第101話 緊急対策会議
「アレに会ったのね」
「うん、まあ」
「別にもう良いわ。気にしていないから」
「そう」
「わたくしはどうとして、クランメンバーが心配ね」
「ああ、やっぱりそういう方向の人なのかな」
「わたくしの知る限り、『真実の愛』を14回ほど見つけていたわ。あと、最強の冒険者になるそうよ。最後に会った時、ナイトのレベル10だったわね」
クランハウスに戻ったわたしは、一応リッタに伝えておいた。もしバッタリ、なんてあったら申し訳ないし。
その返答がこれだ。げんなりだよ。
「例えばだけど、サシュテューン伯爵にチクるっていうのは」
「正式に廃嫡しているわ。無駄よ」
「そっかあ」
一応リッタは勘当されたとは言えお兄さんの取り成しで、まだショルト・カーレンターンの名を保っている。要は伯爵家に対する建前だ。
それに対してあのにーちゃんは、ただのジュエルなんとかだ。家名を名乗るなんて不敬に相当する。どうしたもんだか。
「一応全員に伝えて、気を付けるように言った方がいいわ」
「どう気を付けるの?」
「あの男が、『真実の愛』に目覚めないようによ!」
「なんだそれ」
ホントになんだそれ。
◇◇◇
翌日、ビクビクしながらも、昨日と同じメンバーで迷宮に潜った。
このわたしを怯えさせるなんて、相当なもんだよ。それだけでも賞賛に値すると思う。
そうなんだよ。わたしはおっちゃんとかとの付き合いは平気だけど、ああいうタイプに生まれて初めて出会ったんだ。人生経験の薄さが身に染みるよ。
「ターン、カエルだよ。カエルを狩って嫌なことは忘れよう」
「サワ……、分かった。元気を出せ」
ターンがわたしに残念なモノを見るような感じで視線を送ってきた。やべえ。わたし、そんなにか。
「かーえーるー、はい」
「かーえーるー」
「経験値ー、それ」
「経験値ー」
嫌なことは歌って忘れるに限るよ。みんなも元気にね。
うん、レベル7まで上がったね。ドールアッシャさんはレベル6だ。もうちょっとしたら9層かな。
「やあ。珍妙な歌に惹かれて来てみれば、サワ嬢たちじゃないか」
げげっ!
「しかしダメだね。ポイズントードなど、優雅さが足りない。それでは俺の好敵手として相応しくないと思うのだが、どうかな」
「あの今、ちょっと取り込んでおりまして」
「そうじゃないんだよ。俺が追い抜く相手なんだ。ワイバーンくらいを相手にしてもらえないと困るんだよ」
ワイバーンは100層以降だ。誰も到達しとらんわ。伝説レベルの話だろうに。
「なんかお前、気持ち悪いぞ」
ターンがぶっこんだ!
「なんですって、セリアンのくせに!」
「落ち着いてくれよ、アリシャーヤ。人種差別は良くない」
そうだよ。そっちのパーティにだって、いるじゃないか。
「それにほら、中々可愛らしい黒犬ちゃんじゃないか。3年後が楽しみだね」
「ううっ」
あ、あの風林火山を体現したような存在、ターンが気圧されている。
なんということだ。あってはいけない事態が起きている。
「申し訳ありません。ワイバーンについては3か月ほどお待ちいただければ」
「ほう?」
なんでレベル10のナイトがそんなに偉そうなんだ。本気で分からん。
「その時を楽しみにしておくよ。では俺たちは11層に挑むとしようかな」
11層かよ!
そうして彼らは去っていった。
「なんか、毛がブワってなったぞ」
鉄心臓のターンを以てしてもこれだ。恐るべき相手だ。
「もしかすると、サシュテューン伯爵より手強いかもしれないね」
「サワさん、本気で言ってます?」
呆れたようにドールアッシャさんが返してきた。え? 本気だけど。
いや、落ち着けわたし。危険性を考えるんだ。リッタとイーサさんは大丈夫だ。多分ハーティさんもああいうのは歯牙にもかけない。サーシェスタさん、ベルベスタさんは多分相手がお断りしてくるだろう。酷い事考えてるな、わたし。
年少組も多分大丈夫のはずだ。さっき3年後とか言っていたし、ウチのチビッ子たちは結構殺伐としてるから、ああいうのは苦手のはずだ。ターンが証明している。
となると。
「ドールアッシャさん、まさかっ!?」
「な、なんですか?」
すでにヤツの牙は伸びているのか? そうだ『クリムゾンティアーズ』が一番危ない。
アンタンジュさんあたり、ああ見えて結構初心なはずだ。「あたし、結構いい相手見つけたんだよな」とか言っても不思議はない。
「埋伏の毒……っ!?」
いや別に埋伏してないけど、語呂がいいから言っただけだ。
別に『訳あり』は恋愛禁止クランじゃない。
ウォルートさんとイーサさんとかなら大歓迎だ。いや、わたしが勝手にカップリングしてるだけだけどさ。
対策が必要だ。
◇◇◇
「全員目をつむってください」
今やっているのは、学級会みたいな意味合いの薄い自白誘導だ。
参加しているのは『訳あり令嬢たちの集い』全員と、プリースト互助会からウェンシャーさん、ついでに受付のスニャータさんも招待しておいた。
特にスニャータさんは危険だ。わたしは万全を期すんだ。
わたしに目をつむれと言われて、年少組は素直に従った。年長組アンド外様は訝しげにしながらも一応従ってくれている。
「さて、ここで質問です。例のチャラ男、ジュエルトリアの扱いです。あえて、伯爵令息とは言いません」
「なあサワ、なんであたしたちは目を閉じていなきゃならないんだ?」
「アンタンジュさんの意見はもっともです。ですが、これには意味があるんです」
「わ、分かったよ」
分かればよろしい。
「それでは」
わたしも決意する。ヤルしかない。
「この中で、まさかいるとは思いませんが、万が一、万が一ですよ」
「サワ、まわりくどいぞ」
目を閉じたまま、ターンがツッコんできた。
「いやいや、今から言うから、ちょっとまって。あの、その例のジュエルなんとかを、良いなあって思っちゃったりしてる人っています? そのえのあの、男の人としてって意味ですよ?」
「ねえサワ、目を閉じる意味はあるの」
「ウィスキィさん、そりゃもう大有りですよ。もし誰か手を挙げても、他の人に教えたりしませんから。ね? 正直に、いないとは思いますけど、正直に手を挙げてください」
しかして誰も手を挙げることは無かった。
わたしは心の底から安堵する。なんだか涙が滲んできた。ああ、このクランを作って良かった。
「で、何の茶番だったんだい?」
訝しげにアンタンジュさんが聞いてきた。いや、そりゃあさ。流石にアンタンジュさんが怪しいなんて、口に出すほどわたしも迂闊じゃないよ。
「いえ、その、気になっちゃって」
「サワがかい?」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「慌てるところが怪しいねぇ。そうかあ、サワはああいうナヨいのが良いのかい」
「アンタンジュさん、サワがあんなのを良いと思うわけありませんよ」
リッタがギンと音を立てるくらい鋭い視線を、アンタンジュさんに送っていた。
「わ、悪かったよ。リッタの前で茶化すことじゃなかったね、謝るよ」
「分かってくれればいいんです。大体わたくしたちは、硬派で武闘派のクランよ。あんなチャラいのに騙されるわけ、あり得ないわ!」
あれ、わたしたちって武闘派だったっけ?
なんで周りは頷いてるの?
「それで先輩、わたしは何故呼ばれたのでしょう」
スニャータさんがハーティさんに聞いている。
「受付に居ると狙われるから、でしょうか」
「はあ、もう声は掛けられましたよ。カウンター越しの誘いは厳禁なんですけどね」
「あら私はサワさんにカウンターで口説かれましたよ」
「はい止めー」
せっかくなので、スニャータさんとウェンシャーさんを招いて、宴会をすることになった。
「わたしはなんで呼ばれたのかしら?」
万一の為ですよ、ウェンシャーさん。
◇◇◇
「ウェンシャーさん、最近はどうですか」
「どうと言われても、忙しいわね」
「誰か不遇な人とかいます?」
「引き抜きはダメよ」
「そういうつもりじゃありませんよ。不幸を見逃せないだけです」
「正義の女男爵ってわけね」
「あはは」
あれ、そう言えばいつの間にか、ウェンシャーさんがタメ口になってる。お酒もあるかもだけど、打ち解けたのかな。だったら嬉しいな。
ちょっとずつだけど、色んな人たちと知り合っちゃったなあ。これからもお世話になります。
そうだ、今度、他の互助会にも顔を出してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます