第104話 分かったよ、強くすればいいんでしょう





「あたいはパーセット、ウォリアーだ」


 赤髪の人が自己紹介した。


「わたしはキリスタ、プリーストです」


 ほぼ黒髪のメガネさん。


「ぼくはリーン、ファイターだよ」


 茶髪の猫耳ファイターさん。


「わたしはレングシャー、ウィザードよ」


 金髪エルフさん。


 彼女らの他にピンクブロンドのヒロイン、アリシャーヤがウォリアーで、そしてナイトのジュエルトリアを合わせて6人パーティ。それが『咲き誇る薔薇』だ。

 いや、見事なまでのハーレムパーティだね。



 ここは24層。今わたしたちはパーティを3分割して、適当に戦いながら地上を目指している。

 組み合わせとしては、わたしとジュエルトリア、レングシャー、ターンとアリシャーヤ、キリスタ、最後にドールアッシャさんとパーセット、リーンだ。

 それなりに理由はあるけど、まあそれはどうでもいい。


「いやあ、これでレベル15だよ。流石に下層は凄いね」


 ジュエルトリアはわたしの二つ上で17歳らしい。去年ヴィットヴェーンに来て、レベル10まで持っていったそうな。なんとメンターはザゴッグだ。

 こちらとしては、ドールアッシャさんがレベル17になったくらいで、全然うま味が無い。


「あ、またレベルが上がったわ、13よマスターレベルよ!」


「ふむっ」


 ターン組が戦闘終了して、アリシャーヤのレベルが上がったみたいだ。

 あんな酷い目にあってもレベルアップは嬉しいか。共感はできる。地上に戻ったら冒険者辞めるとか言い出しそうな気もするけど、どうなんだろう。


「地上に戻る頃には、全員マスターレベル冒険者ですよ」


「何度でも言うが、感謝しているよ」


「別にもういいですよ」


「それでだね」


「ん? 『ホワイトテーブル』が来ましたね。これで万全です」



 18層まで来たところで『ホワイトテーブル』と『吹雪』が合流してくれた。『ホワイトテーブル』が引っ張ったんだろうけど、『吹雪』も無茶をする。


「いやあ、あんなの目の前で見せられて、そのまま終わったら寝覚めが悪いじゃねえか」


 見晒せジュエルトリア。これが冒険者の心意気ってやつだ。


「君たちが通報してくれたんだね。ありがとう。感謝しているよ」


「お、おう。まあなんだ、無事でよかった。それと宝箱を開けたくなる気持ちは分かるが、ちゃんとしろよ」


「ああ、肝に銘じよう。そこでだ」


 そう言えばさっき、何か言いかけていたっけ。


「好敵手に恥を忍んで頼む。俺たちを強くしてくれないだろうか」


「はいっ?」


 そう来たかあ。



 ◇◇◇



 地上に戻った時には、大騒ぎになっていた。話を聞いた『世の漆黒』を初め、ヴィットヴェーン中の冒険者が迷宮に突っ込もうとしていたんだ。ホント、良い奴らだよ。


「そんなことになっていたのかい」


「無様だわ!」


「無事でよかった」


 31層から戻ってきた『クリムゾンティアーズ』『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』も顛末を聞いて呆れ、怒り、無事を祝福した。

 主に怒っていたのは、もちろんリッタだ。



「それでええっと、本気ですか?」


「ああ、本気だとも」


 レベルアップ教導の件について、ジュエルトリアに再確認してみた。気持ちは変わらないみたい。


「ハーティさんはどう思いますか?」


「正式な依頼として報酬が貰えるなら、断る理由は私たちの心だけですね」


「うーん」


「わたくしは嫌よ。だけど見えない所でやるなら、文句は付けないわ」


 なんだかんだ、リッタは優しいよね。なんで婚約破棄なんてしたんだか。



「『訳あり』の教導は高いですよ? 支払えるのですか?」


 ハーティさんが再確認する。あれ? ジュエルトリアって金持ちのボンボンじゃなかったっけ。


「それがね、そろそろ資金が尽きかけているんだよ」


 なんでさ。


「言い難いのだが、このままだとロイヤルスイートに泊まれなくなりそうなんだ」


「なんでロイヤルスイートなんだよ!」


 思わずツッコんじゃったじゃないか!


「彼女たちが可哀そうじゃないか」


 貴様ぁ。おい、そこでバツが悪そうな顔をしている女性陣、思う所はどうなんだ?


「い、一般の部屋でも、構わないわ」


「アリシャーヤ……。君はなんて健気なんだ」


 おい止めろ。リッタがブチ切れているぞ。わたしもそろそろヤバいくらいだ。そこは馬小屋くらい言ってみせろよ。

 てか、冒険者辞めるって言わないんだね。金の切れ目がなんとやらだと思ってた。



「えっと、それじゃあですね、3日後に冒険者協会で初心者講習やりますので、まずはそれに参加して基礎知識を身に付けてください」


「なるほど、初心に帰れということだね。分かったよ」


 どこまでポジティブなんだこいつ。



 ◇◇◇



「というわけで、ソルジャー、メイジ、シーフは必須です。できればウォリアーも」


 わたしは今、冒険者協会で基礎講座を開いている。

 対象は村から出てきたばかりの新人冒険者、一般市民、育成施設の13歳以上だ。基本は無料。

 今回は課長権限で『咲き誇る薔薇』もブチ込んだ。


「後はそうですね、カラテカも取っておきたいジョブです」


 いやあ、久々に教導課長やってるよ、わたし。


「そうして基礎を身に付ければ、冒険者以外の職業は問題ないでしょう。そこから冒険者を目指すなら、プリースト、エンチャンター、ウィザード、この3つの内、2つは取っておくのが良いと思います」


「サワ嬢、いや、サワ教導課長。それはどういう意味なのかな」


 ご丁寧にジュエルトリアが手を挙げて質問してきた。いいじゃない。


「『咲き誇る薔薇』の方々は先日を思い出してください。あの時シーフがいれば、そもそも事件にすらなりませんでした」


 テレポーター騒動の顛末は、反面教師としてヴィットヴェーンに広く知られている。それでもこの場で堂々としているジュエルトリアは、ある意味大物だ。



「そしてわたしが提唱する『新しい冒険者』とは、前衛ができる後衛であり、後衛ができる前衛です。それが成立すれば、迷宮探索が飛躍的に安定します。安全に、長時間の探索が可能になるんです」


 育成施設組はもう、それが前提条件だと思っている。

 微妙な顔をしているのは、地方から出てきた新人たちだ。たぶん冒険者の英雄譚みたいのを聞かされてきたんだろう。だから、強いジョブについて、ひたすらレベルを上げる。それに拘りたがっているんだ。


「なるほど。先日俺たちが苦戦したのも、各人が一つの役割しか担当できなかったからだね」


 いや、そもそものレベルが低かっただけだよ。

 まあいい。使わせてもらおう。


「その面はあったと思います。想像してみてください。一つの、6人のパーティなのに、全員がシーフをできて前衛ができる。さらにウィザードが4人、エンチャンターが2人、プリーストが3人だったとしたら。繰り返しますけど、6人が、ですよ」


「素晴らしい戦力になるね。それがサワ嬢の言う最強のパーティということか」


 この人、通販番組の合いの手か何かか?


「まあそうですね。『訳あり令嬢たちの集い』では10ジョブも珍しくありません。もちろんコンプリートしていますよ」


 講義室が騒めいた。そりゃそうか。



「だが短期間でそれだけのレベリングは難しいのでは?」


 ほんとジュエルトリアのツッコミは便利だ。これってもしかして才能なのかも。


「冒険者協会推奨のレベリング手法は無料で公開されています。最初のマスターレベルまでは、これも無料でメンターを付けることができますよ」


「だが、それ以降は有料なんだね」


「互助会やクランもあります。そこに入れば、宿舎付きで生活できますね」


「だが、最強を目指すならば」


「ええ。それなりの覚悟をしてもらう必要があります。金銭にしても過酷な迷宮探索もです」



 ◇◇◇



「俺たちは正式にレベルアップをお願いするよ」


「予算はあるのですか?」


 ハーティさんが冷徹にツッコむ。


「ああ、フォウライトの部屋は変えた。当初の資金はある。後は迷宮素材と相殺でどうだろう」


「断る理由はありませんね。後はサワさんの判断に任せます」


「まあ、仕方ありませんね。教導はわたしとターン、それとえっと、フェンサーさんでやりましょう。ワンニェとニャルーヤはリッタに預けます」


「仕方ないわね。あと、そこのジュエルトリア。わたくしに近づかないで」


「ああ、それは分かっているよ」


「ならいいわ!」



 そんな感じで、わたしたちは『咲き誇る薔薇』のレベリングをやることになったんだ。


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