第234話 冒険者たちは行く
「おら、3時間は過ぎたぞ。起きれ」
「ん、んん?」
あれ? ゴットルタァさんじゃん。なんでここに?
「上は終わったぜ。今は『オーファンズ』が巡回してくれてる」
「『晴天』も来てくれたんですね」
「うんにゃ、来たのは『木漏れ日』と『ワールドワン』、『高貴』の連中だ。他は上を守ってる。ハーティの指示だ」
『晴天』と『リングワールド』の1番隊と、『咲き誇る薔薇』『ラブリィセリアン』が来てくれたんだ。
「ぼくたちもいるぞ」
そこには胸を張ったチャートたちがいた。
『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』それに『クリムゾンティアーズ』まで。これってもしかして、ヴィットヴェーンのトップ10、いや『元気が一番』と『暗闇の閃光』もいるからトップ12じゃないか。
「状況は?」
「この広場は制圧したぜ。今はこの層を確保しに『暗闇』と『高貴』が頑張ってる」
ゴットルタァさんが簡単に説明してくれた。それがまた、なんとも頼もしい。
「それと、会長と迷宮総督様からのお言葉だ。サワ嬢ちゃんの判断で構わない。憂いを無くせ、だとさ」
「言ってくれますねえ」
「だけど、やるんだろ?」
「そりゃもう」
ゴットルタァさんが拳を突き出す。もちろんわたしもそうして、ごっつんこだ。こういうの大好き。
「サワ、トラップが消える」
ターンの言う通り、ちょっと離れたとこにあったトラップが光を失いつつあった。終息かな。
「んじゃ行きますか。各パーティは適当に分散して、44層への階段で合流です。お残しは無しってことで」
「おうよ!」
◇◇◇
「来たか。ボクたちがちょっと本気を出せばこれだ」
イェールグート君が高飛車にわたしたちを迎えてくれた。まあ生意気なガキんちょだけど、今は頼もしい仲間だ。
「まずは陣地構築かな。『セレストファイターズ』の皆さん、出番ですよ」
「おうさあ」
すっかり慣れた手つきで、彼女たちが簡易陣地を組み上げていく。染まったねえ。
そうしている間にも、他のルートを辿ってきた冒険者たちが続々と集結していく。壮観だ。
「残らず平らげてやったぜ」
『ワールドワン』のシンタントさんが胸を張った。
「『白光』の連中が悔しがるだろうなあ」
「『ラビットフット』もな。だけどハーティの指示だ。逆らったらおっかねえ」
シンタントさんとゴットルタァさんが苦笑いを浮かべた。そんなに怖いかなあ。いや、怖いね、確かに。
そんなこんなで全員集合だ。
「さあ、サワさん。一言貰えるかな」
「ガルヴィさん、なんでわたしがそんなことを」
「副会長なんだろ」
「まったくもう」
さて、なんて言ったもんだか。
「……わたしたちはこれから、今回の大氾濫を終息させます。この階層ですらレベル190相当のモンスターが現れました。しかもカエルです」
別にカエルに意味は無い。だけど皆は静かに聞いてくれてる。
「さて、どんな敵が待ってるかもわかりません。レベル200を超えてくることだってあり得ます。それでもわたしは行きますよ。女伯爵だから、副会長だからなんかじゃありません。だってわたしは冒険者だから」
皆の目がキマっていくのがよくわかる。
「冒険者は冒険してナンボ。だけど敵を倒して、素材を回収して、クランハウスに戻って宴会するとこまでが冒険です。みなさん、できる自信がある方だけ名乗りを上げてください」
ああ、煽っちゃった。だけど、この人たちならやっちゃうんだろうなあ。
「『晴天』から『木漏れ日』の隊長、ゴットルタァだ。俺たちは行くぞ!」
「『リングワールド』、1番隊『ワールドワン』のシンタントだ。行くに決まっているだろう」
「『世の漆黒』、『暗闇の閃光』隊長のケインドだ。行こう」
たしかに、この展開なら『白光』は悔しがるだろうね。
「俺はジュエルトリア、ただのジュエルトリアだ。『高貴なる者たち』から『咲き誇る薔薇』を預かっている。当然行かせてもらおう。いいな、アリス」
「えー、わたしはあんまり」
アリシャーヤは相変わらずだねえ。周りも苦笑いだけど、空気が緩んだ。それも悪くないか。
「同じく『高貴なる者たち』、『ラブリィセリアン』のイェールグート・ハッシュ・ヘーストラン子爵令息だ。士爵も持っているぞ。ボクの可愛いセリアンたちの活躍に期待しろ」
「『サワノサキ・オーファンズ』1番隊、『元気が一番』のマッチャーだ。『マイロード』だぜ。力を見せつけてやる」
二人とも元気があってよろしい。イェールグート君なんてまだちっちゃいのにね。
「さて、『訳あり令嬢たちの集い』1番隊、『クリムゾンティアーズ』のアンタンジュだ。行く行かないなんてなあ、愚問だね」
「同じく2番隊、『ルナティックグリーン』のターンだ。最強だぞ。にんにん」
なんだそれ。
「3番隊『ブラウンシュガー』隊長、シローネ。おれたちこそ最強だ」
「同じく5番隊『ブルーオーシャン』のリッタよ」
リッタは彼女らしく、端的に言い切った。
「7番隊『ライブヴァーミリオン』のクリュトーマよ。肩書は気にしないでくださいね」
「同じく『訳あり令嬢たちの集い』、8番隊『セレストファイターズ』のウルマトリィだ。この中じゃ一番弱いだろうな。だけど気合じゃ負けないぜ!」
「以上、12パーティで44層以降を掃討し、迷宮を正常化します」
目的なんかはたった一つだ。
「今更日和ってんじゃないぞ、冒険者たち! ひとりでも欠けることなんて、このわたしが絶対に許さない。全員が全力で戦って、勝利をもぎとって凱旋する。その後でジョブチェンジと宴会だ!」
「おう!!」
わたしは71名の冒険者、ひとりひとりに目を向ける。皆が頷いてくれた。アリシャーヤだけ微妙だったけど。
「出撃。先頭は『クリムゾンティアーズ』と『ブラウンシュガー』。行きますよお!!」
◇◇◇
「おうるあぁぁ」
ドールアッシャさんのパンチが唸る。
44層はまさにカエルオンパレードだった。グレーターフロッグデーモン、ギガントトード、ジャイアントフロッグ、ついでにポイズントードまでいる。これまで出遭ってきたカエルたちが、まるで同窓会だ。わたしは参加したことないけどさ。
「統制が取れてないわね」
リッタの言う通り、相手がごちゃまぜだ。こりゃ効率が悪い。ぶっちゃけポイズントードなんて、今のわたしたちなら踏んずけてお終いだ。だけどそこにレベル150の上位種が混じると話が変わってくる。
「気を付けるのは上位2種。特に『デーモン』は魔法無効だから、ウィザードは状況判断を的確に」
「わかってるけど、むずかしいわ!」
「うっさい、エセヒロイン。あんたは殴りキャラでしょう」
「なんですってえ!」
アリシャーヤとの不毛な掛け合いはおいといて、これは確かに難しい戦闘だ。
だけど、光明はある。これまで何度も繰り返してきたこと。
「慣れて!」
「毎度ながら、サワさんは無茶が過ぎるぜ」
「できると思ってるんだから、言ってるんですよ」
「女伯爵さまの仰せのままに」
ダグランさんが軽口を叩く。やせ我慢なのはわかる。わかるけど、今はそれしかない。
「じゃあ、追加注文です。慣れてきたら、スキルは温存で」
「ひでえ」
シンタントさんまで乗っかってきた。
「間違ってもポイズントードだけになんかにスキル使わないでくださいよ。全部を焼き払うのはアリです」
「注文が多い食事処だなあ」
「『北風と太陽』」
「ほら、リッタはちゃんとやってますよ。要は接敵調整です」
数々の歴戦を乗り越えてきた、特に『訳あり』の上位4パーティはそれが上手いんだ。
加えて、プレイヤースキルが高いから、ここぞという時しかスキルを使わない。
「漫然と戦わないでください。レベルアップだけじゃないですよ。プレイヤースキル、状況判断。冒険者として、パーティとして強くなってください」
「はははっ、やってやろうではないか!」
「ボクたちはいつもやってるぞ!」
ジュエルトリアとイェールグート君が強がる。そうだよ、それが冒険者ってもんだ。
「さあ、ガンガンいきますよぉ!」
戦いは続く。相手はカエルばっかしだけど。
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