第142話 奥様は冒険者
「聞いたことのないジョブばかりなのね」
「一応上位ジョブの派生です」
何か話が続いていた。
「凄いわねえ」
微妙に探りを入れられてるみたいで、居心地が悪い。一応『訳あり』全員の紹介を終えたところだ。
「わたしたちもなれるのかしら」
「努力とアイテム次第ですね」
「あらあら」
ちなみに奥様、クリュトーマさんはロードのレベル31。コーラリアがハイウィザードのレベル28で、ユッシャータはヘビーナイトの29だ。この人たち、ガチだよ。
さらに驚きなのが、侍女のケータラァさん。彼女はハイニンジャのレベル34だった。普通に35層行けるよ。
追加情報としては、ユッシャータさん13歳は、第三側室さんの娘らしい。そう言えば私は第七だったっけ。ちくしょう。
「あの方から聞いているわ。あなた方は手段を選ばない、従えって。なんでも言ってちょうだい」
「本当に良いんですか?」
「ええ、もちろんよ」
「……では、今日はもう遅いですし、明日から始めます。まずは全員ソルジャーにジョブチェンジしてもらいます。本当にいいんですか、これ」
コーラリアとユッシャータは驚いてるし、ケータラァさんは不満げだ。
そうなんだよ、問題はケータラァさんなんだ。ハイニンジャをやってるって事は、そういうコトなんだろう。ジョブチェンジをしたら戻れない。それがシステムだからだ。さてどうしよう。
「あの、ケータラァさん?」
「なんでしょうか」
「どうしましょう」
「どちらが強くなれますか。私は今の職責を維持したまま、強くなりたいと思います」
「じゃ、じゃあお勧めはファイター、カラテカからソードマスター系が良いかと思います」
「……それでは、お願い致します」
納得してないわー。不満たらたらだわあ。めんどくさ。
「今より強く、素早くなれる事は保証します。とりあえず今日はお休み頂いて、明日から始めましょう」
「ええ、分かったわ」
◇◇◇
そして翌朝、殿下の関係者4人は全員ソルジャーにジョブチェンジした。奥様以外、凄く不安げだ。誰もが通る道なのだよ。ああ、育成施設の子たちは別か。
さらに当然のごとく登場したのは、4つの背負子だ。いくぜ。
背負うのは、わたしとターン、ズィスラとポリンだ。それぞれ、奥様、コーラリア、ユッシャータ、ケータラァさんが騎乗した。
「合計が10人なので、変則で行きます。わたしとターン、ズィスラとポリン、ヘリトゥラとキューンで」
「おう」
「え、ええと、どういうことですか?」
ユッシャータが不安そうに聞いてきた。
「10人5組に割るわ。気にしないで」
「いえその、気にするとかじゃなくって、この体勢はどういう」
「出撃!」
面倒だから説明は省略だ。
「『ダ=リィハ』『ホーリースラッシュ』」
わたしの一撃で4層ゲートキーパーは消えた。装備はキングトロルの大剣だ。斬れるぜえ。
この段階でお客様はレベル3。
次、9層。
「『ティル=トウェリア』」
レベル8。
「次、22層で分散行動」
「分散行動ってどういうことなの?」
「わたしと、奥様の二人パーティで補助無しって事です。経験値効率が違いますから」
「奥様は止めて。クリュトーマで良いわ」
「分かりました、クリュトーマさん」
まあそう言うなら合わせよう。なんか泥沼っぽくて嫌な感じもあるけどさ。
「それにしても変わってるわね。わたしたちに何もさせない気かしら」
「失礼ながら、そうです」
「当然理由はあるのよね」
「ふたつあります。ひとつは速度優先で、ひたすら駆け抜けるためです」
実はこのレベリング、もうひとつ意味があったんだ。
「もうひとつは、ジョブチェンジの影響を気にしないためです」
「影響?」
「ジョブチェンジをすれば、補助ステータスが飛びます。当然身体が重たくなります。ですけどこのやり方なら、それに気が付かないんです」
「……凄い理由ね。気付かず強くしてもらう。何もしていないのに」
「申し訳ありません。ですが、ある程度ジョブチェンジが進めば、当然戦ってもらいます」
「わたしは任せると言ったわ。全く、あの方は凄い側室を迎えたわね」
偽装だってば。
「『マル=ティル=トウェリア』からの『ファイナルホーリーアタック』」
誰だ、このスキル考えたの。
35層だよ。10体の敵が出たところで、こんな感じで倒していく。背中の奥様、クリュトーマさんは為すがままだ。現在レベル18。もうちょいだ。
「呆れて物も言えないわ」
「ソルジャーは経験値が軽いですから。ウォリアーからは2日がかりですよ」
「つまりソルジャーとメイジなら1日ってことね。それがどういうことか分かっているの」
「取っておいて損の無い、基本ジョブって事です」
「なるほど。あなたを庇護した事、あの方の慧眼だったわ」
「それはどうも」
その日、4人はソルジャーをコンプリートして、さらに翌日メイジもコンプした。どうだ、まいったか。
◇◇◇
「ひでえ、また『緑の狂人』がやらかし始めやがった」
「背負われているの、偉いさんじゃねえのか?」
「畏れ知らずすぎだろ。俺たちまでとばっちりはごめんだぜ」
影響無いから。大丈夫だから。とにかく見なかった事にしてね。
シーフを終えて、今はウォリアーになった4人を背負って、わたしたちは35層に突撃する。そして狩る。
「あの方は昔から王族である事が嫌いでね」
なんかクリュトーマさんが語り始めた。暇つぶしになるから良いか。
「わたしと婚約した時も、嫌そうだったわ」
酷い。
「クリュトーマさんの家は」
「侯爵家よ。もうガチガチのお嬢様だったわ」
片鱗もないねえ。いや、見た目だけならお嬢様か。
「そんなわたしをほったらかして、あの方は迷宮ばかり。それでね、わたしも潜ることにしたの」
酷い婚約者だ。それなりには考えているようだけど、どっちかって言うと暴れてる方がしっくりくるもんなあ。
「だからケートに頼んでレベリングしてもらったの」
あれ? ってことはケータラァさんは。
「ケートはシュタルセンド家の傍流で、現ソリタリオ男爵家の当主よ。あなたと一緒ね」
「なるほど」
「それでね、パワーレベリングだけじゃ身に付かないからって、実戦もやってみたのよ」
「それは、ご立派ですね」
「立派というあなたが凄いわ。でもね、凄く楽しかったの」
んん?
「血が騒ぐっていう言葉があるじゃない。まさにそうだったのよ。モンスターと死闘を演じて、倒した時のあの快感。受けた痛みすら気持ちよく思えたわ」
「分かります!」
そっか、奥様はこっち側だったかあ。これは素晴らしい人材だ。
「ほほほっ。あなたはわたしなんか及びもつかないわ。あの方が気に入るのも当然ね」
あれれ。これって褒められてる? それとも脅されてる?
「あの、わたしは殿下の事、なんとも思っていませんよ?」
「そうでしょうね。それにあなたは、ターンさんと迷宮で活躍するのが似合う気がするわ」
うむむ、殿下に付きまとうなって、暗に言われてるんだろうか。大人の機微は分からん。
「ふふっ、深い意味は無いわ。本当よ。だってあなたは、あの方より遥か高みにいる冒険者なんだから」
「光栄です。わたしも迷宮が大好きです」
◇◇◇
クランハウスでの晩餐と報告会が、ちょっと賑やかになった。夕食は晩餐になったし、報告する人数が4人追加されたもんね。コックからシェフと化したキットンさんは、大変そうだ。
「わたくし、エルダーウィザードになりたいですわ!」
コーラリアが元気に言った。最初に会った時みたいに、睨まれるような事は無くなったよ。良かった良かった。
でもまあ、確かにエルダーウィザードになりたいだろうねえ。ウチには13人もいるんだから。しかも内ひとりは踏み台にしたくらいだし。
「わたしはロード=ヴァイに興味があるわ。あの方がホワイトロードなら、なおさらね」
奥様もだ。
「わたしも、ガーディアンやホーリーナイトになりたいです」
ヘビーナイトのユッシャータならそうなるし。
「イガニンジャ、コウガニンジャ、フーマ、ですか……」
そしてニンジャに拘るケータラァさんも、こうなるに決まっていた。
「あ、あの、アイテムは運次第ですよ。本当に出ない時は出ませんから。特にニンジャの上位ジョブは深層まで行かないと」
具体的には55層くらいまでかな。
「……奥様、滞在期間を延ばしましょう」
奥様一行の長期滞在が決定した瞬間だった。
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