第59話 訳あり令嬢たちは、いつもそこにいる





「本日は皆様、お集まりいただきありがとうございます」


 なんでわたしが挨拶してるんだろう。男爵だからか? ならサーシェスタさんでもいいじゃない。

 しかもほぼ全員が膝を突いている。しかも笑いをこらえてやがる。許さんぞ。


「全員面を上げてください。男爵からの命令です」


「ははっ!!」


 全員が立ち上がって大笑いしていた。ウケたなら、まあいいか。



 集まってくれたのは、先の層転移騒動に関わった、ほぼ全員だ。会長さんは自分がいると皆が気を使うからって辞退してくれた。正直助かる。別に嫌っているわけじゃないけどね。


「まずは礼を言わせとくれ。今回は『クリムゾンティアーズ』を救ってくれてありがとう」


「俺たちもだ。『紫光』を助けてくれたことを、感謝している」


 壇上にいる12名、『クリムゾンティアーズ』と『紫光』のメンバーが、頭を下げた。


「冒険者は仲間を見捨てない!」


 そう言ったのは『晴天』のクランリーダー、ゴットルタァさん。


「冒険者は諦めない」


 次にそう言ったのは『リングワールド』のシンタントさんだ。


「俺たちは冒険者だ」


『暗闇の閃光』のリーダーが続けて言った。


「さあさ、冒険者たち、乾杯だよ!」


 乾杯の音頭はサーシェスタさんだった。皆がグラスを打ち鳴らす。わたしを含めた年少組はジュースだけどね。



「どうです、ロックリザードの肉はいけますか?」


「ああ、美味ぇなあ」


「綺麗な料理より、こういうのが冒険者らしいかと思ったんですよ」


「ははっ、違えねえ」


 なんだかホストっぽい言動を繰り返しながら、わたしたちは会場をうろついていた。

 そこかしこで、ジョブやステータスなんかの質問もされる。


「あくまで決めるのは自分自身ですよ。今のジョブのまま上級ジョブを目指すことだってできるんですから」


「だがなあ」


「確かに後衛ジョブを一つだけでも経由した方が、パーティ全体は安定するとは思いますよ。ですけど、時間もかかりますし、一時期は弱体化して稼ぎも減るでしょう」


「だよなあ」


「冒険者協会に、貸付制度を検討してもらっています。ジョブチェンジで減った収入を補填してもらう、なんて感じになるかもです」


「ほんとかよ! すげえなサワ嬢ちゃん」



 ちなみにステータスカード取得費用は撤廃する予定だ。ヴィットヴェーンに住まう全員にカードを持たせる。もちろん身分保障は必要だけど、伯爵が大規模な孤児院を造る予定で、さらにクランに孤児院から新人を採用した場合、補助金が出る制度も検討中だよ。


 もちろん『訳あり令嬢たちの集い』も受け入れる予定だ。


 ヴィットヴェーンは、もっともっと冒険者の街になるってわけさ。



 ◇◇◇



「宴もたけなわですが、会場にお集まりの皆様、壇上にご注目ください」


 ハーティさんの言葉に、全員が壇上を見た。そこには『ルナティックグリーン』の全員、と言うかわたしとターン、サーシェスタさん、ベルベスタさんがいる。もちろんハーティさんもだよ。


「いよっ、出し物かあ!」


「少々違いますね」


 苦笑しながら、それでもハーティさんが続けた。


「ダグランさん、ガルヴィさん、壇上へどうぞ」


「え? 俺らかよ」


 サプライズだよ。二人には知らせていなかった。


「どうしたんだよガルヴィ。さっさと上がれや」


 周りから楽しそうなヤジも飛んでいる。


 ちょっとキョドりながら、それでも二人は壇上に登ってきた。

 ここからはわたしの出番だ。



「お二人は今回の騒動で、快くわたしたちに力を貸してくれました。ボーパルバニーの牙にも怯えず、38層まで共に戦い抜いてくれました」


 その厳然たる事実に、会場が静まり返る。

 そうだよ。この中で38層まで到達できる冒険者がどれだけいるだろう。それくらい二人は凄いことをやってのけたんだ。だから。


「そうして『クリムゾンティアーズ』は救われました。ダグランさんとガルヴィさんは、かけがえのない戦友です」


 二人は黙ってこっちを見ている。らしくもなく神妙な顔だ。


「『訳あり令嬢たちの集い』は男子禁制のクランです。ですがダグランさん、ガルヴィさん、お二人を『ルナティックグリーン』の外部メンバーとして迎えたいと思っています。これは『訳あり』たちの総意です」


「おいサワさん、それって」


「いいのかよ」


「勿論お二人が希望された場合ですし、クランとして縛りを掛けるようなことはしませんよ。ただの名義です」


 幽霊部員という単語がふと浮かぶ。縁起でもないね。


「ああ、この上ない名誉だぜ」


「ありがたく受けさせてもらうよ」


 二人は頷いてくれた。良かった。


「ではこれを」


 わたしとターンがドワーフのおっちゃんに作ってもらったバッヂを手渡す。銀細工でできていて、三日月をモチーフにした、緑色に輝くパーティメンバーの証だ。

 もちろん、わたしたち『ルナティックグリーン』メンバーの全員が同じものを付けている。



「彼らはクランメンバーではありません。ですが、ひとたび彼らに何かがあれば、わたしたち『訳あり令嬢』は全力で助けることでしょう。彼らを害する者は、クラン『訳あり令嬢たちの集い』に喧嘩を売ることになるでしょう!」


「すげえ! 無敵じゃねえか」


「こりゃあたまげた」


「ウチに勧誘しようぜ」


「いいな、それ」


 そうでしょう。だけど彼らはそれくらいのことを、やってのけたんだよ。本当に凄いと思う。


「続けて『ブラウンシュガー』から、お二人に感謝の贈り物もあるそうですよ」


「なんだよ」


「何かまだあるのか」


 ダグランさんとガルヴィさんがちょっとビビってる。大丈夫、大丈夫。


「お姉ちゃんたちを助けてくれてありがとう。コレをあげる」


 代表してチャートが二人に紙切れを渡した。残る5人も同じように手渡していく。


「こ、こりゃなんだい?」


「『肩叩き券』。好きな時に使ってね」


 シローネが笑顔で言った。

 そうだよ。それは『肩叩き券』だ。定年間際のサラリーマンじゃないよ。タントンタントンする方だ。もちろん私の入れ知恵なのは言うまでもない。


 その紙切れには稚拙な字で『肩叩き、1回』って書いてある。


「……ああ、ああ。大事にさせてもらうよ」


「額を買って、こないと、な」


 使えし。そして泣くなし。いい大人がボロボロ涙を零して泣いていた。まったくもう。



「サワたちにも、これ」


 シュエルカが紙切れを渡してくれた。なんと、彼女らは『クリムゾンティアーズ』と『ルナティックグリーン』全員分の肩叩き券を作ってくれていたんだ。


「助けてくれてありがとう。ご飯もありがとう」


 テルサーの台詞が鼓膜に響く。ああ、助けて良かった。クランを作って良かった。


「サワ、泣いてるの?」


「泣いてなんか……」


 心配そうにわたしを見るリィスタの目の前で、わたしはボロボロに涙を零していた。ああ、ダグランさんとガルヴィさんのコト、言えないや。


 他の『訳あり令嬢』たちも二つに分かれていた。ニコニコと笑っている者、逆に泣いている者。後者はわたしを筆頭に、フェンサーさん、ドールアッシャさん、アンタンジュさんなんかだ。フェンサーさんなんて号泣している。相変わらずのテンションだ。


 余興? も終わり、壇上から降りたダグランさんとガルヴィさんは、冒険者たちに囲まれてワヤクチャにされていた。まあ、あの程度なら『訳あり』に敵対したわけでもないだろう。有名税ってヤツなのかな。



 ◇◇◇



 そうして宴会は続いた。歌を歌う者、剣技を見せる人、お貴族様のパーティとは大違いなんだろうね。だけどこれが冒険者でもあるんだろう。わたしも慣れよう。


 そんな時だった。


 トントンと扉が叩かれた。はて、こんな時間に誰だろうと、ウィスキィさんが扉を開けた。

 そこには3つの人影があった。二人は知っている。もう一人は知らない。ってか、おい。


「やあ、こんな時間にお邪魔してしまって、申し訳ないね」


 わたしは反射的に膝を突いた。『クリムゾンティアーズ』も続く。それを見た冒険者たちも慌ててそれに倣った。


「ごめんごめん、顔を上げてくれよ」



 そこにいたのは、カムリオットうんちゃら子爵令息、護衛のえっと確か、そうだ、イーサさんだ。じゃあもう一人は、わたしと年齢が近そうな女の子は何者なんだろう。


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