第105話 最強の冒険者





「ねえ、あれを倒すの?」


「当たり前でしょう。鍵を持っていないと始まらないですよ」


「頼むぞ、レングシャー」


「分かったわよ」


 エルフでウィザードのレングシャーがぼやく。いいから魔法だ。

 あと、このパーティにさん付けは無しだ。レングシャーは知らないけれど、残り全員わたしと同世代だからね。


「『ティル=トウェリア』。わたしこれ、3回しか使えないんだけど」


「十分ですよ」


 生き残ったミノタウロスを、サクっと倒して鍵を手に入れた。

 こんな所でもたもたしている理由が無い。



「来ましたね」


「皆が無事で良かったよ」


「当たり前じゃないですか」


 15層で待っていると、ターン、アリシャーヤ、キリスタ組と、フェンサーさん、パーセット、リーン組も降りてきた。

 3人パーティそれぞれに魔法火力が欲しかったので、ドールアッシャさんと交代でフェンサーさんにご登場願ったわけだ。それぞれの3人パーティが魔法火力とヒールができて、物理アタッカーも揃っている。


 この段階で『咲き誇る薔薇』のレベルはと言えば、ジュエルトリア、ナイトのレベル17。レングシャーはウィザードでレベル15。アリシャーヤとパーセットがウォリアーでレベル16、リーンはファイターのレベル15、キリスタがプリーストのレベル14だ。



「じゃあ次、22層行きますよ」


『咲き誇る薔薇』のメンバーにはトラウマを抉るような行動だけど、そんなことは構ってられない。ちゃっちゃと行くよ。


「『八艘』からの『大切断』!」


 22層のゲートキーパーは、わたし一人で斬ってやった。ケンゴー以降はね、全体攻撃系斬撃スキルを持っているんだよ。簡単に言えば、近接範囲攻撃魔法を持っているようなもんだ。凄いでしょ。


「さあ、行きますよ」


「あ、ああ」


 呆れ果てているジュエルトリアとレングシャーを引き連れて、昇降機に乗り込む。目指すは27層だ。

 10分もしないうちにターン組とフェンサー組も降りてきた。彼女たちにとって22層ゲートキーパーは単独で打倒できる敵に成り下がっているんだよ。



「な、なあ、何処まで行くんだい?」


「言ってませんでしたっけ、31層です」


「31!?」


「丁度いい狩り場なんです。会長たちのレベリングでも使いましたよ」


「そう、なのか。いやまあ、任せた身だ。全てを委ねるよ」


 何か嫌な表現だなあ。



 その日の夕方『咲き誇る薔薇』は全員がジョブをコンプリートした。



 ◇◇◇



「そちらのお嬢さんは」


「シュエルカ……」


「そ、そうか」


「シュエルカは昨日のフェンサーさんと交代です。言っておきますけど、新世代という意味で、理想的な冒険者です。特にレングシャーとキリスタは彼女からよく学んでください」


「よろしく……」


 実際シュエルカはプリースト、エンチャンター、ハイウィザードを習得してから、前衛ジョブを身に付けている。なまじっか最初に才能があって、ソルジャーとメイジは持っていないけど、そんなのいつでも取れる。

 大切なのは、一人でなんでもできる見事なマルチロールっぷりなんだ。



「ところでジョブチェンジはしてきましたよね?」


「あ、ああ。前衛がソルジャー、後衛はメイジだ」


「どうせ両方取るので、前衛後衛はどうでもいいです。レベルアップしやすいジョブなので、1泊2日で一気にコンプリートしますよ」


「わ、分かったよ」



「『ティル=トウェリア』。くくくっ」


 シュエルカが22層のゲートキーパーを燃やし尽くした。と言うか、そういうキャラだっけ。ジャリットとの棲み分け?


 現在『咲き誇る薔薇』の面々はレベル8だ。本当ならカエル狩りやって、9層で魔法狩りしてから21層でマスターレベルまで持っていくところなんだけど、なんとなく面倒だし、イケそうだからこうしてみた。

 プレイヤースキルは、各自の努力次第だね。


 それにしても、1人の実力者に2人ぶら下げるレベリングは悪くない。いざヤバい敵が出たら、パーティを組みなおせばいいんだ。

 コレ、6チームでやったら、かなり効率良さそうな気がする。今度みんなに提案してみよう。


 その日の夕方、31層で戦闘を30回くらいやったら『咲き誇る薔薇』のメンバーは大体レベル18になった。明日の午前中にはコンプリートできそうだね。



「なあ、サワ嬢」


「なんですか?」


 陣地でチャコールウッドの木炭に火を付けて、今は夜営の直前だ。夜番はもちろんわたしとターン。VITの高さはこんなシチュエーションでも活きてくる。


「君にとって、最強の冒険者っていうのは、どんな存在なのかな」


「それは目指すということですか?」


「目指せるかどうかも含めて、それを聞きたいと思ったんだよ。それとも秘密かい?」


「……別に構いませんよ」


 気付けばわたしとジュエルトリア以外の7人も、聞き耳を立てていた。


「良いですよ、全員聞いてくださっても」


「ターンも知りたいぞ」


「わたしも……」


 ターンとシュエルカも気になるみたいだ。だったら、全員に聞こえるように話そう。


「そうですねえ」



 ◇◇◇



「『ルールブック』の話は知っていますか?」


「ああ、概ねは」


「わたしの基本はあそこにあります。つまり、ジョブの数とレベルですね」


「それは、今まさにやっていることだね」


「そうですね。だけど実際に冒険者をやってみて、それだけじゃないって分かったんです」


「教えてもらえるのかな」


 ジュエルトリアが探るように聞いてくる。いいよ、別に隠すことでもないし。


「他にも装備の強さ。パーティメンバー、クランの支援、ああ、実戦経験の密度なんかもそうですね」


「確かにそうだね。だけど君の言いたいことは、違うんだろう。そんな気がする」


「違うというか、他の強さです」


「是非聞かせてもらいたいね」


 楽しそうなジュエルトリアに、ちょっとイラっとする。まあいいか。


「在り来たりですけどね。折れない心、諦めない心、そして冒険者の矜持なんじゃないかなって、そう思っています」


 本当はちょっと違うけどね。私が言いたいのは、例えば100層を当たり前のように周回して、それを当然って思える心だ。

 それを素直に言ったら狂人扱いになりそうだから、ここでは黙った。



「わたしが、皆さんの依頼を受けたのは、それがあったからです。『咲き誇る薔薇』は冒険者の魂を持っていたからなんです」


「光栄だね。じゃあ俺たちは最強になれるのかな?」


「最強の一角にはなれるでしょうね。だけど、そうですね。『ブラウンシュガー』や、ズィスラ、ヘリトゥラには勝てません。あの子たちは、わたしとターンすら置いていく可能性がありますから」


「サワ……」


 シュエルカがすっごい微妙な顔をしている。だけど本当のことなんだよ。



「わたしとターンが冒険者を始めた頃は、ここ、31層で狩りをするなんて考えられませんでした。3日も経てば、ジョブをコンプリートして次のジョブなんてあり得ませんでした」


 いつしか辺りは神妙にわたしの話を聞き入っていた。


「わたしとターン、『クリムゾンティアーズ』なんかは、その狭間の世代です。道を切り拓いたと言えば聞こえはいいでしょうけど、中途半端なんですよね」


「サワ嬢……」


「あはっ、勘違いしないでください。わたしとターンは最強であり続けますよ。手段はまだ秘密ですけどね」



 ◇◇◇



 それからも『咲き誇る薔薇』のレベリングは続いた。彼らも思うところがあったんだろう。プレイヤースキルを磨いていく。

 ソルジャーとメイジを卒業して、今はカラテカとシーフに分かれて研鑽を積んでいる途中だ。


 そんな時、ちょっとした事件が起きた。わたしたちには正直関係ない。だけど『咲き誇る薔薇』には一大事だった。



「坊ちゃん、伯爵様からの書状だ」


「今更かい」


 それを持ってきたのは『鉄柱』のリーダー、ザゴッグだった、


「俺もそう思う。だけど、これも仕事なんだ。悪く思わないでくれ」


「どれ、見せてもらおうか」


 ジュエルトリアは乱暴に封を切り、書状を読んで、そして鼻を鳴らした。


「どうも父上は、俺たちと『訳あり令嬢たちの集い』がつるんでいるのが、お気に召さないようだ。領地への召喚命令だよ。廃嫡して他人になったはずなのに、随分と容赦の無いことだ」


「それって」


「どれ、返信をしたためようかな。直接出向いて、俺たちがどうしたいのか思い知らせてやるさ。悪いけれど、サワ男爵閣下も一筆加えてくれるかい?」


「まったくもう、伯爵閣下は困ったお方ですね」



 ふざけんなよ。『咲き誇る薔薇』のレベルアップは、わたしたちが請け負った仕事だ。こんな中途半端で終わらせる訳がないじゃないか。


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