第137話 そうだ、大会を開こう
「うむむむ」
「どうした、サワ」
「いやあ、よそ者にヴィットヴェーンを分からせるって言うか、躾ける方法ってないかなあってね」
「叩きのめすか?」
ターンはちょっと危険思想の持ち主だね。わたしも人のこと言えないけどさ。
「力は良いぞ」
「それは言い過ぎだよ、ターン」
先の事件から3日、制裁の噂は一応広まったのか、大きな事は起きてない。
あと、ハーティさんと『シルバーセクレタリー』ついでに捜査課の調査の結果、裏もなさそうだということになった。むしろ裏があればケジメ付けるだけで楽だったんだけどなあ。
おっと、わたしも結構危険な考え方してるなあ。
「んん? 力で決める」
何か喉まで来てる。
えっと、力を見せつける。誰の何を。ヴィットヴェーンの冒険者たちのに決まってる。
よそ者たちをモノともしない圧倒的な力だ。
「トーナメントだ!」
「なんだそれ」
「ターンの力を見せつけるんだよ!」
「むふん! 任せろ」
そう、これだ。これならイケる。
◇◇◇
「冒険者同士で力を見せ合うわけかい」
「はい。そんな感じです」
翌日、思い立ったがなんとやらで、わたしはハーティさんを引き連れ、会長執務室を訪問した。
「前回で十分効果はあったと思うけどね」
「アレはわたしの力です。そうじゃなくってヴィットヴェーンの冒険者、全員を見せつけたいんですよ」
「勝算はあるのかい?」
「『シルバーセクレタリー』の調査だと、レベルは高くて30ちょっと。ジョブチェンジは上位ジョブへ、多くても3回だそうです」
「なるほど、僕でも勝てそうだ」
「ああ、貴顕組はダメですよ。まかり間違って負けたら面倒ですから」
「君がそれを言うのかい」
「わたしは不参加です」
会長が化け物を見たような目をした。わたしをなんだと思ってるんだ、こいつ。
「レギュレーション、決め事をいくつか考えました」
「一応聞いておくよ」
しっかり聞いてください。
「まず、参加選手は『1パーティにつき一人』です。地上でやりますので、近接ジョブの人だけでしょうね」
「なるほど、ターン嬢を出すわけだね」
「そういうことです」
前回でわたしの力は見せつけた。だから今回は、それ以外の人たちをご紹介しよう。ヴィットヴェーンを思い知らせてやるんだ。
「それと武器は禁止です。防具もですね。ステゴロですよ」
「どうしてそう物騒なのかな。まあ武器だと万一があるから、禁止は妥当か」
「ええ、後、賞品は『訳あり』が用意します。賞金は冒険者協会でお願いできますか」
「それくらいなら構わないよ」
「それにちょっと細工を……」
悪巧み、もとい大会の計画は進んでいく。
◇◇◇
『最強は誰だ?』
そんな煽りポスターが冒険者協会事務所に貼られたのは、3日後だった。
レギュレーションは単純、地上で素手、1パーティから一人だけ。ただし。
「ヴィットヴェーン以外の冒険者は全員参加を認めるし、賞金は倍、ねえ」
アンタンジュさんが面白そうに笑ってる。わたしも悪い顔で笑ってる。
「まあ、流石に後衛ジョブは出てこないでしょうから、50人も集まれば良いとこでしょう」
「そんなに来てるのかい」
「ええ。20パーティ以上は来てるみたいです。だからこそ、見せつけないとならないんですよ」
「なるほどねえ」
『シルバーセクレタリー』の調査結果だ。最近見ない顔が多いと思ったら、こんなに来てたとは。
まあでも全部叩き潰す、わたしじゃなくって、出場するヴィットヴェーンがだ。
「順調ですか」
「おう、大した手間じゃねえ。それに石壁造りもついでにだな」
「助かります」
会場は迷宮を出てすぐ北側に造られることになった。
建前としては、怪我人を直ぐに治せるようにってことだ。それと同時にサワノサキ領の石壁を接続して、防御も固めている。
「うわあ、立派ですねえ」
「そうだろう」
中に入ってみたら、100メートル四方くらいの石畳があって、それを石壁が囲んでる感じだ。
観客席もしっかりあって、そっちは木造だね。一部、貴顕用の立派なブースまで造られてる。すごいな、これ。
「1週間もあれば完成だぞ」
「ありがとうございます」
「楽しみにしてるぜえ」
「あはは」
ドワーフのおっちゃんたちがノリノリで助かった。
サワノサキ領の新しい名物だね。こりゃ年に1回くらいは大会しないと。
◇◇◇
「ウチからは、もちろんターンです」
「むふん」
ターンが胸を張る。頼もしい。ズィスラやポリンもアリなんだけど、何故か満場一致だ。それくらいターンは信頼されてる。レベル45のケンゴーだ。
『ホワイトテーブル』は自重。サーシェスタさんは一応、貴顕組だしね。
「ウィスキィを出すよ」
揉めるかと思った『クリムゾンティアーズ』からはウィスキィさんだった。
前衛が豊富な『クリムゾンティアーズ』は、アンタンジュさん、ウィスキィさん、ジェッタさん、ドールアッシャさんが候補になるんだけど、話し合いで決めたらしい。ツカハラのレベル47だ。
「あの、素手の大会なんですよ」
「良いんだよ」
何が良いんだろう。
「チャートだ」
シローネが断言する。『ブラウンシュガー』の代表はチャートだ。まあ、誰も文句を言わないだろう。何と言ってもハイニンジャのレベル68だ。多分ヴィットヴェーン最強のニンジャだね。
「『ブルーオーシャン』からはニャルーヤよ」
イーサさんやワルシャンでも良いんだけど『ブルーオーシャン』はニンジャを選出した。ワンニェとニャルーヤによる、壮絶な予選があったことは想像できる。ハイニンジャのレベル40。
そして『シルバーセクレタリー』は棄権、というか運営に回ってくれた。ごめんね。全員がエルダーウィザードだけどさ。
「じゃあみんな、頑張ってね」
「おう!」
そんな感じで『訳あり令嬢たちの集い』から、4人が選出された。
「『咲き誇る薔薇』は出場辞退だよ。青い血が残念だ」
「あれ、パーセットかリーンあたりでは」
「彼女たちが傷つくところは見たくないよ」
そういう所がリッタを怒らせてる気もするけど、まあ仕方ない。
「『ラブリィセリアン』も辞退だ」
「ああ、はいはい」
「なんだその態度は」
イェールグート君の所も、セリアンを出さないみたいだね。
「俺のトコはガルヴィだ」
「あれ、ケインドさんじゃないんですか」
「あいつらの方が強いし、他のパーティじゃあ、まだまだだ」
あいつらっていうのは、ダグランさんとガルヴィさんかあ。凄いなあ。
ちなみにガルヴィさん、ニンジャのレベル18だそうな。いつの間に。レベル自体はコンプリートしてないけど、下積みあるから結構強いぞ。
他の参加者は『サワノサキ・オーファンズ』からマッチャーとリンドール。
『晴天』からはゴットルタァさん他2名、『リングワールド』からはシンタントさん達3人だ。
大手クランだと『白光』からも3人だね。
後は『村の為に』『ラビットフット』『吹雪』他からも一人ずつが出場するみたいだよ。
シーフ互助会からも会長が出るらしい。
なんだかんだで、ヴィットヴェーンからは50名くらいが出場ってことになった。
みんな燃えているかい?
◇◇◇
「外様が50人、こっちも50人。丁度いいですねえ」
「ああ、よそ者が哀れだよ」
「それでこそってもんです」
会長と密談だ。別にオープンでも構わない内容なんだけどね。
「狙い通りってわけかい。フェンベスタ伯爵閣下の天覧も許可頂いたよ。サシュテューン伯爵もいらっしゃる予定だね。他にも幾らか」
「そう言えば『鉄柱』からも出るんですね」
「お抱えだからね。それでとーなめんと、だったかい。組み合わせは決まっているのかな」
「1回戦はヴィットヴェーン対それ以外です」
「本気で相手が哀れだよ」
会長が目を覆った。
「ヴィットヴェーンの力を見せつけるための大会なんですから、当然じゃないですか」
「それは分かるけどね」
「胴元はフェンベスタ伯爵とサシュテューン伯爵にお任せしますよ」
「ああ、大喜びだったよ」
当然ブックメーカーが存在するわけだ。今回というか、多分次回以降も両伯爵だろうね。
オッズ? 馬鹿馬鹿しい。聞くまでもないさ。
そしてわたしは彼女たちを信じている。
そんなこんなで、大会が近づいてきた。さあみんな、ヴィットヴェーンの力を見せつけてね。
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