第232話 B級映画かよ





「出てくる」


 会議から2日、ついにテレポータートラップが黄色い光を放った。

 ここ43層にいるのは『ルナティックグリーン』と『セレストファイターズ』だ。あの後もピンヘリアたちが詳細に調査して、現実的に対応可能で一番深いのトラップがここだったっていうのが理由だね。最深層は69。つまりここは、27層分をいっぺんに対応する、驚異の最前線ってワケだ。


「他のみんなは大丈夫かな」


「問題無しだよ、ポリン」


 気休めだ。『訳あり』は深い方から2層ずつに分散して配置された。

 各パーティ間の連絡は、『シルバーセクレタリー』『オーファンズ』のニンジャ部隊、シーフ互助会のこれまたニンジャ部隊が請け負ってくれてる。その数なんと、300名。ニンジャは大人気ジョブなんだ。今はそれが凄く助かる。


「今回の肝は連絡だからね」


「そうだねぇ。いざとなったらアタシたちはほったらかして行っていいからな」


 ウルマトリィさんはそう言うけど、うーん、それも仕方ないのかな。

 なんてったって、一番下のここに最強の敵が出るとは限らないんだ。


「くるぞ、サワ」



 ◇◇◇



「『ティル=トウェリア』」


「よりによって、カエルかいっ!」


 そう、今わたしたちの目の前にいるのは、カエルの正確には『ギガントトード』の大軍団だ。レベルは130相当。どうしてこうなった。

 わたしはある程度覚悟してたんだ。グレーターデーモンを始めとしたモンスター大軍団。それを華麗に打ちのめすわたしたち。それがなんだこれは。


「カエルばっかじゃねーか!」


 だけど侮れない。仲間は呼ぶし、毒やら麻痺、粘液なんて状態異常持ちだ。

 もちろん『訳あり』なら問題なく捌くだろうけど、慣れてない他のパーティはどうだ。


「55層経験者なら大丈夫だろうさあ」


「確かに。だけど他の層もそうだとは限りません」


「そりゃあそうか」


 ウルマトリィさんと会話をしながらも、わたしたちはカエルを倒し続ける。

 スキルを消費するほどでもないけど、仲間を呼ぶだけに1回の戦闘時間が長い。そうしてるうちにテレポーターからぞろぞろカエルが現れるって感じだ。ゾンビ映画か、パニック映画かな。



「伝令です。41層も動きました」


「ポナチーワ、ありがと。敵は?」


「ギガントトードです。こちらもですね」


「カエル祭りかあ」


 41層は『ブルーオーシャン』が担当だ。まあ、大丈夫かな。


「43層は『ルナティックグリーン』と『セレストファイターズ』でとことん粘るから、そっちも頑張ってって伝えて」


「畏まりました」


 そう言ってポナチーワは消えた。ワープスキルでも持ってるのかな?



「んじゃ、パーティ組み直そうか」


「おう」


 ターンが力強く応えてくれた。わかってくれるのが嬉しい。


「『ルナティックグリーン』はターン、ポリン、チャート、それとジャビッタさん、ポンタリトさん、タイガトラァさん」


「任せろ」


「『セレストファイターズ』はウルマトリィさん、ライオパルさん、ベアートさん、ズィスラとヘリトゥラ、んでわたし。ウルマトリィさん、ちょっとの間、わたしが暫定隊長ってことで」


「どういうつもりだい?」


 決まってるじゃないか。


「今回の氾濫は、数とみました。最後の方はわかりませんけど、いい機会ですよ、これ」


 ウルマトリィさんを始め『セレストファイターズ』は狂人を見る目だよ。ちょっとは『ルナティックグリーン』を見習ってほしいねえ。みんなわかってるよ。


「さあ、ジョブチェンジの時間です。特に『セレストファイターズ』は積極的にいきますよ!」



 ◇◇◇



「レベル126!」


「了解、ジョブチェンジどうぞ」


「『ラング=パシャ』」


 ヘリトゥラの奇跡で、ライオバルさんがホーリーナイトにジョブチェンジした。当然レベル0だけど、問題なんかない。彼女を後衛にして1回戦闘すれば、レベルは20から30になる。せいぜいヘリトゥラのレベルが勿体ないくらいかな。それしたって戦闘してれば挽回できる。



「『超切断』! さて、わたしもそろそろかな」


 わたしは今、カミイズミのレベル175だ、このままだとレベルはそうそう上がらない。


「この状況で超位ジョブを捨てるかい。正気かサワ」


 ウルマトリィさんが何か言ってる。知らんなあ。


「ベアートさん、奇跡ください」


「……わかった。『ラング=パシャ』」


 そんなわけで、わたしはラドカーンになった。これでウィザード系コンプだね。アーチウィザードでも目指そうかな。ふひひ。



「サワ、これ。見たことない」


 戦闘の合間を縫って、驚くべき速さで宝箱を開け続けたポリンが持ってきたのは、1本の剣だった。


「『ブレード・カッシュナート』」


 ちなみに普通の剣だ。ミキサー形状じゃないよ。


「凄いの?」


「うん、凄い。ライオバルさん、使って」


「わ、わたしでいいの?」


「火力の底上げになります。とにかく使って」


「ずるいぞ!」


 ウルマトリィさん、うるさいから。

 こうして、レベルを上げて、ジョブを変えて、装備を整えて、わたしたちの戦いは続いてく。



 ◇◇◇



「うはひゃあ。うひゃははは」


「むふん!」


 ギガントトードの群れは収まらない。もう1日は経ってるだろう。けど終わらない。最高だ!

 返り血で真緑になりながらも、わたしたちは戦い続けてる。スキルは最小限。わたしたちのステータスがそれを成し遂げてるんだ。


「それ、かーえーる!」


「かーえーるっ!」


「それは、美味しい経験値」


「経験値!」


「レベルがあがるよ」


「レベルが上がる!」



 その間にも伝令がやってきた。どうやら40層台がギガントトード、30層より上はジャイアントフロッグらしい。ほんとにカエル祭りだね。

『ブルーオーシャン』が42層に降りて、41層は『ブラウンシュガー』と『ライブヴァーミリオン』、40層を『クリムゾンティアーズ』が守ってるらしい。

 いいじゃん、いいじゃん。どうせあっちもジョブチェンジ祭りをやってるはずだ。


「ジャイアントフロッグについては、手薄な箇所を随時『オーファンズ』が埋めています」


「了解、メイヘイラ。状況が変わったらまたお願い」


「はっ!」


 メンヘイラが消えた。だからどうやって。



「えー? オーバーエンチャンター」


「いいからなってください。すぐ前衛に戻しますから」


「しかたねえ、わかったよ」


 ウルマトリィさんが渋々後衛にまわったときだった。


「サワ、これ多分凄いカタナ」


「なぬっ!」


 ポリンが手に持ったカタナを見て、わたしの背中に電流が走った。これは、まさか。


「『ムラカミ・ブレード』!!」


 一部球技ファンなら、どれくらい凄いかお判りいただけるだろうか。とにかく凄いんだ。


「サムライジョブは誰!?」


「ヤギュウだ」


 すかさずターンが答えてくれた。


「持ってけターン。すっごいよ!」


「おうっ」


 ポリンが放ったカタナをがっつり握ったターンがすかさず戦闘を開始した。


「『連也斎』」


 同時に3体のカエルの首が飛んだ。すっげえ。


「いい切れ味だ」


 ニヤリと笑うターン。今宵の彼女は血に飢えておるわ。特にカエルの。


 そうして戦闘は続く。時には『セレストファイターズ』を休ませるためにパーティを組み直したり。別の場所から来た、43層本来の敵を蹴散らしたり。

 まあ、やりたい放題だ。



 ◇◇◇



「だけど、ここまで大がかりにしてはヌルいね」


「そうね」


 ズィスラもちょっと心配そうだ。


「一番下の層なのに、わたしたちだけで対応できてる。おかしいわ!」


「だよねえ。グレーターデーモンの大群が出てもおかしくないって、そう思ってたのに」


「でも『シルバーセクレタリー』からは順調だって」


「多分、予感だけど、ここから何か起きる」


「サワの嫌な予感は当たるからね!」


 いや、良い予感だって当たるよ?



「サワ、なにか来る」


「ターン?」


「でかいぞ」


 確かに、1個の魔法陣から5体ずつ出てきてた敵が、こんどはでかい1体だ。あれってまさか。

 緑色にぬめった身体。だけど、それはうろこ状だ。頭部からは2本の山羊角が生えてて、コウモリみたいな翼と、長いシッポ。それはまるでグレーターデーモンみたいな形状だった。


「……『グレーターフロッグデーモン』」


 レベル190相当のバケモノだ。だけど問題はそこか?


「結局カエルばっかしじゃねーか!!」



 わたしの叫びが迷宮に響き渡った。


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