第68話 ジョブチェンジは計画的に
「サワさん! 俺たち冒険者になれました!」
「よかったね、おめでとうございます」
「あの時はありがとうございました」
例の村から出てきた若者3人も、1週間勉強してそれぞれジョブに就いたらしい。いや、男の子二人は最初からソルジャーになれたんだけど、残された一人、カティだったかな、彼女も一緒がいいってさ。青い青い。
「でもこれから3人だよね? どうするの」
「当面は『世の漆黒』にお世話になることになりました」
「それは良かった」
つい先日、クラン承認はまだだけど『世の漆黒』が本格始動した。『暗闇の閃光』6人と新人6人パーティ、そして目の前にいる3人だ。
なんでもダグランさんとガルヴィさんは『外部世の漆黒』らしい。なんだそれ。『名誉ルナティックグリーン』といい、あの二人は何処を目指しているのだろう。今度パワーレベリングに誘ってあげようかな。
「二人揃ってメイジってのはやりすぎたかもなあ」
「まあ、片方ずつでも良かったかもですね」
翌日、ダグランさんとガルヴィさんがクランハウスを訪ねてきた。なんでも、いくら元高レベルの前衛とは言え、補正ステータスが吹き飛んだメイジ二人だと、狩場が見つからないのだそうだ。カエル無理、マーティーズゴーレム無理、9層は魔法がショボくて無理、だそうな。そりゃそうだ。
「それでだなあ」
「いいですよ。お二人は『名誉ルナティックグリーン』なんですから。ね、ターン」
「うむ!」
「助かるぜ」
「リッタとイーサさんも一緒でいいですよね」
「ああ、もちろん構わねえ」
さて31層だ。ダグランさんとガルヴィさんはレベル17まで来た。ターンはレベル20、リッタとイーサさんが18で、わたしはやっとこさレベル30。道のりは長いね。
わたしは上級ジョブだから、もう適正階層超えちゃってるんだよね。同じことになってるのは、サーシェスタさん他、数名だけだ。どうしたものか。
とりあえず今日明日で、4人をコンプリートしてしまおう、そうしよう。
「げっ! クリスタルツリー!?」
35層クラスのモンスターじゃない。大して強くないけど、レアなんだよね。
ドロップするクリスタルが、貴族邸のシャンデリアなんかに使われているらしいんだ。匂うぜ、金の匂いがプンプンするぜ。
「『BF・INT』。リッタ! 単体炎、強!!」
「りょーかい! 『ノル=リィハ』」
クリスタルツリーを炎が包む。木だけによく燃える。
「ターン!」
「『ニンポー:4人分身』『ニンポー:ニンジャキック』!」
単なる飛び蹴りだ。4人がかりな上に、エフェクトが派手だけど。ホント、ヴィットヴェーンのニンジャは忍ばないねえ。
クリスタルツリーが消えた跡には、キラキラと輝く透明のクリスタルが散乱していた。拾うぜ、拾うぜ。
その後もロックリザードやら、マッドブルなんかを倒しまくっていたら、4人がコンプリートした。ターンはレベル22、わたしは上がらん。
とりあえず、いったん帰宅だね。ジョブチェンジのお時間だ。
◇◇◇
「中々凄いモノを持ち込んでくれたね」
「そんなに凄いんですか」
「王家に献上するくらいの価値だね」
「冒険者協会に寄付しますね」
わたしは今、協会の会長室にいる。査定担当者さんにクリスタルを見せたところ、会長室に連行されたんだ。
「関わり合いになりたくない気持ちは分かるよ。見返りは?」
「新人冒険者たちの助成制度と、『訳あり』への低金利融資でどうでしょう」
「まあ、貸し倒れは無さそうだね。構わないよ。どんな制度がいいかな?」
「低額でもって、装備貸し出しって感じでどうでしょう」
「本当にサワ嬢は冒険者思いだね」
「人死にを見たくないだけですよ。特に、稼げなくて野垂れ死になんて勘弁です」
「そういうことにしておくよ」
いや、本音なんですけど。
冒険者の酒場では、5人が待ってくれていた。その内4人はお酒が入っているけどね。ターンはミルクだ。
「さて今後だけど、サワさん聞いてくれるかい」
「相談ですか?」
「ああ、俺はプリーストで、ガルヴィはウィザードって考えてるんだ」
なるほど、ダグランさんは動けるプリーストで、ガルヴィさんは硬いウィザードか。両方のジョブの弱点を補う、いい考え方だね。と言うか、考えてくれていること自体が嬉しいよ。
最近までのヴィットヴェーンには無かった考え方だからね。
「じゃ、俺らはジョブチェンジだ」
ガルヴィさんがそう言って立ち上がる。そんな二人にかける言葉はひとつだね。
「明日も一緒に潜りませんか? 1日でマスターまで持っていきましょうよ」
「いいのかよ」
「助かるぜ」
良い笑顔をみせて二人はジョブチェンジをしに、立ち去った。
「リッタとイーサさんはどうするの? 一晩考える?」
「そうさせてもらうわ」
「そうですね」
「じゃあ戻ろっか。晩御飯だね」
◇◇◇
その夜、リッタとイーサさんがわたしの部屋にやってきた。答え合わせかな。
「サワは、ジョブチェンジの時に何を考えるの?」
「根源的だねえ。だけどそれで大正解だと思う。わたしは、将来どうなりたいか、何になりたいか、そのためにはどうすればいいか。それでジョブを決めてるよ。時々寄り道するけどね」
「何になりたいか……」
「イーサさんは簡単ですよね」
「はい、わたしはリッタ様を守ります。リッタ様だけではありません。全ての人を守りたいと思います」
まさしくナイトの鑑だね。
「その場合、なりふりは?」
「構いません」
「そこは格好良く、両立するって言えばいいんですよ。途中でなりふり構わなくても、最後はナイトらしくあればいいんです」
「……正直に言って、サワさんを甘く見ていました。なるほど、苦労は伴うのでしょうね」
「そりゃもう。だけど最後は格好良く、そうですね、当面の最終目標はホーリーナイトあたりでどうですか?」
「最高、ですねっ!」
初めて見るイーサさんの、心からの笑顔かもしれない。道は険しいけど頑張ろうね。
「そんなイーサさんを見て、リッタはどう思う? 何になりたいの」
「わたくしは……、ウィザードを極めるわ!」
「そう」
「前衛の痛みを分かってあげられて、なるべく迷惑を掛けないウィザードになるわ!」
「いいねっ!」
「少しくらい迷惑を掛けてもいいんですよ?」
「まあまあ」
イーサさんがちょっと拗ねている。今日は色んな顔が見れるね。
「じゃあリッタは、硬くて速いウィザードが理想的だね。ベルベスタさんは前衛ができるウィザードだけど、リッタはそうじゃない」
「なんとなく分かったわ!」
ちゃんと分かれ。
「さて、リッタはここまでウィザード、ソルジャーって来た。ここからどうしたらいいと思う?」
「速くて硬くなることね!」
「その通り」
「ウォリアーかシーフ、いえ両方ね」
「大正解だよ。ついでにナイト、できればヘビーナイトかニンジャを経由してから、ハイウィザードだね。つまり、当面は前衛だよ」
「分かったわ!」
今度はちゃんと分かってくれたかな。
◇◇◇
「よぅ」
翌日の朝、ダグランさんとガルヴィさんがクランハウスを訪ねてきた。
ダグランさんがプリースト、ガルヴィさんはウィザードになっていた。当然レベル0。
「入れ違いですけど、リッタとイーサさんがジョブチェンジに行ってるので、ちょっと待っててくださいね」
「ダグランじゃないか。それにガルヴィも」
「オルネ……、ピリィーヤもかよ」
「ここでハウスキーパーやってるのよ」
「なんでえ、柄でもねえな」
「お二人はレベル20ですよ。今なら物理で圧倒されますけど」
「降参だ。許してくれ」
素直でよろしい。
「ほら、お茶だ。飲みな」
「あ、ああ、ありがとうよ」
「戻ったわ!」
「戻ったぞ」
そうしているうちにリッタとイーサさんが戻ってきた。付き添いのターンも一緒。
リッタはウォリアーレベル0、イーサさんがシーフで、これまたレベル0だ。
わたしとターン、そして4人のレベル0を引き連れて『ルナティックグリーン』の出撃だ。
何処までって? そりゃあ31層までだよ。当然だよね。
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