第179話 我儘を言える相手





「辿り着いたぞコノ野郎」


 わたしたちが69層、ゲートキーパーの間に到達したのは3日後だった。

 だけど、大ボスは野郎じゃなかった。


「……『ヴァンパイアエンプレス』」


 大広間と言っても過言じゃないその場所にいたのは、32体に増えたガードヴァンパイアと、ヴァンパイアロード、そしてヴァンパイアの女王、ヴァンパイアエンプレスだった。

 ワインレッドのドレスがなまめかしいけど、そんなの問題じゃない。みんなも気づいてるよね。アレはヤバい。


「撤退、てったーい!!」


 天丼じゃないぞ、ちくしょう。



「さて、どうしよう」


 ここ3日で進軍して造った68層の簡易砦でお話し合いだ。


「サワ、あのエンプレスってそんなにマズいの?」


 真正面からリッタが聞いてきた。


「レベルは80相当で、もちろん『ノーライフキング』持ち。あと『テレポート』も。レベルドレインは5だね。気を付けるのは『ブラッド・ウィップ』。戦闘範囲内なら全部届くと思って」


「それならやれるじゃない」


「え?」


「サワはレベルドレインを気にしすぎよ」


「だってレベルだよ」


「わたくしたち、アベレージ70ちょっとなのよ。基礎の上乗せを考えたら、レベル80なんて普通に通じるわ」


 た、確かに!


「あれ? わたしもジョブチェンジして、聖属性になれば」


「落ち着きなさい! サワはレベルが関わると、どうしてこうなのかしら」


 落ち着け、か。よし落ち着こう……。



「できるかあ!」


「サワ!?」


「あいつらはわたしたちのレベルをもってった。よって潰す。手段を選ばず潰す!」


 そうだ。手段を選んでる時じゃない。やってやる、やってやるぞお。


「『ブラッドヴァイオレット』を結成します」


 そうだ、今この場にいるメンバーの力を集めれば、ヤれる。


「メンバーはジェッタさん、ドールアッシャさん、ジャリット、テルサー、ワルシャン、そしてリッタ」


「ちょっと! サワとターンがいないじゃない」


「『ブラッドヴァイオレット』の条件は、その時に最適で最強のパーティだよ。隊長はリッタ。ジェッタさんとジャリットはタンク、ドールアッシャさんとテルサーがアタッカー、ワルシャンは補助、リッタは、わかってるね?」


「ガードヴァンパイアは任せていいのね?」


「当然。『クリムゾンティアーズ』と『ブラウンシュガー』がやる」


 だって『ルナティックグリーン』よりヴァンパイア狩りに向いてるんだもんさ。


「貴女ねえ。わかったわ。ロードとエンプレスはわたしくしたちが倒す」


 リッタが覚悟を決めた。『ブラッドヴァイオレット』に呼ばれた面々も、目をギラつかせる。

 いつの間にか最強の証明みたいになってるもんねえ。



「『ブルーオーシャン』を解体。イーサさんとニャルーヤは『クリムゾンティアーズ』に、ワンニェとシーシャは『ブラウンシュガー』に編入」


『ルナティックグリーン』はそのままだ。ウチにはデバフのポリンと、格下には滅法強いヘリトゥラがいる。つまりわたしたちは、徹底的に雑魚を狩る。


 さあ、レベルをアげてこうぜ!



 ◇◇◇



「さあ、いこうか」


「おう!」


 さらに1日かけて、レベリングと連携の調整はした。アベレージは70に近い。今のわたしたちなら、勝てる。



 まずは『ルナティックグリーン』だ。ゲートキーパー部屋までの道のりを、敵を倒しながら突き進む。

 大部屋に着いたなら、真っすぐにロードとエンプレスのいる祭壇じみた高台を目指して直進だ。


「『ブラウンシュガー』『クリムゾンティアーズ』は両側から」


『ブラウンシュガー』『クリムゾンティアーズ』がそれぞれ左右に分かれて、まるで中央に圧迫するように敵を倒しながら誘導した。当然それを受け止めるのはわたしたち、『ルナティックグリーン』だ。


「おらおらおらあ、全部まとめてかかってこいやあ!」


 他のパーティには極力スキルを使わせたくない。特に『ブラッドヴァイオレット』には。


「『トゥルク』」


 ポリンの拘束系デバフが飛ぶ。


「『バドヴ』!」


 ヘリトゥラが致死魔法を放つ。


「むふん」


「とうっ」


 確率的に生き残ったヴァンパイアの首を、ターンが斬り飛ばす。ズィスラが打ち砕く。

 やっぱり今の『ルナティックグリーン』って、雑魚狩り似合ってるわ。



「前のオークの時もそうだったけど、わき役っていうのも悪くないね」


「そうか?」


「うん、気が付いたんだ」


 ターンがちょっとだけ首を傾げた。


「そうだよ。最後のボスにトドメを刺すのはいつだって主人公、なあんて。わたしはそんなんじゃなくっていいんだ」


「仲間で、友達だ」


「うん。わたしの我儘なんてどうでもいいや。今はやるべきことをやって、後は彼女たちに任せよう」


「おう」


 ああそうか、わたしって『我儘』言ってたんだ。言える仲間たちがいたんだ。楽しいなあ。嬉しいな。

 それじゃあやってやる。今の『ルナティックグリーン』は4パーティのタンクだ。さあ、どんどんこいやあ。擦りつぶしてやるからな。



 ◇◇◇



「どうよ。道は作ったよ」


「お疲れ様、ありがとう」


「どういたしましてだよ、リッタ。さあ『訳あり令嬢』たちの力を見せて!」


「アンタンジュ、シローネ、ガードを蹴散らして!」


「あいよぉ」


「任せろ」


 戦闘判定範囲を完全に把握したふたつのパーティが、左右から押し上げた。

 さらにもう一丁。


「ターン!」


「おう」


『ルナティックグリーン』も正面からつっかける。戦闘範囲はターンがキッチリと見切った。

 前と左右から、それぞれ10体ずつのガードヴァンパイアとの闘いだ。32体の内、30体をもぎとった。


「サワ、やれるの!?」


「やれなかったら、最初っからやってないよ」


 リッタの叫びに端的に返してあげた。ちょっとくらい見せ場頂戴よ。


「サワ、やるわ!」


「ズィスラ?」


「『BFS・INT』『EX・BFW・CON』『EX・BFW・SOR』」


 ああもう、ズィスラが広域コンディションバフと、前衛系特上バフをかけてきた。レベルが6も吹っ飛んだじゃない。


「わたしが好きに殴れるようによっ!」


 このツンデレめえ。


「ポリン」


 ターンの指示が飛ぶ。


「はいっ、ひれ伏してください『リンポチェ』!」


 ポリンの持つラマ特有の行動阻害魔法が敵を止めた。ここだ。


「各自自己バフ。総攻撃」


 ターンがぼそりと呟いた。そうだ、ここで決める。

 ついこの間ジョブチェンジしたばかりのポリンを除けば、わたしたち全員はバリバリの前衛系だ。


「『ハイニンポー:ハイセンス』『バーサーク』。おおおう『エウヘメリズム』!!」


 スキルを乗せたわたし渾身の一撃が、ガードヴァンパイアのどてっぱらを文字通り消し飛ばした。



「『酔えば酔うほど強くなる』『克己』『一騎当千』『パンプアップ』『無影脚』!!」


 ズィスラも独自のスキルを組み合わせて、敵を蹴り倒した。同時に2体かよ。


「『バーサーク』『ハイニンポー:4分身』『ホワイティアスマッシュ』」


 ターンは剣持ちだから、ホワイトロードのスキルが使えるんだよね。だからっていっぺんに4体も倒さないでよ。

 あ、ヘリトゥラとキューン、後衛だったはずのポリンも終わらせてるし。もう、敵いないじゃん。


 周りを見れば、『ブラウンシュガー』も『クリムゾンティアーズ』もガードヴァンパイアを倒しきっていた。

 つまりはいよいよ最後の決戦だ。



「出番だよ、リッタ」


「ありがとう。存分にやらせてもらうわ」


 強襲なんかはかけない。残りはガードが2体とロードとエンプレスだけだ。

『ブラッドヴァイオレット』は堂々と戦闘範囲に足を踏み入れた。バトルフィールドが展開される。


「『BFS・INT』『EX・BFS・INT』『EX・BFW・SOR』『EX・BFW・MAG』」


 開幕はテルサーの大規模バフだった。一気にレベルが9持ってかれる。


「『EX・BFS・INT』『EX・BFS・INT』」


 さらにレベルを6も消費して、リッタとワルシャンのINTを上げた。


「後は頼みます」



 ◇◇◇



「ぐばあぁぁ」


 次の瞬間、ヴァンパイアエンプレスの放った血の鞭が、リッタのわき腹を抉っていた。


「ら、『ラ=オディス』。『活性化』『克己』『乾坤一擲』『芳蕗』」


 リッタの怪我がみるみると治っていく。


「アンタたちがどんな相手を想定していたかのかは知らないけど、残念。わたくしたちはサワとターンに鍛えられた最強の冒険者なのよ! 腹に穴が空いたら塞げばいい。そして食らいなさいよ。『北風と太陽』!!」


 テリサーからもらったINTバフを最大に活かした太陽が、敵の頭上に出現した。


『ギョアァァァ』


『グヒィヤァァ』


 たったそれだけで、2体のガードヴァンパイアが半分溶けた。


「ジャリット、ジェッタ」


「『シールドバッシュ』」


 それで取り巻きは終わりだ。後は膝を突いて苦しそうにしている親玉2匹。

 まるで女王のように、リッタが脚を踏み出した。



 ねえ、どっちが悪の親玉なのかな?


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