第218話 架空の武術





「きゅ、キューン! どうしたのソレ!?」


「わかんない」


 ある日、キューンのキツネシッポが2本になっていた。


「あ、それと、LEAが17になった」


「オオゴトじゃない!」



「いいなあ」


 ポリンがそうこぼした。

 気持ちはわかるよ。もし九尾になったら、LEAが24とかになるんだろうか。


「まあまあ、ポリンだってそのうちシッポ増えるかもだし」


 もしくは巨大化か。

 さて、現在行われてるのは、キューンのLEA上昇記念お祝いだ。もしくはシッポ2本化記念なのかな。


「凄いわ。凄いですわ!」


 コーラリアのテンションが爆アガりだ。気持ちは分からんでもない。シッポ2本は萌えるよね。


 この2日後、ポリンのシッポが大きくなってLEAが16になった。確率さあ、仕事してよ。偏りすぎぃ!



 ◇◇◇



 てなわけで『ルナティックグリーン』の面々なんだけど、全員がLEA16以上、ってか、ポリンが16で、それ以外のメンバーは17以上になっちゃった。

 それでもターンの19には誰も及ばないけどね。あの子は本当にマジモンの天才なんだよ。


「わたしは『アイネイアールス』のレベル85、です」


 リィスタが自己主張する。先の戦いで『イーリアス』争奪戦はジャンケンの上、彼女に決まったのはご存じの通り。

 今更になってチャートやシローネ、ついでにズィスラやらシュエルカがぐぬぬしてるけど、こればっかりはねえ。


「サワ、明日も潜るぞ!」


 シローネが決然と言い放った。いや、普通に潜る予定だったから。


「そ、そうだね。行こうか」


「おう!」


 で、次の日。112層で『芳蕗の教え』(スクロール)、すなわち『フサフキ』へのジョブチェンジアイテムがドロップした。だから、確率ぅ!

 これにはもめた。うっかりわたしがバラしたから。『フサフキ』はカラテカ系超位ジョブだけど、そのスキルの中に、ヤバいのが含まれてるんだ。それこそ『てんいむい』。ある一定条件下で単体の敵を確殺するっていう恐ろしいヤツだ。まあ、条件を満たすのが大変なんだけど。



「今回はスゴロクで決めたいと思います!」


「おおう!」


 これに名乗りを上げたのは『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』だ。ただしわたしとリィスタは除く。それプラス、ドールアッシャさんも参加だね。目が血走ってるよ。

 それ以外のパーティは『クリムゾンティアーズ』は若手に譲る。『ホワイトテーブル』と『シルバーセクレタリー』は言わずもがな。『ライブヴァーミリオン』と『セレストファイターズ』はまだまだ上位ジョブで十分ってことで辞退。てな感じ。


 以前こそカラテカ系ジョブは不人気だったけど、近接時の対応って意味では強ジョブなんだよね。特にドールアッシャさんを始め、一部層では大人気なんだ。ニンジャ系ジョブと相性いいし。


「でもこれってもう、スゴロクじゃないよね?」


「そうなの?」


 リッタが真剣な顔でプレイしてるのは、戦術RPGシミュレーションみたいなスゴロクだ。いつの間にこうなった。

 なんでスゴロクなのに、一人10個のコマを持って、防御力やら移動速度なんかが設定されてるんだ。サイコロの意味が戦闘判定のダイスロールになってるじゃん。



「わたしの、わたしの勝ちです!」


 雄たけびを上げたのはワンニェだった。2位から逆転を狙ってたドールアッシャさんが膝から崩れ落ちた。そこまでかあ。

 ドールアッシャさんってエンチャンター出身だよね。INT仕事した?


「明日からわたしは、ワンニェ=フサフキです!」


「くっ!」


 ドールアッシャさんがマジで悔しそうだよ。どうやって慰めたもんだか。

 いやさあ、これからアイテム出るから。フサフキになれるから、そこまで落ち込まないでも。


『技としてのフサフキ、心の在り方としてのフサフキ、さて、体現できるかな?』


『スキルには芳蕗改もあるからね』


 メタい謎のアナウンスは止めろい。



 ◇◇◇



「お願いがあります。わたしとサワで組ませてください」


 翌朝に申し出たのはワンニェだった。


「単独でワイバーンを倒す。そのために、最速のレベリングをしたいんです」


「ターン?」


 気圧されたんで、ターンに助けを求めてみた。


「ふむ、やるだけやってみればいい」


 許可下りちゃったよ。


「どうせならリィスタも連れていって。3人でワイバーンをのせばいい」


 シローネまで。


「じゃ、じゃあ『シュレッダーズグレイ』ってことで、ワンニェとリィスタ、わたしでいいかな?」


「やります」


「やる……」


 わたしの提案に、ワンニェとリィスタが力強く頷いた。

 ここに超位ジョブ3人による臨時パーティが結成されたんだ。別に3人じゃなくてもいいんだけど、6人でもさあ。そこんとこ、どうなの?



「結構新鮮でいいね」


「うん……」


「そうですね」


 わたし、リィスタ、ワンニェが迷宮を進む。これまであんまり絡みの無かったメンバーなので、実はちょっと楽しいんだ。雑談を繰り返しながら、敵を倒しまくっていく。

 とは言え『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』そして『ブルーオーシャン』の引率付きだ。4パーティ18人って構成だね。


「57まできました」


 元気よくワンニェが報告する。ここは迷宮87層。まあ順調だね。



 ◇◇◇



 ここらでそろそろ『フサフキ』なるジョブを解説しとこう。


 攻略本やWikiでは『でっち上げられた謎の武術』だの『製作者の妄想』なんて言われる武技を使うのが『フサフキ』だ。漢字で表記すれば『芳蕗』だそうな。

 その神髄はカラテカ系ジョブの延長である通り、近接戦闘を旨とする。あえて表現するなら、超近接戦闘だ。


「体中を使った、力を余すとこなく叩きつける。やっと分かってきた気がします」


 ワンニェの談だ。


「一応付け加えるなら、勝てるステータスを最大限に活かすらしいよ」


「はいっ」


「STRで勝てなかったらAGIで、AGIで負けたらDEXで。とにかく相手の短所とこっちの長所を組み合わせたらスキルが効果を発揮するらしいから、そこらへんに気を使ってみて」


「わか、りました」


 ワンニェがわかったんだかわかってないんだかって表情してる。まあ、わたしの言ったことだってフレーバーテキストだしね。



「1体だね。どうしよう?」


「サワ、バフをください。わたしだけでやってみます」


 レベルが74になったワンニェが宣言した。

 相手はレベル100相当のワイバーンが1体。バフればイケるかな。


「『BFS・STR』『BFS・AGI』『BFS・DEX』。どう?」


「きったあぁぁ!」


 ワンニェがシッポを膨らませて、最大限の戦闘態勢に入った。なんかノリがニャルーヤに近くなってるし。


「リィスタ、サワ、悪いけど貰っちゃいます!」


「やっていいよ……」


 リィスタの言う通りだ。さあ『フサフキ』の力、見せてよね。



「なに、あれ」


 後ろからテルサーの声が聞こえる。同意だよ。

 眼前では、血にまみれたワンニェが戦ってるんだけど、経緯が異常だ。


「普通なら、避けますよねぇ」


「そうね」


 ワルシャンの問いにシーシャが被せる。そうだよねえ。


「……スキルを使っていない」


「うん」


 ジャリットの呟きに、シュエルカが頷く。


「やるな」


「ふむ」


「中々だ」


 そして我らが柴耳三人娘が腕を組んで納得してる。なんだこれ。



 それくらいワンニェの戦いは異質だった。

 最初は回避していた。そのうち、敵の攻撃が掠り始めて、こりゃヤバいと感じたんだ。だけど、わたしたちの助けを彼女は拒んだ。


「見えてきました!」


 血を流しながらも、ワンニェが叫んだ。

 そして事実、攻撃が通り始める。


「『フサフキ』。プレイヤースキル補正。マジかよ」


『ヴィットヴェーン』プレイヤーで一時期噂された、隠しパラ。すなわちプレイヤースキル。

 ターン制バトルだから、AGIが上なら先手は取れるし、DEXが高ければクリティカルも出易くなる。だけどそれ以外の隠された数値。在るのか無いのか、それすらわからない。


「相手のダメは通るけど、カウンターが入りやすくなる……」


 それが『フサフキ』を始めとする、前衛系超位ジョブの特徴だ。特に『フサフキ』に顕著なんだ。

 それを目の前で見せつけられてる。ワンニェ凄いよ!



「おおお、あああぁぁ。『芳蕗』『活性化』『一騎当千』『克己』『これまでの修行を忘れるな』あぁぁぁ!」


 ついにワンニェが自己バフを発動した。

 そんな彼女にワイバーンが襲い掛かる。


「『芳蕗改・音形』」


 ワンニェが相手に目もくれず、右拳を地面に振り下ろした。

 ただしその拳には、大地と脚と腰と、彼女の持つ全ての体動が込められていて、それに触れた瞬間に、ワイバーンは宙に吹き飛ばされた。


「『てんいむい』『裡門頂肘』!!」


 深々と踏み込み、ワイバーンに吸い込まれたワンニェの肘が、相手を光粒へと変えた。



 ◇◇◇



「でさあ。なんでここで『芳蕗の教え』が出るわけ?」


「必然」


 ターン……。



 地上に戻ってから、争奪戦が始まったのは言うまでもない。


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