第103話 おおっと、テレポーター





「だからぁ、わたしが一番なの!」


「そ、そうなんですか」


「そうなのよ。なのになんでか知らないけど、6人パーティになってるわけ、おかしくない?」


「不思議ですね」


『世の漆黒』のクランハウス完成パーティなんだけど、何故わたしはアリシャーヤとかいうのに絡まれている。

 意味不明なのはこっちだよ。普通、残念なざまぁ敵役とおバカヒロインだと思うでしょ。なんでこんなにフレンドリーなのさ。


「『真実の愛』を見つけた、なんて言うからさ、ほらあれで顔は良いし、性格はちょっとアレだけど正義感強いしさ、守ってくれるかも、なんて思ったワケ」


 こんなのが原因でリッタは婚約破棄されたのか。

 いやでも、以前は知らないけど、今の方がリッタは生き生きしてる気がするし、八方丸く収まったじゃダメかなあ。


「ところでこの子、可愛いわね。セリアンも悪くないわ」


 こないだ悪口言ってたクセに。


「サワ、こいつ結構いい奴だぞ」


「ブラッシングが上手いだけでしょ」


 ぐぎぎぎ。どこから取り出したのか、アリシャーヤがブラシを取り出してターンの髪をすいていた。ついでにタレ耳を撫でている。

 今度わたしもブラシを購入してやる、最高級のだ。金ならある。わたしもターンや柴犬娘たちをブラッシングしてやる。

 いや、猫耳たちもだ。覚悟しておけ。



「それでね、サワさん。これでもわたしはジュエルの力になりたいのよ、力を貸してもらえないかしら」


「お断りです」


「残念だわ」


 リッタの件もある。誰が力なんて貸すもんか。

 ターン、ちょっと残念そうな顔をしないで。



 ◇◇◇



「テレポーターを踏んだ!?」


 その知らせが届いたのは、あれから数日後の真昼間だった。とは言えここは迷宮の9層、昼間かどうかは意味が無い。


「ああ、あいつらシーフもいないのに、確認無しで宝箱開けやがった。何考えてんだ」


 そのパーティが止めろと声を掛けた時には遅かったそうだ。


「場所は?」


「13層だ」



 テレポーター。有名すぎるトラップだ。宝箱の罠、地面トラップなんかがある。地面の方は一定の法則性があるから、むしろショートカットなんかにも使われる。

 問題は宝箱のテレポータートラップだ。転移はランダム。俗にいう『石の中にいる』は『ヴィットヴェーン』の場合はない。ただし転移先はトラップを中心に、プラスマイナス15階層。

 宝箱を開ける時に、判定でテレポーターや石化トラップが出た時は、諦めるパーティすら多いんだ。


 何にしろつまり、彼ら『咲き誇る薔薇』は最悪、28層に飛ばされたことになる。

 適正階層プラス10は普通に死ねる。


「サワ……」


「当然助ける。冒険者は見捨てない!」


 だからそんな心配そうな顔をしないでよ、ターン。あの連中だからって、見捨てるわけないでしょ。


「『ルナティックグリーン』と『ブラウンシュガー』、『クリムゾンティアーズ』は全員31層から35層ですよ」


 ドールアッシャさんが確認の意味を込めて言った。


「ワンニェ、ニャルーヤ。地上に戻って『ホワイトテーブル』に連絡。後はハーティさんの指示に従って」


「分かりました」


「分かったよ」


「ターン、ドールアッシャさん。わたしたちは最速で28層です。そこから虱潰しに上を目指します」



「俺たちはどうしたらいい?」


 知らせてくれたパーティも捜索に参加してくれるみたいだ。ここらへん冒険者の気風が心地いい。


「えっと確か『吹雪』でしたよね。どこまでなら行けます?」


「……15層だな」


「では13層から15層までを探ってください。無理はせずに」


「了解だ」


「では、行動開始です!」



 ◇◇◇



「『ダ=リィハ』『ダ=ルマート』」


 ターンが11層のゲートキーパーを燃やして、凍らせる。ミノタウロスはドールアッシャさんが殴って終わりだ。以前ちょっと手間を掛けていたのは昔の話。


 速攻で15層まで昇降機で降りる。このあたりに居てくれれば楽なんだけど、やっぱりダメか。

 なんとなくだけど、あの連中は運が悪そうな気がする。それでいて『いやあ死ぬところだったよ』って言ってつらっと戻ってくるタイプだ。なんだそれと思われるかもしれないけど、そういうものなんだ。



「『ティル=トウェリア』」


 またもやターンの魔法が炸裂して、22層のゲートキーパーが砕け散った。なんか哀れになってくるよ。骨装備ばっかり増えるし。


 そのまま昇降機で27層を目指す。

 そこから28層を目指すけど、どうしよう。ターンを31層に向かわせるか。それとも一人ずつに分かれて28層を捜索するか。


 なんて考えているうちに27層だ。このまま28層に向かおう、そこまでに結論を出そう。どっちが効率いいかなあ。



「サワ、音だ! 苦戦してるぞ」


「ターン、案内して!」


「おう!」


 27層で苦戦しているパーティなんて中々居ない。ここまで降りてくるのはそれなりに実績があるパーティだし、普通は31層を目指す。てことはだ。



「いた!」


 青いフィールドに覆われて、6人パーティとグレートビートルの群れが戦っていた。

 6人はもう傷だらけだ。明らかに苦戦している。だけどバトルフィールドがわたしたちを通してくれない。


「プリーストさん『ラング=パシャ』を!」


「あ、貴女方は」


 メガネのヒューマンが返す。あの人がプリーストか。


「いいからっ!」


「1回使ったんです。それでレベルが下がっちゃって」


 ちっ。マスターレベルを割り込んじゃったのか、それで『スキルが消えた』んだ。


 後衛は逃げ回るしかないな。前衛を固める。


「前衛の回復を急いで! ウィザードは氷系。敵の動きを鈍らせて!」


「分かったわ!」


 長身エルフがウィザードか。ビートル系は氷は致命傷にならないけど、動きを鈍らせることができる。


「前衛は何人!?」


「4人だっ!」


 ここでやっとジュエルトリアがわたしたちを認識した。

 てか、アリシャーヤまで前衛なのかよ。


「内訳は!?」


「ナイト、ウォリアー2、ファイターだ!」


「ナイトはタンクだ命張れ! ウォリアーは弱った敵の足を狙え。ファイターはトドメ!!」


「了解したよ!」


「とにかくスキルを全部使え。打ち止めになってもいいから。この戦闘さえ終わったら、わたしたちがなんとかする!」


「分かったわよぉ」


 アリシャーヤが大剣を振り回す。あの人、ウォリアーだったんだ。もう一人、赤毛のヒューマンはこん棒だ。

 てことは、6人目、猫耳さんがファイターなんだね。


「猫耳さん、動いて、とにかく動いて」


「うん!」


 とりあえずの指示出しはした。だけど後は彼ら任せにするしかない。瞬間瞬間の動きまでどうこうはできないんだ。


「がんばれ、負けるな!」


 ターンが振り絞るように叫んだ。


「最後の戦いです。頑張ってください!」


 ドールアッシャさんも。


「勝て! ここを勝てば、あんたたちは最強に一歩近づける!!」


「おう! 最強だな!」


「わたしは最強じゃなくていいから、死にたくないよぉ」


 何情けないこと言ってる。いいから死ぬな。

 死んだらぶん殴るからな!



 ◇◇◇



「『フォ=デイアルト』『ラ=オディス』『ラ=オディス』『ラ=オディス』『ラ=オディス』『ラ=オディス』『ラ=オディス』」


 戦闘が終わり、バトルフィールドが解除された瞬間、全体異常回復と完全回復を6回ブチかましてやった。死んでなければ、これで完全復活するはずだ。

 一番心配なのは、敵に吹っ飛ばされたアリシャーヤだ。生きてるか?


「う、ううあ」


 おっけい! 生きてる。生きてれば、それでいい。



「助かったよ」


「いいですよ。冒険者は見捨てない、そうでしょう?」


「ははっ、確かにそうだったね」


「あなた方は『世の漆黒』を助けた。だったらわたしたちは、そちらを助ける。それだけですよ」


「それでもだ。ありがとう」


 そう言うジュエルトリアを先頭に、全員が頭を下げてきた。

 この人たちがこう殊勝だと、調子が狂うよ。まったくもう。



「今日は疲れたでしょう。わたしたちが護衛をしますから、地上に戻りますよ」


「ああ、申し訳ないが、頼むよ」


「ターンがいるぞ」


「ははっ、そうなんだろうね」


 わたしとドールアッシャさんが先頭、一番後ろからターンが続けば護衛は万全だ。


「あっ」


「どうしたんだい?」


「22層の鍵持っています?」


「ははは。持っているわけ、ないじゃないか」


 歩きかよ。しかも11層の鍵も持っていないみたいだ。

 まあ、仕方ない。ゆっくり帰るか。ああ、せっかくだし。


「パーティを3分割してください。どうせならレベルを上げながら帰りましょう」



 少しは楽をしたいからね。


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