第6章 冒険者、新時代編

第151話 新しい目標





「子爵?」


「ああ、今のところは打診だけだが、フェンベスタ閣下の中では内定らしいよ」


「それで、それはわたしにどんな利益を」


「伯爵の権能ではここで位打ちだね。つまり最上位だということさ」


「いえだから」


「付け加えて公爵夫人だからね。手を出せるとしたら王族くらいだろうけど、王が婚姻を認めている。余程の馬鹿でもない限り、契約に泥は塗らないさ」


「はあ。安全というか安定、ですか」


「そうなるね」


 会話内容でお判りだろうけど、わたしと会長のやり取りだ。今度は『吸血鬼氾濫』鎮圧の功でもって、子爵だそうな。特にヴィットヴェーンではなく、サワノサキ領で氾濫を受け止めたのが大きかったみたい。

 そして会長の回りくどい語り口もいつも通りだ。こんなのと婚約してたんだから恐ろしい。って言うか、面倒くさい。婚約破棄できて本当に良かった。



「じゃあ、これで最後って思っていいですか」


「同じ子爵でも序列はあるからね。ただ、君の所はなんと言うか、武力がね」


「武力って言わないでください。優秀な冒険者を多く抱えているだけです」


「物は言いようだね」


 うるさいわ。



「日程とか手続きとかは、ハーティさんに伝えてください。わたしにはやることがありますので」


「聞くまでも無いんだろうね」


「それはもう」


 迷宮に決まってる。



 ◇◇◇



「サワは偉くなるのか?」


「まあそうだけどね。そんなことより迷宮だよ」


「確かに」


 ああ、こうやってターンや『ルナティックグリーン』のみんなと迷宮にいる方が、精神的にかなり助かるよ。ここには血湧き肉躍る、そんな楽しさがある。


『ライブヴァーミリオン』が去ってから大体1週間、今日もわたしたちは迷宮にいる。

 わたしたちは迷宮54層を探索中だ。そうだよ、深層記録を更新している最中なんだ。


「オーガロードが来る」


 ウチの目と耳、鼻担当のターンが断言した。次に鋭いキューンとポリンも頷く。このあたりはセリアンの独擅場だね。


「バフは要らないね。サクっとやるよ」


「分かってるわ!」


 ズィスラのデレだかツンだか分からない返事と一緒に、戦闘が始まった。


「『コウガニンポー:刃の雨』」


 イガニンジャと比較したら、コウガニンジャは物理攻撃が多い。逆に幻術系が少ない感じだ。


「『アビラウンケン・ソワカ』」


 キューンの独鈷杵も絶好調だ。


「『マル=ティル=トウェリア』」


「『剣豪ザン』」


「『切れぬモノ無し』」


 それぞれ、ヘリトゥラ、ズィスラ、わたしの攻撃が敵を打ち倒した。ああ、出番を失ったポリンがちょっと悲しそうだよ。これはマズい。


「ポリン、宝箱だよっ!」


「開けるね」


 ちょっとだけ機嫌を直したポリンが、宝箱を漁ってる。


「『紫電のクナイ』が出た」


「おおう! いいねえ。ターンには持ってこいだよ」


 大げさにポリンを褒めて、ターンにクナイを渡した。


「これは良いモノだ」


 シャキンとクナイを構えたターンがちょっと格好良いね。



「もっともっと強くならないとなあ」


 この前の『吸血鬼氾濫』でヴィットヴェーンの冒険者たちは強くなった。ニンジャ、ケンゴー、エルダーウィザードを筆頭に、上位ジョブ持ちが増えたんだ。

 別に追い付かれたわけでもないし、追い付かれたどころでどうだっていう話なんだけど、負けてやるのも癪だよね。わたし自身、自分が目標にしてる強さにまだまだ足りてないし。


 ==================

  JOB:HOLY=KNIGHT

  LV :60

  CON:NORMAL


  HP :264+226


  VIT:92+142

  STR:113+185

  AGI:102+90

  DEX:118+119

  INT:64

  WIS:38+79

  MIN:51

  LEA:17

 ==================


 これが今のわたしだ。

 いやまあ強いよ。強いけどさ。そろそろ他のジョブにしないと、効率悪いよね。

 前衛ステータスはバッチリだし、後衛ジョブなんかも良いかもね。


「ドロップしたアイテム、全部放出しちゃったしなあ」


「どうした?」


「いやね、そろそろジョブチェンジかなあって」


「ふむ。じゃあ、探そう」


 清々しいターンの台詞だ。無い物は出せばいい、ってか。そうだよね。



 ◇◇◇



「そういうワケで、最強を目指そうと思ってます」


「今更ですわ」


 フェンサーさんががっつりツッコんできた。まあ、そうなるか。


「相対的最強じゃなく、絶対的最強です」


 光の速度が一定とか、そういう話じゃないよ。ただわたしはこの先を知ってるだけなんだ。


「まあそれは分かったよ。で、具体的にはどうするんだい?」


「よくぞ聞いてくれました、サーシェスタさん。とりあえずジョブチェンジしてレベルを上げます」


「いつも通りじゃないか」


「いえいえ、ちょっと違いますよ。手始めに100層を目指します」


「ひゃくっ!?」


 サーシェスタさんが唖然とするなんて、初めて見たかも。

 そうだよ、100層を目安にする。それはアベレージレベルを100にするってことだ。



「ねえサワ、迷宮ってどこまであるの?」


 ウィスキィさんが怪訝そうな顔で聞いてきた。そう言えばそうか。


「わたしの知る限りでは300層です」


 一応ゲームの設定ね。最後の方は色違いでパラメーターが強化されたモンスターばっかりで、げんなりしたもんだ。

 こっちの世界ではどうなんだろう。


「そう。じゃあわたくしたちは、まだまだ上層をウロウロしていたわけね」


「そこまでは言わないけど、概ね合ってる」


「はぁ」


 リッタが大きくため息を吐いた。


「目指すのよね」


「当然」


「じゃあ、わたくしたちも協力するわ。必要なことはある?」


「装備とジョブチェンジアイテムかな」


「まだジョブチェンジするつもりなの」


 そう呆れられてもさあ。このままでも挑戦出来るけど、50層くらいで安定したレベリングができるようにしておきたいんだよね。

 そのためにも、もうちょっとジョブを増やしておきたい。上位マルチジョブってやつだ。



「わたしも行くわっ!」


「行きます」


「ズィスラ、ヘリトゥラ。もちろんだよ」


 二人が乗ってきた。わたしには仲間がいる。


「サワ」


「なあに、ターン」


「ターンも行くぞ」


「当たり前じゃない、相棒」


「むふん」


 ターンとキューン、ポリンがシッポを振ってる。めんこいねえ。


「じゃあ、いっちょやるかあ」



 ◇◇◇



「問題はジョブチェンジアイテムなんだよね」


 翌朝、『ルナティックグリーン』会議が開催された。今日からジョブをどうしていくかだ。


 閑話と被るかもだけど、わたしはホーリーナイトのレベル60。ターンはコウガニンジャの25。ズィスラはケンゴーで71。ヘリトゥラはカスバドのレベル13。キューンがウラプリーストのレベル65。最後にポリンはスヴィプダグでレベル63だ。

 つまり、わたしとズィスラ、キューン、ポリンはジョブチェンジしてもいい。いや、今後を考えればするべきだ。


「わたしはパワーウォリアーになるわ」


 ズィスラが断言する。


「わたしはソードマスターなる。そこからサムライ」


 キューンも決めてたみたいだ。


「グラップラー。硬いジョブを網羅する」


 ポリンはグラップラーからナイト系に手を出すつもりだ。貪欲で大変よろしいね。


「えっと、わたしはジョブチェンジアイテムが出るまで、このままだね」


 しまらないなあ。


「えっと、ヘリトゥラ以外は全員前衛だね。それとこんな感じだと、35層あたりでやり直しだけどいいの」


「どんとこい」


 ターンが太鼓判を押すなら仕方ないか。



「あの、サワさん」


「ハーティさん、どうしました?」


 厄介事かな。貴族絡みはヤダなあ。


「ごめんなさい」


 あれ、シーシャまでやってきた。なんで謝るの? 後ろにリッタも居るし。


「あの、これ。『ナイチンゲール誓詞』」


「え? なんであるの?」


「シュリケン集めしてた時に出たヤツね」


 リッタが申し訳なさそうに言った。

 ああ、そういえばあったっけ。私がホーリーナイトになった時に、一緒出たアイテムだ。あれ? あれってどうしたんだっけ。


「わたくしが預かっていたんです。エルダーウィザードの次にって」


「そういえば」


「でも、オーバーエンチャンターになって、舞い上がっちゃって」


「忘れていた、と」


「はい。インベントリじゃなくって、キャビネットに保管していたから」


 そう来たかあ。


「じゃあシーシャが使えば? 今ケンゴーでしょ」


「わたくしはまだナイト系ジョブがありますから。なのでこれをサワさんに」


 うん、正直助かる。ここはお言葉に甘えるか。


「分かった。ありがとう、使わせてもらうよ」


「はいっ」



 こうして『ルナティックグリーン』の行く道が決まった。途中の経路だけどね。

 それじゃあガンガンレベリングして、狙ってみようか、100層到達。


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