第83話 新たなニンジャの姿





「ほらほら皆さん、道を空けてください」


「やべぇ、サワさんだぜ」


「ターンちゃんに触るとキレるって噂だぞ」


 人を狂犬みたいに言うな。そりゃわたしも15歳、キレやすいお年頃なのかもしれないけどさ。

 わたしを止められそうなサーシェスタさん、ベルベスタさん、ハーティさんは先に帰っちゃったよ。鎖は解き放たれてるよ。


「ウチの子たちはお触り禁止ですよ」


「えっ?」


 なんで柴耳三人娘が愕然としてるのかな?


「くっ、当人が認めた場合は、やむを得ませんが」


「サワ、いいのか?」


「仕方ないわ」


「やった!」


 だからチャート、どんだけ撫でられるのが好きなのさ。


 ちなみにズィスラとヘリトゥラも来てるけど、遠巻きに見ている。片方はツンツンで片方はビクビクしてる。



「ただぁし、悪意を持って触るなら、それ相応の結果が待っていることでしょう。ターン」


「ん」


 ターンが胸元からステータスカードを取り出した。


 ==================

  JOB:HIGH=NINJA

  LV :51

  CON:NORMAL


  HP :69+193


  VIT:41+50

  STR:37+34

  AGI:44+164

  DEX:51+99

  INT:22+30

  WIS:12

  MIN:17+94

  LEA:19

 ==================


「レベル51!?」


「お、おい、AGIが200超えてるぞ」


「これ、勝てる奴、いるのか?」


「俺、本当に死にかけたのか」


 最後の台詞は、若手冒険者につっかけた、例のおっさん二人組の片割れだ。



 ふふん、見たか。ついでにわたしのも見せつけてやる。


 ==================

  JOB:KENGO

  LV :53

  CON:NORMAL


  HP :58+254


  VIT:32+91

  STR:40+116

  AGI:28+100

  DEX:37+110

  INT:31

  WIS:19

  MIN:20+82

  LEA:17

 ==================


 わたしもステータスカードを取り出し、テーブルにすぱんと置いた。


「凄い、HPが300以上あるぞ」


「前衛パラメーターが滅茶苦茶じゃねーか」


「これが『緑の悪魔』か」


 おい、そこ。


「でもよぉ、これってターンちゃんの方が強くないか?」


 そう言われた瞬間、わたしは歩法を駆使して、発言者の背後に現れた。別にスキル補正なくっても、DEXが高いわたしはこれくらいのことはやってのけられる。



「今、なんて言いました?」


「なんで消えるんだよぉ。後ろは勘弁してくれ」


 情けない声を出すくらいなら、失言に気を付けろ。


 そんなわたしとおっさんのやり取りを見ていたターンが、消えた。


「後ろだ」


 なんとターンが、わたしの背後を取っていた。くっ、見えなかった。AGI128のわたしの目を以てしてもだ。恐るべし、ターン。



 わたしはしゅばっと移動し、ターンの背後に回り込もうとする。だが、ターンが正面に滑り込む。


「おのれぇ」


「負けない」


「はいはい、遊んでいないで、ジョブチェンジするんですよね?」


『ステータス・ジョブ管理課』のスニャータさんからツッコミが入った。

 しまった熱くなってしまった。


「うむ。ジョブチェンジだ」


 ターンは動じないねぇ。


「ジョブチェンジだって!? あの補助ステータス捨てるのかよ」


「信じらんねえ。今で十分最強だろ」


「ふふん。わたしとターンの最強は、こんなもんじゃないですよ」


 ターンのことなのに、何故かわたしが胸を張る。そして指を2本立てた。


「今回を含めてあと2回。わたしとターンはあと2回、ジョブチェンジをします。そしてレベルを上げます。どうなると思います?」


 周りが静まり返る。


「最強にして究極の冒険者です。わたしたちはそうなるのです」



 初めは誰も信じていなかっただろう。ヤバいヤバいと言われつつも、わたしはプリーストでターンは当時外れとされてたソルジャースタートだった。

 だけどそれは計画的だったんだ。たまに寄り道はしたけれど、それもまた一興。

 今を見ろ。わたしとターンは最強だぞ。だけどまだまだ道半ばなんだ。


「皆さんもそれぞれの最強になれますよ。相談があったら、いつでも格安で教えます」


「金取るのかよっ!」


 そのツッコミに笑い声が起こる。それでいいんだ。明るく楽しく冒険者、だからね。



 ◇◇◇



「では、手を置いてください」


「うむ」


 ターンは左手に『イガ・ニンジャの心得』スクロールを持ち、右手をジョブチェンジのアーティファクトに置いた。


「念じてください」


「おう」


 一瞬赤く輝いたスクロールが砕け散り、ターンのジョブチェンジは終わった。


 ==================

  JOB:IGA=NINJA

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :88


  VIT:46

  STR:40

  AGI:60

  DEX:60

  INT:25

  WIS:12

  MIN:26

  LEA:19

 ==================


 これが、ターンの新しいジョブ『イガ・ニンジャ』だ。

 主にカゲ・ニンポーを取得して、レベルアップ時のボーナスもハイニンジャに比べて大きい。経験値は重たいけどね。


「補助無しでこれかよ」


「レベル上げたらどうなるんだ」


 ふふん、見たことか。


「INTが低い。ハイウィザード、通れば良かったかな」


 それに対し、なんというターンの向上心よ。


「まあそれもアリだったかもだけど、ニンジャ系はINT上がるし、魔法はほら、パーティで戦うんだからさ」


「ん、そうだった。ズィスラ、ヘリトゥラ」


「そうよ、わたしたちもジョブチェンジよ!」


 ズィスラはカラテカ、ヘリトゥラはハイウィザードにジョブチェンジだ。


 ゲームと違って、この世界だと素手戦闘は避けられがちなんだけど、これまた別の意味でカラテカって良いんだよね。

 特に無条件でMINを30上げる『芳蕗』。

 ゲームじゃないからこそ、冷静なマインドって大切だと思うんだ。ターンもよく使う。思わぬ発見だよ。

 今後の新人教育では積極的にカラテカを推奨したいところだ。


 そしてヘリトゥラのハイウィザード。これまではウィザードの頂点扱いだったので、後衛固定の最終ジョブみたいな感じなんだ。確かに多彩で強力な魔法は魅力だけど、前衛にチェンジしたら台無しってわけ。

 ベルベスタさんが、まさにそうだった。


 だけど逆に考えてみて、効率的なレベルアップ方法があるなら、ウィザード、ハイウィザードを経由することは悪くない。基礎INTも上がるし、いつでも後衛になれるのは強みだ。

 さっきターンが残念がっていたのもその辺だね。

 正直、わたしもウィザードと並べて取っておけば良かったかなあ、って思ってるくらいだ。



 ◇◇◇



「んじゃあ、レベル上げ行こうか」


「おう!」


 今回の探索メンバーは、わたしとターン、チャートとシローネ、ズィスラとヘリトゥラだ。変則『ルナティックグリーン』だね。

 内3人がレベル0、チャートはニンジャの17で、シローネはサムライの18。シローネにはこの後、カラテカ、ウィザード、ハイウィザードを薦めてみよう。


「『ダ=リィハ』」


 チャートの魔法一発で4層のゲートキーパーは終わりだ。ちなみにレベル0だけ3人のパーティを組んでいる。

 ズィスラがレベル3、ヘリトゥラが2、ターンに至っては1だ。やっぱり上級ジョブは経験値が重たい。


「とりあえず3人でカエルを倒しまくって。誰かが毒ったらすぐ治療ね」


 ズィスラとヘリトゥラはメイジ経験があるので『キュリウェス』が使えるんだ。

 やっぱりメイジも大切だなあ。うーん。


 こうして考えると、ソルジャー、メイジ、ウィザード、ハイウィザード、ウォリアー、カラテカあたりは必須ジョブ扱いでも良いかもしれない。それとシーフもかな。でもそれだと量産型になりそうで、個性がなあ。いやいや、そこから個性を伸ばせばいいだけか。うむむ。


「かえるー、かえるー、経験値~」


『訳あり令嬢たちの集い』公認カエル狩りの合唱の中、カエルが倒されていく。さて、何時間くらいやるのかな?


「さてチャート、シローネ、わたしたちはマーティーズゴーレムでも狩っておこう」


「うん」


「わかった」


「じゃあターン、9層で待ってるから夕方までには来てね」


「おう」



 そうしてターンはヴィットヴェーン初のジョブ、『イガ・ニンジャ』となったんだ。


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