第58話 みんながそれぞれ歩き出す





「いい感じに仕上がりましたね!」


「ふむ!」


 わたしの言葉にターンが鼻息で答える。


「やれやれ」


「もう、解放してもらえるのでしょうか」


 ベルベスタさんはため息を吐き、ハーティさんは遠い目をしていた。



 またもカエルからマーティーズゴーレム、そして31層で1泊というレベルアップツアーに出かけて、そのリザルトだ。

 わたしがレベル22、ターンがレベル30、ハーティさんはソルジャーのレベル14、ベルベスタさんがソードマスターのレベル12だ。

 いやあ、レベルアップは楽しいね。自分がぐんぐんと強くなっていくのが実感できる。みんなもそうでしょ?


「ハーティさんはコンプリートしたら、次、何にします?」


「はぁ、何にしましょうか。私は志願しましたが、事務員だった記憶がありますけど」


「『ジムイン』ってジョブは無いですね。残念」


「それは……、残念です。今なら喜んで飛びつけそうなジョブです」


「またまたぁ、冗談ですよ」



 ところでターンがレベル30だ。つまり上級ジョブへの条件が整ったというわけだね。


「もちろんジョブチェンジ」


「やるぜ、ターン!」


「おうよ!」


 ==================

  JOB:NINJA

  LV :30

  CON:NORMAL


  HP :58+118


  VIT:36+51

  STR:36+17

  AGI:35+98

  DEX:45+66

  INT:22

  WIS:12

  MIN:14+39

  LEA:19

 ==================


 もうこのままレベルを上げるだけで、鬼強いわけだけど、こんなところでターンの向上心は留まらない。当然のジョブチェンジを決意したみたいだ。

 この状態で、まず間違いなくヴィットヴェーン最強のAGIとDEXだと思う。DEXだけなら、わたしもタメ張ってるつもりはあるけどね。



「凄く勿体ない気もしますけど、ジョブチェンジするんですよね」


「おう!」


 毎度おなじみ『ステータス・ジョブ管理課』お姉さんは、ため息交じりだった。

 まあ、これまでの感覚だったら、このままニンジャで突っ走っても最強なのだから。だけどわたしとターンは違うよ。これは過程に過ぎないのだよ。うはは。



 ==================

  JOB:HIGH=NINJA

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :69


  VIT:41

  STR:37

  AGI:44

  DEX:51

  INT:22

  WIS:12

  MIN:17

  LEA:19

 ==================


 こうしてターンは『ハイニンジャ』となった。次の条件が大変だ。レベルは50に加えて、ステータス制限もある。まあ、わたしはそれを予想して、INTを上げておいたわけだから、それは安心。

 問題は『極意のスクロール(ニンジャ)』を見つけられるかどうかだね。頑張ろう。



 ◇◇◇



「おう。ここにいたのかい」


「あれ? アンタンジュさん、どうしたんですか」


「ああ、あたしらもジョブチェンジしようと思ってねぇ」


 おおう、ついに『クリムゾンティアーズ』もジョブチェンジか。

 彼女らにわたしは積極的に口出ししていない。聞かれた時だけこういうルートもありますよ、くらいだ。それくらい、彼女たちは完成したパーティなんだし。

 さて、何を選ぶんだろう。



「ジョブチェンジだよ」


「はい。では、ステータスカードをこちらに嵌めてください。手を当てて新しいジョブを念じてください」


「あいよ」


 最近はジョブチェンジが多いせいか、受付さんも慣れた感じだ。


「あたしの新しいジョブは……、メイジ」


「はあっ!?」


 思わず声を出してしまった。メイジ、メイジ、なんで?


「わたしもメイジです」


 ウィスキィさんも。


「……メイジだ」


 ジェッタさんもだ。まさか。


「わたくしはソルジャーですわ」


「わたしもです」


「……わたしもソルジャーになります」


 フェンサーさん、ポロッコさん、ドールアッシャさんもが、ジョブチェンジしていった。これじゃあまるで。



「そういうことだ。あたしたちは一から出直す。しばらく稼ぎが減っちまうけど、勘弁な」


「そんな……、そんなのわたしたちが稼ぎますよ!」


「ははっ、そうだなあ。なんせ3人で31階層まで行くくらいだもんなあ」


 すなわち『クリムゾンティアーズ』は前衛と後衛を完全に入れ替えた。しかも初級ジョブを取ってだ。どれほどの覚悟をしたんだろう。

 間違ったやり方じゃない。だけどこれはわたしの発案を基にしているのは明白で、それが肩に重くのしかかる。


「まったくもう、極端ですね」


「ははっ、思い切りの良さが『クリムゾンティアーズ』だよ。なあに、スキルはあるから、すぐに上げていくさ」


「かなり気合入れないと『ブラウンシュガー』に追い越されますよ?」


「そりゃあマズいな。後輩に追い抜かされるのは『ルナティックグリーン』で十分だよ」


「それじゃですね、明日から『訳あり』全員で潜りませんか? こっちもターンがジョブチェンジしたばっかりなんで、みんなでレベル上げしましょうよ」



 その日の夜、『ブラウンシュガー』は大興奮だった。

 憧れの『クリムゾンティアーズ』、『ルナティックグリーン』と一緒のレベル上げだ。チャートとシローネのシッポはブンブンだ。ターンもまたしかり。


「じゃあ、まずはパーティを組みなおしてカエルとマーティーズでレベルアップ。それから9層でマスターレベルを目指して、最後は31層でとことんまでやるっていうことで。予定では2泊3日、もしかしたら3泊です」


 今回の迷宮探索は、とにかく全員のレベル上げだ。特に『クリムゾンティアーズ』は全員がレベル0なんだ。ターンもだね。

 そんな『クリムゾンティアーズ』を再び、『稼げる』パーティに仕上げる。それが最終目標だ。


「もう一つの目標は、祝勝会の食材集めです。ロックリザードの肉を集めますよ」


「おおう!」


 ここに『訳あり令嬢たちの集い』の心はひとつになった。見栄と食欲で。



 ◇◇◇



「ほれ、どんどんお食べぇ」


「うんっ!」


 ベルベスタさんがおばあちゃんの顔で『ブラウンシュガー』に肉を薦めている。何気に子供に甘いんだよね。周りはそれを微笑ましげに眺めている。結構いいよね、こういう空気。


 迷宮に潜って3日目、ここは31層の砦だ。ここから35層くらいまでは、高レベルパーティからすれば、今ホットな狩場なのだ。迷宮ガイドとか出版したら、面白いかも。

 さっきも『木漏れ日』が寄っていった。ご安全に。



「明日には戻りですね」


「まさか全員がコンプリートするとはねえ」


 ウィスキィさんがため息を吐く。もちろん、わたしとターン、サーシェスタさんは例外だ。ハーティさんなんてレベル26になっちゃった。


「ハーティさんはどうするんですか?」


「ファイターになろうかと思います」


 彼女はすっかり『ルナティックグリーン』のメンバー扱いになってしまった。事務員とは。


「書類はあたしがやっとくから、頑張んなあ」


「サーシェスタさん……」


 ハーティさんががっくりと肩を落とす。実際、立派な戦力だけに扱いに困るなあ。ここまでノリで引きずり回したけど、ちょっと申し訳ない気がしてきた。いまさらだけどさ。


「ハーティさん、ファイターの次でロードになって、そこから考えませんか?」


「戦闘ができて、回復と攻撃魔法、しかもエンチャンター、凄いですわ!」


 フェンサーさんも絶賛だ。『ブラウンシュガー』が憧れの目でハーティさんを見ている。


「ほら、この間みたいな事件が起きた時、指揮官が全部できるのって、便利じゃないですか」


「また私を指揮官にする気ですか!?」


 だって、適任者なんだもん。前線はわたしがやるからさ。



 さあ、楽しい迷宮探索は一旦終わり。みんながジョブチェンジしてから、また来ようね。それより2日後には宴会だよ。そっちの準備も大変だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る