第226話 格好良いジョブ





「みんな、待たせたな!」


「話を聞いて駆けつけたぞ!」


「チャート、シローネ」


 ターンが哀れみの瞳で、チャートとシローネを見つめていた。とっても珍しい光景だ。

 ちなみに『ブラウンシュガー』は階段を降りたとこで6人揃って腕を組んでる。確かに危機に参上した心強い味方って雰囲気は出てる。出てるけどさあ。


「さっき、終わった」


「……」


 ターンの端的な状況説明を受けて、『ブラウンシュガー』の6人はがっくりと膝を突いた。



「ま、まあ、みなさんが無事で良かったじゃないですか」


 ランデがシュエルカを励ましてる。『ライブヴァーミリオン』も急いで戻ってきてくれてたんだ。


「われの出番は無いのか? どういうことだ」


「オリヴィヤーニャさん、そう言われましても」


 ついでに『フォウスファウダー一家』まで駆けつけてくれてた。嬉しいんだけど、ベンゲルハウダーはどうなった?


「ベンゲルハウダー総督として宣言しよう。こちらの氾濫は終息した。このような事態にもかかわらず助力してくれた『訳あり』に感謝する」


「それはなによりです」


「して、敵はどこだ」


 いやだから、こっちも終わったんだってば。



 ◇◇◇



「7個も出ちゃったねえ」


「うんっ!」


 嬉しそうにポリンが答えてくれた。

 そりゃまあ何百体とグレーターデーモンを倒したんだ。これくらいはありえるか。なにが出たかといえば、超位ジョブチェンジアイテムだ。上位ジョブのなら、もうざっくざく。


「グレーターデーモンの皮も、爪も。コレ、絶対凄いよね」


「お宝ですわ!」


 テルサーさんが輝くような笑顔を見せた。うんうん、全くその通り。敵を倒して経験値とドロップに喜ぶ。これが冒険だ。



「じゃあ『世の漆黒』でひとつ、『高貴なる者たち』で2つ、わたしたちは4つってことで、どうでしょう」


「いいのかよ?」


「ケインドさん、こんな状況なら誰がドロップ引いたかわからないですよ。まあ、数はわたしたちが捌きましたから、多めに4つってことです。それと、グレーターデーモン・ルビーの素材は堂々と貰いますからね」


 新装備に使うんだ。誰にもやらんぞ。


「えー、あんなに沢山あるんだから、ちょっとくらいいいじゃない」


「うるさいですよ。実力で狩ってください」


 アリシャーヤは相変わらずだねえ。


「けちー」


 わたし、一応伯爵なんだけどなあ。



 てな感じでドロップの山分けだ。特に大切なのは、超位ジョブチェンジアイテムだね。

 アイネイアールスへのアイテム、『イーリアス』は『咲き誇る薔薇』が取った。あ、これアリシャーヤが使う気だ。彼女って『訳あり』を除いたら、ヴィットヴェーントップ10に入るんだよね。

 ちなみに1位と2位は、多分ダグランさんとガルヴィさんが争ってる。なんだかなあ。


「ボクのところは『オーバーロード』だ。そっちでは使わないだろ」


 イェールグート君はマイロードになりたいみたいだ。まあ男性専用だし、いいかな。


「俺たちはそうだな、『聖剣』でいいか?」


 ケインドさんたちは『ケンセイ』の道を選ぶみたい。後衛系が甘いから仕方ないかな。

 ジョブチェンジできないアイテム持っても仕方ないし。


「後衛も育てないとダメですよ?」


「わかってるって」



「じゃあ、残りは『訳あり』で。グレーターデーモン・コバルトの素材は山分けとして」


「俺たちと『高貴』『訳あり』で、1対2対7だ」


「よかろう、これでも貰いすぎかもしれないな」


 ジュエルトリアがケインドさんに同意した。なら、それでいいか。


「爪は大きすぎて、飾りには難しいですね」


 いつものアレだ。氾濫解決記念の首飾り。


「肩飾りなんていいんじゃない?」


「ああ、面白いな」


 ウィスキィさんの提案にジュエルトリアが乗った。


「なんといってもレベル150相当の氾濫鎮圧だ。これは記念しておきたい」


「ボクもだ」


「確かに、俺らも同意するよ」


 てなわけで、ドロップの分配と記念品の製作が決まったみたいだ。



「さあ戻ろう!」


 ズィスラが元気に言った。クランハウスに帰るまでが冒険だからね。


「おう」



 ◇◇◇



 数日後、グレーターデーモンの爪を素材にした肩章を付けた冒険者たちがいた。


「ぐぬぬ」


 テルサーが歯ぎしりしてるけど、『ブラウンシュガー』は参加してなかったんだから、仕方ないじゃない。代わりにヘルハウンドの牙をぶら下げてるんだから、それで納得して。



 さて、超位ジョブチェンジアイテムだけど、そっちは結構あっさり行く先が決まった。

 まず『ブラウンシュガー』は辞退した。戦闘に参加できなかったのに、アイテムを受け取るわけにはいかないと、そう主張したんだ。気持ちはわからないでもない。


「いや、これは『訳あり』全員が対象だ」


 そんな『ブラウンシュガー』の思いを、アンタンジュさんがぶった切った。


「だけど!」


「そうじゃないんだ、シローネ。みんなが役割を果たした。だから、相応しいヤツにアイテムを使ってもらう」


「そうですね。クラン全体の力が『訳あり』には必要です」


 ハーティさんが言いきった。わたしもそう思うし、ここは年長組に任せよう。


「まず『ホワイトテーブル』と『シルバーセクレタリー』は除外してください」


 ハーティさん、さっき言ってたことと違うんじゃないかなあ。でもまあ、意味は分かる。最前線組じゃないからね。


「アタシたちも必要ない」


 ウルマトリィさんたち『セレストファイターズ』も辞退だ。彼女たちはまだまだ、上位ジョブを取る必要がある。


「わたしたちもですね」


 クリュトーマさんもだね。

 これで、対象パーティは4つだ。すなわち『クリムゾンティアーズ』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』そして『ルナティックグリーン』。24名から誰を選ぶか。



「アイテムは4つ。『賢者の書』『呪文の王者』『カニングフォーク』『ヴァルキリーアーマー』」


 それぞれ、フルバッファー、ミョウオウ、アーチウィザード、アーマードヴァルキリーへのジョブチェンジアイテムだね。さあ、どうしたもんか。


「フルバッファーとアーチウィザードは決まり。ヘリトゥラとリッタだ」


「チャート……」


「どうしたサワ、『訳あり』最高のエンチャンターとウィザードだぞ。当然だ」


「そりゃそうだけどさあ」


 年少組に異存はないようだし、年長組は面白そうに行く先を見守ってる。

 ほんと、成長ってか、全体を見るようになってるんだね。凄いや。


「うん、それで構わないと思う」


「わかったわ」


「やります」


 リッタとヘリトゥラも同意してくれた。

 なら後はミョウオウとアーマードヴァルキリーだ。



「推薦なんだけど」


 ウィスキィさんが手を挙げた。


「ミョウオウはポロッコでどうかしら」


「いいですね」


 ミョウオウの条件を満たしてるのは、ウチだとポリン、ターン、ポロッコさん、ジャリットってとこだ。『クリムゾンティアーズ』で二人目の超位ジョブ。悪くないね。


「ふむ」


 ターンが頷いてくれた。まあ、これは決まりでいいかな。


「じゃあ、最後にアーマードヴァルキリーですけど、どうしましょう」


「……イーサだ」


 唐突にジェッタさんが発言した。美味しいトコ持ってくよねえ。バランス的には『ブラウンシュガー』に渡してもいいんだけど。


「でも、それじゃ『ブルーオーシャン』ばかり」


「……考えてみろ、この中で一番ヴァルキリーに相応しいのは誰か」


 リッタの反論にもジェッタさんは全く動じなかった。それどころか、誰もが反論できない答えを言ったんだ。


「……『訳あり』で最高の騎士。それがイーサだ」



 ◇◇◇



「おおおあああ!」


 迷宮99層で、『アーマードヴァルキリー』となったイーサさんが、ワイバーンに吶喊した。

 凄まじい速度だ。懐に飛び込んで、敵の足首に剣を突き立てて固定する。


「『イ・タノサーカス』!」


 次の瞬間イーサさんが纏っていた鎧が弾けて、各所から短槍やら鉄杭なんかが意味不明で複雑な軌道で放出された。それがことごとくワイバーンに突き刺さっていく。

 ワイバーンは光になって消えていった。そして、イーサさんの鎧が解放される。バシューンと高温蒸気が放出されたんだ。


「かっけえ」


 うん、まったくもって同意だよ、チャート。

 正直わたしも取りたいジョブだ。格好良すぎる。


「あの、ぱーじ? した部品は毎回拾わなきゃならないんですね」


 ワイバーンをやっつけたイーサさんが、ヴァルキリーアーマーの欠片を拾いながら、鎧を修復する。くっ付けるたびに、ガショーンとかドギューンとか良い音を立てるのが、これまた最高だ。



 うん、わたしも絶対取得してやる。

 年少組が目をキラキラさせているのを横目に、わたしも決意したんだ。


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