第140話 変わり始める『訳あり令嬢』
あの大会以来、よそ者冒険者の絡む事件は激減した。
精々酔っぱらい同士が暴れて、喧嘩両成敗になったくらいだ。
「だけど、油断はできないよ」
「おう」
「いつもどおりです。『ブラウンシュガー』は49層、それ以外は育成施設の子供たちをレベリングですね」
「サワ、ちょっとまって」
珍しく待ったが入った。シローネだ。
「どしたの」
「49層は『ルナティックグリーン』にしてほしい」
「……『ブラウンシュガー』は?」
なんとなく予感がする。しかもこれは悪い感じじゃない。
「おれとチャートだけど、ジョブチェンジしたい」
やっぱりだ。
「他の4人はどうするの」
「シュエルカはしばらくそのまま。リィスタとジャリットは、おれとチャートが仕上がってから。テルサーは夜に話がある」
「6人でちゃんと話し合ったんだね」
「おう」
6人が揃って頷く。ならば良し。良しどころじゃない。これは嬉しいぞ。
「分かった。今度はわたしたちが下層で待ってる番だね」
「すぐに追いつく」
チャートがギラギラした目で見つめてきた。
「うん」
そうして、チャートはエンチャンター、シローネはビショップになった。当面は二人組で動くそうだ。
『ブラウンシュガー』がテルサーが暫定隊長になって、子供たちをレベリングすることになる。
わたしたち『ルナティックグリーン』は49層だ。アイテム探してくるからね。
◇◇◇
「『シュリケン』と『大魔導師の杖』は幾らあっても足りないねえ」
「わたしも欲しい!」
うんうん、ズィスラは強さに貪欲だ。
「わたしは考え中です」
ポリンは気を使ってくれてるのかな。
「他のパーティはどうするのかな」
「多分『ホワイトテーブル』と『クリムゾンティアーズ』はそのままだと思います」
「だよねえ」
ヘリトゥラのいう事はもっともだ。『ホワイトテーブル』は言わずもがなだし、『クリムゾンティアーズ』も全員レア系の上位ジョブなんで、ジョブチェンジを戸惑うところかな。
「強いて言えば、リッタ、イーサさん、シーシャくらいかな」
リッタとシーシャはエルダーウィザード志向が強かったから、即ジョブチェンジしたんだよね。あとイーサさんも護衛の意思が丸出しだったから、ホーリーナイト辞めたくないだろうし。
でもまあ、今回の大会でリッタも思う所はあっただろうし、あっちはあっちで任せよう。
「よっしゃあ」
消えていくキングトロルを無視して、わたしの目は宝箱に向けられてる。
「ポリン、お願い」
「……『鋭いクナイ』です」
「おおう。ジョブチェンジには惜しいね」
今、ポリンはターンから渡された『黒のクナイ』を使ってる。チャートの『紅のクナイ』は、今朝ニャルーヤに託された。ならばこれはワンニェだね。うんうん。
こうやって装備が更新されていくのも楽しいもんだ。
「うおっ『祝福の笛』じゃん。ついに出たかあ」
『祝福の笛』はオーバーエンチャンターへのジョブチェンジアイテムだ。と言っても誰が使う?
結構レアアイテムが余ってきてるんだよね。『白の聖剣』『勝利の剣』『狂気のこん棒』『麻沸散』なんかが出てる。『勝利の剣』はわたしが貰う予定なんだけど、それ以外はどうしたもんか。
◇◇◇
「ぼくはレベル17で、シローネが15だ」
「身体が重たい」
そうだろうねえ、高レベル前衛ジョブからの後衛ジョブだ。STRやAGIも上がらないし。
「慣れるしかないね」
「おう」
うん。全然悔しそうじゃない。むしろ燃えている。
恒例の報告会だ。まずは全員がレベルを確認していく。
「子供たちはソルジャー、メイジ、ウォリアー、シーフまでは大体終わったよぉ」
育成施設の報告については、何故かベルベスタさんの担当みたいになってる。
ちなみに『終わった』っていうのはコンプリートレベルに到達したって意味だ。このまま冒険者になっても、優秀な斥候として重宝されるね。
この後はウィザード、パワーウォリアーあたりが推奨されている。あ、カラテカもアリだね。
そして議題はいよいよ今日の本命に入る。
「今日は『鋭いクナイ』と『祝福の笛』が出ました」
「ついに出たの!」
リッタが目を光らせた。
「みんなもかなりレベルが上がってるし、使いたい人は遠慮なく立候補してください。まずは『祝福の笛』です」
オーバーエンチャンターは、エンチャンターの単純強化ジョブだ。バフ、デバフの率が上がる。さらにその上になると特徴が出てくるんだけどね。
いるとしたらヘリトゥラ、リィスタ、そして。
「わたくしは立候補します」
そう、シーシャだ。
「リィスタとヘリトゥラはいいの?」
「わたしは、まだエンチャンター取ってない、から」
「わたしもエルダーウィザードの上を目指したいです」
「そっか。考えた上なら良いよ。他の人は?」
みんなが頷く。そういう事だ。
「じゃあ『祝福の笛』はシーシャだね」
「いいの? シーシャ」
「ええ、お姉様とは別の強さを求めたいです」
「言ってくれるわね。頑張って」
美しい姉妹愛ですねえ。
「次は『白の聖剣』ですね」
「ターンでいいか?」
おおう、ターンか。あとは、ワンニェかニャルーヤってとこだろうけど、二人は黙ってる。まだレベルを上げたいのか、それとも。
「わたしはベルセルクになりたいです」
「わたしもー」
「なんだとぉ」
「なんだよぉ」
ワンニェとニャルーヤって、仲良しだねえ。
「じゃあ、もうひとつ『狂気のこん棒』が出るまでレベル上げで、どう?」
「分かりました」
「わかったー」
リッタが収めてくれた。ありがと。
「じゃあ『狂気のこん棒』は予約ってことで良いですね」
「『麻沸散』はどうしましょう」
「あ、あの! わたしでもいいですか!?」
「テルサー。良いね!」
思わず喜んじゃったよ。だってテルサーって今『ナイチンゲール』のレベル54だ。ここから並列ジョブの『カダ』も取るなんて、めちゃくちゃ格好良いじゃないか。
「ヒーラーの頂点だね!」
『ブラウンシュガー』も喜びを隠せてない。他も文句無しって顔をしてる。
「よし。テルサーは『カダ』になるって事で決まり」
「ありがとうございます!」
「最後の『勝利の剣』だけど、わたしが貰うって話でした。けど、今はまだ条件に足りてません」
まだレベル25なんだよね。
「探せばまた出るでしょうし、他のジョブでも構わないんです。だから今『スヴィプダグ』になりたい人は居ますか。遠慮は要りません」
「あ、あの、わたしでもいい?」
それはポリンだった。今、ハイニンジャのレベル50。ソードマスターも持ってる。条件には申し分ない。
「他にいなければ、わたしは良いと思います」
誰も名乗りを上げなかった。
「ポリン、やるね」
「ありがと、キューン」
ここにタヌキ耳ニンジャ改め、タヌキ耳上級剣士が誕生することになった。
さて、纏めてみよう。
ポリンがハイニンジャからスヴィプダグに、テルサーはナイチンゲールからカダへ、ターンはケンゴーからガーディアンへ、そしてシーシャがエルダーウィザードからオーバーエンチャンターだ。
「さて、明日は派手にジョブチェンジだね。スニャータが驚くだろうさあ」
ハーシェスタさんが笑って、その日の打ち合わせは終わった。
◇◇◇
実際次の日、スニャータさんが驚きまくっていた。上級ジョブ4人が一遍にジョブチェンジだ。
まわりの冒険者たちも、特に外様組が愕然としている。そりゃそうだ、彼らからしてみれば、一生モノのジョブを変えたことになるんだから。
「さあって、レベル上げないとね。どうしよう」
「『ブラウンシュガー』は弱い。35層にする」
シローネが言うには弱いそうだ。周りが苦笑いしてる。
「『ブルーオーシャン』もね。35層にするわ」
「あたしらはいつも通り、子供たちの引率だね。サーシェスタさん、ベルベスタさんもいいよね?」
「あいよお」
アンタンジュさんたちは、そういう事で、多分22層辺りだろう。
「『ルナティックグリーン』は、うーん、ターンとポリンがレベル0だけど38層なら行けるかな」
「本気かよ?」
「相変わらず狂ってるぜ」
外野が何か言ってるけど無視だ。35層くらいでマスターまで持ち込んだら、38層は行けちゃうんだよ。
さてさて、じゃあレベリングと行きますか。さっと上げて、ざざっとアイテムを漁るとしよう。
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