第41話 新しい強さ
「まず最初に、これから説明することを実行するかどうかは、皆さん次第だということです」
今、わたしは先生状態になっている。いやまあ、確かに『ヴィットヴェーン』にはうるさいわたしだよ。だけど生徒の殆どが年上っていうのもなんだかなあ。
大体100人。割合だと現役冒険者6、一般人2、冒険者志望2ってところかな。多分、各クランや互助会からも見物客が来ているはずだ。
「さて、最良の冒険者とはどのような人でしょう」
まずは問いからだ。
「強い人、生き残る人、稼いで食べていける人。そんなところでしょう。わたしもそうだと思います」
現役を否定したりはしないよ。だって、間違っていないから。一つのジョブを極めた人は強い。それは事実だ。
「わたしがこれから説明するのは、ちょっと変わった回り道だと思ってください。そう思って聞いてくださると嬉しいです」
別に予防線じゃない。わたしとターンっていう、生きた証拠があるんだから、そこに引け目は感じてない。大切なのは、自分で選択したってことだ。
そうしてわたしは語り始めた。わたしとターンがどうしてきたかをだ。
ポーションチートについては、毒耐性があるということで誤魔化しながら、それでも1日12時間以上、少人数でカエルを、マーティーズゴーレムを狩り続けてきたかを。
ついでに、サモナーデーモン騒動の時に使った、『ラング=パシャ』からのデバフ祭りも紹介しておいた。ドン引きしないでおくれよ。
「基本は効率です。どれだけ短時間で、どれだけ効率良く敵を倒していくか。それは相性と経験値と相談ということになりますね。ポイズントード狩りがハマったのは、ひとつの例でしかありません」
さあ、このセリフはどうだ? 冒険を旨とする連中に『効率』なんて単語が受け入れられるかどうか、実はここが一番の問題だって考えている。
「効率、か」
来た。彼は確か『リングワールド』のメンバーだったはずだ。ん? 『リングワールド』?
「古参には受け入れがたいかもしれないが、低レベルの連中を引き上げるには有効なんだろうな」
ありゃ、理解してもらえちゃった。
「『効率』という単語が気に入らないのでしたら、『密度』と言い換えてもいいですね」
「なるほど。モノは言い様だな」
その冒険者さんは、薄っすらと笑った。けっして嫌な笑みじゃない。好意的かよ。
「俺は例のサモナーデーモンの時にあの場に居たのさ。確かにあれは戦闘というより、作業だったかもしれん。サワ嬢ちゃんの言葉の意味は分かるよ」
失敬な。あれは死闘だったんだぞ。レベルを4つも捧げた勝利だったんだ。元を取らないでどうする。
「ま、まあ言葉だけで納得できることじゃないって思います。なので実地で見てもらうこともできますよ。それより、次のお話です」
レベルアップスポットなんて幾つでも教えられる。だけど今日、わたしが言いたいこと、本命はこの後の話だ。
◇◇◇
「わたしとターンの戦いは分かってもらえたと思います。その中でも皆さんから見て、不思議に思えたこともあるはずです」
「ジョブチェンジじゃの」
エンチャンター互助会のドルントさんだった。居たんだ。
「サワ殿の真価はレベルアップの仕方もそうだが、スキルの多様さだ。そうじゃな?」
「あ、はい」
話が早くて助かる。
「ドルント会長の仰る通りです。わたしはプリースト、エンチャンターのスキルをコンプリート、つまり9回ずつ使うことができるサムライ、ということになりますね」
会場がどよめいた。ウォリアーのスキルもコンプリートしているけど、バラすこともないだろう。この場では前衛のサムライが、プリーストとエンチャンターもできるっていう事実が大切なんだ。
「誤解が無いように、もう一度確認しておきますね。冒険者の強さは、色んな要素で出来上がっていると、わたしは考えています」
とても重要なことだ。だからわたしはかみ砕きながら説明をつづける。
「まずはステータスの高さ。これはレベルと直結しています。次にプレイヤースキル、えっと、単純な実戦経験と、それをどれだけ活かせるかですね。実はわたしのレベルアップ作戦の最大の弱点でもあります。長年の経験を積んだ人たちと、急いで育成された同じレベル同士が戦ってどっちが強いと思いますか?」
言わずもがなだ。
「さらに言えば装備です。これも重要ですね。そしてパーティのバランスと、クランや互助会のバックアップ。これらを全て備えた冒険者やパーティが強いと、わたしは思います」
流石に異論は出ない。誰にでも納得できる内容だろうし、ちゃんとクランや互助会を持ち上げたのもあるかな。
「そこにわたしは、もうひとつを加えたいんです。それこそがさっきドルント会長の言った、スキルです。もっと言うならば、スキルの多様性と使用回数ですね」
「だがそりゃあ、パーティ次第でなんとかなるんじゃないか?」
誰かが言った。
「確かにそういう面はあります」
さあ、いよいよ本論だ。皆さん付いてきてね。
「皆さんは今のジョブを選んだ時、どう考えましたか? 自分がなれる中で一番強そうで、自分に向いていそうなジョブを選びませんでしたか?」
「そりゃ、当然だろ……」
「そうです、当然なんです。だけどそれが当然じゃないとしたら……。敢えて得意じゃない、最強じゃないジョブに就いてから、その後、それこそ最後の最後に自分の望むジョブになるという、考え方があるとしたら」
「……スキルか」
「それを実践したのが、わたしとターンです。それを可能にしたのが、先ほど説明したレベルアップ方法です」
「まさかサワの嬢ちゃん、最初からサムライを目指していたのか?」
後方に座っていた『晴天』のリーダーさんが驚いていた。
「そうですよ。私はここからサムライを極めて、更に上に行きます。プリーストになって、エンチャンターになったのは下地を固めるためです」
◇◇◇
やっと理解が及んだんだろう。誰かの手助けを受ければ、短期間でレベルアップは可能だ。この世界にもそれはあった。わたしのカエルレベルアップはちょっとしたズルだ。
だけどステータスが現れて、まだ20年程度。計画的にジョブを変えていくということまで、たどり着いていないんだ。一度ついたジョブには、2度となれないというのが大きい。
「前衛も後衛もできるということは、それだけ継戦能力が高いということになります。1日の探索をより濃密にできます。そしてレベルアップも捗ります」
「なるほど。そうしてどんどん強くなっていくわけか」
今度は『リングワールド』の人だった。理解してくれたみたいで何より。
「ここでもうひとつです。ターンのステータスを見てください」
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JOB:THIEF
LV :20
CON:NORMAL
HP :37+79
VIT:31+17
STR:31
AGI:27+58
DEX:29+60
INT:10+30
WIS:9
MIN:14
LEA:19
==================
ずばっとターンが自分のステータスカードを取り出した。それを周りにかざす。
「VITとSTRの基礎が30超えてるだとっ!?」
「これもジョブチェンジの欠点と言われている『効果』です。補正ステータスの10分の1が基礎ステータスに加算される。これは確かに損をしたように感じられるかもしれません。ですが、この通りです」
「そうか、一度苦手ジョブについて、欠点を補っているのか」
「その通りです。ターンはソルジャーとカラテカを経由していますので、『力強くて近接戦闘で強力なスキルを持つ』シーフです。強さは魔法だけじゃないんですよ」
「むふん!」
ターンが胸を張る。
「これからはそういう冒険者の時代なのかよ……。そう言いたいのかよ」
あれ? なんで落ち込んだ感じになっているの?
「時代の流れか、逆らえんもんじゃの」
あれれ?
ああ、勘違いしてるね。そうじゃない、そうじゃないんだよ!
「何を勘違いしているんですか。ここにいる全員、皆さんがこうなれるんですよ!」
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