補助ステータスが違い過ぎた。
「さあ、ついに決勝です。奇しくも同じ村の出身です」
ここ大事。近隣の村からやってきた若手たちに希望を与えたいんだ。育成施設の子たちももちろん。
「そして柴犬セリアン同士の戦いでもあります!」
セリアンファンどころか、全員が歓声を上げる。
オッズは7:3でターン。わたしの判定だと、まあそれはいいか。
「では、決勝戦。始め!」
◇◇◇
ターンが真っすぐに歩き出した。チャートもだ。ほとんど二人の額がくっつきそうな距離になって、初めて二人が攻撃を繰り出した。
どんっ、っていう重たい音を立てて、クロスカウンター気味にターンの左ストレートと、チャートの右ストレートがお互いの頬を抉った。
「ぐはあっ」
打ち勝ったのはターンだった。
その後もターンが優勢に試合を運ぶ。そりゃあ、こうなるよね。
さてここで、二人のステータスを見てみよう
==================
JOB:KENGO
LV :45
CON:NORMAL
HP :239+218
VIT:89+68
STR:93+107
AGI:101+93
DEX:122+114
INT:62
WIS:36
MIN:41+83
LEA:19
==================
ターンがこれ。もう何と言うか、凄い。
==================
JOB:HIGH=NINJA
LV :68
CON:NORMAL
HP :106+326
VIT:37+76
STR:34+41
AGI:47+215
DEX:57+112
INT:33+42
WIS:16
MIN:22+81
LEA:12
==================
そしてチャートがこうだ。見れば分かる通りで、チャートがターンに勝っているのは、AGIだけだね。この場合、INTに意味は無い。
イガニンジャを含む24ジョブを積み重ねてきたターン。
対するチャートは11ジョブ目だけど、ニンジャとハイニンジャで積み上げた累積レベルは、なんと112。本当にニンジャ特化なんだ。
そして、速さはSTRとAGI依存。力はSTRとDEX依存なんだ。ステータスは残酷だ。
両者が必死にスキルトレースと実戦というプレイヤースキルを磨いてきただけに、結果は如実に出てしまう。
「負け、ないぞ」
「おう」
「ぼくはターンに、追い付く、ぞ」
「おう!」
チャートは頑張った。観衆も我を忘れて応援した。
冒険者たちが驚きの表情で二人を見ている。
たった13歳の少女たちが、自分たちより遥かに強いことを、目の前で見せつけられているんだ。
「冒険者ぁ! 全員よく見ておけ! これが迷宮最深層を行く最高の冒険者だ」
思わずわたしも叫んでしまった。ちょっとハズい。
だけど言わずにいられなかった。
10分後、チャートは崩れ落ちた。
舞台には独り腕を組み、威風堂々と立つ黒柴の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます