第51話 さあ、突撃だ





「コンプリートした」


「おめでとう。次はどうしたい?」


「……一緒に行きたい」


 チャートはそう言った。

 ああ、やっぱりそう言うか。だけどなあ。


「ステータスを見せて」


 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :22

  CON:NORMAL


  HP :17+69


  VIT:16+34

  STR:15+43

  AGI:17+41

  DEX:17+40

  INT:14

  WIS:12

  MIN:17

  LEA:12

 ==================


 チャートは伸びが良い。だけど、これも偏りレベルだ。



 ==================

  JOB:SOLDIER

  LV :22

  CON:NORMAL


  HP :17+65


  VIT:17+32

  STR:15+35

  AGI:17+38

  DEX:17+34

  INT:13

  WIS:12

  MIN:18

  LEA:11

 ==================


 シローネは平均的に伸びているね。だけどなあ。



 仮にここからジョブチェンジしたとして、HPとVITが30以下じゃあ、危なすぎる。事故で一撃死がありえるんだよ。


「ごめんね。ムリだよ」


「……」


 チャートとシローネは涙をこらえている。他の4人も悔しそうだ。別に足を引っ張ってるわけじゃないのに。


「ごめん、わたしのせいだ。もうちょっと手伝ってあげられてたら……。ごめんね」


 オーバーレベルの19層で2日間粘って、レベルが5つ。わたしが傍にいてあげてたら、もう3つは稼げたはずだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。


「ん、いい」


「おれこそ、無理言ってごめん」


 わたしは思わず、二人の頭を撫でてしまった。ああ柴犬耳が可愛い。


「二人はジョブチェンジして19層でレベルアップだね」


 なるべく明るい顔で言ってあげた。


「ぼくはウォリアーになる」


「おれはプリースト」


「そっか、前衛と後衛なんだね」


「それもあるけど、ぼくはターン」


「おれはサワになる」


 チャートとシローネの思いに胸が熱くなる。慕われるのって、こんなに嬉しいんだ。

 だけど、それだけじゃダメだ。


「目指してくれるのは嬉しいよ。だけど二人は、もっと凄いことができるんだよ。チャートとシローネは多分、ヴィットヴェーンで初めてメイジとソルジャーをコンプリートした冒険者だ。だから凄い下地を持ってる」


「そうなの?」


「うん。今回は間に合わなかったかもしれないけど、1年後だったら『ブラウンシュガー』は最強のパーティのひとつになってるはずだよ。もちろん『ルナティックグリーン』も負けないけどね!」



 ◇◇◇



 残りは4日。今日もレベルアップに努めて、明日には深層アタックを開始する予定だ。

 することは変わらない。とにかく小部屋を回って、ひたすら敵を倒して宝箱を漁る。こういう言い方をすると、悪役っぽいけどね。


 チャートとシローネはジョブチェンジをした。それぞれファイターとプリーストだ。4人娘もコンプリートは近いみたいで、私たちが戻ったら助言を聞きたいって言ってくれた。

 戻らなきゃならない理由が、また一つ増えちゃった。



「いい感じだな!」


 ダグランさんが嬉しそうに言う。首にはボーパルバニーの毛皮で作ったマフラーがたなびいていた。いや、全員がそうなんだけどね。暫定の首装備だ。少しでもクリティカル率を低くしたいってことで、今や全パーティが装備している。

 なんか昔のアニメで見た、サイボーグ戦士みたいだ。略して『ウサマフラー』。今回の戦いに参加したメンバーの記念品扱いだ。


 わたしとターン、ベルベスタさんにハーティさんがジョブジェンジしたけど、それでも安定度は保ったままだ。

 むしろ、ターンがファイターになってくれたのが大きい。敵と切り結んだまま魔法ブッパとか、どういうスタイルなんだか。


「連携もいいですね。安定が何よりです」


 そう、安定だ。安定こそが順調なレベルアップに繋がる。それがわたしの持論だ。


 魔法に弱い敵には魔法を、物理攻撃に弱いモンスターに打撃を、エンチャントをしっかりかけて、タンクとアタッカーが阿吽の呼吸を見せる。万全だ。


「いやあ、ダグランさんとガルヴィさんには『名誉訳あり令嬢』の称号を授与したい気分ですよ」


「名誉、なのか?」


「令嬢はちょっとなあ」



 ==================

  JOB:SWORD=MASTER

  LV :9

  CON:NORMAL


  HP :49+39


  VIT:30+10

  STR:36+16

  AGI:24+17

  DEX:30+29

  INT:31

  WIS:19

  MIN:20

  LEA:17

 ==================


 さてここで、わたしのステータスだ。ウォリアー、サムライ、ファイターを渡ってきたこともあるけど、STRの基礎が36ってパワーファイターになってしまった。AGIが低いのが残念。



 ==================

  JOB:FIGHTER

  LV :15

  CON:NORMAL


  HP :51+61


  VIT:32+31

  STR:31+42

  AGI:33+21

  DEX:41+28

  INT:22

  WIS:12

  MIN:15

  LEA:19

 ==================


 対するターン。もうなんというか、前衛の鬼状態だ。基礎DEXが40を超えている。これでニンジャになったらどうなるんだろう。以前から思えば、INT22っていうのも恐ろしい。


 こうして見れば、チャートとシローネとの差は明白だ。補助ステータスでカバーはできるだろうけど、スキルの数はどうしようもない。


 何と言っても、わたしとターンはこれで6つ目のジョブなんだ。1ジョブで大体18個くらいのスキルが得られるので、重複を考えないとしても100個くらいのスキルを取得していることになる。使える使えないはあるけど、それが、ほぼ9回ずつ。

 多分継戦能力という点では、ヴィットヴェーンでトップを突っ走っているのは確実だね。



 3日のオーバーレベリングの結果が出た。

 わたしたち『ルナティックグリーン』が飛び抜けたレベルアップをしたけれど、他のパーティも中々のものだ。レベル30を超えた人たちが結構いる。


 わたしはレベル13、ターンがレベル18、サーシェスタさんが36、ベルベスタさんは16、ハーティさんが14、そしてダグランさん29、ガルヴィさん30。

 これが3日かけたレベリングの最終結果だ。


 何気にベルベスタさんが凄い。

 もう、切ったはったをバンバンこなしていて、前衛メンバーとして十分勘定できている。


 装備もかなり充実した。鎧関係はガルヴィさんがフルプレートメイルで、それ以外は高級素材の皮鎧とローブといった感じになった。

 階層換算なら33は行けるだろう。と言うか、普通に38階層でやりたい放題したわけだけど。



「ハーティさんは残って指示をお願いします」


「分かりました」


 正直、最後まで悩んだ。ハーティさんのエンチャントは凄く魅力だから。だけど柔らかいのが、やっぱりマズい。なので『ルナティックグリーン』は、当初のメンバーでアタックということになった。



 ◇◇◇



「では皆さん、これより深層アタックです」


 いつの間にか総隊長になったハーティさんが宣言した。


「突入するパーティは『赤光』『木漏れ日』『ワールドワン』『漆黒の閃光』『ラビットフット』そして『ルナティックグリーン』。わたしたちはここ、暫定38階層を死守します」


 そうなんだ。残った人たちも大変だ。主力が抜けた状態で38層から19層への階段を守ることになってしまった。

 そしてそこには『ブラウンシュガー』も参加することになる。


「目標はひとつです。行方不明となっている『紫光』と『クリムゾンティアーズ』を捜索、発見、救出し、迷宮からの脱出です」


 改めて目的を認識する。


「会長の言を借りましょう。死者を出してはいけません! 限界を感じたならば、勇気を持って撤退してください」


 2次遭難は許されない。だけど、諦めたくない。



「サワさんの提案で3日を過ごした私たちは、強くなりました。私は信じます。みなさんが本当の38層までを貫くことを! 確信しています。遭難したパーティを救い出し、戻ってくることを!!」


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