第43話 ウィザードがいっぱい





 ジョブチェンジ騒動の1週間後、『村の為に』の人たちが全員マスターレベルになった。

 さあ、もうひと踏ん張り。パーティの内、二人がソルジャーにジョブチェンジして、さらにここからマスターまで引っ張る。残り4人はターンとサーシェスタさんに任せて、わたしは相変わらずカエル狩りだ。


「ここまで来ると、カエルじゃレベル上がんないね」


「付き合わせてすみません」


「いいですよ。マスターまでは一緒にいます。ですけど、もう少しで独り立ちですね」


「ははっ、寂しくなりますね」


 出来上がるのは、ソルジャー2、メイジ2、プリースト2という異例のパーティだ。わたしの提唱したスキル重視型冒険者で作られた、最初のパーティっていうことになるのかな。ごめんね、こっちこそ付き合わせちゃって。



「サワ!」


「おおう、その顔は、やったね!」


「おう! コンプだ」


 ターン、シッポブンブンだもんね。


「よっし。じゃあ今日はこの辺で切り上げよう」



 ◇◇◇



「でも本当に良かったの? これならシーフを後にした方が」


「構わない。魔法使ってみたかった」


「そっかあ、わたしも一歩回り道する予定だし、まだまだだなあ」


「気にすることないぞ」


 協会の『ステータス・ジョブ管理課』では、微妙な表情の新しい受付さんが出迎えてくれて、ターンのジョブチェンジは完了した。これから結構忙しい職場になりますよ。


 ==================

  JOB:WIZARD

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :45


  VIT:32

  STR:31

  AGI:33

  DEX:35

  INT:13

  WIS:9

  MIN:15

  LEA:19

 ==================


 そしてウィザード・ターンの誕生だ。前衛として破格の基礎ステータスを兼ね揃えた、新たなステージに立つウィザードだ。まさに高機動ウィザード! 格好良いね!


 これでINTとWISも上がるから、まさに万能型のステータスになる。MINが弱点に見えるけど、ニンジャになったら増えるし、それに彼女には必殺『芳蕗』がある。死角など無い。

 なんかターンが強くなると、わたしまで嬉しくなってしまう。うひひ。


「先輩、もうレベル11なんですね」


「ええ。あなたもレベルアップしたいなら、相談には乗るわ」


「でもカエルなんですよね?」


「カエルよ」


「考えておきます」


 引率してくれたのは良いけど、ハーティさんと受付さんの会話が、どうにも気に入らないなあ。いいじゃん、カエル。たまにMINが上がるよ。



「丁度いいところにいてくれたねえ、サワ嬢ちゃん」


「こんにちは。どうしました?」


 ウィザード互助会会長のベルベスタさんが現れた。


「『大魔導師の杖』を捜索している間。あたしゃ、ソルジャーになっておこうかと思ってね」


 結局ベルベスタさんのステータスだと、VITとSTRが足りなかったんだ。

 年齢や普段の生活で基礎ステータスは上下するし、彼女は下降傾向だったらしい。でもまあ、ウォリアーでマスターレベルくらいまで持っていけば、まあステータスは足りる。問題はだ。


「金なら払う」


「そう来ましたか。でもわたしの話が本当か確証が無いですし、現行レベル30以上ですよ?」


「やるさね。もちろん特別報酬も乗せるさぁ。あたしゃこれでも感謝してるんだよ。あんたはウィザードの光さ。勲章も準備してるよ」


 うわあ、ここまでかあ。キマってるなあ。


「それでね、サーシェスタにも伝えてほしいんだけど、あたしも『訳あり』に入れておくれ」


「えええ!?」


「これでもウィザード互助会会長だ。『ルナティックグリーン』の名を上げるには十分だろう?」


 平均年齢がとんでもないことになる、とは言えないね。サーシェスタさんも居るし。



「本当にそこまでやるんですか?」


「エルダーウィザードになれなくても恨んだりゃしないよ。さっきも言ったろう、あんたの言葉は、ウィザードにとっての光なんだよ」


 そうして見せたベルベスタさんの初めての笑顔は、やさしいおばあちゃんの笑い方だった。


「条件があります」


「なんだい?」


「まずは、クラン全員の意見を聞きます。もうひとつは特別報酬なんて無しです。ただし特別扱いせずに、全員で順番にレベルアップしますよ」


「そう来たかい。文句はないさ。サワ嬢ちゃんは良い子だね」


 子供扱いするなし。



 ◇◇◇



「まったく、あんたまで」


「言われたかないねえ」


 バチバチと火花を散らすお二人は、当然サーシェスタさんとベルベスタさんだ。だが、なんだか仲良さそうなんだよね。口元も笑ってるし、目だってそうだ。年齢だけならベルベスタさんが一回りくらい上なんだろうけど。


「で、どうだい? あたしを入れてくれるかい?」


 ベルベスタさんが周りを見渡した。一応クランメンバー全員は、この場にいる。


「そうだ、忘れてたよ。手土産に菓子を持ってきてたんだった」


「ベルばっちゃって呼んでいいか?」


「おうおう、構やしないよ。たんとお食べ」


「ベルばあちゃん」


「ベル婆」


 ターン、チャート、シローネが列を作った。ここで戦略敗北が確定したわけだね。



「まあ、良いんじゃないですか。フェンサーさんやハーティさんも参考にできるでしょうし。もちろんターンもシローネもチャートもです」


「そうだねぇ。それにしてもヴィットヴェーン最強のプリーストとウィザードを引き込んじまった。周りから何を言われるやら」


 アンタンジュさんが苦笑している。


「ありゃ、最強のプリーストはサワじゃないか、あたしは2番目だよ」


「そういうの止めてください。わたしはサムライです」


 近々ファイターになる予定だし。


 こうして『訳あり令嬢たちの集い』に、新たな令嬢が加わった。



 ◇◇◇



 翌日から、サムライ1、ソルジャー1、ウィザード2、メイジ2という、これまた難解なパーティが活動を開始した。わたし以外、全員ウィザード系じゃないか!


 まずはランニングとストレッチだ。これはもう、『訳あり』全員がやっている。基礎体力は大切なのだ。

 さらに、お勉強も。INTとWISを上げる目的もあるけど、せめて全員が書類を読み書きできる程度にはしておきたい。

 MINはどうやって上げよう。カエルを狩ってると、時々上がるみたいだけど、個人差がある。これはアレか、爬虫類耐性とかグロ耐性とかそっちなのかな? 肝試し大会でもやるか?



 とりあえず、全員でカエル狩りだ。いきなりマーティーズゴーレムは、わたしができるけど事故が怖い。特にベルベスタさん。さすがに安全マージンは取るよ。


「とりあえず適当に『ト=リィハ』(単体炎攻撃魔法)でも撃っていてください。ターンもね」


「分かった」


 わたしのバフとデバフが戦場に行き渡った。

 まずは全員というか、ベルベスタさんとターンをレベル8まで上げる。そうすれば二手に分かれても良い。


「いやあ、新鮮だねぇ」


「危ないですから、後ろですよ?」


「分かってるさあ。剣なんて持ったの、初めてさね」


 楽しそうで何よりだけど、安全にね、ホント。



 そうして3日後、二人がレベル8になった。


 だけどこのメンバーでマーティーズゴーレム狩りは、ちょっとなあ。魔法無効だし、火力がわたしとターンだけになっちゃう。じゃあ、いっそ。


「9層行きますか」


「ほう?」


 ベルベスタさんの目が輝く。


「ウィザードと言えば9層が光るんですよね。わたしのバフがありますから、安定できると思いますよ?」


「いいねえ。9層ならあたしも活躍できそうだ」


「ベルベスタさんどころか、全員ですね。じゃあ、指揮はベルベスタさんに任せますから、ガンガンやっちゃってください。こんなのも変則パーティの楽しさですよ」


「なるほどねえ。サワ嬢ちゃんの言ってたことが、やっと分かってきたよ」


「何よりです」



「そうら、『ティル=トウェリア』!」


 迷宮第9層にウィザード最強の攻撃魔法が吹き荒れた。9層でやることか?


「あははは、ほうらみんな見たかい!? これがウィザードの力さね!」


 ベルベスタさんがめっちゃ嬉しそうだ。ハーティさんはちょっと引いているけど、柴耳三人娘は目をキラキラ輝かせている。



 わたしの立場は? きぃぃ、羨ましい。妬ましい。お菓子でも買って帰ろう。そうしよう。


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