第208話 セレストファイターズ





「8番隊の名前はサワに決めてほしい」


「いいんですか」


「ああ、それが慣習だって聞いてる」


 聞くもなにも、もうワッペンは出来上がってるんだけどね。よく考えたらさ、自分たちで決めるって言われたら終わるトコだった。

 年長組、ニヤニヤしない。


「ウルマトリィさんの髪と瞳の色、迷宮に潜り、空へ羽ばたかんとする気構え」


 結構適当なんだけどね。


「同じ青でも『ファイターズ』は空です。すなわちセレスト」


「セレスト……」


「『訳あり』に加わる新たなパーティ、8番隊の名は『セレストファイターズ』」


 ウルマトリィさんが手をグーパーさせてなにか考えてる。


「気に入った!」


「異議なし!」


 パーティメンバーたちが同意していく。


「ああ、いいねえ。良い名前だ」


 最後にタイガトラァさんが納得してくれた。よかった、ヤバいことになるとこだった。



「では、こちらをお渡ししましょう」


 さっきピンヘリアから渡されたワッペンを『ファイターズ』、もとい『セレストファイターズ』に見せた。それは『空色の戦士』。


「用意できてたってことか」


「ええまあ」


 ちょっと気まずい。


「光栄だ。アタシたちは必要とされてたんだな!」


「もちろんですよ。勧誘しようと色々考えたんですから」


「親父がやらかした時、ハーティを止めたのがソレか。なるほど納得いった」


 そうなんだよね。引き換え条件でクラン入りなんてダメだ。『訳あり』はそうじゃない。お互いが望んで仲間になるんだから。



「『訳あり令嬢たちの集い』誓い」


 久々の唱和だ。


「ひとつ、令嬢たらんとする心が令嬢を生み出す。努力を忘れるな」


 キューンとポリンが言う。


「ひとつ、そのための変化を恐れるな。改革を躊躇うな」


 ポロッコさんとドールアッシャさんが。


「ひとつ、訳あり令嬢たちは仲間であり、家族である」


 リィスタとヘリトゥラが。


「ひとつ、それ故、不義理を働くな。相手を許せ。離れても、別れても絆を忘れるな」


 ワンニェとニャルーヤが。


「ひとつ、だからこそ、楽しく、笑いながら生きようじゃないか。それが冒険者だ」


 最後にユッシャータとコーラリアが唱和した。

 そうだよ、これが『訳あり』の誓いだ。


「ああ、ああ、ワタシたちもそうあろう。ここに誓うよ! アタシたちも楽しく冒険者をやってくさ!」


 その後、年少組による誰のシッポが格好良いかで、トラ耳のタイガトラァさんが選出された。当然ひと悶着あった。



「しばらくは『ライブヴァーミリオン』と『セレストファイターズ』で組んでください」


「わかったわ」


「了解だ」


 クリュトーマさんとウルマトリィさんが了解してくれた。


「それと2パーティは『オーファンズ』の面倒を見てあげてください」


「ああ、任せといてくれ」


 もう『ライブヴァーミリオン』ならお手の物だ。だけど『セレストファイターズ』は初めて。

 さあ誰かに教える、導くってのをやってもらおう。それもまた『訳あり』だからね。

 この時、わたしはまだ知らなかった。『オーファンズ』の、特にセリアンたちの一部が前衛主義に染まっていくことを。



 ◇◇◇



「やっとここまで来たわね」


「そうだね」


 リッタが感慨深げに言った。迷宮99層。もちろん4迷宮でもダントツの深層だ。


「通過点だよ。わたしたちは、もっともっと強くなる」


「おう」


 チャートが力強く返す。そうだよ。ここは単なる通過点だ。

 レベルをとことん上げるための、最強へ至るためのたった一歩だ。だけどみんな、ありがとう。みんながいなかったら、ここまで来れなかった。


「まずはマッピングだね。挑戦は、明後日」


「わかったわ」


「ふむ」


「じゃあ、3方に分かれてマッピングだよ。隠し部屋とかに気を付けてね」


 3組の『訳あり』最強パーティが動き出した。



「マッピングは完了、怪しいところなし、ね」


「残ってるのは多分100層へのゲートキーパーだね」


 リッタが確認する。


「一旦戻ろう」


「わかったわ」


 いよいよ、いよいよだ。99層攻略が目の前にある。

 ここで万全を期す。状況報告と後方支援まできちんとして、そして挑もう。



 ◇◇◇



「へえ、ついにかい」


 アンタンジュさんが嬉しそうに腕を組んでる。


「はい、なので『クリムゾンティアーズ』には90層まで、『ライブヴァーミリオン』と『セレストファイターズ』は59層まで牽引してほしいんです」


「あいよ!」


 ウルマトリィさんが率先してくれた。


「それとさ、アタシのコトは『トリィ』でいいよ。仲間なんだろ?」


「わかりました、トリィさん」


「ならわたしは『トーマ』ね」


 クリュトーマさんまで。


「わかりましたよ」


「それとわたしたちは70層までいけるわ」


「助かりますけど、いいんですか」


「もちろんよ」


 ありがたいっちゃ、ありがたい話だ。『ライブヴァーミリオン』なら70層もイケる。


「なら、お願いします。攻略は明後日。早朝から99層を目指します!」


「おう!」


 威勢の良い叫びが食堂に響いた。



 ◇◇◇



「先手は『ルナティックグリーン』。戦いをよく見ててね。後ろの2パーティは気軽に降りてきて」


「無様は許さないわよ」


「あり得ないことを言っても無意味!」


 ヴィットヴェーン99層。わたしたちはゲートキーパー部屋の前にいる。

 ついにこの時がやってきた。わたしの目標にはまだまだだけど、確かな一歩だ。それを今、踏み出す。


「んじゃ、行こうか」


 ゲートキーパー部屋に踏み込んだわたしたちは、臨戦態勢を整える。敵はワイバーン1体だ。5分以内に落としてくれるわ。



「4体いるぞ、サワ」


「え?」


「ワイバーンは3匹。もうひとつ、アレはなんだ」


「……レッドワイバーン」


 あり得ない。確率上はあったとしても、初回で引くものじゃない。

 レアボス。すなわち通常では出会えない、特殊ボスの登場だ。レベルは120相当。


「サワ、大丈夫なの、サワ!」


 リッタの叫び声が遠く聞こえた。


「初手で引く相手じゃないぞ、ヴィットヴェーンっ!」


 迷宮の意思が伝わってきた。やれるものなら、ってかあ!


「サワ、どうする」


「退避もできる。だけどさ、悔しくない?」


「……やるぞ」


 ターンが一瞬逡巡したあとで言った。逃げるものか。


「サワに指示を任せる」


「おうよ!」


 やってやるぞ、ヴィットヴェーン。


「キューン、後衛側で。ごめん!」


「いいよ。『BFS・INT』『EX・BF・INT』『EX・BFW・SOR』」


 ここはヘリトゥラとキューンが後衛だ。キューンはレベルが飛ぶけどエクストラバフ。そしてヘリトゥラだ。


「やるよ、ヘリトゥラ!」


 ズィスラが促した。


「『フィフリスト・ソード』、『渡来』!」


 ヘリトゥラがズィスラの武器をバフって、そのまま敵の真横に転送した。

 ワイバーンの注意が逸れる。


「キューン」


「『フィフリスト・ソード』!」


 INTをブチあげたキューンが、ポリンの武器をバフった。


「おおあぁ! 『スパルタクス』!!」


 まるで弾丸だ。ポリンが疾風みたいに飛び立って、ワイバーンの首に剣を突き立てた。



「まずひとつ」


 横にいるターンが他人事みたいに、冷静に言う。


「ポリンとズィスラに任せる!」


「もっかい『渡来』」


 ズィスラはヘリトゥラの『渡来』に乗って、別のワイバーンの背後に出現した。

 うん、練習しただけのことはある。二人の連携はバッチリだ。


「『EX・BFS・STR』」


 ポリンが自分にバフを掛けて、ワイバーンを翻弄する。

 残り1体はわたしがやればいいか。


「ターン、レッドワイバーン、やれる?」


「当たり前」


「じゃ、任せた。『EX・BFS・STR』!」


 わたしもポリンみたいに羽ばたくとしましょうか。


「『フレイヤの黄金』!」


 レベルは飛ぶけど言ってられない。スヴィプダグの最終奥義を繰り出して、ワイバーンに斬りつける。サクッと首が飛んだ。



「『EX・BFS・STR』。ターン、やれえ!」


「おう」


 ズィスラがターンをバフった次の瞬間、レッドワイバーンのブレスがパーティを襲った。


「『フォル・ラ=オディス』」


 炎が燃え盛る中、わたしが全体回復魔法を使う。残念だったね赤トカゲ。ウチのパーティにはお前のブレスごときで、沈むようなメンバーはいないんだよ。


「『活性化』『克己』『芳蕗』『ハイニンポー:ハイセンス』『狂気』『勝てぬモノ無し』『フーマ:木の葉の舞』」


 ターンが次々と自己バフを掛けまくっていく。



 そして、跳ぶ。


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