第139話 サワとターンのどっちが強い?
「それでは、全ての冒険者たちに乾杯!」
「乾杯!!」
大会の後は当然宴会だ。冒険者は冒険の後に騒ぐもの。そういうモノなんだ。
今回に限っては、一般人も自由参加になってるよ。闘技場が開放されて、壁には屋台が立ち並んでいる。全部無料だ。
「フェンベスタ伯とサシュテューン伯の振る舞いです。感謝して味わってくださいね」
ちゃんと伯爵二人も持ち上げてあげないとね。どうせ胴元やって儲けたんだから、これくらいは痛くもないはずだけど。
わたしはお酒を飲まない。別にお酒は二十歳になってからってワケじゃなくて、ちらっと舐めてみたら美味しくなかったから。あんなのをガブガブ飲めるってどういう感覚なんだろう。
「まあ、みんなが楽しそうなら何より」
「おう」
わたしは今、ターンと一緒に屋台巡りをしているところだ。
貴族組はさっさと退場してた。そこら辺はしっかりしてるね。まあ、あっちはあっちで晩餐会でも開いてるんだろう。ギスギスしてないと良いけど。
「サワさんじゃねえか。おお、ターンの嬢ちゃんも。いやあ、強かったなあ」
ダグランさんとガルヴィさんのコンビが居た。
「ガルヴィさんこそ、まさかウィスキィさんに勝てるなんて、凄いですよ」
「『クリムゾンティアーズ』が華持たせてくれたんだろ。上位4人が『訳あり』だけだとなんだしなあ」
あ、そういうことか。
なんでかなって思ってたんだ。格闘系に強いアンタンジュさんかドールアッシャさんが出てたら、多分4強全部が『訳あり』になっちゃってたんだ。大人だなあ。
「でもまさか、ゴットルタァさんやシンタントさんが、ターンの嬢ちゃんに挑むとはなあ。別の山なら4強になれたかもしれないのに」
大人げないなあ。
でもそれはそれで冒険者らしくって、わたしは好きだ。ホント色々だねえ。
「よう」
「えっと、カースドーさんでしたね」
「ああ、まいったぜ。そこの子はとんでもないな」
「それほどでもない」
ターンのシッポがブンブンしてる。
「地元で力自慢やってたけど、大恥かいたぜ」
そう言うカースドーさんだけど、ニッカリ笑ってる。ああ、この人は良い感じだ。
「ベンゲルハウダーの連中に見せてやりたかったぜ」
「カースドーさんは、なんでここに?」
「ヴィットヴェーンが50層に届いたって聞いてな。しかも強くなる、新しい方法があるって言うじゃないか。黙ってられなかったってわけさ」
「なるほど。じゃあ協会の教導講習がありますから、それに参加するといいですよ」
「おう。ありがとよ」
そうなんだよね、色々懸念したけど、こういうタイプの方が多いんだ。強さに貪欲っていうかさ。わざわざ西の辺境、ヴィットヴェーンまで来るくらいなんだし。
「ところで、ターンちゃんの強さは分かったけど、サワちゃんとターンちゃん、どっちが強いんだ?」
「っ!」
「むふっ!?」
空気が凍った。
◇◇◇
「ここで、特別試合を行いたいと思います。あくまで、あくまで余興ですので、そのつもりでお願い致します」
ハーティさんの声が響いた。
「そう言えば、ターンとやり合うのは初めてだね」
「負けないぞ」
「手抜き無しだよ?」
「当然!」
観客たちが空間を作ってくれている。20メートルくらいの円形リングだ。
今からここで、ヴィットヴェーン頂上決戦が始まろうとしてる。
「サワ」
「ん?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
お互いにニッコリ笑う。ターンが本当に嬉しそうにシッポを振っている。わたしも心から嬉しいよ。
とてもこれから戦うようには見えないだろうね。
==================
JOB:HOLY=KNIGHT
LV :25
CON:NORMAL
HP :264+119
VIT:92+53
STR:113+74
AGI:102+26
DEX:118+48
INT:64
WIS:38+24
MIN:51
LEA:17
==================
これが今のわたしだ。基礎ステータスじゃ負けてないけど、レベルが違う。勝てないだろうね。
だけど、それでもやってやる。
どむっていう重たい音を立てて、ターンのキックがわたしの腹を捉えた。
大丈夫。反応できてないけど、受けられる。これこそ勝機だ。どうせステは全部負けてるんだ。かろうじて互角のSTRに頼る。
「サワ、しぶとい」
「まだまだだよ、ターン」
さっきからこれの繰り返しだ。
ターンが攻撃して、わたしが受ける。そこで捕まえようとするけど、ターンがそれをスカしてる。くっそぉ、AGIの差が出てる。
「不死身かよ。なんで倒れない」
「STRとHPがあるんだ。すげえぜ」
その通りだよ。だけど、ターンがニンジャメインの格闘系で、わたしは剣技ベースなのがいただけない。プレイヤースキルでも負けてる。
くっそう、一方的に負けてるように見えてるんだろうなあ。わたしのこと、ゾンビか何かに思われてる気がする。
「だけど、慣れてきたよ」
「……サワは凄い」
お互いにスキルトレースを頑張ってきた。モンスター相手ならそれでいいだろうけど、今回はアダになる。
「追えなくても、読める」
「うおっ!」
わき腹に突き刺さったターンの腕を待っていた。掴んだよ。
ターンは外そうと腕を引くけど、わたしはそれに合わせて前に出る。
「うおぅりゃあ!」
「ぐはあ」
すっと手を放して、ターンがバランスを崩したところに、渾身の一撃を入れた。ターンの首が捻じれる。
だけど、そこまでだった。わたしが受けきれたんだ。ターンにそれができないわけがない。
すかさず飛んできたターンの踵がこめかみに突き刺さって、わたしは意識を失った。
◇◇◇
「ああ、負けちゃったかあ」
「強かった」
迷宮の入り口で、わたしとターンは座り込んでいた。
なんでも、ターン直々にわたしを運んで治してくれたみたい。もう、わたしもターンも無傷だ。
「剣なら危なかった」
「タラればだねえ。だけどやっぱり悔しいよ」
「そうか。やっぱりサワは凄いぞ」
「あはは」
「むふん」
なんとなく二人で笑ってしまった。背中合わせに座ってるのが心地いい。温かいね。
「でも1年に1回で十分だね。やっぱりわたしたちは」
「迷宮だ」
「そだね。さあ、戻ろっか」
主催としては、そろそろ戻らないとね。
「サワ」
「ん?」
「ターンは今、凄く楽しいぞ」
「わたしも楽しいよ」
「むふん」
うん、楽しい。温かい。
「サワの姐さんじゃねえすか」
会場に戻ってみれば、以前ボコった二人組に声を掛けられた。
確かパワーウォリアーとファイターだっけ。
「あっし、感服しましたぜ」
「え?」
「ターンさんは強えすよ。だけどそれに、サワの姐さんは堂々と立ち向かった」
「俺らとは大違いだ」
「まったくでさあ」
何言ってんだ、この人たち。
「そうだ、サワは凄いぞ」
「ターンさんの言う通りさ。サワ姐さん」
分からん。
「俺たちはダサかった。弱いヤツに強く当たって、もっと強いのにブチのめされた」
それってわたしのことかな。
「下を見てる場合じゃねえってことっすよ」
「別に見下してるわけじゃないぜ。ただ、上を見ようって話さ」
「さっきの姐さんを見て、思ったんす。敵わなくても一撃ブチかますって、カッコイイすよ」
ああ、伝わったんだ。この人たちにも当然、意地はあるんだ。
「じゃあ、強くなりましょうよ。意地悪するためじゃなくって、格好良く迷宮で活躍する強さを手に入れましょう」
「ははっ、サワの姐さんにそう言われちゃしょうがねえ」
「全く、あっしらの恥を、ほじくりかえさないでくだせえ」
「でも迷宮で無茶しちゃ駄目ですよ。安全第一です。ちゃんと講習受けてくださいね」
無謀はダメだ。ちゃんと安全マージンを取って、しっかり稼いで帰ってくるのが冒険者なんだから。
「暫くはここで鍛え直しだな」
「何言ってやがんでえ、あっしはここでもっともっと強くなるぜえ」
「ああ、確かにその通りだ。姐さん、ジョブチェンジだったか?」
「そうですそうです。効率的にレベルを上げて、ジョブを変えればもっと深くまで行けますよ。ヴィットヴェーンの冒険者たちは、もう始めています」
「サワ、早口になってるぞ」
やばっ、わたしの悪いクセだ。冒険談義になると、どうしてもこうなっちゃうんだよね。
「はははっ。姐さんはホントに冒険が好きなんだな」
「お恥ずかしい」
「誇ってくだせえ。あっしらも強くなって、ベンゲルハウダーに戻ったら、驚かせてやりまさあ」
うん。この人たちも強くなれるといいね。
でもさあ、このままターンに負けっぱなしってワケにはいかないんだよ。わたしにも意地があるんだよね。さあ、レベルアップするかあ。
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