第183話 金の成る層
「よぉし、74層クリア」
叫び声を上げて消えていくビッグコカトリスだけど、わたしにとって重要なのはその後だ。アイテムだ、アイテムおいてけよぉ。
コカトリスだけに、何回も石化食らったよ。石化の対応するポーションは無いので、わたしのチートは封印だ。とは言っても、もう薬効チートも効果は薄い。それくらいの階層と敵だってことだ。
「70層からは飛ぶモンスターが多いわね」
ズィスラの言う通り。コカトリスは飛ばないけど、ジャイアントバットとかヴァンパイアバット、クリーピングゴールドなんかも出てくるね。ヘルハウンドみたいな速いモンスターも増えてきた。
そんなのをかき分けて、74層にいたゲートキーパーを倒したんだ。
「サワ先にいってろ」
「直ぐに追い付くわ」
なんか妙に対抗心を燃やしてるシローネとリッタが言い放った。はいはい。
すぐ後に75層に集まった面々は良い顔をしていた。
「サワ、レベリング基準を70にしましょう」
「えええ、リッタ、だけどここまでキャリーは難しいよ」
「そうね、だから後発組は55層で、わたしたちはこの辺り、いえ80層ね。そこを中心にレベリングよ」
理想ではあるけど、めっちゃ強気な発言だ。リッタらしいけど、ちょっとらしくない。焦ってない?
「どうしたのサワ」
「ん、なんでもない。80層の敵次第ってことでどう?」
「わかったわ」
『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』の3パーティは、80層を目指してジリジリと迷宮を進む。
◇◇◇
「テーマ、主題は丁寧に、よ」
「丁寧ってどうするんだ?」
チャートが不思議そうに聞いていた。まあそうなるか。
「70層以降の敵は、1体1体がそうね、エルダー・リッチだっと思ってほしいの。あそこまで強くはないけど、特殊攻撃や単純な強さなら、本当にそうなんだよね」
「スキルを使えば勝てる」
「そりゃその通りだよ。だから丁寧って話。スキルはトドメに抑えて、素の力で勝ちたいの」
「ふむ、わかった」
わかっちゃうのかあ。素直なのは助かるけど『ルナティックグリーン』と『ブラウンシュガー』はわたしの言うこと聞きすぎかもね。
そして今だ。わたしの言った通りにメンバーはスキルを出し惜しみしながら、それでも77層の敵を倒してる。
「レベルがあればいけるでしょ?」
「……できる」
ジャリットが盾で敵を潰しながら端的に答えてくれた。
「ウィザード系も、敵に合わせた魔法を使って。倒せなくても阻害してくれれば、後は前衛でやるから」
「わかりました!」
元気よくテルサーが魔法を放つ。半分は倒して、残り半分は瀕死ってラインだ。お見事。
ウィザード系の魔法はINT依存だ。特に今エルダーウィザードレベル73のテルサーなら『マル=ティル=トウェリア』じゃなくって『ティル=トウェリア』で、十分ここまでのダメージを出せるんだ。
「サワ、ここまでする意味あるの」
「あるよリッタ、ひとつは継戦能力、もうひとつはスキルトレース」
「ああもう、わかったわ」
ここは現実だからゲームみたいにコマンド待ちしてくれない。瞬時の判断が大切なんだ。
その分、先手がとれればゲームより強くなれる。エンチャンターの重複バフなんかが典型的だね。
「素早く丁寧に。コレ大事だよ」
「おう」
ターンが一番上手いんだろうね。伊達にDEX、AGIお化けやってない。
◇◇◇
「これって絶対、経済ヤバよね」
「ピカピカ」
落っこちていたのは金のインゴットだった。しかも5個。ポリンが嬉しそうにしてる。
これから2パーティも多分やっつけるから、合計15個。ああ、これは死蔵だね。そうしよう。
「ああ、勿体ない」
「壁に貼ったら?」
ズィスラがどこぞの太閤みたいなこと言ってるし。
いや79層のゲートキーパーが、クリーピングゴールド・ストームだったんだよ。
これがまた強くって、魔法の効きが悪いわ、攻撃は当たりにくいわで、しかもビシビシ体当たりしてきた。
「待たせたわね」
「やっつけた」
まずはリッタ、次に10分くらいしてからシローネが登場した。みんな疲れた顔をしてるし。
「甘くみていたわ」
「リッタ様……」
イーサさんがリッタに慰めの言葉をかけてるけど、この程度は想定済みだ。大丈夫、安全マージンはとってるからさ。
「ニンジャがいればもうちょっと楽なんだけどね」
「ニンジャか」
ターンとチャートが目を輝かせる。
「うん、クリティカルで首を落とせる」
「首?」
シーシャが首を傾げた。ああ、シーシャってニンジャ経験ないもんね。
「まあ、ものの例えでね。なんか相手の弱点っぽいトコが見えるんだよ」
「見える」
ターンが言い切った。
「す、凄いですね」
「おう、ニンジャは凄いぞ」
うん凄い。ターンやチャートが目指す先だ。
「金塊はどうするの?」
「リッタ、それを聞くわけ」
「王都にばら撒くっていうのは?」
ストレス溜まってるなあ。『ライブヴァーミリオン』に迷惑かかるでしょうに。
「わかってて言わないでよ」
「悪かったわ。冗談よ」
はいはい。
「サワ、鎧を金色にするのはどうだ」
シローネ……。悪趣味だし、戦闘中にハゲるよ、それ。
「ヴィットヴェーンの冒険者たちがここに到達したら、経済はどうなるんでしょうね」
「その時考えましょう。たぶん偉いヒトが」
イーサさんが遠い目をしてる。どうなるんだろうね。わたしは経済詳しくないからわかりません。
「さて80層探索してから帰りますか」
◇◇◇
80層で変なフラグを立てることなく、わたしたちは帰ってきた。
なんにしても、めでたくヴィットヴェーン最深層更新だ。
「問題はコレです」
わたしはテーブルに、金塊を置いた。ごとりと重たい音がする。
「ハーティさん、どう思いますか」
「非常時のために保管しておきましょう。貴族の力は、権威と資金と暴力です。サワノサキ領は安泰ですね」
めっちゃくちゃ怖いコトを言うなあ。眉ひとつ動かさない、非常に良い笑みだ。
「いざという時に経済戦を仕掛けられるのは大きいですね」
いや、だから。
あ、そうか。金貨経済の国だから、金を持ってるだけで強いんだ。他の素材とはワケが違うのかな。まあそれならそれで、隠し金として持っておくのは賛成。
それと『ライブヴァーミリオン』が青い顔してるけど、見なかったことにしとこう。
「ですけど、サワさん」
「なんです?」
「王都で陛下に誓約されたのでは。確か新しい階層を更新する度に素材10組と」
「あ」
あのクサレ侯爵めえぇ。
「1回で5個出るんですけど、正直な方がいいですか」
「これを50個ですか」
ハーティさんがため息を吐く。こっちだってヤバいくらいはわかるよ。
珍しい素材とかなら付加価値とかで高値がつくけど、それだけだ。出回ればだからどうした、ってことになる。実際ロックリザードの石なんて、最近のヴィットヴェーンだと、ちょっと高級な石材って扱いだしね。
「地金ですからね」
「ですよねえ」
これが普通に流通したら、相対的に金の価値が下がる。これって大丈夫なんだろうか。
だから『ライブヴァーミリオン』のみなさん、王国崩壊の危機みたいな顔しないで。
「あ、あのクリュトーマさん。どうしたらいいと思いますか」
「そ、そうね、陛下との誓約は守った方がいいわ。それ以上はちょっと想像できないわね」
「そうですか、じゃあ50個渡してから、この先出た分は地下に埋めるってことにしましょう。その旨も伝えますね」
「それしかないわね」
これがホントの埋蔵金ってか。クリュトーマさんの声が震えてるし。
「そもそも本当のことを伝えるの?」
リッタが一度はわたしも考えたことを言ってくれた。
「それも考えたんだけど、到達階層とマップ、モンスターとドロップの情報はさ、冒険者として提出しなきゃダメだよ」
「……そうね。わたくしたちは真っ当な冒険者だものね」
納得してくれた。それが冒険者の仁義だからね。
わたしたちが情報を秘匿するのは簡単だ。だけどそれは他の誰かが79層に到達した段階でバレる。そしてわたしたちは仁義破りをしたエセ冒険者になるって寸法だ。受け入れられないね。
「どんどん出せない素材が増えてくね」
「金塊は例外として、それ以外はなるべく領内で消費できるように考えましょう」
「ハーティさんが頼りです。お願いします」
「はい」
ハーティさんは苦笑いで応えてくれた。
本当にめんどくさい。レベルや冒険のことばっかり考えてたいのになあ。
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