第84話 サムライの魂
「『ダ=リィハ』!」
テルサーの攻撃で、そのゾンビの一団は沈んだ。残された肉やら装備やらを回収する。
ここは迷宮37層だ。
そこにゾンビが居るってことは、38層から溢れてきたことを意味する。結局、予想通りだ。
ターンたちがジョブチェンジをしてから2日、会長の布告が出た翌日、『訳あり令嬢たちの集い』フルメンバーマイナス3プラス2は37層の掃討をやっている。
マイナス3はオルネさん、ピリィーヤさん、キットンさんで、お留守番。プラス2は言わずもがなのダグランさんとガルヴィさんだ。
ガルヴィさんは吹っ切れたのかな。
昨日のターンは、一人で迷宮を彷徨っていたらしい。
7層でマーティーズゴーレムを壊しまくり、9層で火災を発生させて、22層で大量虐殺を行なった結果、リザルトはレベル11。信じられない重たさだ。独りパーティだよ?
それとは別口で、ズィスラとヘリトゥラはそれぞれレベル15と12。わたしとリッタ、イーサさんの引率で21層に行っただけでこれだ。これが普通なんだよね。
そういう訳で決行された、『エルダー・リッチを刺激しないように38層で稼ごう作戦』は37層で予定変更を余儀なくされた。
「たった3日でこれかい」
「いいから殴りな、サーシェスタぁ」
「わかってるさね」
年長二人が愚痴を言い合いながらもゾンビを倒していく。
「でもまあ、レベル上げには丁度いいさ」
「まったくだ」
もうちょいでコンプリートレベルになる、ダグランさんとガルヴィさんも頑張っている。
そして恐ろしいことに、現在このクランは素手が多い。どういうことかと言えば、カラテカだ。
わたしのカラテカ有用論に基づき、丁度ジョブチェンジのタイミングが来た、人たちが一気にカラテカになっちゃったんだ。
具体的にはアンタンジュさん、ウィスキィさん、シュエルカ、そしてズィスラ。他にもタイミング悪くと言うか何と言うか、モンクをやっているのも多い。こんな素手率が高いクランって、多分無いぞ。
「俺らもそろそろ前衛に戻るから、ソルジャー、カラテカ、シーフだな」
だから、おっさん二人。何を目指しているんだよ。
「そりゃあ……」
ガルヴィさんがちらっと、ハーティさんを見た。
ハーティさんは涼しく笑っている。
「こ、孤児たちを引っ張りあげてやらねえとな。ほらよ、あいつらをなんとかしたら」
「格好良いですね」
「そうだよ。な」
ちょっとはサポートしてあげてもいいよね。実際、ガルヴィさん頑張ってるし。ああ、もちろんダグランさんもだけど。
◇◇◇
そして今現在『ルナティックグリーン』は5人だ。ターンが独りパーティ『ブラックイレギュラー』をやってるから。
もう、魔法で攻撃して、ニンジャ刀で攻撃して、素手で攻撃して、修羅状態だ。
敵の攻撃? 当たってない。補正AGIを捨てたはずなのに、身体に沁み込んだプレイヤースキルが、相手の攻撃をすかし続けているんだ。
「ゾンビAの攻撃、ターンはかわした。ゾンビBの攻撃、ターンはかわした」
「サワ、何言ってるの!」
「いやあズィスラ。ターンって凄いなあって」
「わたしも凄くなるわ!」
「わたくしもよ!」
ズィスラとリッタが乗っかってきた。
「リッタもズィスラも十分凄くなってきてるんだけどね。ヘリトゥラもハイウィザードに慣れた?」
「は、はい。ウィザードの続きだし」
「イーサさんはどう」
「レベル23です。まだまだ遠いですね」
「いやいや、イーサさんは今でも立派なナイトですよ」
実際、イーサさんは凄いんだ。サポート系ナイトを目指していたお陰で、ジョブ推移がナイト、ソルジャー、シーフ、カラテカ、グラップラー、エンチャンター、プリースト、モンク、ヘビーナイトだ。
魔法火力を無視したら、本当に理想的なジョブ推移なんだよね。ここまで来たら最強のナイト目指して一直線だ。本人の目的と手段が一致すると、こんな完璧な冒険者が出来上がるんだ。
「ゼ=ノゥが出たぞお」
ゼ=ノゥが出たら、やることは決まっている。
「ターン!」
「おう」
そして組まれるパーティ名は『エクストラシルバー』。メンバーはわたしとターン、イーサさん、サーシェスタさん、ベルベスタさん、ハーティさん。要は経験値の重たい面子だ。
「イーサ、頑張って!」
「はい! すぐ終わらせて、戻ります」
リッタがイーサさんに声を掛ける。イーサさんはリッタの下を離れることを最初は渋っていたんだけど、説得されてパーティに参加している。
それ故に全力だ。
「『BFW・MAG』『DB・AGI』」
「『BF・INT』『BF・INT』『BF・INT』」
イーサさんとわたしのバフ、デバフが飛ぶ。
「『芳蕗』『ハイニンポー:センス』『イガ・ニンポー:超センス』」
ターンを始め、みんなが自己能力上昇スキルを使っていく。
「『ヤクト=ノル=リィハ』」
「『ティル=トウェリア』」
開幕は、ベルベスタさんの単体最強攻撃魔法だ。エルダーウィザードならではだね。
追加でターンの攻撃魔法も飛ぶ。
最早ウィザード最強魔法の『ティル=トウェリア』さえ、『訳あり』では普通に飛んでく魔法になっている。凄いぞ。
さらにハーティさんの行動阻害魔法やら、イーサさんの拘束系スキルが発動して、ゼ=ノゥは為すすべもない。
サーシェスタさんやターンが蹴る、殴る。
「『切れぬモノ無し』」
フィニッシュは私だった。毒耐性あるしね。
「よっし、宝箱!」
「任せろ」
ターン、頼むよっ!
「サワ……」
「何っ? どうしたの?」
「カタナだっ」
今ターンは何と言った? 聞き間違い? いや、言った。
これは白昼夢と明晰夢とかいうアレか? そもそもこの世界は夢なのか?
実際のわたしは未だ病室のベッドで眠っている?
いやいやいや、セカイ系は勘弁だよ。
ターンから手渡されたそれは。
「パナウンクル・ブレード……」
カタナ+3相当の代物だった。ああ、ああ、ついに手に入れた。
わたしは愛用のサモナーデーモンソードをズィスラに手渡す。大事にしてね。
そして、左腰に『パナウンクル・ブレード』を佩いたのだ。交差するように『桜のワキザシ』もある。もうひとつのワキザシは、すでにシローネに渡してある。
そうだ。わたしは今、真の意味でサムライになったんだ。
◇◇◇
「リッタ、臨時で『ルナティックグリーン』を任せてもいい?」
「え、ええ、構わないわ!」
「ターン。今からわたしと二人で『ブラックイレギュラー』よ!」
「おう!!」
わたしとターンはゾンビの群れ目掛けて突っ込んだ。魔法など不要。ただ切り裂くのみだ。
剣をカタナにしたお陰で、使えなかったサムライスキルを発動できるようになった。逆に打撃系スキルは使えないけどね。
「『居合』からの『連閃』『4連突』! 『二刀流』『8連突』! 『弧月』に『斬月』!!」
「ん!」
わたしとターンの斬撃が、ゾンビをどんどん葬っていく。ターンは返り血すらすべて躱しているけど、わたしはそんなの気にしない。
毒混じりの血液がなんだ。忘れがちだけど、わたしは毒無効の女だぞ。
わたしがどんどん紫色に染まっていく。ゾンビどもの返り血が心地いい。ピリピリするけど、これまた、たまらない。
「あはっ、あははっ!」
「ふふ」
いつしか、わたしとターンは楽しそうに笑っていた。
「ゾンビ、ゾンビ、刀の錆!」
「ゾンビ、ゾンビ、経験値」
二人の歌声がハモり始める。最高の気分だ。ターンと二人なら、どこまでだって行ける万能感。今はそれに身を委ねよう。
そして、スキルを放ちまくるんだ。それを身体に覚え込ませる。スキル補正はムリだけど、動きをトレースするだけならできるはず。自分のDEXを信じるんだ。プレイヤースキルを磨け。
それが、後になって必ず役に立つ!
◇◇◇
「あれ?」
気が付けば、周りのゾンビは消失していた。なんで?
「あんたらが全部片づけたからに決まってるさね」
サーシェスタさんが呆れた顔をしているよ。ってか、呆れた顔か、ドン引きした顔が殆どなんだけど。楽しそうなのが、チャートとシローネくらいなんだけど。
「ターン、レベルどうなった?」
「ん、21。もうちょっとでコンプリートだぞ」
「わたしは55になった」
「やったな」
「うん。やったね! でも、まだまだこれからだよ」
「おう!」
ぴちゃりぴちゃり。身体にまとわりついた、紫色の返り血が滴り落ちる。それすら清々しい。
ああ、わたしはついに本当の意味でサムライになったんだ。
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