第152話 深層探索に向けて
「やっぱり体が重たいね」
「うん」
ポリンが悩ましそうに頷き、キューンとズィスラも続く。
なんせレベル60から70の補助ステータスを捨てたんだ。さもありなんだよ。それはジョブチェンジしてから間もない、ターンとヘリトゥラも一緒だ。
「でもまあ、35層までなら行けるでしょ」
「やれるぞ」
ターンは一足先にコウガニンジャをコンプリートしている。お言葉が頼もしい。
「じゃあしばらくはターンにお任せだね」
「おう」
『紫電のクナイ』をスチャっと構えて、良いポーズをしながらシッポがブンブンしてる。頼んだぜ。
「よし、まずはマスターレベル」
22層で狩りをして、と言うかターンがひたすら暴れてくれて、わたしたちはちゃちゃっとレベル13を突破した。ここまで5時間。速い。
全員が上位ジョブだし、わたしにいたってはナイチンゲールだから、経験値が重たいんだよね。
「いけそうか?」
「うん、慣れてきた」
結局は慣れの問題なんだよね。みんな基礎ステータスは凄いことになってるから、現状に慣れれば35層は怖くない。
「行こう」
迷宮で1泊、と言っても誰も寝てない。スキルさえ節約すれば24時間戦えるのが、高VITを持つ冒険者なんだ。
いやあ、メイスを使うのも久々だよ。ヴァンパイアからドロップした『ヴァンパイアメイス』なんだけどね。もちろん骨製だ。何故か血は吸わない。
「『ブルーオーシャン』と『ブラウンシュガー』が44層で頑張ってくれてるからね。こっちも急がないと」
『吸血鬼氾濫』の後、2つのパーティはチャートがサムライになった以外、誰もジョブチェンジしていない。お陰で44層でも楽勝で狩りができてる。感謝感激だ。
「こんなとこだね」
ポリン、キューン、ズィスラがコンプリートした段階で一旦地上に戻った。
明日、彼女たちはそれぞれ、サムライ、サムライ、ナイトにジョブチェンジする予定だ。
わたしはうーん、ナイチンゲールをコンプリートしたら、できたら攻撃系ジョブに就きたい。アイテム出ないかなあ。
◇◇◇
「クナイが出たわ」
「おお、やるねえ」
「だけどね」
うん、リッタの微妙な表情は理解できる。実際どうしたもんだろう。
ニンジャ系は育成施設か『サワノサキ・オーファンズ』に極力回すっていう、そういう取り決めになってるんだ。明日はマーサさんたちと相談かな。
「サワさんたちで使ってください」
「マーサさん、いいんですか」
「うん、大丈夫だぜ」
「『オーファンズ』はもう30人いますから」
マーサさんと、そしてマッチャー、リンドールも遠慮してくれた。
30人もニンジャいたのか。いつの間に。
「『開拓班』にも20人はいますよ」
「そんなに!?」
マーサさんの言う『開拓班』っていうのは、冒険者メインじゃなくって、文字通りサワノサキ領を開拓してるメンバーだ。警備も兼ねているところがミソだね。
なんと言ってもサワノサキ領は、戸籍がはっきりしてあるんだ。よそ者が現れたら一発でバレる。
これまで5回くらいチンピラが捕縛された。裏取りが面倒だったので、全員フェンベスタ伯爵に押し付けたんだけどね。
元々は人頭税があるのに、戸籍がはっきりしてない子たちがいるのはマズいだろって始まったんだけど、別の意味でも役立ってるってこと。サワノサキ領舐めんなよ。
「これからも欲しいとは思いますけど、『訳あり』が必要と感じたなら遠慮なく使ってください」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらですよ」
いやでも約束は約束だし、領民は大切にしないとね。
「じゃあ、ニンジャはキューンでいいかな」
「わたしは硬めのジョブが良いわ!」
ズィスラはそう言うけど、ターン、キューンがニンジャ系なんだ。ついでにポリンもどっちかって言うと速度系。バランスを考えてくれてるのかな。どっちにしろ助かるよ。
「じゃあキューンのサムライ、コンプリートしないとね」
◇◇◇
「『コウガニンポー:乱れ刺突』」
「よっしゃ」
ターンの一撃で38層ゲートキーパー、ジャイアントヘルビートルが沈んだ。よしよし、38層でも十分にやれる。
「キューン、どう?」
「うん、コンプリート」
「よしっ、じゃあ戻ってジョブチェンジしますか」
「サワ、これ」
「どうしたのポリン。って、白の聖剣じゃない」
「ズィスラにぴったりだよ」
なるほどガーディアンか。確かに。
「ありがと、ポリン。サワ、わたしはガーディアンになるわ!」
「いいねえ。じゃあ後はポリンの進路か」
「宝箱次第」
流石はポリン。
翌日、キューンがニンジャになった。それ以降はもうひたすらレベル上げだ。
ズィスラはヘビーナイトとロードをコンプしてから、ガーディアンになるみたい。
わたしも頑張らないと。
「来たねえ。44層」
数日掛けて35層から38層、そし44層に狩場を移していったんだ。
「来たわねサワ」
そこにはリッタを始め『ブルーオーシャン』と『ブラウンシュガー』がいた。
そりゃそうだ。44層でアイテム狩りをしてくれてるんだから。
「なんで円陣?」
「さあ?」
なぜか『ルナティックグリーン』と『ブラウンシュガー』が肩を組んで円陣してた。わたしは仲間外れかな。
年少組の団結力が高いね。5人ほどシッポがピコピコしてるのもまた良きかな。
「仕上がりはどう?」
「うん。あとはわたしとポリンのジョブ次第かな」
「そうね。まあ、アイテム漁りましょう」
「リッタ、助かるよ」
「どういたしまして」
リッタが手をひらひらさせて答えてくれた。ホント、頼りにしてるよ。
「『イガニンポー:ハイパーセンス』『鉄山靠』」
オーガロードが消えていく。ってか最近のラストアタック、ターンばっかりじゃない?
確かに物理攻撃力最強なんだけどさ。
「サワ、やったぞ」
「おみごと」
誇らしげな顔でこっち見て、シッポブンブンさせたら頭撫でるしかないじゃない。まったくもう。
リッタ、イーサさん、笑わないで。
◇◇◇
「やったね」
「うん」
5日後、キューンがハイニンジャをコンプリートした。ニンジャの上位アイテムが出ない限りは、このままレベリングだ。
ズィスラはヘビーナイトからロード。もうちょっとでコンプだね。
ポリンはナイトからヘビーナイトをやってる。上位ジョブアイテムはまだ出ない。
「あの、申し訳ないのですが」
「えっと、ハーティさん?」
「サワさんの子爵証書授与式が1週間後と、連絡がありました」
「ぐあぁっ」
これは、断れない。だけどレベリングもしたいし、深層にも潜りたい。ぐぬぬ。
「まあ、他のみんなに頑張ってもらいますか」
「それが……」
嫌な予感しかしない。
「『訳あり』全員に出席してほしいと」
「あの伯爵はあぁぁ!」
何考えてんだ。あの野郎。
「クランリーダーが陞爵する機会なのです。通常なら平民は立ち入れないはずなのですが、フェンベスタ伯なりの気遣いなのでしょう」
「要らんことを」
いや待て落ち着けわたし。伯爵がそういう態度で来るなら断れないか。晴れの舞台を皆で分かち合うっていうのもアリかな。
ちょっと光景を想像して、楽しくなってきた。どうせ断れないなら前向きがいいじゃない。
「みんなも来る?」
「わたくしは行くわ」
「ターンも行くぞ」
リッタとターンを皮切りに、みんなが了承してくれた。なんと、オルネさんたち事務方までもだ。
こうなると『ライブヴァーミリオン』が居ないのが、ちょっと寂しいね。
「サワ、あんたが迷宮に入れ込んでるのは分かってる」
アンタンジュさんが諭すように語り掛けてきた。
「でもまあ絶対とは言わないけど、迷宮は待っていてくれるさ。だから色んなことをやってみる方がいい」
「アンタンジュさん……」
「あんたはあたしたちを救ってくれた、大事な妹分だ。祝わせてくれよ」
「ありがとうございます」
迷宮に入れ込んでるのは自覚してるし、止める気も無い。だけど、他のこともちゃんとやった方が良いっていうのも分かるようになってきた。よしっ、成長したぞ、わたし。
「どうせ式典は堅苦しいでしょうから。その後、みんなで宴会ですね。他のクランにも声を掛けましょう」
「いいねえ」
アンタンジュさんの目が、まるでそれが正解だよって言ってるような気がした。
なら堂々と出席しようじゃないか。式が終わればサワノサキ子爵閣下のお通りだ。だけど、それまでは迷宮に籠るからね。いいよね。
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