第64話 世の漆黒
「だって惜しいじゃないですか。最初のクラン『世の漆黒』でしたっけ。その流れを汲むパーティが解散だなんて」
「そりゃ、まあそうだけどよ」
「そこで、ダグランさんとガルヴィさんです」
「おいおい、まさか俺たちに『暗闇』に入れってか?」
流石にダグランさんもガルヴィさんも怪訝そうな顔をした。ずっと二人で風来坊をやってきたんだからね。今更固定パーティを組めって言われても困るよね。
「パーティを組めって話じゃないですよ。別にそれでも構いませんけど」
「回りくどいぜ。結論言いな」
ガルヴィさんもちょっと面白くなさそうだ。ごめんね。
「『世の漆黒』を復活させませんか?」
「はあ!? クランを作れってか」
ケインドさんも疑り深い感じになっちゃったかあ。結論急ごう。
「結婚するお二人を含めて8人。それに孤児たちを加えるんです。今、新しい孤児院を造っているのは知っていますよね」
「……まあな」
「聞いたんですよ。『世の漆黒』って、ステータスが分かった時に不遇だった人たちが、周りを見返してやろうって、そうして作ったクランだって」
もちろんケインドさんは知っているはずだ。もしかしたら、ダグランさんとガルヴィさんも聞いたことがあるかもしれない
「どうです? 最古のクランが最新のクランになって、もっかい名を上げるっていうのは」
「……ちょっとした昔話になるが、聞いてくれ」
ケインドさんが語り始めたのは、『世の漆黒』にまつわる話だった。
ステータスカードが現れた。当時、迷宮に潜っては死んでいった孤児たちがいた。
そんな彼らにとって、ステータスカードは福音だった。だから、全員がお金をかき集めて、一番力が強い一人に託した。
その子は強くなった。みんなのために強くなったんだ。そして食料を確保しつつ、少しずつお金を貯めて、見所がありそうな、それでいて孤児たちに優しい連中に、ステータスカードを取らせていった。
それがヴィットヴェーン最初のクラン『世の漆黒』だ。
◇◇◇
「そんな話を聞いたら増々惜しくなっちゃうじゃないですか」
「まあなあ。だが、俺たちみたいのが結婚して引退するってのは、目出度いことでもあるんだよ」
「それも分かります。生きていけるだけの資産や技術を持てたってことですもんね」
結婚するらしい4人が、ちょっと申し訳なさそうな顔をしている。ごめんなさい、責めてるわけじゃないんです。
「まあ、子供ができるまでは6人か4人で活動は続けるさ」
どこかで女性二人が抜けるってことか。
「で? そんなことを言うくらいだ、何か案はあるのか?」
「もやっとしたのはあるんでけど、上手くいくかどうか」
「焚きつけておいてそれかよ。別に大雑把でも構わない、聞かせてくれよ」
「この子たちです」
わたしは神妙な顔で推移を見守っていた『ブラウンシュガー』を見た。
「彼女たちは11歳から13歳です」
ドワーフのジャリットとエルフのテルサーは年齢不詳だけど。
「ターンもだ」
そうだね。
「……育てろってことか」
「そうです。彼女たちは凄いですよ。31層でも戦えます」
「マジかよ」
「むふん!」
ターン、チャート、シローネの鼻息が荒い。ダグランさんとガルヴィの目が優しい。
「サワさんとターンの嬢ちゃんは強いぞ。多分魔法無しでもこの中で一番だ」
ダグランさんが断言した。ガルヴィさんも首肯してる。『暗闇の閃光』のメンバーが目の色を変えた。
「強いのは知ってるが、そこまでなのか」
「サワさん、ターンお嬢ちゃん。ステータス見せてやってもらえるかい」
「構いませんよ」
「構わん」
==================
JOB:KENGO
LV :29
CON:NORMAL
HP :58+139
VIT:32+52
STR:40+60
AGI:28+50
DEX:37+57
INT:31
WIS:19
MIN:20+41
LEA:17
==================
これがわたしだ。スタミナあって、力強くて速くて器用でメンタルお化けだぞ。
==================
JOB:HIGH=NINJA
LV :17
CON:NORMAL
HP :69+79
VIT:41+22
STR:37+10
AGI:44+48
DEX:51+33
INT:22+11
WIS:12
MIN:17+29
LEA:19
==================
そしてターン。速さと技のハイニンジャだ。絶対に先制してくるウィザードって、怖くない?
単身でも20層までなら絶対勝てる。こうなるとハイウィザードも取らせとけば良かったかな。
「バケモンかよ」
「女の子二人に言うことですか」
「構わん」
ターンはもうソレいいから。
「俺はこないだソードマスターになって、今はレベル14だ。全然敵わねえ」
「最初に会った時、たしかファイターの17でしたよね。凄いじゃないですか」
「嫌味かよ」
「ごめんなさい」
ダメだなあ、自分。こういうトコはまだまだだ。会話って難しい。
「わりいわりい、怒ったわけじゃないんだ。そうしょげるな」
ケインドさんがちょっと慌てた。いえ、わたしが悪いんで気を使わないでくださいな。
「あ、ああ、それで話を戻しますね。『ブラウンシュガー』の皆も、半年くらいしたらこんな感じになると思いますよ」
「……なるほど。前にサワ嬢ちゃんの言ってた、新しい強さってのはこういうことか」
「わたしとターンは2回も騒動に巻き込まれましたから、ちょっと早いですけどね」
「そりゃ俺たちも一緒だ。層転移騒動でガッツリレベルが上がった。これも嬢ちゃんのお陰だな」
「いえいえ」
「まあ、話は見えてきた。孤児院の年長組を育てろってことだな?」
「はい。ツェスカさんは2日でマスターになりましたよ」
「げっ!」
『暗闇の閃光』メンバーは愕然としていた。
◇◇◇
「なんだい、集まって悪だくみかい?」
「ツェスカさん」
「大体話は聞こえていたよ。ほれ、あんたら」
「ん?」
ツェスカさんの後ろから、男女6人が現れた。装備を見るに、超新人冒険者だね。わたしと同年代だ。
「地方から出てきたばかりの『馬小屋組』さ」
「あの、俺たちタダで冒険者になれるって聞いて、出てきたんです。だけど稼げなくって……。お願いです、鍛えてください!」
ツェスカさんがニヤニヤしている。ほんとこういうマッチング上手いよなあ。わたしと『クリムゾンティアーズ』の時もそうだった。
「……、そっちの嬢ちゃんほどじゃないが、キツいぞ?」
「構いません!」
なんだそれ。わたしの教導は優しいで有名なんだけど。
「分かった。明日から一緒に潜るぞ。食堂で待ち合わせだ」
「はい!!」
「俺らも手伝うよ」
ダグランさんとガルヴィさんは、本当に善人だよね。流石は『名誉ルナティックグリーン』だ。
「クランとは言わないけど、いいじゃない」
「そうだね。最後に若手を育てるっての、悪くないよ」
『暗闇の閃光』の女性メンバーたちも、乗っかってきた。
「ついでに孤児たちも探してみるか」
ガルヴィさん、良いこと言うね!
「で、気付いたら『世の漆黒』の出来上がりってか?」
それでもいいじゃない、ケインドさん。初代『世の漆黒』だってそうやってできたんじゃないかな。もしかしたら近い将来、5大クランなんて呼ばれるようになるかもね。
「しゃあねえから、サワ嬢ちゃんに乗ってやるよ。ほら若造ども座れ。今日は俺らの奢りだ。ダグランもガルヴィもそれでいいな?」
「仕方ねえなあ」
「層転移の英雄がケチくさいこと言うな」
「英雄?」
新人冒険者さんが目を輝かせて聞いた。
「ああ、そこのオッサン二人と、サワ嬢ちゃん、ターンは冒険者の英雄なんだ」
巻き込まれたぞ。
「ほれダグラン。教えてやれよ」
ちょっと大袈裟な感じのダグランさんの語りを聞いて、わたしたちどころか食堂のみんなまで大盛り上がりだった。
うん。こういうのも冒険者らしくって良いねえ。ほんと、ヴィットヴェーンの冒険者たちは、気持ちの良い連中だよ。
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