最終章 深層、最強編

第211話 物理無効に物理で挑む





「状況説明を!」


「あ、あの、上層への転移ではありません。そちらについては探索を終えています」


「下層ってことですね。深度は」


「まだ目の前の、新しい62層を抜けていません……」


「つまり想定できない」


「……はい」


 わたしの質問に答えてくれたのは、キールランターに常駐していた『オーファンズ』と『雲の壱』だ。層転移に巻き込まれたのは『天の零』と『夜の弐』らしい。

 さてどれくらいの深さに飛ばされたか。



 連絡を受けてから2日、わたしたち4パーティはキールランターの61層に到着した。


「それで転移してきた階層の主敵は?」


「カエルです。大きくて灰色の」


 そうきたか。

 ラージグレイトードだ、多分。そういやヴィットヴェーンじゃ見てない。

 ジャイアントフロッグより小さいけど、速くて格上の敵だ。

 なにより大きいのは、転移したのは多分80層台ってことだ。


「毒、石化、あとは粘液を使って、拘束してきます!」


 はい、確定。まーたカエルだ。だけど、カエルならお得意の分野だ。

 だけど『オーファンズ』でも対応できなかったかあ。


「わたしたちならいけます」


「っ! 本当ですかい!?」


『雲の壱』のリーダーが目を輝かせる。


「カエル狩りには慣れてますから」


 事実だよ。だからリッタ、微妙に嫌そうな顔しないでよ。


「さあて、どうするみんな」


「行くぞ」


 たった3文字でターンが行く先を示してくれた。なら、やろう。


「申し訳ないですけど、皆さんは待機です。だれかが報告に戻るまでここで。『訳あり』総員……、ぶち抜くよ。吶喊!」


「おう!」


 冒険者は見捨てない。それが誰だってだ。


「『ライブヴァーミリオン』は後ろ。『ブラウンシュガー』は右、『ブルーオーシャン』は左で『ルナティックグリーン』が先頭。いいね!?」


「蹴散らすわ!」


 ズィスラの叫びが戦端を開いた。



 ◇◇◇



「『雲の壱』の前だったから気を使って言わなかったけど、マズくない?」


「そうね」


 わたしの疑問にリッタが頷いた。

 そうなんだ、仮に62層が80層の何処に転移したとして、それでも『万象』が戻ってきてない。わたしたちが報告を受けてから2日。事態発生からなら6日が経ってる。それでも彼らは上層へ戻ってない。


「単独ならまだしも、2パーティなら」


 クリュトーマさんの言う通りだ。ヴィットヴェーンで鍛えたあの人たちなら、交代しながらでも対応できるはずなんだ。なのになぜ?


「ラージグレイトードは80層台のモンスターです。『万象』なら上がってこれなくもない」


「そう、ですね」


 ケータラァさんが不安そうにしてる。

 誰もが思ってるんだろうけど、深層の敵にやられたってことも、十分あり得る。流石にそれは口にしない。


「そんな甘い鍛え方はしてないよね」


「ふむ」


 カエルを蹴散らしながらターンも鼻を鳴らす。似たような見解らしい。


「このカエル以上の強敵が深層に居るってこと?」


「そうなるんだよねえ、ターナ」


 可能性としてはゲートキーパーあたりだろうけど。

 もし、迷宮に意思があるなら、対応できないような深層に、層転移させるのは考えにくいんだよね。


「だけど今は、灰色カエルをなんとかしないと、ねっ!」


「おう!」



 幸い62層にはゲートキーパーが居なかった。カエルまみれだったけど。


「抜けた」


 コーラリアがほっと息を吐いた。


「『ライブヴァーミリオン』には悪いけど、上に戻って報告してください」


「……了解よ」


 クリュトーマさんが本当に悔しそうだ。当たり前だよね。彼女たちの家族の危機なんだ。

 だけど『ライブヴァーミリオン』自身は、自分たちの力を理解してる。この先、イレギュラーがあったら足手まといになりかねない。


「レベリングしながら『オーファンズ』と『雲の壱』を降ろしてください。丁寧に」


「わかっているわ。無理せず、だけどなるべく下で待っているわ」


「はい。70層あたりに陣地があると助かります」


 そうして『ライブヴァーミリオン』は戻っていった。あとはわたしたちに任せて。

 必ず探し出すからさ。



 ◇◇◇



「あー、多分コレが原因だわ」


 78層まで来たわたしたちの目の前にいるのは『フューラック』。大鎌を持ったピエロみたいなモンスターだ。特徴は物理無効と、高い魔法抵抗性。さらには強力なブレスを吐くんだよね。想定レベルは150くらいかな。

 そんなのが79層の階段目の前で、ゲートキーパーよろしく鎮座してた。黒門現象なのかな。


「わたしたちなら勝てるっていうか、退けられるんだけどね」


 そうだよ。『虚空一閃』で終わりだ。

 だけど、それじゃあ味気ない。


「せっかくだし、倒そうか」


「……どうやって?」


「うーん、ジャリットの出番はないかな」


「……そう」


「相手は物理無効。『ブラッドヴァイオレット』を組むよ。リッタ、選んで」


「わたくしが!?」


「魔法戦となったらリッタでしょ」


「……わたしとヘリトゥラ、テルサー、ポリン、そしてターンとサワ」


 なるほど、わたしをタンクにして、ターンはかく乱、あとはエンチャンターと魔法アタッカーか。うん、納得だよ。



「わたしはタンクに集中するから、隊長はリッタ。ターンもいいよね?」


「ふむ、任せる」


「『虚空一閃』を使わないってことは、レベル消費スキルはもちろん禁止。やれるよね?」


「やるわ」


 リッタが元気に返事をしてくれた。

 なんたってこっちはわたし以外は上級ウィザード、上級エンチャンターばっかりだ。なにげにターンもカスバド持ってるしね。


「サワこそお見せなさい。超位ジョブ、『ラウンドナイト』の力を」


 まったくもって持ち上げてくれる。当然やるさぁ。超級ジョブの力、甘く見てもらうわけにはいかないねえ。


「おまかせあれだよ!」



 ◇◇◇



 物理無効は物理透過って意味じゃない。目の前の物体を遠ざけるためには殴るか避けるしかない。


「だけどさ、ラウンドナイトのわたしがそんな面倒なことすると思う? あははっ! 『円卓』『円卓』『円卓』ぅ!」


 巨大な丸いテーブルが一気に3つ出現した。

 これが、ラウンドナイトの盾。自動的に敵の行動を阻害する、たとえ相手が『テレポート』したとしてもそれを追従して足止めを図る絶対の存在だ。


「それでも抜けるかあ。伊達にレベル150台やってないね。あはっ!」


 レベル依存だ。今のわたしはレベル58。世知辛いねえ。



 だけどわたしは全く心配してない。相棒がやってくれるから。


「『フーマニンポー:木の葉隠れ』」


 そう、タンクは私だけじゃない。ターンがいてくれる。

 パーティが一気に木の葉にまみれて、その姿を不明にしてくれた。


「うおうらぁぁ!」


 ターンがパーティ全体を隠した上で、わたしが斬り掛かる。ああ、物理無効だ。知ってるって。だけど力を受け流せるわけじゃない。

 吹き飛ばされた『フューラック』は、確かに無傷だ。だけどこっちも負けてない。


「『BFS・INT』『BFWS・MAG』」


「『BFS・INT』『BFS・INT』」


 ヘリトゥラとポリンがバフっていく。


『グバアアア!』


 炎のブレスが吹き荒れる。だけどそれは『円卓』が受け止めた。ついでにわたしにまでダメージが通る。強い。


「くっ!」


 3つとも砕け散っちゃった。レベルとSTR依存だからねえ。


「『BFS・STR』『BFS・AGI』」


 テルサーからのバフがきた。さあ、もう一丁!


「『円卓』『円卓』『円卓』『円卓』『円卓』『円卓』」


 今度は6個だ。これでスキルは打ち止め。

 思念操作で、2枚をわたし、のこり1枚ずつを他のメンバーに振る。ターンには要らないよね。むしろ邪魔になりそうな気がするくらいだ。



「『ハイニンポー:超センス』『乾坤一擲』『活性化』『イガニンポー:影縛り』」


 自己バフをマシマシに乗せたターンの拘束スキルが放たれた。物理無効は行動阻害無効を意味しない。HPが減らないってだけだ。

 そしてレベル120を超えたフーマたるターンのニンポーは、相手がレベル150相当であろうとも通じるんだよ、これが。


「『秘宝サンポ』!」


 テルサーの声が迷宮に響いた。敵は1体。無数のナイフが『フューラック』を襲う。


「もう防御は要らないかな。行け、円卓!」


 6個の円卓が『フューラック』を囲むように配置された。


「こっからは、魔法戦。『マル=ティル=トウェリア』!」


「『マル=ティル=トウェリア』!」


 全員が一斉に魔法を叩き込む。

 そしてトドメは当然、リッタだ。


「『月と暁の星』!」



 存分にINTを乗せた流星が降り注いだ。


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