第143話 ライブヴァーミリオン





 そして半月後、奥様一行は順調に強くなっている。

 元々レベルが高かったお陰で基礎ステータスも良い感じだし、ちょっと信じられないくらい、こちらの指示に従ってくれたんだ。


「わたくし、サワさんの事を勘違いしていましたわ」


「誤解が解けて何よりよ」


 1週間目くらいから、背負うメンバーを入れ替えることにしたんだ。やっぱりみんなと仲良くなりたいしね。

 コーラリアが最初はツンツンだったのは、どうやら殿下を尊敬していたかららしい。ちょっと強い冒険者が殿下に取り入ったって、勘違いをしてたみたい。


「お父様よりサワさんの方が、明らかに強いですわ」


 ああ、お義母様って呼ばせるのは止めさせた。心がもたん。


「わたくしも強くなりますわ」


 フェンサーさんとキャラが丸被りだけど、まあ仕方ない。強くなってね。



「まあ、凄いわ。続きを聞かせてください」


「それでね」


 ユッシャータは最初っから好意的だった。

 なので微妙に会話が弾む。勢いにのって日本の冒険譚、特にラノベファンタジーを聴かせたら、喜んでノッてくれた。素直でよろしい。


「わたしも、アリシアさんのように強くなりたいです」


 よしよし。ところでアリシアって誰だろう。



「なるほど、スキルトレースですか」


「はい。疑似的にスキルを模倣するんです。ただし、固まってはいけません」


「確かに柔軟性は必要ですね」


 ケータラァさんはバトルマニアだった。奥様がお嬢様だった昔から、ずっと守るために頑張ってたみたいだ。クリュトーマさんはお嬢様だったけど、おてんばで苦労してたみたい。

 それを語る時が、これまた嬉しそうだから面白い。


「ハイニンジャの上、厳しいけど、取れるといいですね」


「はい」


 とは言え、わたしとターンがそれぞれ『ヒキタ』と『イガニンジャ』になれたのは、氾濫騒動で下層モンスターが出たお陰だ。さすがにこのメンバーだと、キツイのが事実なんだよね。



 そんな感じで『ルナティックグリーン』は奥様一行と結構仲良くなった。みんなが子供好きだったのも大きいみたい。

 ついでに貴族であるのを笠に着ないタイプだったのも大きい。お陰で『訳あり』どころか、育成施設でまで大人気だ。


「王都に戻ったら、わたしも育成施設を造るわ。あの方の報告には無かったの。冒険者の事ばかりで、情けないわ」


 せいぜい奥様に怒られるがいいさ、殿下よ。



 ◇◇◇



「ごめん、こっちもジョブチェンジで深層に潜れてない」


「構いませんわ。わたくしたちの都合なのですから」


「おれとチャートのジョブが安定してない、ごめん」


「気にしていませんわ」


 シローネが申し訳なさそうにコーラリアに告げた。

 間が悪かったとしか言いようがない。『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』はジョブチェンジの真っただ中だからね。

 ついでに言えば『クリムゾンティアーズ』なら行けるけど、慣れてないのと育成施設がやっぱり重要だってのもある。



「そろそろ『ブルーオーシャン』は行けるわ。シーシャ次第ね」


 ワンニェとニャルーヤはベルセルクのレベル31で安定している。

 問題はシーシャだった。グラップラーの後で、ファイター、ソードマスター、サムライと繋いだんだ。今はレベル11。とても深層には連れていけない。


「3日下さい。49層は無理でも、38層で戦える状態まで持ち込みます」


 そんなシーシャは決然とした表情で断言した。


 まあ『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』でパーティを組み直せば、全然行けるんだけど、それもちょっと違うしねえ。



 だけど気付いた事がある。


「無理せずお願いします。もし出たら、しっかりとお代は払いますね」


 これだ。なんかわたしは、クリュトーマさんのこの台詞が気に食わない。周りはどう思ってるのかな?

 ちょっと見渡したら、アンタンジュさんとウィスキィさんが、分かったような感じで頷いてくれた。ターンも、シローネも、ハーティさんも、リッタも、そしてピンヘリアもだ。

 他のメンバーも同意してくれてるような、そんな気がする。


 だったらさ。


「『訳あり令嬢たちの集い』クランリーダーとして、発議します」


「な、なに?」


 意味が分からないのか、コーラリアが動揺してる。見てろよ。


「『訳あり』7番隊を創設したいと思います。メンバーはクリュトーマさん、コーラリア、ユッシャータ、ケータラァさん。暫定で4名ですがよろしいでしょうか」


「異議なし」


 ターンが立ち上がる。そして続々と皆が続く。

 10秒もしないうちに『訳あり』全員が立ち上がっていた。


「パーティ名は、えっと、パーティ名はその……」


 やべえ、勢いだけで考えてなかった。どうする。どうしよう。

 髪の色、シルバーだあ。カブった。瞳の色、青だったあ! 父親ってか殿下は茶色だ。ダメじゃん。あの殿下めえ。



「あ、あのメッセルキール公爵家の紋章って、何色ですか?」


「え、ええ。一応朱色ね」


 戸惑ったようにクリュトーマさんが教えてくれた。

 イケる!


「ヴァーミリオン。7番隊の名前は『ライブヴァーミリオン』。共に過ごした朱色です!」


「異議なし!!」


『訳あり』一同が一斉に賛同してくれた。良かった。切り抜けた。



「どういう事かしら?」


 クリュトーマさんの疑問はもっともだ。


「ハーティさん」


「はぁ、分かりました」


 ため息吐かんでも。


「『訳あり令嬢たちの集い』では、ドロップは一度クランに全て預けます。その上で働きに応じた給金が支払われています」


 そうなんだよね、ちょっと共産主義的な感じあるけど、一応働きに応じた歩合ってことになってる。そして、事務方も大切にしてる。『潜るだけが冒険じゃない』。これはわたしが強く主張したんだ。


「そして、手に入れた素材、アイテムは必要に応じて使用しています」


 おっと、ハーティさんの話が続いてた。


「当然、メンバーを強くするためのジョブチェンジに必要なアイテムは誰がドロップしようと、話し合いをして、適切な人が使う事になっています」



 ◇◇◇



「……情け、ではないのよね」


「もちろん違います。家族だからです。仲間だからです。来たばかりの頃の家族とは、意味が違いますからね」


 流石に伝わるだろう。わたしたちはもう、仲間なんだから。

 彼女たちは良い人だと思う。一緒に冒険して、沢山お話をして、晩御飯の時も楽しくできた。ならさ。


 わたしは人付き合いが少ないから、絆されちゃったのかもしれない。だけど、他のみんなが賛成してくれたっていう事は、大丈夫なんだろう。わたしは絶対的にソレを信頼してるんだからさ。


「お受けするわ」


「わたくしもですわ」


「ええ、嬉しい」


「光栄です」


 クリュトーマさん、コーラリア、ユッシャータ、そしてケータラァさんが、それぞれの言葉でわたしの提案を受け入れてくれた。こりゃあ、新しいワッペンを発注しないとね。


「では7番隊『ライブヴァーミリオン』の結成です。隊長はクリュトーマさん、副隊長はケータラァさんです」


「はい」


「『はい』じゃなくって『おう』です。やり直し」


「おう!」



「では、明日からの編成です。『ブルーオーシャン』は38層。『ルナティックグリーン』は49層を目指します」


「いいのかい?」


「大丈夫です。道中でレベルを上げながら行きますから。そうですね、38層で『ブルーオーシャン』と合同で行きます」


 サーシェスタさんが心配そうな顔をするけど、これくらいなら大丈夫。ターンがレベル19だけど、彼女はレベルで測れない。それはこのクラン全員だけどね。


「『ブラウンシュガー』は『ライブヴァーミリオン』と一緒に、レベルを上げるなり、安定させてください」


「おう!」


『ライブヴァーミリオン』は、ソルジャー、メイジ、シーフ、ウォリアー、パワーウォリアー、カラテカ、プリーストまで引っ張ってある。『ブラウンシュガー』と合同レベリングなら、35層くらいでも大丈夫だろう。


「順次パーティを組み替えて。判断はシローネに任せる」


「おう、背負子は卒業だ」


 もうそれくらいはできるはずだ。どれだけレベリングしてきたか、されてきたかって話だよ。



「それ以外は通常通りです。情報収集と育成施設ですね」


「あいよぉ」


 ベルベスタさんがニヤリと笑う。『クリムゾンティアーズ』と『ホワイトテーブル』『シルバーセクレタリー』は通常業務ですよ。



 こうして『訳あり令嬢たちの集い』に7番隊が結成された。これが長く続かないのは分かってる。

 分かってるけど、一緒にいる限り、彼女たちは友人で仲間で、家族だ。


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