第106話 ジョブチェンジ祭りだ





「ジュエルトリアさん。わたしたちとの契約内容を話してあげてください」


「……ザゴッグ」


「へい」


「俺と『咲き誇る薔薇』は『訳あり令嬢たちの集い』に現在、教導を願い、その途上なのは知っているね」


「もちろんでさあ。だからこそ」


「今、契約を破棄すると、膨大な違約金が発生するんだよ」


 そんなものはない。


「では、一時中断では」


「その場合は、多大な延滞料金を取られることになる」


「なんともあくどい契約ですな」


 もちろんそんな契約はしていない。


「サワノサキ閣下、契約満了まではどれくらいで?」


「そうですね、10日では足りないでしょう。20日でギリギリと言ったところです」


 ザゴッグが訝しげに聞いてきたので、そう返事をしてやった。これでいいんでしょう?


「仕方ありませんな。伯爵様には返信と一緒に、俺からそう伝えます」


「悪いね、ザゴッグ。20日後にはきちんと伯爵領に出頭するよ」


「……強くなってくださいよ?」


「ああ、当然さ」


 サシュテューン伯爵にとって、わたしの心証はどうなってしまうんだろう。

 まあいいや、脅し文句を考えよう。



「では皆さんには、サシュテューン伯爵領最強の冒険者パーティになってもらいますね」


「望むところさ」


「はぁ」


 そこのヒロイン、ため息を吐かない。


 サシュテューン伯爵には脅しとも要望とも、どちらも含めた書状を送った。


 本件はジュエルトリアとの個人間で取り交わされた契約であり、領主がそれに対し横から入るのは筋違いである。また、わたしは男爵なのだから、それは猶更だ。

 ついでに、もし契約破棄もしくは期間延長などがあれば、それなりの違約金をジュエルトリア個人に支払わせることになる。具体的には『咲き誇る薔薇』を拘束し、冒険者らしく素材回収をさせた上、返済に充てるモノとする。


 そんな感じの内容を、貴族ったらしい文面で綴ったんだ。監修はリッタとハーティさんだから、まあ大丈夫だろう。

 さてさて、教導に戻ろうじゃないか。



 ◇◇◇



「よ、よろしく頼みます。男爵って呼ばなくて良いんですよね?」


「ええ、もちろんです」


 わたしが思いついた6チーム分割式レベルアップ実験に誘ったのは、『村の為に』の面々だ。一応、わたしとターン、チャートとシローネが立て替えって形にしてる。出世払いで良いからね。

 先日の暴漢騒動もあるし、ここで鍛え直して帰ってもらおう。


 教官役はわたしとターン、チャートとシローネ、ジャリットとテルサーだ。リィスタとシュエルカはごめんね。



 わたし、ジャリット、テルサーがいつもの通り『咲き誇る薔薇』を受け持ち、残り3人が『村の為に』担当だ。なんでターンがそっち組なのかは理由がある。


『村の為に』の人たちはわたしの方針を踏襲しているけど、レベリングは序盤で手放した。稼がなきゃって意思があったからね。

 なのでメイジやソルジャーを経由しているけど、前衛後衛が固定されている。今回はそれを壊すって寸法だ。


 今の構成は、ファイター、ウォリアー、シーフ、ウィザード、プリースト2って感じだ。それでも4人がメイジを経由しているので、それなりの魔法火力は備わっている。以前の層転移騒動でそれなりにレベルも上がっているし、プリースト二人はコンプ目前らしい。

 とりあえず、全員コンプリートしちゃる。


「じゃあみんなで行きますよ」


「ういっす」


 なんだその掛け声。



 3時間後『村の為に』の内、プリースト二人がコンプリートした。まだ22層だ。ちょっと寄り道してからゲートキーパーを倒して、無理やりレベルを上げたんだ。

 ターンをこの二人に付けたのはそういうことだ。ダッシュで地上に戻りジョブチェンジをしてもらう。無敵の護衛としてターンを選抜した。


 わたしたちは昇降機を降りて27層だ。ここでターンたちの帰りを待つ。

 3時間ほどちょろちょろ狩っていたら、ターンたちが戻ってきた。ソルジャーになったそうな。息が荒いよ、整えて。ずっと走ってきたのかな。


「じゃあ、本格的に31層ですね」


「おっす!」


 だから誰が考えたんだ、それ。



 そのまま1泊2日を経て、『訳あり』以外の全員がコンプリートレベルを達成した。



 ◇◇◇



 10日後、レベリング会場は35層になっていた。いつの間にかこうなっちゃったんだよ。

 期限付きの20日の間でどれだけジョブを習得できるか、それを模索していたらどんどん深層に到達しちゃったってわけだ。


 ここまで毎日潜れば、流石の随伴メンバーもレベルが上がる。

 チャート以外の『ブラウンシュガー』が全員がジョブチェンジした。チャート自身もハイニンジャのレベル32だ。わたしはヒキタのレベル39で、ターンに至ってはイガニンジャのレベル51だ。


『咲き誇る薔薇』は7ジョブ、『村の為に』は6ジョブ目をレベリング中だ。


「はぁ、なんでこんなことになったのかなぁ」


「いいじゃないですか、強く成れたんですし」


 ため息交じりに言うアリシャーヤは、ウォリアー、ソルジャー、メイジ、シーフ、カラテカ、エンチャンター、プリーストってな感じだ。はっきり言って、十分強い。流石はヒロインだね。


「そのヒロインって言うの止めて。わたしは穏便で贅沢に生きたいのよ」


 知りません。



 そして3日後、その時がやってきた。どの時って?

 シローネがハイウィザードをコンプリートしたんだ。つまり彼女は以前の予告通り、ケンゴーになる。


 その日ばかりは『訳あり』と『村の為に』、あとは『緑の二人』を呼んで祝賀会だ。

 大事に飾っておいたカタナは砕けちゃったけど、それがシローネの血肉になるはずだ。


「はっきり言って、わたしがケンゴーになった時よりずっと強いよ」


「そうかな?」


 嬉しそうな、申し訳なさそうな微妙な表情でシローネが聞き返してくる。だけどねえ、ホントなんだよ。

 だってシローネ、12ジョブ目だよ。わたしにできて彼女にできないことなんて、エンチャンターくらいだ。


「だから誇って。シローネはヴィットヴェーン最強の一人だよ」


「おう!」


「あとね、わたしとターンも考えてることがあるから、早々最強の座は譲らないからね」


「……おうっ!!」


 今度こそ、本当に嬉しそうに笑ってくれた。良かった。



 そしてもう一人、偶然だけどイーサさんがレベル40、つまりジョブチェンジ条件を満たしたんだ。

 彼女が取得するのは、ナイト系3次上位ジョブ『ホーリーナイト』だ。ヴィットヴェーンに新たなジョブ持ちが誕生した。


「おめでとう、イーサ!」


「リッタ様、ありがとうございます」


 リッタがイーサを祝福している。美しい主従関係よ。

『咲き誇る薔薇』を呼ばなかった理由がリッタなんだけどね。彼女は今、プリーストのレベル36。『大魔導師の杖』を探して迷宮を彷徨っている。


「最高のウィザードと最高のナイトの組み合わせ、胸が高鳴るね」


「そうね! わたくしはやるわ!」


「ターンとサワも負けないぞ」


「いえ、わたしはターンさんに敵いませんよ」


「むふん!」


 ターンとイーサさんのやり取りに心が和むね。


 わたしたちみたいな超スピードレベリングじゃないにしても、他のメンバーも続々とレベルを上げて、ジョブを取得していってる。現状、間違いなく『訳あり令嬢たちの集い』はヴィットヴェーン最強クランだろう。大手クランに比べれば、メンバー数はまだちょっと少ないけどね。



 ◇◇◇



「今日までありがとう」


「いえいえ、契約ですので」


「ははっ、そうだったね」


 そしてついにレベリングが終わった。


『咲き誇る薔薇』は、各人が9ジョブを取得している。『村の為に』は8ジョブだ。

 これからは、ジョブチェンジを繰り返すか、それとも今のレベルを上げまくるか、各々の判断に任せている。そこまでは面倒見きれないからね。


 ちなみにジュエルトリアのジョブ遍歴は、ナイト、ソルジャー、メイジ、シーフ、カラテカ、プリースト、ウィザード、ハイウィザード、今はウォリアーだ。

 見事、後衛が出来る前衛の出来上がりだ。逆もまたしかり。



「では、最後に訓示して、今回の契約を終了しましょう」


 最後に、訪れるであろう未来を語ろう。


「近い将来、わたしたちは50層、60層に到達するでしょう。そのためにはレベル50が必要になります。ですが、それは途中経過に過ぎません」


 そう、まだ山の中腹なんだ。


「レベル50が当たり前になった時、そこからのジョブチェンジが見込まれます。コンプリートレベルからの変更じゃなく、更にその上からのジョブチェンジです」


『訳あり令嬢たちの集い』『咲き誇る薔薇』『村の為に』、ついでに『世の漆黒』が真剣に聞いている。


「上位ジョブには3次より上があります」


「なんだってぇ!?」


 ベルベスタさんだ。目からビームが出るくらいギラギラしてる。


「上位ジョブのさらに先、『超位ジョブ』はアイテムと高いステータス、レベルが必要になります。その時のために鍛えてください。覚悟もしておいてください」


 ここらでちょっとエサを出してもいいかな。


「ナイトの超位ジョブは『ラウンドナイト』。ウィザードの3次ジョブは『ロウヒ』『ラドカーン』とあと一つ。超位ジョブは『アーチウィザード』です。さあ、みなさんは何処まで行けますか?」



 わたし? わたしは何処までも行くよ!


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