第54話 救い出せ!





「んじゃ、行きますか」


「問題ない」


 だからターン。そういうのドコで憶えてきてるの?


「ターン、せっかくだから訓示を」


「ん。サーシェスタ、ベルベスタ、ダグラン、ガルヴィ、そしてサワ。ターンたちは強いぞ。強くなったぞ」


「おう!」


「絶対に助けるぞ」


「おう!」


「ついでにレベルアップもするぞ」


「おう!!」


 これ以上なくシンプルだけど、ここまでのターンを知っているから、心に響く。

 わたしたちは強い。おじさんも混じっているけど、ヴィットヴェーン最強のパーティは『ルナティックグリーン』だ!


「『ルナティックグリーン』、出る」


「おぉう!!」


 そうしてわたしたちは31層を後にする。目指すは34層だ。



「流石に強いねえ」


「まったくさぁね」


 サーシェスタさんとベルベスタさんが涼しい顔で、愚痴を言う。まだまだ余裕はありそうだけど、1回の戦闘時間は確実に長くなっている。


「焦るな。焦って失敗したら馬鹿」


「ターン。良いこと言うね!」


 自分にも言い聞かせているんだろうな。偉いぞ。


「逃走もありかもな」


「ガルヴィが一番トロいじゃねえか」


 この中だと、わたしも遅い部類なんだよね。逃走失敗でダメージを受けるよりかは、突き破った方が多分速い。


「基本的に逃走は無しです。38層を経験してるんですから、倒せる相手ばかりですよ」


「りょーかい」


 ガルヴィさんも苦笑いだ。



 6時間もかけて、34層の昇降機前に到着した。


「まあ、いるよね」


「叩き潰す」


 当然だけど、そこにはゲートキーパーが居た。グランドロックリザードだ。というか、デカイ岩のリザードマンなんだよね。ミノタウロスといい、どうしてこういうところで捻くれているのか。

 特徴は固くて速い。物理耐性アリってところか。魔法は通る。奇跡は要らないね。


「前衛は全員でタンクです。取り巻きは破砕系、斬岩系で壊してください。メインアタッカーはウィザードです」


 ターンとベルベスタさんが獰猛にニヤリと笑う。

 二人とも前衛もできるじゃない。それって凄いことだよ。


「じゃあ行きます。『BF・INT』『BFW・SOR』『BFW・MAG』」


 まずは自分のINTを上げて、それから全体バフ。


「『BF・INT』『BF・INT』」


 追加でターンとベルベスタさんにINTバフを掛ける。これで基本的な準備は完了だ。


「『ティル=ルマルティア』」


「『ダ=ルマート』」


 ベルベスタさんの魔法は、『ティル=トウェリア』の氷結版だ。流石は元ハイウィザード。ターンも中規模氷魔法を使う。


 白い白い極寒の世界が現出した。取り巻きのロックリザードが2体崩れ落ちる。ボスを含めて、全体の速度が落ちた。伊達にリザードを名乗っちゃいないみたい。そういうとこは律儀なんだね。


「おぅらあ『斬岩』!」


「『破岩』!」


 わたしとターンも前線に出て、岩を砕きまくる。

 よし! 取り巻きは終わった。後は、ボスだけだ。思い知らせてやる。


「『切れぬモノ無し』!!」


 フィニッシュはダグランさんが持っていった。やるじゃん。



「よっしゃ、レベルアップ!」


 サーシェスタさん以外の全員がレベルアップした。

 わたしがレベル21で、ターンが17になった。おおう、ソードマスターコンプだ!!


 そして、これはまさかフラグじゃあるまいか。アレが出るんじゃ。


「ターン、お願い」


 震える声で宝箱の開封をお願いした。


「出た。『カタナ』」


「来たああああああああ!! わたしが貰いますからね! 誰にもあげませんからね。払うものは払いますから、お願いします。取り上げないでください!」


「別に取ったりゃしないよ」


「サーシェスタさん、言いましたね。約束ですからね」


「ああ、だけど今は、ねぇ」


「そう……、ですね。はしゃいでごめんなさい」


 そうだった。救出作戦の途中だ。しかも今はジョブチェンジできない。37層でレベル0とか、流石にマズい。我慢だ、我慢。


 ストーンゴーレムよりか、ずっと高級な石、それこそお貴族様に献上しなきゃならなさそうな素材を確保して、わたしたちは37層を駆け出し始めた。



 ◇◇◇



「『木漏れ日』と『ワールドワン』は来れないかもですね」


「どうしてだ?」


 ダグランさんが渋い顔をしている。


「さっき勝てたの、ほとんどベルベスタさんのお陰ですよ。奇跡で『魔法効果増強』を使ってギリギリでしょうね」


「そういうことか。おっかねえバアちゃんだぜ」


「聞こえてるよぉ」


「勘弁してくれよ」


「ボーパル3。来る!」


「首ガード! 魔法斉射!」


 ターンの索敵も輝いている。ニンジャになって磨きがかかってきたね。



 そうして3時間後、31層を通過してから10時間くらいで、わたしたちはついに38層への階段に辿り着いた。


「『クリムゾンティアーズ』も木材を持っているので、階段の傍で陣地を造っているはずです。もうすぐ!」


 無事ならっていう単語は、なんとか吞み込んだ。さあ、行くぞ!



「いる!」


「ターン! ホントっ!?」


「戦ってる! 急ぐ!」


 どうやらターンは、戦闘音を聞きつけたらしい、しかも声色が固い。苦戦してる? 旧20層で?


 階段を降り切ったわたしたちが見たのは、ボーパルバニーに囲まれて血まみれで戦っている『クリムゾンティアーズ』だった。


 しかもひとり、多分ジェッタさんが首から血を流して倒れていた。動いていない。



 ◇◇◇



 ぞわりと全身が粟立つのが分かった。目の前が真っ赤になって、視界が狭まる。助けなきゃ!


「『芳蕗』!」


 ターン、何してるの?


「サワ、落ち着け。冷静に指示出して」


 MINを30嵩増ししたターンが、わたしの腰に抱き着いて見上げてきた。そっか、そうだよね。


「全員戦闘突入! 『赤』の後ろを開く!」


 無言のまま、全員が戦闘に突入した。


「『ラング=パシャ』! 『魔法効果増強』! ターン、ベルベスタ、焼き払え!!」


「おうさぁ」


「おう!」



 わたしたちの戦闘は即終了した。これで『クリムゾンティアーズ』に逃げ場ができる。


「ポロッコ! 奇跡で『確定逃走』!」


「サワさん!? はい!」


 ジェッタさんを引きずるように、6人がこちらに退避してきてくれた。


「パーティスイッチ! サーシェスタ、ベルベスタ、ダグラン、ガルヴィ、アンタンジュ、ウィスキィ! 前線維持!!」


 ヴィットヴェーンにおけるパーティは、各人の意識で固定される。それを入れ替えた。こういう練習をしておいて良かった。


「ちぃっ! 『ラング=パシャ』『魔法効果増強』。ターン、フェンサー、お願い!」


「おうっ!」


「分かりましたわ!」


 零れた兎がこっちにも来て、戦闘状態になってしまった。だけど4羽、それなら二人がなんとかしてくれる。

 久しぶりに聞いたフェンサーさんの声が心地いい。



「サワさんごめんなさい。回復系を使い切っちゃって」


 ポロッコさんが謝るけど、気にしなくていい。よくぞここまで持ちこたえてくれた。

 初見のボーパルバニー相手に、誰も首を飛ばされてないなんて、凄いよみんな。


「大丈夫。『BF・WIS』! 『ゲィ=オディス』(完全回復)!!」


 ジェッタさんの傷は治った。だけど心臓が動いてない。心停止は状態異常じゃないってか!

 ええい、一か八!


「ターン、わたしと交代。ジェッタに『掌打』して!」


「なんで!?」


「無理やり心臓動かして! 今のターンならできる!!」


「おう!」


 元々高いDEXと『芳蕗』でMINを上げた今のターンならできる、はず。



「……『掌打』」


 わたしが兎を斬っている間に、後ろから冷静なターンの声が聞こえた。頼む!


「……『掌打』!」


 2回目……。


「ぐはっ! げはっ、ごはっ!」


「やったああ!」


 ジェッタさんの声だ。むせてるけど、生きてる。やったぞターン!


「パーティスイッチ! 『緑』に戻せ、押し出すよ!」


 見てろよ兎ども、ここからは蹂躙だ。



 こうしてわたしたちは、誰一人失うことなく再会を果たしたんだ。


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