第233話 頼もしい連中さ





「基本はグレーターデーモンと一緒。ただし力は上。即死しないでね」


 とたんに緊迫感が増していく。


「『ルナティックグリーン』に戻して。『セレストファイターズ』はギガントトードだけ対応。こいつは」


「『大切断』」


「ターンがやってくれたから」


 最初に現れたグレーターフロッグデーモンは、ターンの一閃で両断された。さすがはムラカミ・ブレードだ。斬って欲しい時こそ斬ってくれる。


「ふむ、悪くない」


「どうりゃあぁ!」


「やるな、ズィスラ」


 アイネイアールスのズィスラが、次に現れたグレーターフロッグデーモンを2等分にした。


「ねっ、『ルナティックグリーン』は最強なんですよ」


 にっこりと誇らしげにわたしは微笑んだ。



「心の底からわかったよ。それでアタシたちは?」


「ここからは後衛系へのジョブチェンジは無し。経験値が勿体ないけど、レベリングだと思って」


「前衛へはアリなんだな?」


「そうですけど、大分慣れましたよね? ギガントトード相手なら好きにしてください」


「おうよ!」


 そう言い残して『セレストファイターズ』は距離を取った。

 さて、こっちも暴れますか。



 ◇◇◇



「ぐはっ、レベルをやられた!」


「サワ、そのセリフが好きよねっ」


 ズィスラのツッコミが入る。けど、レベルを持ってかれるのはイヤなんだよ。

 くっそ、アーマードヴァルキリーとかなら聖属性だから、レベルドレイン貰わないのに。くやしい。


「なんか変なこと考えてるんだろうけど、戦闘中よ!」


「りょーかい」


 いかんせん今ジャービルなんだよねえ。前衛ジョブに戻したいんだけど、まだレベル90だ。粘るぜぇ。役割もある。ちゃんとみんなの武器をエンチャントしないとね。


「『マギステリウム・ソード』」


 戦いは続く。



「よっしゃレベル175! もういいでしょ。『ラング=パシャ』」


 小さな奇跡、迷宮内でのジョブチェンジを祈る。就くのはイガニンジャ。にんにん!

 インベントリからクナイ+2を取り出して、格好良い構えを取る。くくくっ、我がニンジュツを。


「ぐわあっ、石化、石化されたあ! それと麻痺も」


 ジョブチェンジ直後だったから反応が遅れた。レベル0って怖い。


「なにやってんの、サワ! レベルドレインだったら死んでるわよ!!」


「ニンジャ道は深い」


 ズィスラの叱責と、ターンの訓示が述べられた。くやしい。でも正論だ。

 だからって、後ろに放り投げるのはどうなのかな。


「しばらくサワは後ろにさがってて」


 キューンまで、酷いや。


「『デイアルト』。サワ大丈夫」


「ありがと。ヘリトゥラの優しさが身に染みるよ」


 石化と麻痺はヘリトゥラが治してくれた。ようし、これでまた戦線復帰だぜ。


「サワは後ろ」


 ポリン……。

 まったくもって頼もしすぎる仲間たちだ。やっぱし『ルナティックグリーン』は最高だぜ。年少組ばっかだし。



「『ヴァルキリーアーマー』出たあ。ターン、誰が使う?」


 もちろんわたしだよねって想いを込めて言ってみた。


「ズィスラだ」


 えー。

 いや、確かに前衛剣術スキルなら、プレイヤースキルもひっくるめて『訳あり』トップクラスだし、わたしも文句があるってワケじゃないけどさあ。


「ズィスラだ」


「念を押さなくたってさあ」


「やるわ。『ラング=パシャ』!」


 ズィスラがすかさず自分の革鎧からセラミックヘルビートルを外して、ヴァルキリーアーマーを着込んだ。速い。


「やるわっ!」


「ズィスラ、レベル0」


 意気込むズィスラにヘリトゥラの氷のような声が突き刺さった。


「は、早くしなさい。マスターレベルになったら前にでるわ!」


 で、5分ちょっとあと、レベル18になった彼女が吶喊した。


「うおぉぉぉぉ! 『私の彼は冒険者』『ヴァルキリーマニューヴァ』『イ・タノサーカス』!!」


 そしてそのまま複雑な軌道で敵に吶喊、アーマードヴァルキリー最強奥義を繰り出した。おうおう、燃え盛っておるわ。気恥ずかしかったんだろうね。


「レベル31よ。暫く後ろにいるわ」


「よくやるよ」


 何事もなかったように戻ってきたズィスラは、後ろからのバフ援護に切り替えた。

 口元がちょっと緩んでるよ。アーマードヴァルキリーに憧れたもんねえ。わたしもだけどさ。悔しくなんかないんだからねっ!



 ◇◇◇



 それから実に3日、わたしたちは無休で戦い続けた。アホみたいに上げたVITと高いHPがあってこその芸当だよ。温存してたスキルもそろそろヤバい。

 さらになにがヤバいって、下層からもぞろぞろカエルが登ってきたんだ。わたしたちはいま上への階段近くの広間で戦ってるけど、もう見渡す限り、カエルカエルだ。


「これはマズいわね」


 ズィスラが零す。

 まあ確かにヤバい。わたしたちの強みは継戦能力だけど、それが失われかけてる。

 だけど敢えて言ってやる。


「よりどりみどり」


「サワ、言い方」


「いいじゃない。軽口でも負けないのが冒険者だよ」


 ズィスラも笑ってくれた。ジリ貧だけど、心根だけは負けられない。


「ふむ、援軍だ」


「くる」


 ターンとキューンが同時に言った。

 そうか来てくれたんだ。



「みんな無事!?」


 そう叫んだのはターナだった。そう『ライブヴァーミリオン』が来てくれたんだ。


「どうしてっ!?」


 来てくれたのは嬉しいけど、持ち場は?


「42層から40層までのトラップが消えました。打ち止めなのか、それとも」


「43層以降に力を込めたか、だね」


 そうきたか。なるほどなるほど。


「トーマさん、スキルは?」


「万全よ」


「『セレストファイターズ』。陣地で3時間休息。『ライブヴァーミリオン』とスイッチ!」


「あいよぉ」


 すかさずウルマトリィさんたちが階段前の陣地に籠った。ここらへんは事前にしっかり打ち合わせしてあったからね。だけど陣地防御を考えたら、もう1パーティ欲しいかな。


「サワねーちゃん、来たぞ!」


「マッチャー、リンドール!?」


「『元気が一番』参上だぜ!!」


『サワノサキ・オーファンズ』1番隊。最強の元孤児たちが登場だ。こりゃ心強い。

 なんたって彼ら、『ライブヴァーミリオン』と同等以上に戦えるんだから。



「見てろよサワねーちゃん、おおぅらぁ『ヘヴィーメタル』!」


 マッチャーが敵の大群に突撃して、次々と吹き飛ばしていった。体勢を崩した相手に残りの5人が次々とトドメを刺した。あのスキルってまさか!?


「おう。『マイロード』のレベル86。それが『サワノサキ・オーファンズ』総隊長、マッチャーだ!」


 超位ジョブかよ!


「負けてはいられませんわ!」


 今度はコーラリアの番だった。


「『ウルド=マ=ティル=トゥエルア』」


 ウィザード最強魔法『ティル=トゥエリア』の最上位魔法。つまり彼女は。


「わたくしは『アーチウィザード』。その名もコーラリア・メジア・メッセルキールですわ!」


 そういやそうだった。


「コーリィ、大きいカエルが残ってますよ」


 クリュトーマさんの指さした方にはグレーターフロッグデーモンが2体残っていた。そりゃそうだ。魔法無効化持ちなんだから。

 襲い掛かってくる敵に対して、ふらりとユッシャータが前に出た。


「『芳蕗改・音形』」


 ユッシャータの伸ばした両腕が、グレーターフロッグデーモンを巻き込んで空中に放り上げた。

 彼女『フサフキ』になってたのかよっ。


「ケート、トドメよ」


「はっ」


「『剣聖技:万物斬』」


「『マスターニンジュツ:闇切り』」


 それぞれ『ケンセイ』のクリュトーマさんと『マスターニンジャ』のケータラァさんの一撃が、敵を消滅させた。強い。

 そうだよね、戦ってるのはわたしたちがけじゃない。みんなもどんどん強くなってるんだ。こんなに頼もしい仲間たちだ。じゃあ、当然頼るしかないね。


「3時間戦って『セレストファイターズ』が復帰したら、『ルナティックグリーン』も休みます。3パーティで3時間、持たせられますか?」


「任せてください!」


 健気にもリンドールが断言してくれた。ならばそれを信じないでどうする。


「じゃあ」



「待たせたなあ!」


 そこに現れたのは『暗闇の閃光』。すなわち、ケインドさん、ダグランさん、ガルヴィさんたちだった。


「……台無しですよ」


「なんだよサワさん、ひでえなあ。聞いてくれよ。俺、『ケンセイ』に」


「良かったですねえ、ダグランさん」


 とか言いつつ、口元が緩む。ついに彼らもここまで来たんだ。

 信じられる。任せられる。


 だからわたしたちは、寝る。


「ああもう前倒しです。『ルナティックグリーン』は寝ますので、3時間経ったら起こしてください」


「どういうことだよ」


 ガルヴィさんが訝しんでるけど、まあいいや。


「任せておいてください。その間に狩りつくしてしまうかもですよ」


 クリュトーマさんの頼もしいお言葉だ。


「おまかせします」



 頼もしい冒険者たちに背を向けて、わたしたちは久しぶりの休息に向かった。


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