第52話 ニンジャ
「ここか」
「そうです。この先にゲートキーパーがいます」
レベルアップ作戦の2日目に『ルナティックグリーン』は、38層を駆け抜けるだけの技量を得ていた。
つまり次の階層、21層と22層を捜索することができたんだ。そこに『クリムゾンティアーズ』と『紫光』がいればそれで良し、だったんだけど。
それを妨害してくれたのが、この先にいるゲートキーパーだ。
『ジャイアントヘルビートル』。でっかいカブト虫みたいなのだ、しかもヘラクレスオオカブトっぽい。全長5メートルくらいで、魔法無効、やたらと固い。こんな階層にいて良いモンスターじゃないよ。
取り巻きは『タイラントビートル』で、こちらも魔法が効きにくい。そして結構固い。
「じゃあ、わたしたちから行きますね」
「おう。『ルナティックグリーン』のお力、見せてもらおうじゃねえか」
「参考になりますよ?」
『木漏れ日』のリーダーが煽るので、煽り返して、それから前を向く。さて、やるか。しかも分かり易く勝とう。
通路を真っすぐ進んだ先に、扉があった。打ち合わせはしておいたので、ガルヴィさんが躊躇わずにそれを開け放った。全員で一気に踏み込む。扉は空いたままだけど、青いフィールドが通路を閉ざした。バトルフィールド展開ってね。
「『BF・INT』……、『BFW・SOR』『BFW・MAG』」
開幕はわたしのバフからだ。そして。
「『ラング=パシャ』! 『魔法無効化解除』!!」
こないだのサモナーデーモン騒動の時と同じ、ちっぽけな奇跡を起こす。くっそう、レベルが勿体ないなぁ。
「『DBW・SOR』」
ついでに全体デバフもかけてやる。さあ、みんな出番ですよ。
「『マル=ティル=トウェリア』」
「『ティル=トウェリア』!」
ベルベスタさんのハイウィザード最強の攻撃魔法、さらにターンの最強魔法が広間に爆炎を巻き起こした。
「半分沈んだ。ベルベスタさんは取り巻き! 残り全員でボス!」
ベルベスタさんを残して、わたしたちは前に出る。5人物理アタッカー、おっかないぜえ。
「『ダ=ルマート』。ほれ、取り巻きは終わったよ。やっちまいなぁ」
流石はエキスパート、魔法の見切りが上手い。最低限の威力で取り巻きを潰してくれた。じゃあ今度は私たちの番だ。
「『BF・VIT』『BF・STR』『BF・AGI』!」
「ありがとよ、サワさん!」
ナイトのガルヴィさんが正面で受け止めるので、バフを追加しておく。後は状況次第。
「『シールド・チャージ』!!」
ぐんと速度を上げたガルヴィさんが、相手のツノを掻い潜り、喉元にシールドを叩き込んだ。うん! 正にタンクって感じでいいね! ついでに吹き飛ばされたけど、それもまたソレっぽくて良い。
「おら、足止めたぞ、やっちまえ!」
「おう」
ダグランさんとわたしが、両脇から前脚を狙う。
「『切れぬモノ無し』!」
わたしとダグランさんが放ったのは、ソードマスター最強の斬撃だ。
高いDEXも相まって、綺麗に関節を切断してみせた。残された4本脚はあるけど、カブト虫の体勢が大きく崩れた。
そんなカブト虫の背中にトンと舞い降りたのは、サーシェスタさんだ。
「終わりにするよ『粉微塵』!」
圧倒的に握りこぶしを背中に受けて、今度こそカブト虫が、首を地面に叩きつけた。そこに現れたのは、当然ターンだ。
「『鉄山靠』!」
大きな踏み込みからくるりと体を旋回させて、肩から背中を相手に抉り込む。甲殻は割れない。だけど衝撃が通った。
「パーフェクトゲーム」
消えていくゲートキーパーを見ながら呟いてしまった。ちょっと恥ずかしいな。
「今のがお手本ですよー。じゃあ、わたしたちは先行しますね!」
「できるかあ!」
そんな叫びを他所に扉が閉じて、バトルフィールドは解除された。
わたしとターン、ベルベスタさん、ダグランさんが銀に包まれる。
ターンが19、ベルベスタさんが二つ上がって18、ダグランさんが30だ。わたし? わたしは一つ下がってレベル12だよ。くっそう。宝箱だ、宝箱。
「あ、『忍者刀』。惜しい、惜しすぎる」
いや、良い武器なんだけどね、誰も装備できないし、ジョブチェンジアイテムでもないという微妙さ。仕方ない、ターンに渡しておく。
「ターンがニンジャになれますように」
「ナムナム」
一応、二人で忍者刀に祈っておいた。
「ほらほら、行くよぉ」
「あ、はーい!」
ドロップを拾っていたみんなから声を掛けられて、わたしたちはその先にある階段を降りた。
◇◇◇
21層は、はっきり言って楽だった。だけど、真っすぐ出口を目指すわけにはいかない。ここには遭難した『クリムゾンティアーズ』と『紫光』が居るかもしれないから。
そして彼らは、簡単に見つかった。階段の直ぐ傍で陣地を造っていたからだ。『紫光』だけが。
「皆さん! 無事ですか!?」
「おお、救助に来てくれたのか!」
「無事でよかったさね」
「ベルベスタさん? それにサーシェスタさんも、って、サワ嬢ちゃんとターンちゃんじゃねえか。『ルナティックグリーン』かよ」
「おうよ。俺らもいるぜ」
「ダグラン、ガルヴィもかよ」
「なんたって『名誉訳あり令嬢』だからな!」
笑い声が上がった。これでいい。笑えるくらい元気ならそれで十分だ。
「『クリムゾンティアーズ』はどうしましたか?」
「まさか、あいつらもなのか。そうか……。俺たちは『20層』で追い越した。その後は、会っていない」
眩暈が起きた。ああ、巻き込まれていたんだ。
その後、20層と38層が転移したことや、ここまでの顛末を『紫光』に説明していたら、後続が階段を降りてきた。
だけど、『ラビットフット』だけは来なかった。
「大丈夫だ。連中、エンチャンターとプリーストが先に怪我しちまって、崩れた。だが死人は出てないし、撤退も確認した」
そんな『漆黒の閃光』のリーダーさん、以前『ナマクラブレード』を売ってくれたおじさんの説明を聞いてホッとした。死人は出ていない。良かった。
さて、ここからだけど。
「サワの嬢ちゃんの意見は?」
『木漏れ日』のリーダーが私に指示を仰ぐ。なんでそうなるかなあ。
「21層には水場があるんですよね? あと31層も」
「ああ」
「じゃあ……、『赤光』と『漆黒の閃光』はここに残って、21層と22層を探索してください。もしもがあります」
「そうだな」
「同時に『紫光』の人たちをレベリング。パーティを分割、再編成して、少しづつ上に戻してあげてください。状況の伝達と『ラビットフット』の再アタックの指示もお願いします」
「了解だよ。じゃあ俺たちと『ワールドワン』『ルナティックグリーン』で深層アタックだな」
「はい。できれば途中の階層に、水と陣地があると助かります」
ここからは、急降下だ。道中で面倒なことはしたくない。あと3日で38層まで駆け抜ける。
「分かった。任せておいてくれ。この恩は忘れん」
『赤光』のリーダーさんが言うけど、こんなのは恩じゃない。
「冒険者なんですよね。あったり前じゃないですか」
「ターン嬢ちゃん。これをやる」
そう言ったのは『紫光』のニンジャだった。手には『シュリケン』がある。やるって、それは彼のメイン武装じゃないの?
「前にニンジャになるって言ってたよな。なれよ」
「いいのか?」
ターンが真っすぐ問い返す。
「ああ、できれば目の前でニンジャになってほしいんだが、いいかい?」
「サワ?」
ターンが私を見た。二重の意味での問いかけだ。ターンは今、レベル19のファイターだ。コンプリートまでもうちょっとというのが惜しい。
もうひとつは、どうやってジョブチェンジするかだ。
でもまあ良いか。
「いいよ、ニンジャになって。『ラング=パシャ』!」
わたしは小さな奇跡を願う『ジョブチェンジ』だ。またレベルが下がって10だよ、10。
銀の光に包まれたターンが持っていた『シュリケン』。それが砕け散った。
==================
JOB:NINJA
LV :0
CON:NORMAL
HP :58
VIT:36
STR:36
AGI:35
DEX:45
INT:22
WIS:12
MIN:14
LEA:19
==================
ターンが胸元から、ステータスカードと忍者刀を取り出した。口の端が吊り上がっているぞ。
「すげえ。レベル0でこれかよ」
シュリケンを渡した『紫光』のニンジャさんが目を瞠っている。凄まじい基礎ステータスだもんね。
ひゅんひゅんと忍者刀を振り回すターンは、すっごい嬉しそうだ。念願だもんね。
沢山回り道したから、今があるんだよ。ここからは一直線に強くなろうね、ターン。
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