第53話 31層にて
「悪いけどターン、慣らしは無しで行くよ」
「おう」
「今日の目標は……、31層くらいかねえ」
残り3日で18階層を駆け抜けなきゃならない。道中に昇降機があるけど、それでも長い道のりだ。サーシェスタさんの言葉は妥当だ。
「極力スキルは温存です。まずは23層の昇降機を目指しましょう」
「おうさ」
ここから先に進むのは『ルナティックグリーン』『木漏れ日』『ワールドワン』だ。
この3日間で鍛え続けた、ヴィットヴェーン最強のパーティたちが21層を突き進む。
寄り道は不要だ。開ける扉も最小限。戦闘も避けられるものは極力避ける。どうしようもなさそうだったら、その時は『ルナティックグリーン』の出番だ。
何と言ってもスキル数が段違いだからね。後、レベルを上げておきたいのもある、特にわたしとターン。
「そいやっ!」
サーシェスタさんの拳が振りぬかれて、猪っぽいモンスターの頭が爆散した。
「来た来た来た!」
現在22層でこれで5回目の戦闘だ。ここでやっとレベル11になれた。ターンはレベル5だ。流石に20層より下のモンスターだ、ポンポンレベルが上がる。
モンスターの適性はわたしの頭の中に入っている。『ルールブック』様々だ。設定だけどね。
わたし以外は初見のモンスターもいるので、指示出しが役割になった。副隊長で参謀だよ。ナンバー2っぽいポジションが結構お気に入り。
「そりゃ、居るよね」
「昇降機の扉だもんなあ」
ダグランさんが当たり前といった感じで返事をしてくれた。
「ロードスケルトンとスケルトンファイターですね。物理と炎で圧してください」
「出番だねぇ」
「バフは勿体ないので使いません。ターン、ベルベスタさん、お願いしますね」
「了解!」
2分後には白骨の山が出来上がって、ターンがレベル7に、わたしはレベル12になった。
そしてさてはて宝箱っと。
「ヘヴィーボーンメイス」
「そう来たかぁ」
ウチには使い手居ないね。後で他の人に渡そう。
そそくさと昇降機に乗って27層を目指すわたしたちだった。
◇◇◇
「なんですそれ?」
「おう、ヘヴィーボーンヘルムだってよ」
「格好良いですね。似合ってますよ」
「そ、そうか? 照れるなあ」
『木漏れ日』のリーダーさんが骸骨ヘルムを被って現れた。いやあ、パワーウォリアーなのは知っているけど、まるきり蛮族チックだねえ。そういう意味では、凄く似合ってる。
「ああ、これどうぞ」
「は、はあ」
後ろに居た女プリーストさんにヘヴィーボーンメイスを渡しておいた。+4相当なので、結構強いよコレ。
ここはもう、ヴィットヴェーン迷宮第27層だ。十分に深層って言える。
流石にここからは、色々と温存はしてられない。
「俺たちが前に出る。『ルナティックグリーン』は先を急げ」
「いいんですか?」
『ワールドワン』のリーダーさんが、道を開くって言ってくれた。
「先に行って31層に砦でも造っといてくれ」
「どの道、俺たちは道中でスキル切れだ。休みながら追いかけるさ」
「分かりました。ありがとうございます!」
ここからは『木漏れ日』と『ワールドワン』が前に出る。わたしたちは戦闘を縫うように着実に前進を続けた。
◇◇◇
「ここまでだな」
「ああ、交代で休憩だ」
「ありがとうございました。わたしたちは先行します」
「気を付けてな」
「はい!」
迷宮29層、ついに『木漏れ日』と『ワールドワン』の快進撃が止まった。スキルが覚束ないんだ。
今日の目標はここからあと2層。わたしたちなら行ける。
「『斬岩』!」
ロックリザードが音を立てて崩れ、そして消えていった。わたしを銀色の光が包む。やっとこさレベル13に戻れた。ターンはレベル10まで来た。そろそろ前衛で行けそうだね。
ここは30層。ロックリザードが出てきたのがその証だ。38層と35層を勘違いさせた張本人でもある。まったくもう。
「やっとこさ着いたね」
19層からアタックを掛けて約8時間、わたしたちはなんとか31層に辿り着いた。
「とりあえず陣地かねぇ」
6人全員がVITとSTRが伸びるジョブに就いている。陣地作成はテキパキと進んでいった。
「マーティーズゴーレムの木材とか、豪勢だな」
「どうせ何度も出入りするから、ここに置いていきましょう」
「また来るのかよ」
ガルヴィさんが面白そうに返す。だって、今後は30階層クラスが当たり前に稼ぎ場になるからね。
「さて、これからどうしよう」
陣地が完成したは良いけど、後続から分かれて、まだ5時間ちょっとだ。3時間休憩を2回挟んでここに来るまで3時間くらいだろうから、4時間から5時間は待ち時間になるなあ。
「ダグランさんとガルヴィさんはどう思います?」
「俺らに聞くのかよ」
「だって現役バリバリで前衛じゃないですか。スキルの数からしても、お二人の限界がパーティの限界ですよ」
「キツいこと言ってくれるなあ」
ダグランさんはそう言うけど、事実は事実だ。普段と違って迷宮探索では遠慮しないよ。
「後続が来るまでレベル上げをやる。スキルは覚束ないけど、支援してくれるんだろ?」
「そう来なくっちゃ!」
「やれやれ老いぼれをこき使うかねぇ」
「まったくさあ」
ベルベスタさんとサーシェスタさんも賛同してくれた。ということは、やれるということだ。やったるぜえ。
スタミナポーションのストックは、まだまだありますよ。
◇◇◇
「お前ら、何やってんだよ」
「レベル上げですよ。ちょっと水場行ってくるので、陣地で待っててください」
「ああ、大人が付いてて、何やってんだか」
失敬な。あれから4時間後、多分大急ぎで来てくれたんだろう、結構な返り血を浴びた『木漏れ日』と『ワールドワン』が31層に到着してくれた。
その間わたしたちが何をしていたかと言えば、そりゃもう絶賛レベル上げですよ。そしてこっちは彼らより酷い格好だった。返り血やら汗やら、傷だらけの防具やら。結構強いんだよ、31層ともなると。
ダグランさん、ガルヴィさんのスキルはもうカツカツだ。だけど、そうしただけの価値はあったと思うんだ。
わたしがレベル18、ターンが14、サーシェスタさんは37、ベルベスタさんは20、ダグランさんとガルヴィさんは32だ。
これって、ベルベスタさんを後衛に勘定して全員をバフれば、38層に届くレベルって言える。ヤレる、行けるぞ。わたしとターンは、レベルを無視したような存在だし。
「なあ、あたしゃソードマスターに」
「ダメです。そういうのは、今回の件が終わってからにしてください」
すっかり切り刻むことに慣れてしまったベルベスタさんが、ジョブチェンジしたいとか言い出した。人のレベルをなんだと思っているんだ。大体、エルダーウィザードになりたいからジョブチェンジしたんでしょうに。
「じゃあ、あたしたちゃ寝るんで、3時間後に起こしとくれ」
サーシェスタさんの言葉に従い、わたしたちは陣地の奥でようやくの休憩に入った。
◇◇◇
3時間後、わたしたちはスタミナポーションをグビグビやりながら、今後のことを話し合った。
「昇降機は34層から38層まで、でしたっけ」
「ああ、だけど38層は転移したからなあ」
「じゃあ37層までですね」
実質5層分とゲートキーパーをぶっ倒せば38層だ。それなら。
「1日で行ける」
これまで寡黙だったターンも加わった。そうなんだよ、1週間っていうのは目安で、それまで絶対大丈夫って保証はどこにもないんだ。
「わたしは少しでも早い方がいいと思います」
「賛成だ」
ダグランさんが力強く頷いてくれた。
「だからよお、メンバーを交代しねえか?」
「あっちの、ゴットルタァさんとシンタントさんならおれ達より強い」
『木漏れ日』のリーダー、パワーウォリアーのゴットルタァさんと、『ワールドワン』のリーダー、サムライのシンタントさん。確かに彼らはダグランさんやガルヴィさんより強いだろう。だけどそうじゃない。
「どうしたんです? ビビったんですか?」
「そんなわけあるか!」
「じゃあこのままですよ。前に言ったじゃないですか、パーティの強さは連携も含まれるって」
そうだよ。ここまで一緒にやってきて、やっと連携がしっくり来たんだ。ここまで来て逃がすとは思わないでほしいなあ。ねえ、お二人さん。
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