第229話 オールラウンダー
「ふはははは! これだよ、これえ」
わたしたちは今、150層でグレーターデーモンに襲われてるわけだけども、最高だっ!
「いーい? 回復スキルが尽きるまで、とことんだからね!」
「わかってるけど、『狂気の沙汰』ね!」
「なに言ってんのズィスラ、それがわたしたちでしょ。ポリン、期待してるよ」
「うん。回復は任せて」
150層に到達したのは『訳あり』が誇る、最前線4パーティだ。
今は分散して、それぞれ狩りをしてる。グレーターデーモンも引き当てた者の勝ち、みたいなノリで探索を続けてるってわけだ。
「アークエンジェルだっけ? 結構苦戦したよ」
「ふむ、フィーンドとかいうのも強かった」
戦いを終えたところで、アンタンジュさんとシローネがそれぞれ報告してくれた。
わたしたちは回復魔法を使い切ったので、最低3時間はお休みしてから退散かな。
「こっちは『イーリアス』が出ましたわ!」
フェンサーさんが嬉しそうな大声を出した。
「むふん、こっちも『イーリアス』だ」
切り返すのはターンだ。限界までグレーターデーモン狩ったからねえ。武器や防具やらもザクザクだよ。『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』が悔しそうだけど、こればっかりは運だからさ。
「んじゃ、休憩してから戻りますか」
◇◇◇
「乾杯!」
というわけで宴会だ。もちろんわたし及び年少組はミルクだね。リッタなんかは普通にワインを飲んでるよ。
「さて、まずはあたしだ。アイネイアールスだよ!」
アンタンジュさんが高らかに宣言した。『クリムゾンティアーズ』4人目の超位ジョブ持ちはアンタンジュさんになった。
「わたしもよ!」
ズィスラも続く。『ルナティックグリーン』5人目の超位ジョブだ。これであとはキューンだけだね。だけど今回は続きがある。
「よかったんですか」
「当然じゃない。レベル167でしょ? 十分だよ」
ヘリトゥラがおどおどしてる。
そう、レッドワイバーンを初回討伐した時に出た『賢者の書+1』。それを使ったんだ。対象者がヘリトゥラだけだったってわけだね。温存しても仕方ないし、どんどん消費するよ。
「わ、わたしは『フルバッファー+1』です」
「皆さん盛大に拍手を、ヴィットヴェーン初の超位2次ジョブの誕生ですから!」
「おおう!」
まさか初の2次ジョブがヘリトゥラなんて、1年前には想像もつかなかったよ。
こう考えると、みんな強くなったよねえ。カエル相手に必死になって、マスターレベルまで2日も3日もかけてたのも、今は昔だ。
「わたしもそろそろ二つ目の超位ジョブ欲しいなあ」
「贅沢よ、サワ」
リッタが窘めてくるけどさ、近接以外の前衛系は全部修めちゃったし、今なんてロウヒ、カスバドって繋いでるんだ。しかもレベルは174。そうそう上がらなくなっちゃったんだよね。んで、今日ズィスラ、ヘリトゥラと一緒にフェイフォンにジョブチェンジしたところだ。
『ルナティックグリーン』の3人がレベル0になっちゃったけど、まあ、55層と88層で粘れば、1週間以内にはまた150層だ。
「サワはなんだかんだで、全ジョブ網羅しそうだねぇ」
「冗談キツイですよ」
ベルベスタさんはそう言うけど、それはさすがにちょっと。
いや、アリかも。どうせ、上位ジョブアイテムはダブついてる。超位ジョブに拘らなくても、全部取ってしまって問題なんかはどこにもない。
「サワ、やるのか?」
ターンがギラついた目で見てきた。ああ、彼女もやる気だ。
「いっちょ、やるかあ」
「おう」
その時わたしは気付いていなかったんだ。『ルナティックグリーン』はもちろん、『ブラウンシュガー』や『ブルーオーシャン』の面々までもが、目を光らせていたことを。
◇◇◇
「おうりゃっさあ!」
わたしの蹴りがワイバーンの顎を蹴り上げた。スキルなんて使ってない。純粋にSTR、DEX、そしてAGIに任せただけだ。バフもらってるけどね。
頭をかちあげられたワイバーンは、天井に向けてブレスを吐き出した。バカめ。
「おうらあ。『角力』」
そのまま着地して、ワイバーンの後ろ脚を叩き折る。スクネの組み技スキルだ。そう、わたしはフェイフォンをレベル172にした後、スクネにジョブチェンジした。これにてグラップラー系コンプリートだ。
「『剣の舞』」
続けてターンが敵の頭を八等分にして戦闘は終了だ。
彼女は今、ヒキタになってる。サムライ道を歩み始めたんだよ、これが。どうしてこうなったかなあ。
わたしとターンだけじゃないんだよね。なぜか『訳あり』全体、『ホワイトテーブル』を除くメンバーでジョブチェンジ祭りが開催中なんだ。
いや『ライブヴァーミリオン』とか『セレストファイターズ』は当たり前なんだけど、どうしてせっかく取得した超位ジョブを捨てるかなあ。
「サワさんのせいですよ」
珍しくポロッコさんが断言した。
「わたし、またなんかやっちゃいました?」
「なんで棒読みなんですか」
「いえ、なんとなく」
なんだかよくわかんないけど、わたしがなんかをやらかしていたらしい。なにを?
「サワさんが、ジョブを全部取るなんて言うからですよ」
「ああ、そういう」
「わたしも頑張ります」
「そ、そうですか」
ふんっと鼻を鳴らしたポロッコさんなんて滅多に見ないから、眼福だよ。
◇◇◇
そうしてさらに半月、ジョブチェンジを繰り返しながら、前線4パーティ全員に超位ジョブが行き渡った。
『ルナティックグリーン』からは、キューンが『フサフキ』。
『クリムゾンティアーズ』は、ウィスキィさんが『ラウンドナイト』、フェンサーさんが『アーチウィザード』。
『ブラウンシュガー』だと、チャートが『マスターニンジャ』、シュエルカとジャリットが『ラウンドナイト』。
『ブルーオーシャン』は、ニャルーヤが『ミョウオウ』、シーシャが『フルバッファー』、ワルシャンが『アーマードヴァルキリー』だ。
「乾杯! いやあ、こんなに宴会が続くと疲れるねえ」
サーシェスタさんはそう言うけど、全然疲れてないでしょ。
さらに言えば『ライブヴァーミリオン』からコーラリアが『アーチウィザード』、ケータラァさんが『マスターニンジャ』になった。その時も当然宴会したよ。
「アタシたちもやるぜえ」
ウルマトリィさんが息まいてた。
「『イ・タノサーカス』!」
イーサさんとワルシャン両名で一気に放った『イ・タノサーカス』は、なんと言うか凄かったよ。イビルアイズが9体、一気に全滅した。後始末の短槍回収が大変そうだったけどね。
150層への行きがけに接敵したけど、なんの問題も無かった。状態異常をもらう前に殲滅だもんねえ。わたしもいつかアーマードヴァルキリーを取るんだ。
「サワとヘリトゥラはふたつじゃない!」
「そんなコト言われても」
「ずるいわ!」
いや、じつは私、今『カミイズミ』なんだよね。ヘリトゥラに続いてのダブル超位ジョブ持ちだ。
「でもアーマードヴァルキリーも格好良いしさ」
「ふむ」
ターンが深々と頷いた。そう、アーマードヴァルキリーは年少組に大人気なんだ。なんせ派手だし。
いつか就くことを夢見て、彼女らは迷宮探索してない時、短槍を練習してる。時々イーサさんやワルシャンに相談してるくらいだ。ぐぬぬ。
「これは新しい知識チート投下が必要かもね」
「なに言ってるんだか」
リッタがツッコんでくれた。ありがと。
「でもこうまでジョブを重ねると、得意分野がぼやけるわね」
「まさにオールラウンダーだね」
「おーるらうんだー?」
「どんな局面にも対応できるってこと。だけど、得意ははっきりしてるよ。リッタなら魔法系、ターンならニンジャ系、それは間違いない」
「まあ、それは確かね」
考え込むリッタだけど、ここからは全局面とはいかない。
「上位ジョブまでは、なんなら全部取ってもいいけど、超位ジョブはそうはいかないよ。10年かければわかんないけどさ。わたしはそこまで待たない」
「決めているってこと?」
「そ」
わたしの最終形はとっくに決まってる。
そしてそのジョブで、とことんレベルアップをしてやるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます