第141話 なんか来た、パート2
「おーい。『狂気のこん棒』見つけてきたよ」
「ありがとうございます」
「やったあ」
派手なジョブチェンジをした3日後、35層で『ブルーオーシャン』と落ち合ったわたしたちは、ワンニェとニャルーヤに朗報を持ってきた。
これでバーサーカーキャットペアの出来上がりだ。良いんだろうか。マタタビ置いてけ~。
さてジョブチェンジ組のレベルだけど、ターンがレベル25。そりゃ3日も38層から49層通ったらねえ。おなじくポリンも23だ。よくついてきてくれてる。
チャートとシローネはコンプリートを終えて、次のジョブに就いた。それぞれプリーストとパワーウォリアーだ。
テルサーはレベル17。流石に2次上位ジョブは重たい。
シーシャはコンプリートを成し遂げた。ジョブランク的にはハイウィザードと変わらないからね。
「前衛になるのもいいかもしれません」
「ええぇ」
ワルシャンが死にそうな顔してるよ。
「まあまあ、実際に前に出るかはどうとして、前衛パラを上げるのはアリだと思うよ」
「それは確かにそうですけどぉ」
ワルシャンの悩みは尽きなさそうだ。
「グラップラーになってきました」
「あうぅ」
その日の夜、シーシャはサクっとジョブチェンジをしてきた。ヴィットヴェーン史上初のジョブ、オーバーエンチャンターは3日でその姿を消しちゃったわけだ。
ついでに、ワンニェとニャルーヤもベルセルクになってきた。『ブルーオーシャン』はいきなりレベル0が3人だけど、まあ問題なかろう。
「リッタ、レベリング手伝う?」
「大丈夫よ。なんとでもするわ」
頼もしい。リッタってやっぱり、リーダー気質だわ。
◇◇◇
さらに4日後、グラップラーをコンプリートしたシーシャは、今度はファイターになった。
ワルシャンの胃は、粉々だ。まあ、ベルセルク二人がレベル16になったみたいだから、そうそう事故は起きないだろう。
問題はその日の夕方にやってきた。
いつもの通り、夕食アンド報告会をしていた時だ。ドアがノックされた。ドワーフのおっちゃんに作ってもらった特製ドアノッカーはよく響く。
「どちら様でしょう」
ピリーヤさんが迎えにいった。
そして3分後、4人の女性が案内されてきた。はっきりとピリーヤさんが困惑してる。そうだよね。わたしたちの許可を取らないでクランハウスに入れるだなんて。
「奥方様にはお初にお目にかかります。私はケータラァ・イクト・ソリタリオ。クリュトーマロースラ・ヴェラ・シュタルセンド・メール・メッセルキール様の侍女でございます」
まず女性だったのか、というくらい中性的な男装の麗人が口を開いた。
黒に近い茶色の髪を短くし、執事服みたいなのを着ている。姿勢が良くって背も高い。こりゃ凄いや。
で、奥方様って?
「サワさんの事ですよ」
ハーティさんが呆れたような顔をしている。
ん? メッセルキール? それってもしかして。
「いいわ、ケート。わたしが直接話をするわ」
「はっ!」
残り3人の内の一人、銀髪碧眼で背の高い如何にも奥様って感じの人が前に出た。30代後半くらいかな。場違いなドレスに圧倒される。
病床暮らしの長かったわたしには、っていうか同世代なら多分誰でもだけど、ドレスの形なんて分からない。ルネッサンスーって感じくらいだ。
「あなたがサワさんね」
「あ、は、はいっ! わたしがサワです」
向こうが立ったままなので、こっちも慌てて立ち上がる。
それを見た奥様が優しくほほ笑んだ。
「わたしの事はクリュトーマで良いわ。お互いに長い名前なんて鬱陶しいだけですもの」
「は、はあ」
「そうそう、娘たちを紹介するわ」
ああ、娘さんなんだ。
「こちらがわたしの長女、コーラリア。そしてこちらが公爵家6女のユッシャータよ」
「わたくし、コーラリア・メジア・メッセルキールですわ。お義母様、よろしくお願いいたしますわ」
コーラリアは多分わたしより年下だ。14か15くらいかな。銀髪碧眼は奥様によく似てる。ただし、目力が凄い。って言うか睨まれてない?
「わたしは、ユッシャータ・メジア・メッセルキールです。よろしくお願い致します、お義母様」
ああ、こちらのユッシャータは父親似だ。茶の髪と瞳、穏やかな表情だけど面影がある。彼女はどことなくのほほんって、感じだな。
「サワ、いつの間にお母さんになった?」
ターン、突っ込まないで。お願い。これは高度な政治的問題なの。
「まあっ! 可愛いですわ!」
ターンを見つけたコーラリアが叫ぶ。まあ確かに可愛いけどさ。突撃しても避けられるよ?
だがしかし。彼女はゆっくりとターンの前に近づき、そして膝を突いて言った。
「お名前を聞いても良いかしら」
「ターン」
「そう、ターンと言いますのね。頭を撫でても構いませんか」
「一向に構わん」
「ではお言葉に甘えますわ」
そう言ってコーラリアがゆっくりと、丁寧にターンの頭を撫で、耳を舐りまわし始めた。
上手い! パーフェクトコミュニケーションだ。恐るべし実力と言えよう。
「サワ」
「ん、なに?」
「コイツ良い奴だぞ」
むきぃぃ。ターンはそればっかりじゃない。エセヒロインの時もさっ。嫉妬の炎が燃え盛るぞ。
なんかさ、チャートとシローネも羨ましそうにしてるしさ。なんだよコレ。
「わたくしはコーラリアですわ」
「分かった。コーラリア」
「可愛いですわあ」
いつまで続くんだろう。
◇◇◇
何とその後コーラリアは、チャート、シローネ、キューン、ポリン、ワンニェとニャルーヤを撫でまわした。ドールアッシャさんがいつの間にか消えていたよ。逃げたな。
「堪能しましたわ」
「お姉様、良かったですね」
「ええ」
だからさあ。
とりあえず、全員席に着いてもらった。ドールアッシャさんは逃げたままだし、『シルバーセクレタリー』は消えた。オルネさんとピリーヤさんは侍女として壁に立ち、キットンさんは厨房に消えた。
相手側で立っているのは男装の麗人、ケータリアさんだけだ。
「それで、ご用件は」
「決まっているでしょう。7年ぶりに新しい側室よ。正室たるわたしが見ておくのは当然です」
「そういうモノですか」
「あの方も、少しは落ち着いたかと思ったのに」
気まずい。凄い気まずいぞ。恋愛もしたことないのに、なんで正室側室戦争みたいになってるんだろう。
「ほほほっ、気にしなくていいわ」
奥様が快活に笑った。
「あなたの側室入りは建前でしょう。あの方は余程、サワさんを買っているのでしょう」
「そ、そうなんでしょうか」
「そうでもなければ、王族権を持ち出してまで、同意なき婚姻なんてしないわよ」
「それは庇護すべき対象ということでしょうか」
「そうね。戻ってからのあの方は、それはもう楽しくお話してくれました。あなたたちの事を」
あの殿下め、全員の事まで話しやがったのか。
「あなたたち『訳あり令嬢たちの集い』は規格外。凖王族である事を疎ましく思っているあの方が、その権能で庇護するほどの」
殿下、そこまでしてたのか。ああ、確かに冒険者気質で、王族とか似合わないもんなあ。
「聞かせてもらえるかしらサワさん。あなたのジョブ遍歴を」
「……分かりました。25ジョブ目で、今はホーリーナイトのレベル29です」
「なっ」
「凄いわ」
コーラリアとユッシャータが、それぞれ愕然としてる。奥様は泰然としたままだけど、執事もとい侍女のケータリアさんの眉がピクリと動いた。こっちのAGIは見逃さないぞ。
「ちなみにターンさんは?」
「ん。今は25ジョブ目でガーディアンのレベル15」
奥様の次なる問いに、ターンは素直に答えた。
「ホーリーナイト、ガーディアン……。聞いた事の無いジョブだわ。あの方も『ホワイトロード』なんていうジョブになったし」
ああ、なれたんだ。おめでとうございます。現実逃避気味に祝福を送ってしまった。
いやいや、この後の展開だ。大体想像つくぞ。わたしは慣れてきたんだ。
「そこで、わたしたち4人を鍛えて貰いたいの」
「4人って、全員ですか!?」
「ええ、もちろん」
娘さん二人までは想定してたよ。だけど、4人全員かよ。
「家族ですもの、協力し合うのは当然ですよね?」
しかも値切ってきやがった。恐るべし公爵夫人。
「そうねえ、とりあえず期間はひと月くらいで、10ジョブくらいはなんとかしたいわ。宿泊はこちらでよろしいかしら」
「わ、分かりました。喜んでお引き受けいたしましょう」
そう言うしかないじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます