第39話 パーティ中に厄介ごと?
パーティの日がやってきた。パーティに沢山のパーティを誘うとはこれ如何に。上手い。
「サワ、顔が変だぞ」
「心を読むのは止めて、ターン」
そして、続々と知り合いがやってきた。新しくクランができるのが珍しい上に、立派なクランハウスまで建ててしまったのだ。ヴィットヴェーンではちょっとした噂になっているらしい。
クランメンバー総出でお出迎えだ。
「よお、サモナーデーモン騒動以来だな。これは祝いだ」
「ありがとうございます」
冒険者からは、3大クラン『晴天』『リングワールド』『白光』。パーティ単位だと刀を売ってくれた『暗闇の閃光』、黒門を教えてくれた『ラビットフット』(初出)、などなど。ついでに、こないだお酒と焼肉定食を奢ってあげた二人組も招待しておいた。彼らは犬耳の可愛さを理解する同士なのだ。
「クラン設立おめでとうございます」
「ようこそ、近々男爵になられるようですね」
「ええ。誰のせいかは分かりませんが、胃が痛いですね。またそのうち、教導をお願いしますね」
「金額次第ですねえ」
次に各互助会の会長さんたちだ。まずはプリースト互助会のウェンシャーさん。続くはエンチャンター互助会のドルント会長。ウィザード互助会、シーフ互助会の会長さんたちも来てくれた。
サーシェスタさんは堂々としてるけど、ポロッコさんとドールアッシャさんはかなり微妙な表情だ。
「常客が居なくなったのは痛いねえ」
「新規の冒険者を送り込みますから、期待しててくださいね」
「そうかい」
冒険者の宿、フォウライトのツェスカさんも来てくれた。わたしたちがクランを立ち上げると聞いて、一番喜んでくれたのが彼女だった。
『いつまでもこんな宿にいるもんじゃない』
そう言ってくれた彼女の笑顔は、忘れられるもんじゃない。
「今後ともご贔屓に」
「ええ、まあ、はい」
ボータークリス商店の、なんと商会長さんも来てくれた。届かないでおくれ、わたしの心。ボッタクリじゃない、ボータークリス商店だ。
「いつも多くの素材をありがとうございます」
「いえいえ、会長にもお話ししたいのですけど、迷宮の出口に買い取り専門の出張所を作りませんか?」
「なるほど、興味深いお話ですね」
査定担当者さんもやってきた。この人が男のひとじゃなかったら、正直勧誘してたと思うんだよね。実に惜しい。
「ようこそ。マスター」
「ですからターンさん、私はマスターじゃありませんよ」
そこかしこで、会話が繰り広げられている。そうか、こんなに大きな輪だったんだなあ。自分もここにいるんだ。
◇◇◇
そして、大トリたる最後の招待客にして、首魁が馬車で登場した。
冒険者協会、現会長、ジェルタード・イーン・カラクゾット男爵令息だ。繰り返しになるけど、前会長の行方は未だ不明だ。
その場にいた殆どの人たちが膝を突き、礼の姿勢を取る。この形さえ知っておけばなんとかなるという、なんともご都合な形式だ。
「頭を上げて立ち上がっておくれ。この街の英雄たちが新たなクランを立ち上げた、めでたい祝宴だ。僕のことはいいから、楽しくやろうじゃないか」
こういうのを一応の建前って言うんだろうか。だけど必要なやり取りなんだろうね。
そうして全員が立ち上がる。
「では、新クラン『訳あり令嬢たちの集い』の名誉最高顧問、サーシェスタ・プリエスト・ジャクラシーン女男爵よりご挨拶致します」
司会進行はハーティさんだ。ほんと、彼女には足を向けて寝られない。
「まったく年寄にこんな挨拶をさせるなんて、酷い連中さね」
そんな語り口でサーシェスタさんの挨拶は始まった。自分が取引で看板になったくせに。
「出自も酷いもんだ。貧民街の出に、商家の家出人。エルフやドワーフのはぐれ者や、寒村の出身。互助会のお荷物やらなんやら。ああ、貴族の庶子なんてのも居たかね。まあ一番得体の知れないのは誰だろうねえ」
酷い言われようだが、事実だ。だけどそんな連中は令嬢を名乗り、今ここにいる!
「そんな連中だから、あたしが看板になるさ。こんな連中だから、できることがある、やれることもある。ウチのモンが言ったよ。ここは居場所だって。どうだいあんたら、特にクランを引っ張る親玉共、互助会の会長さん。あんたらは、居場所を作ってやれてるかい?」
すっげえ。やっぱし大物は違うわ。見事なアジっぷりだ。
「そんな訳あり共が、こないだの黒門騒動を解決する力になった。さあ、胸を張って壇上に上がりな、訳あり令嬢共」
そんな声に導かれて、わたしたちは壇上に上がった。
「名乗りを上げな。まずは1番隊『クリムゾンティアーズ』からだ」
「あたしは、1番隊『クリムゾンティアーズ』隊長のアンタンジュ、ファイターだ。よろしく頼むよ」
「同じく、わたしは副隊長のウィスキィです。ウォリアーです」
「……同じく、ジェッタ。ウォリアーだ。よろしく頼む」
「同じく、フォートライズヴィヨルトフェンサーですわ。フェンサーで構いません、ウィザードですわ!」
「同じく、ポロッコです。ええと、プリーストです」
「同じく、ドールアッシャです。エンチャンターです。よろしくお願い致します」
まず『クリムゾンティアーズ』が自己紹介をしていく。
「さて、次は見モノの2番隊兼教導隊『ルナティックグリーン』だ」
「2番隊『ルナティックグリーン』隊長、ターン。シーフをやっている」
「同じく副隊長、サワです。サムライをやっています」
「同じく、ぼくはチャート。メイジ」
「同じく、おれはシローネ。メイジだ」
「同じく、私はハートエル・パッシュ・カラクゾットです。ハーティとお呼びください。一応、ウィザードです」
2番隊『ルナティックグリーン』も名乗った。わたしが副隊長で、ターンが隊長? 書類作成が副隊長って関係で、そうなったんだね、これが。
ちなみに全員、迷宮装備だ。ドレスなんて着ている者はいない。晴れの場所こそ、この姿。それが冒険者の流儀ってものだ。
「長くなっちまったね。さあさ、飲んで食ってくれ。迷宮産の食材だ。冒険者らしく気持ちよく食っとくれ」
ここで来賓の挨拶とかはなかった。すっごい助かる。挨拶して、自己紹介して、即宴会だ。貴族からしたらなんとも粗野な世界かもしれないけれど、わたしにとってもこれくらいが丁度いい。
◇◇◇
「それでですね、カエルレベルアップなんて、大手クランならどこでもできると思うんですよ」
「だけど、ポイズントード狩りだろ? 手間ばっかりじゃねえか」
「ウチのターンなら一人でもやれますよ。レベル0、まあゲートキーパーを通過してますからレベル4はあるでしょうけど、そういう冒険者と二人でやるんですよ。そうしたら1週間でマスターレベル冒険者の出来上がりです」
「そりゃあ、凄いな」
わたしは今、大手クランの面々を前に一席ぶっている。カエル狩りの有効性だ。
アレは当初、わたしの薬効チートが光ったから、低レベルでも可能な作戦だった。だけど、スピードタイプの高レベル者をアタッカーにすれば、誰にでもできる内容でもある。
後は見た目の問題くらいだしね。
「そもそもの考え方です。皆さんは冒険者にとって一番重要なのは、レベルと捉えがちです」
「違うってのか?」
ちょっと怒気が伝わってくるけど、サムライのMINのお陰で全然だ。
「それだと片手落ちだってことです」
いつしか、周りはわたしの演説じみた発言に聞き入っていた。これはまいった。最後まで話すしかないじゃないか。
「片手落ちというか、指が一本だけって感じですね。レベルで一本、個人の技量でもう一本、パーティの連携でさらに一本。そして、クランや互助会のバックアップでもう一本です」
「4本じゃねぇか」
「そうです。わたしとターンが持っていて、皆さんが持っていない最後の一本。分かりますか?」
「ジョブを渡り歩いたスキルの豊富さかな?」
「っ! これは閣下」
「構わないよサワ嬢。なるほどとても理解できる話だよ」
会長さんまで話に割り込んできやがった。困る話じゃないけど、どこから聞いていた?
「なるほど、だから彼女たちはメイジなんだね?」
チャートとシローネのことだ。
「そうです。彼女らは総じてINTが低い傾向がありました。AGIやDEXは後回しでも、今は後衛スキルを得て、基礎パラメーターの上昇が必要だと考えました」
「なるほど、実に興味深い。是非ともじっくりと話を聞く機会を設けたいな」
わたしの脳みそが全力で警報を鳴らしている。秘密にして侮らせることもできた。だけどそれじゃダメだ。こういう情報を広くばら撒くことで、誰でも知っていることにしてしまえば、わたしの優位が失われる代わりに、安全が買える。
そんなはずだったのに、なんでこんなことになった?
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